人間への怒りと憎しみから、私はそれに加担する艦娘と戦っていた。敵の艦娘は私のことを憐れみの目で見ており、さらには殺す気のない攻撃で私を対処しようとしている、それが私の怒りをより滾らせた。
その戦闘中、外部より新たに乱入してきた黒尽くめの女。私と同じ、人間を滅ぼすという目的を持っており、私に協力関係を申し出てきた。
利害関係が一致しているのだから、協力しない理由が無かった。この身体にしてくれたのはこの黒尽くめの女の母親だそうだし、恩を返すためにも協力するべきだろう。
私はーーーーその手を取ることを選択した。
この黒尽くめの女と協力すれば、私の目的は早急に達成出来る。目の前の艦娘も、奥にいる人間も、その先にいるであろう人間達も、全て、全て滅ぼすことが出来る。
「やめなさい! 朝潮!」
艤装の奥で喧しく声が聞こえるが知ったことではない。憎らしい人間を滅ぼせるのなら、私は喜んでこの手を取ろう。
「アマツは戦艦天姫といいます。一緒に頑張りましょう」
握手に応じると満面の笑みで手をブンブン振られた。私が仲間になったことが余程嬉しいらしい。この黒尽くめの女、アマツは、今の私達の敵に、目的を散々邪魔された挙句に仲間を3人も殺されたらしい。ならば、私の目的も確実に邪魔をされる。ここで全員にトドメを刺しておかないといけないだろう。
「さて、一旦艤装を解いてください。あちらに見せつけた方がいいので」
首を縦に振り、巨大な艤装を消した。私とアマツが並んで立っているのを見たことで、あちらの全員が絶望した表情を見せた。私に余程思い入れがあるのか知らないが、私はあちらのことを知らない。それに、人間に加担する憎むべき敵だ。ここで死んでもらわなくてはいけない。
「朝潮……考え直しなさい……」
白い着物の女が何か言っているが、考え直す必要があるのか。敵の妄言を聞くほど私は愚かでは無いし、何を言われようが私には関係ない。
「わかってるでしょう。アサちゃんはもうこっち側なんですよ。アマツとお友達になってくれましたから、2人で貴女達を皆殺しにしますね」
改めて艤装を展開し、敵を睨みつけた。あちらに戦意が見えない。戦闘できないのなら、諦めてさっさと死んでもらいたい。私にはまだまだやることがあるのだ。こんなところで止まっていられない。
が、ここでさらに気配が増える。深海の気配がする敵の増援のようだが関係ない。ここに来た時点で殺す。誰が来てもどうせ敵だ。
「……アマツ」
「わ、初めて喋ってくれましたね。どうしましたアサちゃん」
「敵……増援」
気配の方を見据える。大きな気配と小さな気配。何故か見知ったような気配。
「来る前に始めちゃいましょう。アマツはあっちやりますからね」
「……私は……残りを……」
巫女服の女と白い着物の女はアマツが受け持ってくれる。残った奴らを相手取る。ここで見る限り、厄介なのはアマツに任せた2人だ。それ以外なら私だけでも大丈夫だろう。増援は来てから考えるとして、今は全員を一掃する。
まずは既に回復していた金髪の刀の女を薙ぎ払うように艤装に指示する。
「ボクかよぉ! これは回避しないと……!」
見た目通り素早い。私の大型艤装の挙動では避けられてしまう。が、突っ込ませた先には先程倒した槍の女と薙刀の女がいる。回避すれば2人を巻き込む。
「オレが龍田を拾う!」
「私が叢雲運ぶから避けて!」
黒髪の刀の女と忍者のような女が倒れている2人を運び、艤装の移動先から回避させた。またもや殺せず。なかなか連携が上手い。褒められたことではないが。
「朝潮様、正気にお戻りくださ……っぐ!?」
相変わらずよくわからない動きで艶やかな女が再び腹に拳をねじ込んでくるが、それはもう読めている。頃合いだと思っていた。狙われた時点で手首を取り、捻りあげる。こいつの目はダメだ。さっさと殺す必要がある。
「瑞穂!」
「っああっ!?」
手首を握り潰した。千切れるところまでは行かなかったが、動かなくはなったはずだ。これで突然現れて拳をねじ込んでくるようなことは無いだろう。ついでに散々殴られた腹を蹴り飛ばし、黒髪の刀の女に叩き付ける。
うまく受け身を取られたようだが、これで艶やかな女は戦闘不能だ。追撃で艤装を嗾けるが、黒髪の刀の女が回避させた。
「お前は退避しろ」
「申し訳……ございません……。朝潮様を……朝潮様を……」
「わかってる。救ってやるさ」
私を救う? 何を言っているんだ。救われるようなことはしていない。敵は敵らしく早く私の前で死ねばいいのに。
さらに艤装を駆け回らせながら、私自身も動く。少なくとも今一番邪魔なのは黒髪の刀の女。集中狙いで早急に片付けてやる。
「オレ狙いかよ。武器も砕きやがって」
艤装の方は完全に無視して、私の方に突っ込んできた。刀だけでなく関節技を使ってきたのはわかっている。ならば、それも見越してこちらも攻撃を繰り出すのみ。
同時に金髪の刀の女も攻め込んできているのがわかった。あちらは刀を破壊していないため、峰打ちを狙ってくるのだろう。一向に構わない。2人纏めて殺してやる。
「皐月ぃ!」
「おりゃああっ!」
先行してきたのは金髪の刀の女。横から斬りつけようとしたようだが、軌道も、フェイントも、全て読めている。先程の黒髪の刀の女の時と同じように刀をキャッチ。やはり小柄な分軽い。
そこまで見越して黒髪の刀の女が行動しているのもわかっている。ここまで近付かれると、艤装をここまで持ってくるのも難しい。だから私自身が応戦。
「うらぁ!」
「離せよぉ!」
腕を取ろうとしつつ、フェイントで脚を取る。手に取るようにわかった。理由はわからないが、私には少し先の未来が見えるようだった。こいつらとは初見のはずだが、行動のクセが理解出来ている。
そんなに脚が欲しいならくれてやる。掴む前に思い切り蹴り、同時に掴んでいる刀を破壊。黒髪の刀の女は蹴りで体勢が崩れたところを踏みつけ、金髪の刀の女は刀を失った反動で倒れたところを狙い肩を砕く。
「っああっ!?」
「ってぇっ、クソがぁ!」
脆い。こんなに脆いのに、私を殺さずにどうにかしようとしている。人間に加担すると、こんなに甘くなるのか。こいつらを束ねている人間はどんな奴なんだ。
「本当に全部忘れてるんだ。可哀想な子」
2人に気を取られているうちに忍者のような女が私の首を締めていた。こいつだけはどうもよくわからない。先程の艶やかな女は行動が読めたのに、こいつだけは読めない。何故だ。
「一回落とす。悪く思わないでよ」
急激に締め付けを強くしてきた。そうなるだろうと予想出来ていたので首に力を入れつつ、絞める腕を掴む。先程の艶やかな女がやられたことを見ているからだろう。掴もうとした時点で絞めを外し、膝を蹴られて体勢を崩された。
振り向きざまに睨みつけ、艤装をこちらに呼び寄せる。この女は許さない。
「狙いを絞ってくれたね」
主砲を向けられ、艤装を盾にするためにも一歩引く。が、その瞬間に艤装が爆発した。殆ど無傷ではあったが、魚雷を受けたようだった。
魚雷が放たれた方を向く。そこにいたのは髪を片方で結んだ女と、戦艦水鬼。純粋な深海棲艦すらも人間の傘下に入っているのか。何か弱みでも握られているのだろうか。
「えっ……ね、姉さん……!?」
片結びの女が私の顔を見てガタガタ震えだした。とてもじゃないが戦闘が出来るようには見えない。
今姉さんと言ったか。私はこの女は
「アサちゃーん、今来た子、早く殺した方がいいですよー」
巫女服の女と白い着物の女を相手取りながら私に話しかけてくる。アマツがそこまで言うくらいなのだから、片結びの女には何か殺しておかなくてはいけない理由があるのだろう。
「な、なんで……何よその姿!」
私に向かって叫び続ける。ただただ喧しいとしか思えなかった。だが、あの顔を見ていると、なんだか心がモヤモヤする。確かに早く殺した方が良さそうだ。
「カスミ……わかるかしら。テンリュウと、サツキ、あとミズホに、タツタに、ムラクモ。あれ、全部アサシオがやってるわ。死んではいないけど、入渠は必要ね」
「嘘よ! 姉さんが……姉さんがそんなこと……」
「あれが話に聞いていた最終段階って奴かしら。ここで何があったか知らないけど、今は自分の命を守ることに専念しないと死ぬわよ。戦えないのならあっちのヒビキのところに行ってなさい」
戦艦水鬼は確実にこちらを狙ってきている。やはり、同胞のくせに人間に与する愚か者のようだ。ならばここで他の奴らと同様に殺すしかあるまい。
忍者のような女は置いておき、戦艦水鬼と、その隣の戦意を完全に失っている片結びの女を狙うために艤装を嗾ける。私自身もその後ろを追うように行動を開始。
「敵味方の区別がついてないわ。完全に暴走してる」
「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ!」
「シャンとなさい! だったらアンタが姉さんを止めるの!」
戦艦水鬼が私の艤装に砲撃を開始。やはり敵対している。だが、私ではなく艤装しか狙ってこない辺り、こいつは私の命を取らないように制圧しようとしてきている。
嘗められたものだ。私はそんなに弱く見えるのだろうか。それとも何か別の目論見があるのだろうか。薄汚い人間についているくらいだ。私を捕らえて、実験動物にでもするつもりか。
そんなことはやらせない。人間を滅ぼし終わるまで、私は止まらない。それに加担する奴らは全員敵だ。同胞だろうと知ったことか。
「中枢棲姫の艤装よね……主砲が無い代わりに自立型で動き回るのか。厄介極まりないわ。完全に質量兵器ね」
冷静に私のことを分析している戦艦水鬼。隣の女は未だに戦意を喪失している。ならばさっさと殺す。どれだけ撃たれても私の艤装は簡単には止まらない。
「目を覚ましなさいよ姉さん! 何やってんのよ!」
「カスミ! 無謀すぎるわ!」
猛進する艤装を避け、私の方に突っ込んでくる片結びの女。完全に悪手だとわかっていないのか。一思いに殺されたいのか。なら思い通りに殺してやる。
「姉さん!」
飛びかかってきたところを見計らって首を掴もうとしたが、忍者のような女に邪魔をされて、腕を払われる。その結果、素直に抱きつかれる形になり、押し倒されてしまった。
「この馬鹿! 何飲まれてんのよ! 何があったか知らないけど、正気に戻りなさいよ!」
私にまたがりキャンキャン叫ぶ。非常に鬱陶しい。だがこの姿勢を取られていることで、艤装はこっちに持ってこれない。ならば艦載機だ。艤装に備え付けた小型の艤装から艦載機を全機発艦させ、私に跨った女を集中放火するが、まだ残っている黒髪の刀の女と金髪の刀の女に全て墜とされてしまった。あちらの刀を使う奴は、同時に対空も秀でている様子。
そろそろ目の前の女が面倒になってきた。無理矢理背中に膝を入れ、体勢が崩れたところで腹を殴る。何本か折れた感触。それでも女は気を失うこともなく黙ることもない。まっすぐ私を見据え、涙を流しながら叫び続ける。
「姉さんはそんなに弱い女じゃないでしょうが! いつもいろいろあっても、立ち直ってきたでしょ!」
口から血を垂らしながらも説教は止まらない。さらにはこちらの肩を押さえて、これ以上動けないようにまでしてきた。軽くもがけば解けそうなくらいの弱々しい拘束。
こいつの顔を見ていると、胸が痛い。こいつの声を聞いていると、頭がクラクラする。身体がおかしい。何かが起きている。わからない。何もわからない。思い出せることがあるのか。だが思い出そうと思っても、人間への怒りと憎しみに塗り潰されていて、記憶を紐解くことが出来ない。
「お願いだから……目を覚ましてよぉ!」
胸を強く叩かれた。痛くも痒くも無かった。だが、心に響いたような気がした。
ドクンと、心臓が高鳴った。ただ叩かれたからではない。私の知らない何かが身体の中で蠢いているように思えた。ワケがわからない。私の身体はどうなっている。
『ーーーー』
頭の中で何かが聞こえたような気がした。あまりにも小さい音。いや、
『ーーんーー』
だんだんと、その声は大きくなっていく。
『ーーじんーー』
わからない。わからない。誰の声だ。何故、私の中に。
『ご主人! ごしゅじぃぃん!』
何故、