欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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社会の裏

私、朝潮が佐久間さんに調査をしてもらっている内に、加藤司令官と南司令官の話し合いも終了していた。今までと違い私が参加する必要が無かった理由は、あの戦闘をしたことで話したい内容がおおよそ理解出来る状態にあったからのようだった。

7人目の裏切り者がおり、それを使って私を最終段階に持っていこうとしたということだ。その策は見事に決まり、私は最終段階に変化。仲間を攻撃し、皆殺しにしてから戦艦天姫とあちらの鎮守府に向かっていたことだろう。

 

だが、あちらにも予想出来ていなかったイレギュラーがあった。それがヨルの存在である。本来なら戻るはずのないくらいに心を壊し記憶も汚したが、ヨルのおかげで私は戻ってこれた。さすがにそればっかりは想定していなかったようだ。

それでも私が仲間を攻撃した事実は変わらない。洗脳された前回よりも重たい罪悪感を背負って生きていくことになる。

 

5人入渠していたうちの3人、皐月さん、天龍さん、龍田さんの治療が完了し、私は謝りに向かった。

 

「さっきも言ったけどよ、気にすんな」

「そうそう。罪悪感きっついと思うけどさ、ボクらは気にしてないからね」

「天龍ちゃんが気にするなって言うのなら、私も許すわ〜。朝潮ちゃんの意思でやったわけではないものね〜」

 

一番まずいかと思っていた龍田さんにこう言ってもらえたおかげで、幾分か気は楽にはなった。私は天龍さんにも入渠が必要なくらいの怪我を負わせているのは間違いない。むしろ天龍さんが許さないと言ったら、私は今頃命を狙われていたかもしれない。

 

「霞と瑞穂はもう少しだな。夜になるだろ」

「そうですよね……かなり強く殴ってますから」

 

未だに霞の腹を殴った感触と、瑞穂さんの手首を握り潰した感触は覚えている。それだけじゃない。他の全ての叛逆行為を覚えている。『種子』による洗脳の時よりも深く堕ちたことで、その背徳の快楽はより深く刻まれてしまった。それに対しては嫌悪感しかないのが救い。

 

「目が覚めた時に私がいた方がいいかなと思うので」

「そうだな。正気に戻ったことを見せてやれ」

 

私がこちら側に戻ってこれたとき、大破していた霞と瑞穂さんは気を失っていた。霞に関してはヨルが表に出たときはまだ意識はあったが、あの後倒れたようだった。なので、2人とも私が元に戻っていることを知らない。早く今の私を見てもらいたい。

 

 

 

夕食後、風呂にも入らずにドックの前で2人が目を覚ますのを待つ。もう少しで終わることは明石さんから聞いているため、待つことを許してもらった。

 

「川内さん、いるのわかってるので近くで一緒に待ちませんか」

「話には聞いてたけどホントにわかるんだね。電探内蔵なんだっけ?」

 

天井からアクロバティックな動きで降ってきた川内さん。工廠の天井は高いところにあるのに、わざわざあそこまで登っていたようだ。まさに忍者。

そこまでした理由は簡単、私の攻撃はあそこまで離れられると届かないからだ。つまり、川内さんは私の監視としてこの場にいる。私は今でこそ元に戻ったと誰からも認識されているが、疑われて然るべきことをやっている。今ここにいる理由が、ドックごと霞を殺すと考えられていてもおかしくない。

 

「ごめんね疑ってるみたいで。でもこれが私の仕事だからさ」

「大丈夫です。私も自分がどういうものか理解しているつもりです」

 

本来なら私は突然撃たれてもおかしくない存在。受け入れられているというよりは、()()()()()()()と言った方が良さそう。

 

「職業柄さ、私は結構嫌われるタイプだと思うんだよね。ほら、ダンナが諜報員でしょ。それを手伝ってるわけだしさ」

「仕方ないですよ。南司令官のような方は必要だと思いますし、おかげでこちらも情報が手に入っていますから」

「非合法なことも結構やってるからなぁ。何とは言わないけど」

 

そんなこと私に話して大丈夫なんだろうか。疑われているけど、信じられているというか。不思議な感覚だ。こうやって話しながらも、私を本当に信じていいものかどうか探られているのがわかる。

 

「私は嫌いませんよ。むしろ川内さんは好きなタイプです」

「口説いても無駄だよ。私には心に決めた人が」

「わかってますよ。口説いたつもりもありませんから。というか同性ですし」

「男装みたいなことしてるじゃん」

「中身を見てください」

 

おちゃらけて見えるが、常に周囲に意識を配っているのがわかる。相手に自分の本心を悟らせないようにするのが上手だ。私も川内さんの目的は判断出来ない。

ただ1つわかるのは、言葉とは裏腹に私のことは疑っていないということ。監視というのは本当に仕事上仕方なくやっているという感じ。

 

「ダンナが爺ちゃんのお抱えだから、君のこと聞いてるよ。目の前で変化するところも見たし。ホント、厄介なのに目を付けられたね」

「本当ですよ……」

「まぁほら、なっちゃったものは仕方ないからね。受け入れられてるみたいだし、これからも頑張んなよ」

 

ケラケラ笑いながら話してくるが、嫌味はない。この人の人柄なのだと思う。裏で何を考えているかはわからないが。

 

「川内さんはこうなって長いんですか?」

「そうだねぇ。うちのダンナが新人の頃から一緒にいたから、それなりに長いよ。必死に追いつけるように訓練してさ、今じゃあこれだよ」

 

左手の指輪を見せてくる。私もつけているケッコンカッコカリの証。司令官との絆の証。

私はヨルとこの指輪のおかげでこちらに戻ってくることが出来た。司令官との絆だけはあれだけのことをされても消えることが無く、他の記憶を戻すキッカケにもなってくれた。それだけ深い。

 

川内さんも、南司令官とは私達と同じように深い絆に繋がれているのだろう。自分の上司、鎮守府の長である司令官のことを『ダンナ』と公言している程だ。

 

「それだけ長いことやってるとさ、結構酷いものも見てきてるわけよ。あんまりこういうこと話しちゃいけないと思うけどさ、さっきの戦闘の時のアイツみたいな、人間の屑も結構見てきた」

 

ビクンと身体が震えるようだった。私が人間嫌いになったキッカケ、怒りと憎しみの根本の話だ。最終段階への変化を促されたのもあり、あの時以上に憎しみが強くなってしまっている。

出来ることなら私の手でどうにかしてやりたい。だがそんなことをしたら皆に迷惑がかかる。何も出来ないのが悔しい。

 

「朝潮、これ以降は私とうちのダンナに任せて。必ず贖罪させるから」

「……信じていいんですか?」

「勿論。私達は今まで秘密裏に上層部の屑を処理してきてる。アイツもしっかり処分するからさ」

 

満面の笑み。しかし目は一切笑っていない。先程言っていた非合法なこと、というのがここに関わってきそう。

 

「アイツの言い分からして裏から手を回そうとするだろうから、今頃ダンナが先に手を回してると思うよ。大丈夫、絶対に鎮守府に被害なんて出させないから」

「お願いします。そうでないと、私がやってしまいそうですので」

「そうさせないためにも私達がいるからね」

 

人間社会の裏側を教えてもらった気がした。そこに艦娘が関わっているというのが悲しいところだが、平和のためには仕方のない犠牲だと川内さんは語る。

だが、そこに悲観的な感情は見えなかった。無理に隠しているようにも見えない。悪く言ってしまえば、川内さんはこの()()()()を楽しんでいる。

 

「ダンナと一緒に戦えるってのは、どんな仕事でも楽しいもんなんだよ。平和に繋がってるのなら尚更ね」

「……すごいですね川内さんは。私は割り切れずに暴走してしまったようなものですから」

「それが普通。私も何処か壊れちゃってるんだろうね」

 

今度は目も笑っていた。今の仕事を心底楽しんでいるらしい。気に入らない人間がいても、南司令官と一緒に戦えるということだけで、負の感情よりも上回るということなのだろう。

私もそういう割り切り方が出来るだろうか。司令官と一緒に戦うーー例えば鎮守府防衛で、背中を合わせて戦うーーなんてことがあったりしたらと考えた。不思議と昂揚した。

 

 

 

川内さんと世間話をしている間に、霞の入渠が完了。緊張しながらドックが開くのを見守る。気付けば川内さんはまた天井に登っており、気配を追ったら手を振ってきた。姉妹の再会は邪魔しないよと口パクでこっちに言ってきている。

 

「……霞、大丈夫?」

 

目を覚ました霞。ゆっくりと目を開け、私の方を向いた。肌には痣があり、服も違うが、今までの私のままだ。霞の知っている私のはずだ。

 

「……姉さん……戻ってこれたのね」

「ええ、皆のおかげでね」

「……よかった。ホント良かったわ」

 

ドックから身体を起こし、外に出るや否や、飛びつくように抱きついてきた。

 

「良かった……良かったぁ……!」

「心配かけてごめんね……霞に怪我もさせちゃって」

「そんなこといいわよ! 私は死んでないし、姉さんは元に戻ってるんだから、それだけで充分よ!」

 

私と2人だからか、人目を憚らずに大泣き。川内さんが天井から見ていることは教えない方がいいだろう。私もいることは忘れることにした。電探の反応はしっかり見えているが。

頭を撫でてやりながら泣き止むのを待つうちに、瑞穂さんの入渠も完了。ドックが開き、私と目が合う。

 

「瑞穂さん……」

「朝潮様、お戻りになられたのですね。先の戦いでは、瑞穂の力が至らず申し訳ございません。本来ならば変化を起こす前にどうにかせねばならぬものを……」

「謝らなくちゃいけないのはこちらです。心配をかけてすみませんでした」

 

ドックから出て、フラフラと私の下へ。あまりそういうところを見せない瑞穂さんも、今回ばかりは泣きそうな表情だった。

 

「朝潮様がお戻りになられ、瑞穂、本当に感激しております。そして、やはり謝罪させていただきたく存じます。瑞穂は、ほんの少しだけ諦めてしまっておりました。朝潮様が最後の変化をした時、もう戻らなかったらどうしようと考えてしまったのです。朝潮様ならば今のように艦娘の心を取り戻して当然と、瑞穂が信じねばならないというのに。瑞穂が朝潮様を信じなくてどうするのです。手首を潰されたのはその罰だと思っております。幸い入渠で修復可能な怪我ではありましたが、あの痛みは瑞穂の罪の痛みであると思います。一生忘れることはないでしょう。壊れてしまっていたとはいえ、朝潮様直々に痛めつけられたのは私の中では強い記憶となってしまいました。この記憶の痛みを胸に、今後また朝潮様に仕えさせていただきたい所存に御座います」

「勿論。瑞穂さんがいないと寂しいですよ。ずっと一緒にいてください」

 

涙が一筋。瑞穂さんも私が元に戻ったことを喜んでくれている。本当に最高の仲間達だ。

 

「霞、もう泣き止んで。大丈夫、私は逃げも隠れもしないから」

 

鼻をすすりながら離れる霞。即座に瑞穂さんがフォローする。ここまでずっと全裸でやっているので服もすぐに用意。時間的にはあとお風呂に入って眠るだけという時間になってしまっている。瑞穂さんが用意したのは寝間着の作務衣であった。

 

「今日はもう遅いわ。入渠が終わったからだけど、大部屋に行かないとね」

「そうね。……目とか腫れぼったくないかしら」

「朝潮様、瑞穂から提案が。霞様の目の腫れが引くまではもう少しこうしたままにしてあげてください。かくいう瑞穂も少しだけ……」

 

あまり泣き顔を晒すのも良くないと自分達では思っているようだ。それでは本人の意思を尊重し、もう少しの間だけここにいさせてもらうことにした。

 

「私のために泣いてくれたんだものね。いくらでも待つわ。でもここで眠らないようにね?」

「さすがにそれはないわ。今だってあまり眠気ないもの」

 

着替え終わったらまたすぐに抱きついてきた。本来の霞とは個体差があるとは聞いたが、ここまで甘えん坊の霞もそうそういないだろう。でもこれが私の知る霞なのであって、こうでないほうが違和感がある。

 

「朝潮様、もしやあの天井の……」

「ああ、瑞穂さんは気付きましたか。流石です。川内さんが体裁上ですが私の監視役をしています」

「そうでしたか。そういった警戒も必要なのでしょう。瑞穂も同じ立場でしたら監視役を置きますので」

 

瑞穂さんは川内さんのことに気付いた様子。さすがとしか言いようが無い。

 

結局、一部始終を川内さんに見られた後に大部屋に行くこととなった。霞は泣きじゃくる姿を川内さんにも見られたということで頭を抱えることとなったが、あの人はそれがどうしたと言うような人なので、何も問題視していない。むしろ、より友好関係が強くなってくれた。

 

川内さんはいい人だ。こちらからは信頼が寄せられる人物。今は信用しよう。




川内は自覚しているようですが、人間を処分することに抵抗が無くなっている時点で、艦娘としては壊れているのかもしれません。人間への見方が変わっているわけですし。
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