欠陥だらけの最前線   作:緋寺

26 / 319
共存への道

共存できる可能性のある深海棲艦、北方棲姫を抱きかかえ、鎮守府に帰還している私、朝潮。運んでいるうちに安心したのか私の胸の中で眠ってしまっていた。

 

「こうやって見ると敵に見えないんだけどねぇ」

「今は敵じゃないですよ。敵に回ってほしくないですけど」

 

少し背中をさすってやると、気持ちよさそうに顔を胸に埋めてきた。こうしていると本当にただの小さな女の子である。

 

私が北方棲姫を抱きかかえていることで、哨戒機や潜水艦も一切攻撃してこなくなった。むしろ安全に鎮守府まで帰れるように護衛してくれているようにも見える。

 

「大丈夫ですかね……人間と共存を考えてもらえるでしょうか」

「難しいところだと思うけど、うちの鎮守府だけなら認めてもらえるかもね。あの司令官なら徹底して不可侵にすると思うもん」

 

皐月さんと話している内に、鎮守府の近海まで来ていた。何か違う気配を感じ取ったのか、北方棲姫が目を覚ます。

 

「ン……スイキネエチャン」

「水姫……ああ、ガングートさんの気配を感じ取ったんですか。そろそろ会えますよ」

 

もうしばらく進み、工廠への入り口も視認できるほどに鎮守府が近づいてきた。事が早く済んだのでお弁当、もとい戦闘糧食は使わずに終わってしまった。あとから美味しくいただかせてもらおう。

 

「古鷹、(ほか)5名、帰投しました」

「ご苦労様。早く済んだみたいだね。弁当はあとでお食べ」

「はい。それで……」

 

古鷹さんから目配せされ、北方棲姫を工廠に下ろす。周囲の全てが珍しいものだからか、すごく警戒していた。少し見回した後、また私のところにやってきて抱きついてくる。

 

「おや、朝潮君は懐かれたようだね」

「ここまでずっと抱いてきたからでしょうか……」

 

それを見て駆け出してきたのは霞。帰投を待っていたらしい。いつになく困難な任務だったし、心配かけたかもしれない。

 

「ちょっとアンタ、姉さんから離れなさいよ。任務の後で疲れてるんだから」

「アサ、コイツダレダ」

「私の妹の霞です」

 

確かに懐かれているようだ。かなり長いこと抱きかかえてきたし、本来敵である艦娘の私が抱いてて眠っていたくらいだ。心を許してくれたことは嬉しい。これがきっかけで深海棲艦との共存に一歩でも前進できるといいのだが。

 

「アサって……あ、あだ名呼び!? たったこれだけの間にそんなに仲良く」

「北方棲姫、すみませんけど私も一度補給しないといけません。離れてくれると嬉しいです」

「シカタナイ。ハヤクカエッテコイ」

 

名残惜しそうに離れた北方棲姫。

 

「棲姫! 無事だったか!」

「スイキネエチャン! ス、スイキネエチャン……?」

「戸惑うのはわかるが、今は北方水姫じゃなくてガングートという名前なんだ。すまんな」

 

今度はガングートさん。自分の知っている姿とは違うからか、北方棲姫は近付くのを躊躇ってしまった。だが、少し警戒した後、気配が同じだと気付き、再会を喜んでいた。

姿は違えど、2人は知り合い同士だ。積もる話もあるだろう。ガングートさんに北方棲姫を任せ、私達は手早く補給を済ませることにした。

 

「姉さんが呼び捨て……私の特権なのに……」

 

霞がブツブツ言っているようだが、そっとしておくことにした。

 

 

 

簡単な補給後、最初に渡された戦闘糧食を夕飯代わりに食べながら話を聞いていた。夕飯も終わっているらしく、夜間任務に該当する人達以外はもうお風呂と就寝のみとなっている。

司令官は北方棲姫、および港湾棲姫に対する一切の戦闘行為をしないこと、大本営にも存在を公表するつもりはないと説明した。

現在は戦艦棲姫が共通の敵として存在する。鎮守府は人類への侵攻を防ぐために、白の深海棲艦は静かに暮らすために、戦艦棲姫を倒すことが必要不可欠だ。最低限それまでは共闘関係にしたい。

 

「説明よりも前に、ここで少しの間暮らしてもらった方がいいだろう。部屋をあてがおうと思うが」

「スイキネエチャンカ、アサノトコニイル」

「ふむ、なら朝潮君の部屋に同居してもらおう。朝潮君がいないときはガングート君だ。それでいいかな」

 

同居は何も問題ない。それで深海棲艦と共闘できるなら美味しいものだ。ガングートさんもそれで納得した。ガングートさんの部屋は今、トレーニング器具とお酒があるので、子供が入れるような部屋ではない。私の部屋が一番妥当だろう。

 

「北方棲姫君……うむ、少し呼びづらいな。ガングート君、何かいい呼び方は無いかな。そのまま呼んでいると何処からか情報が外に出てしまいそうで怖い」

「棲姫の呼び名か。ならヒメとでも呼んでやれ。そいつも姫級だ」

 

北方棲姫、改め、ヒメさんの鎮守府での暮らし方はこれで大方決まった。訓練の様子なども見せることになるだろうが、深海棲艦も今が戦争中であることはわかっていることだ。自衛の手段を鍛えていることくらい理解している。それはヒメさんも了解していた。

 

「食事もお風呂も一緒に、ということになりますね。基本的には私が一緒ということで」

「ああ。朝潮君、これもまた、戦いを終わらせるための重要な任務だ。よろしく頼むよ」

「了解しました。朝潮、責任を持って任務に当たらせていただきます」

 

とはいえ、任務というよりは子守りに近い。できるだけ優しく、艦娘のこと、人間のことを教えてあげなくてはいけない。万が一この鎮守府内で暴れられたら、被害は甚大だ。何しろ私達と違い、自分の意思で艤装の出し入れができ、補給もなく艦載機を飛ばしてくる。

こちらとしても、ガングートさんの記憶から消えてしまった深海棲艦の情報が欲しかった。ただ、ヒメさんは捕虜でも何でもなく、お客さんだ。ヒメさんから見ている私達は、まだ警戒すべき敵の一つなのかもしれないが。

 

「アサ、イマカラハナニヲスル」

「あとはもうお風呂に入って寝るだけですね。もう夜ですから」

「フロ、フロッテナンダ?」

 

そういう文化も深海棲艦には無いようだ。いつも潮風に吹かれている割には、ヒメさんは綺麗なものだが、どういう仕組みなんだろうか。

お湯に浸かって疲れを癒すと説明すると、妙に興味を持っていた。やはり見た目通り考え方は子供なのかもしれない。興味を持ったものはすぐにやりたがる。

 

 

 

ヒメさんの今後を考える会議も終わり、そのままお風呂へと向かった。初めてのお風呂ということで、私と手を繋いではしゃいでいる。私達には当たり前のことでも、ヒメさんにとっては初めての体験。楽しみなんだろう。

 

「ただお湯に浸かるだけですよ?」

「ソンナコトシタコトナイ」

「ヒメさんはどうやって身体を綺麗にしているんですか?」

「ウミニハイレバイイダロウ」

 

根本的に身体の作りが違うのだろう。私達は海に入ったらベタベタになってしまってしまうが、深海棲艦は海水でも身体が綺麗にできるみたいだ。少し羨ましい。

 

「私達は海水だと余計に汚れてしまうんですよ」

「フベンダナ」

 

そう言われても困る。

 

「姉さんと手を繋いで……なんなのアイツ……」

「霞、落ち着いて。お願いだから落ち着いて」

 

後ろの方から霞と皐月さんの声が聞こえるがスルーしておくとして、お風呂に到着。海水でも綺麗になるという深海棲艦がお風呂に入ったらどうなるのだろうか。

 

「オ、オオ……アアア……」

「ヒメさん、大丈夫ですか?」

「スゴク、キモチイイゾ……」

 

湯船に浸かったヒメさんは、一番最初の私のようにダルンダルンに蕩けていた。艦娘と同じように、湯船による補給も効いているようだ。

 

「ヒメさんはどうやって補給してるんですか?」

「ホキュウ? シマノウエニイレバ、カッテニカイフクスル」

「なるほど……それが陸上型の特典ですか」

 

さりげなく深海棲艦の情報が手に入る。ヒメさんを利用しているようで少し申し訳ないが、こちらの情報も与えているのだからおあいこということで。

こちらから与えた情報は、鎮守府が無ければ一切の補給が出来ないこと。さらには艦娘の補給にはこのお風呂が必要だということだ。

代わりに手に入った情報は、陸上型の深海棲艦は自分で形成した島の上なら自動回復すること。そして、島の上でなければ回復せず、艦娘と同じようにお風呂で回復するということ。

 

「コレハイイ……ズットハイッテイタイ……」

「のぼせちゃいますから。適当なところで出ましょうね」

 

髪と身体を洗い、回復が完了したところでお風呂から出た。ヒメさんは洗うというのも初めてのようで、どうも肌に合わないようだ。

 

この鎮守府では衣服なども全て用意されており、お風呂上がりは基本的に作務衣。制服は洗浄に出し、あとはもう眠るのみとなる。ヒメさんにも一番小さいサイズの作務衣を着せてあげる。

 

「ヘンナキブンダ」

「私達はこういうものなんですよ」

 

深海棲艦には()()()()という概念もそんなに無いのだろう。何処ぞの戦場では水着を着てバカンスを楽しむ深海棲艦なんてものもいたらしいが。

 

「姉さん、今日も髪を梳かすわ」

「ん、ありがとう霞」

 

部屋に戻って少ししたら、櫛を持った霞がやってくる。これもいつも通り。違うのは、ここにヒメさんがいることくらいだ。

長い髪なのはこういう時に厄介で、ちゃんと手入れしないと質が悪くなる。特に私は結ぶこともなく下ろしているから、潮風に吹かれていつもベッタベタだ。

 

「今日もちゃんと洗えてるわ」

「こればっかりは自分でやらないとね」

 

霞に髪を梳かしてもらっている様子を、ヒメさんがマジマジと見ている。お風呂の文化が無いくらいなのだから、こういう髪を梳くことなんて当然ながら見たことが無いのだろう。

 

「相変わらず綺麗な髪ね。羨ましい」

「霞の髪も綺麗じゃない」

「姉さんほどじゃ無いわ」

 

ヒメさんが自分の髪をひとしきり撫でた後、首をかしげる。ヒメさんの髪も私と同じくらい長い。少し癖のある真っ白な髪だが、常に潮風に吹かれているようにはとても見えなかった。

 

「ナニヤッテル?」

「髪を梳いているんです。身嗜みですよ」

「ミダシナミ? ナンダソレハ」

「そこから!?」

 

霞もさすがに驚いていた。

そこからは艦娘の情報というより、人間の文化を教えてあげた。私達も知らないことは多いが、少なくとも身なりの正し方くらいはわかる。知っておいてもいいだろう。ヒメさんだって女の子だ。

 

そんな中でもいろいろとわかることがあった。まず深海棲艦には定期的な生活のサイクルがない。眠くなったら眠る。お腹が空いたら食べる。本能のままに生きている。太陽の動きに合わせた生活をする人間、艦娘とはそこからして違った。

だから、敵の侵攻は昼夜問わずなのだろう。()()()()()()()()のだから。

 

「サッキ、メニナニカツケテルヤツ、イタ」

「メガネのこと? 大淀さんね」

 

最初は妙に敵視していた霞も、ここまで来ると多少は打ち解けていた。ヒメさんも私の妹ということであまり警戒していない。髪を梳いてあげながら話を聞く。霞曰く、ヒメさんの髪は他の誰よりも綺麗だったらしい。

 

「ワタシノナカマニモイタ。オナジノツケテタ」

「深海棲艦にもメガネはあるんですね。そういうところは人間と一緒なんですか」

 

次に、姫級や、まだ私が見たことのない鬼級の深海棲艦は、人間の形をしているだけあって多少なり人間の文化の()()()をしているということ。メガネをかけた深海棲艦がいる以外にも、着替えをするもの、食べ物に妙なこだわりを持つものと、多種多様。

ヒメさんはその中でも変わった趣味を持っており、飛行機の模型を大切に抱えている。大切な物があるというのは深海棲艦も変わらない。

 

「シュウセキチネエチャン、モノアツメガタノシイッテ」

「集積地……資源の宝庫ね」

「だから資源を集めるのが趣味と?」

「ありそうじゃない。こいつら、思ったより考え方単純よ」

 

言い方は良くないが、確かに単純思考かもしれない。やりたいことをやる、原始的な本能だけで行動している。

戦艦棲姫のやりたいことは人間を滅ぼすこと。だから好戦的。

ヒメさんや港湾棲姫のやりたいことは静かに、穏やかに暮らすこと。だから温和。

 

「はふ……ちょっと眠くなってきました」

「姉さんは任務の後だもの、寝た方がいいわ」

「アサ、ネルノカ。ナライッショニネル」

 

補給したとしても昼夜のサイクルには抗えない。明日も早いため、もう寝ることにした。艦娘といえど、身体はまだ子供だ。夜が耐えられない。

ベッドに横になると、いつも通り霞も隣に。そして反対側にヒメさんが横になった。大きなベッドとはいえ、3人で川の字で寝ると流石に手狭に感じる。

 

「電気消すわ。じゃあ姉さん、おやすみなさい」

「ええ、おやすみ霞。ヒメさんもおやすみ」

「ン」

 

寝ると決めるとすぐに寝付いたヒメさん。そういったところも感情に引っ張られているように思える。

 

まだたった一晩だが、深海棲艦と生活して、いろいろ見えてくるものはあった。

ヒメさんのような深海棲艦なら、共存は可能だ。やりたいことに合っているなら、素直に話を聞いてくれる。私と霞の話にも興味を持ってくれていた。本能が、静かに暮らすために必要な情報だと判断したのかもしれない。

深海棲艦は恨み辛みに支配された艦娘という説も、ヒメさんを見ていると違うような気がしていた。確かにそういうものもあるだろう。だが、少なくとも白の深海棲艦は恨み辛みだけではないものがあると思う。

それを知るには、まだ時間が無さすぎた。




陸上型の深海棲艦は陸上という地の利を活かしていると考えています。代わりに海の上を歩けない。進軍しないから、考え方が温和。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。