入渠した皆が回復し、私、朝潮の変化も受け入れてもらえたことで、鎮守府は一旦元通りとなった。後は鎮守府そのものの復旧が終われば本当に元通り。改めて最終決戦に向けての準備となる。
残ったのは空母鳳姫と戦艦天姫。どちらもが提督の力を持ち、与えられた2つの艤装も異常過ぎる性能。どちらかといえば空母鳳姫の方が戦いやすい部類に入るであろうが、それでも対策は絶対に必要。おおよそ全ての力を見ることが出来ているため、作戦は立てられる。
あの戦いの翌朝、大部屋で目を覚ます。夜中でも身体の明滅は止まらなかったが、そこまで気にならなかったそうだ。今日の添い寝だった霞と瑞穂さんも、身近で眠ったところで眠れないほどでは無いと話してくれた。それは安心。
むしろこの光は私の生命活動を表すものになったため、光っている限り私は生きているということになる。
「お〜、やっぱりポーラのと似てますね〜」
「そうですね。痣みたいなものですから」
大部屋で皆で過ごすということは、以前と同じように皆の前で着替えるということである。女所帯であるために羞恥心なんぞもうカケラもないが、私の身体中に出来てしまったヒビ割れの痣と腹の虚空をここまで堂々と見せるのは初めて。
そこにポーラさんが反応した。重巡棲姫の腹の裂け目に近しいものを感じ取ったらしい。確かに近いものはあるかもしれない。ここから艤装が生えることはないが。
「親近感が湧きますね〜」
「艤装は生えませんよ」
「痣はポーラにもありますからね〜」
着替え途中なので半裸なポーラさん。重巡棲姫であったときの名残で、腹に裂け目のような痣が残ったまま。私の方が大きく開いてしまっているものの、似たようなものかもしれない。
「もしアサシオが浄化されたら、痣が全部残っちゃうかもしれませんね〜」
「浄化は流石に無いですね。私は死にませんから」
自分の死なんて今は考えちゃいけない。
「朝潮、陸上型なら陣地が必要ではないか?」
ガングートさんに言われて少し頭を悩ませる。確かに今の私は陸上型深海棲艦、中枢棲姫の亜種である。陸上型でありながら脚部艤装を持っており、陣地が無くても移動が可能。無いなら無いでも良さそうだが、あればあったで便利かもしれない。
だが、陣地とはどうやって手に入れるものなのだろうか。
「あってもいいかとは思いますが、どうやって手に入れればいいんでしょう」
「知らん。私は陸上型では無かったからな」
「陸上型は陣地ありきで生まれるようです」
着替えを持ってきてくれている瑞穂さんも、その辺りの記憶が戻ってきているので説明可能。とはいえ瑞穂さんも元々は海上艦である水母棲姫であるため、詳細はわからない。
「なら私に陣地はありませんね。何処かを陣地に変えるとか出来るでしょうか」
「出来るかもしれんな」
そうなると、場所は決まっているようなものだ?
『お、領海行くか』
「そうね、あの島を私達の陣地にしましょうか」
『いいな。領海を改めて私達のものとしようじゃないか』
というわけで、今日は領海へ向かうことにした。
司令官に許可を貰い、領海に向かうことに。最終状態に変化したことで、心の安定のために領海に行く必要は無くなったのだが、アサの領海であるというのは確かなので、今後も行けるタイミングがあれば行けばいいという話になった。
随伴は私に陣地の話題を出してきたガングートさんと、ついでに自分の領海に向かうつもりのポーラさん、不要になりつつあるものの私の護衛として来たウォースパイトさんと瑞穂さん。全員元深海棲艦である。雪風さんが便乗していたらコンプリートだったが、まだ初陣には早いと鎮守府でお留守番。私がいないときは大潮や霞が見ていてくれるので安心。
そこに、川内さんが便乗してきた。理由は私の監視。
私は敵の攻撃の結果とはいえ、仲間に攻撃をした挙句に戦艦天姫の勧誘の手を取り、一時的に世界に叛逆した事実がある。もう今は正気ではあるものの、体裁として事後経過を監視する必要があるとのこと。
「ごめんね朝潮。大丈夫なことはわかってるけど、念のためね」
「大丈夫です。私がやったことがそれほどのことであることは理解しているつもりです」
「そう言ってもらえると私もありがたいかな」
ポーラさんも、献杯してくれる人が増えるのは喜んでいた。あの日からもうそれなりに時間が経つが、定期的に向かってはお酒を振舞っているようだ。
「先にポーラさんの方を終わらせますか」
「ありがと〜」
先にポーラさんの領海を訪れ、儀式を行なっていく。これに関してはいつも通りという感じで献杯。川内さんもこの厳かな雰囲気には何も言わず、流れのままに付き合ってくれた。ここが穏健派の深海棲艦が侵略戦争に負けて沈んだ場所ということを理解した上で、何も言わないでくれた。
川内さんの知るポーラさんとは別人のような顔を見せたことが、特に響いたようだ。一般的な大本営公認のアルコール中毒であるポーラさんとは違いすぎるからだろう。今でも初霜の言うことを聞き、飲むのは夜だけにしている。
『なんかポーラかっこいいね』
『雰囲気が変わるな。こういう時だけは重巡棲姫なんだろう。あんなフリをしてるが、記憶は全部残ってるみたいだしな』
ヨルは献杯に便乗するのが初めて。雰囲気の違うポーラさんに対し、感嘆の声を上げる。重巡棲姫はポーラさんとは正反対な性格だ。それが今だけは表に出てきているように思えた。
「はい、皆さんありがとうございました〜。みんなが拝んでくれたおかげで、ここのみんなが喜びますね〜」
「You are welcome. また来るわね」
「ああ。同じ元深海棲艦のよしみだからな。また付き合うぞ」
本当にこの3人は仲がいい。一緒にいるところをよく見かける。ポーラさんの飲酒にも付き合えているほどだ。
瑞穂さんも元深海棲艦であると自覚出来るようになってからはこの3人とは仲間意識を持てているようだった。特殊な生まれ同士、話が合うこともあるだろう。
「センダイも、ありがとうございます〜」
「どういたしまして。いろいろ驚いたけど、こういうこと出来るって素直に凄いと思うよ」
艦娘も深海棲艦も、悪く言ってしまえば
それが今、この場で覆った。今でこそ浄化された艦娘だが、深海棲艦にも人間じみた者がいる。それを理解してもらえたのなら充分だ。
その後、私の領海に到着。ここは本当に変わらない。
『なんだか久々な気分だ』
「実際久しぶりよね。ここに来るの」
ヨルとの出会いの時から来てないように思える。その後は激戦に次ぐ激戦だった。ここに来る余裕もなく、結果的に私は今の身体になってしまっている。本当ならもっと頻繁に来たかったが、余裕が無かったというのはあった。
「どうやれば……」
「陛下、多分だけど、島に上がれば出来ると思うわ」
「ウォースパイトさん、陛下はやめてくださいね」
皆が見守る中、いつものように島に上がる。と同時に、海が赤く染まり始めた。私の領海であることを誇示するように赤みはどんどん拡がっていき、すぐに岩礁帯も呑み込むほどに。
今回はそれで止まらなかった。さらに拡がっていき、いつもの倍は赤く染め上げる。これではもう扶桑姉様が島に上がることは出来ない。私の艤装に乗ってもらって運ぶのがいいか。
『うわぁ、もう真っ赤だね。前よりいっぱい』
『それだけ侵食の力が強くなったってことか。さすが最終形態』
「素直に喜べないわね……」
これだけすぐ侵食するのに、鎮守府近海を染め上げないのは助かっている。多分心持ちの問題なのだろう。鎮守府は皆の場所だが、ここは
それもあるからか、侵食は海だけに留まらなかった。島の方にも影響が出てくる。
『風景はそのままにしてくれよな』
「わかってる。なんか勝手に流れ込んでる感じだけど、気の持ちようなのかしら」
島にあるもの全てに私の深海の力が流れ込んでいるような感覚。まるで、この島が自分の陣地だと言わんばかりに規模が大きくなる。
生えている草1つ1つ、浜の砂1粒1粒に至るまで、水がスポンジに染み込んでいくかの如く侵食していった。
「お〜、ちゃんと陣地になっていってますね〜」
「レディ、ああなるとわかっていたのか?」
「Uh……どちらかといえば、勘ね。I was also surprised」
少し時間はかかったものの、なんとなくこの島全てを侵食したとわかった。目を瞑っても、島全体が把握出来るような不思議な感覚。電探を切ってもそれは変わらない。島の上なら、どうあっても私の掌の上、という感じ。
そんな状態でも、他の陸上型と同じようにこの島を移動させるということは、今のところ出来そうに無かった。『この島はここに無くてはいけない』という思いが強いのだと思う。
「多分終わりました」
「ですね〜。気配がものすご〜く拡がってますよ〜」
全て終了したということで、ポーラさんが島に上がる。目の前で見ているというのもあるが、
「この状態でここから離れたらどうなるんでしょう」
「どうもならないんじゃないか? ここが貴様のものであることは変わらん。今までと同じだろうよ」
「陣地が破壊されても深海棲艦本体が死ぬことは無いもの。普通の陸上型は溺れて死ぬけれどね」
そういう意味でも、私は特殊なんだと思う。自力で陣地を置いていけるし、気の持ちようかもしれないが、自分の足で別の島に行っては陣地を増やすことが出来る。
考えてみれば、今の私は深海棲艦としては最低最悪の侵略者ではなかろうか。やろうと思えば全ての島を自分のものにと言い張れる。
『お前にそんな気は無いだろうに。私だってそうだ。ここだけでいい』
アサも元々領海を拡げようと思っていたわけではない。ここさえあればそれでよく、これ以外にいらない。
「驚いたなぁ……深海棲艦ってこうやって自分の場所を拡げるんだ」
「私は結構特殊ですよ」
「それでもね。いや、これは本当にいいものが見せてもらえたよ。後からダンナにも話しておかなくちゃ」
ポーラさんに続き、皆が島に上がってくる。ウォースパイトさんはフィフを人型に変形させてからゆっくりと。島自体を崩さないように慎重に上がってくれた。
「朝潮、艤装を出してみろ」
「こうですか?」
全ての艤装を展開した。海上で戦っている時よりも
本当にここが私の場所。島すらも私と一体化したような不思議な感覚。これが陸上型深海棲艦の在り方。この上でなら、負ける気がしないようにも思える。
「こう見ると完全に中枢棲姫だな」
「色違いのね。亜種と言われても遜色が無いわ」
ガングートさんとウォースパイトさんがそういうくらいなのだから、今の私は余程似ているのだろう。そんな気はなくても、そのように変えられたのだから当然といえば当然か。
「ロッソ、ビアンコ、仲間ですよ〜」
ポーラさんの自立型艤装のロッソとビアンコは、ヨルと戯れている。蛇のようなウツボのような艤装は、ヨルと似たようなもの。ヨルも親近感が湧いているようで、ガチャガチャ音を立てながら仲良さそうに絡みついていた。
「この島は上手いこと不可侵に出来るようにしたいね」
「そうしてもらえるとありがたいですね。そもそもここに来る人なんて浦城司令官のところの艦娘くらいですが、余計な心配は増やしたくないですし」
「少なくとも大本営がここに近付くことはないよ。それだけは安心して」
ここに人間が来ると考えるだけでも虫唾が走りそうになるが、その辺りは大丈夫だと保証してくれた。少なくとも、新たにこの近海で深海棲艦が発生しない限りは、この島に何者かが近付くことは無いだろう。
私がここを陣地としたことで発生しないとは限らないが、今は心配していない。発生したとしても、おそらく私には敵対しないだろう。その全てがクウの妹扱いになる。
『ここは落ち着くと思っていたが、より落ち着くようになったな』
「陸上型の私達には陣地が一番落ち着くんでしょう。ちゃんと鎮守府には帰るけどね」
『もう少し頻繁に来たいところだな。ここ最近忙しすぎる』
今の戦いが終わったら、陸上型深海棲艦として一旦ここに腰を落ち着けたいものだ。鎮守府も落ち着くが、ここも落ち着く。
そのためにも、北端上陸姫打倒を改めて決意した。
霞との出会いの場所。アサの辿り着いた場所。ヨルが自分を手に入れた場所。思い入れのある場所はついに、朝潮の完全な支配下に置かれることに。