南司令官帰投後、全員が会議室に集められる。貰った情報から、今後の作戦を立てていくためである。基本的な部分はもう司令官の中で出来ているらしく、その詳細を練り上げる場となった。
残っている敵2人は、どちらも提督の力を持つ難敵。だが、少しずつ少しずつ、絶望と思われた勝利が見えてきた。
おそらくだが敵の手の内は全て見た。戦艦天姫と空母鳳姫の深海艤装2つはどちらもわかっている。それと、今までの戦闘経験を踏まえて、誰が出撃するか、どう戦うかを決める。
「また私の予想で申し訳ないが、次の襲撃はおそらく明日の午後だ。戦艦天姫と空母鳳姫が同時に来るとなると話は変わるが、空母鳳姫のみならばそうなると思う」
前回の早朝の戦いの時と同じように、今までの襲撃ペースや、龍驤さんが空母鳳姫に負わせた傷や、昨日の戦艦天姫の消耗のことを考慮して、前回より1日遅れでは無いかという予想。
あくまでも予想であり、今日来るかもしれないし、もっと先になるかもしれないと補足していた。
「前回は当たってたんだから今回も信用するわ」
「ありがとう山城君。こう何度も何度も鎮守府を破壊されては堪ったものではない。なので、今回はこちらから打って出ようと思う」
前回、前々回と、鎮守府内で混ぜ物の気配と匂いを感じてから出撃をしていた。だがそれだと、鎮守府の防衛に深海艤装が使えない。それを防ぐために、先んじて気配が届かない位置で待ち構えるとのこと。
来ないなら来ないに越したことはない。だが前もって準備出来るならするべきだろう。勝ちをより多く引き込むために、やれることは全てやる。
「もう懐かしくも思えるが、防衛線を張ろうか。敵の航路は目星がついてるからね」
青葉さんの海図と、潜水艦組の度重なる巡回により、大まかに敵の攻め方はわかっていた。全ての要素から司令官は今回の作戦を立てている。
「来るのなら空母鳳姫のみと考えている。随伴はいるだろうが、混ぜ物は1人だろう。それを連合艦隊で叩く」
空母鳳姫対策は大分出来ている。深海日棲姫の艤装の時は魚雷が、深海鶴棲姫の時は主砲が有利に運べる。そこから鑑みての部隊編成だ。
「加藤少将、身体の調査を先行してしまっていて、まだ朝潮ちゃんから白い『種子』を摘出してません。金の『種子』をいくつか増やせるかと思いますが」
「ふむ、それも考慮に入れようか。今はそれだけだ。出撃する部隊は明日の朝に発表する。以上」
今までこちらから打って出ることが無かったためにいろいろと考えたいようだ。今までの戦闘経験からも鑑みて、この短時間に入念に思考を巡らせるとのこと。誰が選ばれてもいいように、皆が万全の態勢で待つこととなる。
私、朝潮の準備といえば、ただただ心を落ち着けること。午前中に自分の陣地を作成し、ウォースパイトさんとお茶会をさせてもらっている。午後は今まで通り訓練担当に戻るか、ゆっくりと身体を休ませるかをしておこうと思う。
とはいえまずは白い『種子』の摘出から。いつも通り、工廠でセキさんにヨルを分解してもらいながら佐久間さんに摘出してもらう。この作業ももう何度もやっているため、手際よくサクサク進む。
「まさか朝潮が私の仲間になるとはな」
「ですね。陸上型の先輩として、いろいろ教えてください」
「教えることなんて何もないし、お前は海上艦だろう。勝手が違い過ぎる」
セキさんの言う通り、私は海上艦でありながら陸上型というハイブリッド。艦娘、深海問わず、あらゆる艦種を持っていると言っても過言ではない。
ヨルがいなかったら、そんな状態でこの鎮守府と、いや、世界と敵対し、思うがままに人間を滅ぼしていたことだろう。よくよく考えてみれば怖くて仕方ない。人間は良いとして、仲間を手にかけるのはやっぱり辛い。
「悪いんだが、海の上に艤装を展開してもらえないか。メンテナンスしてみる」
「了解しました」
少し離れた位置に艤装を展開。私よりも1回りは大きな艤装が現れ、波を立てながら浮かび上がる。
「主砲の無い中枢棲姫のものか」
「らしいです。イクサさんがそう言っていました」
佐久間さんも驚いているが、戦艦天姫が持つ太平洋深海棲姫のものはこれよりも遥かに大きいとんでもないもの。あれを鎮守府にぶつけられたら、それだけで半壊してしまいそうだ。
「今はやめておこう。これをメンテナンスするときは、工廠組総動員だ。明石だけじゃなく、睦月にも手伝ってもらわないと辛いぞ」
ここに所属する誰よりも巨大な艤装。戦艦水鬼であるイクサさんや、似たような自立型艤装のウォースパイトさんよりも少し大きい。何度も変化した末の質量兵器である。
艤装を変えられるたびに戦い方も変えてきたが、最終的にはただぶつけるという原始的な手段になってしまった。今までやってきたことを無にされるとは思わないが、覚えることが増えてくるので、そういう意味でも変化はなるべくしたくなかった。
「ご迷惑おかけします」
「こうなってしまったら仕方ないだろう」
場所を取りすぎてるなと改めて思った。大概のことは私が入渠することでどうとでもなるが、定期メンテだけはこうしないと出来ない。他の人たちみたいに陸に上がるのは憚られる。
「はい、摘出完了」
そうこうしているうちに『種子』の摘出も完了。終わった途端にセキさんがテキパキと尻尾を元に戻していく。摘出された『種子』は今まででも少ない方。それでも、前から残っている分と合わせて2つ分は作れるそうだ。
「ヨルに代わりますね」
「うん、お願い」
今までと同じように、ヨルを表に出す。私達を助けてくれた時もそうだが、ヨルも表側に大分慣れてきたようだ。
「何にもないよー」
「ならこれで完了だね。ヨルちゃんも表側に大分慣れたね」
「うん、慣れた! ご主人助けられたし、表に出られて良かったよ」
もうヨルにも安心して表を任せられる。悪夢の中での戦闘経験を表に持っていけることが昨日の戦闘でわかったため、ヨルも戦力としてカウント出来るくらいだ。自分の持ち場にいる方がいいのはわかっているが、万が一の時にはヨルにも身体を任せることにもなるだろう。
「じゃあ早速作ってこようかな。加藤少将が誰を使うかわからないけど、使うことになるかもしれないしね」
「サクマサン、頑張ってねー」
「おうよ! 私に任せて任せて!」
グッと親指を立てて、佐久間さんは研究室へと向かった。ヨルも手を振って見送った後、主導権を私に返してくる。
尻尾を元に戻してくれたセキさんは、まだ私の艤装を眺めている。今は裏側からアサが意のままに操ることが出来る。私から見れば自立型艤装である。
「中枢棲姫というのは知識としてはあるが実際に見たことは無くてな」
「そうなんですか。私の色違いと聞きましたが」
「ああ、今の朝潮で見ればそうだな。お前は中枢亜種だ」
ならば、思考の海で見たアサの姿が中枢棲姫そのものかもしれない。私を反転したような色合いが、実は本来の中枢棲姫の見た目であったりして。
「艦載機の数はどうだ」
「ちょっと待ってくださいね」
ありったけを出してみたら、さらに増えて艦載機だけで24機。ヨルの水上機を込みにすれば全部で36機。軽空母並の搭載数を誇る。本来の中枢棲姫は水上機だけらしいが、私は変化の経緯で獲得した全てを拡張されているために今の状態。
「搭載数は私に近いな」
「今の私、そんなにありましたか」
「ちなみに私は陸上型の中でも特に搭載数が少ない方だぞ。多分一番少ないんじゃないか。代わりに魚雷が使えるからな」
セキさんは陸上型でも特殊な方のようだ。魚雷が使える陸上型など
中枢棲姫は水上機のみを運用する、航空戦艦のような陸上型らしい。そういう意味でも私は異質。亜種というのがよくわかる。
「お前と初めて会った頃は、こんなことになるなんて夢にも思ってなかった」
「私もです。あの時は……春風が来た頃ですから。懐かしいですね」
そう思うと、セキさんも北端上陸姫との戦闘で見れば最初期からいる人。元は自分の居場所を追われてここに来ている。北での事が済んでも、ここに居続けてくれるのはありがたいことだ。
「あの頃から変わった奴だとは思っていたがな」
「そうですね……非戦闘員で戦場に出ていましたから」
その面影も無くなってしまったが、全員の背中の目になるべく奮闘していた時期だ。今では電探眼鏡は内蔵型になり、当時無かった攻撃の手段はいくらでも増えている。艦種すら滅茶苦茶だ。
「この戦いが終わったらどうするつもりだ? お前には陣地も出来た。深海棲艦としては、ここにいる理由は無くなるな」
「それは貴女も同じでしょう。陣地を近海に置いて協力してくれているんですから」
「私はずっとここで世話になろうかと思う。妙に居心地が良くてな」
なら、私と同じだ。この鎮守府から出て行く理由などない。そもそも私はこの鎮守府に所属している艦娘だ。勝手に出て行くことの方が許されていない。たまに陣地に戻るくらいはするが。
「皆が良くしてくれる。頼られるというのは、なかなかどうして嬉しいものだ」
「ですね。私も一時期そういう立ち位置でしたから」
「今もだろうに」
そういえばここまで親密にセキさんと話をしたことは無かったように思える。業務上のことで話すことは多いが、世間話はなかなかする機会がない。いつもセキさん自身が忙しいというのもあるが、工廠組というのは私達とはほんの少しズレた場所にいる。こちらはこちらのコミュニティが作られている。
こうやってゆっくり腰を据えて話が出来ることが嬉しかった。特によくお世話になっている人なのだから尚更だ。
「よし、大体構造はわかった。バラそうと思えばバラせる」
「すごいですね……よくわからない生体パーツの塊だと思うんですけど」
「ここに来ていろいろな艤装を触ってきたからな。こんな集積地棲姫は私だけだろうよ」
もうセキさんもこの鎮守府には無くてはならない存在だ。ここから離れられたらむしろ困るほどになってしまっているかもしれない。
夕方近くになり、佐久間さんが金の『種子』の生成を終わらせる。出来た数は予定通り2つ。つまり、2人が戦力として追加される。
司令官はまだ部隊編成に頭を抱えている状態。全員が出撃出来るようなものだとしても、選択は難しいところだ。
「2つだね。ではそれも視野に入れることにしよう」
「よろしくお願いします。本当に手持ちの白い『種子』は使い切ったので、これで最後になるかもしれません」
「余りも無くなったということだね。了解だ」
私が空母鳳姫との戦闘に出たとしても、1つ分出来るかもわからない。そのため、この金の『種子』が本当に最後の戦力増強になるかもしれないということだ。これを埋め込む者は慎重に選ばなくてはいけない。
「なかなか決まらなくて困っているよ。因縁のある龍驤君や、有利に事を運べる高雄君、最終段階で押し込みがかけられる皐月君は決まっているんだがね」
あとは龍驤さんの曳航を任された響さん、提督の力についていける島風さん、万能戦力で空母鳳姫のあらゆる攻撃に対応したイクサさんなどは該当者だ。さらには空母相手ということで対空性能を見ると、吹雪さんや天龍さんも該当する。
「難しいね。勝ちを拾えて、怪我も抑えられる部隊となると」
「そうですね……空母鳳姫だけではないでしょうし」
「随伴艦が何者かにもよるね。万が一戦艦天姫と同時に攻め込んできた場合は、鎮守府総動員で援軍も呼ぶまである」
提督の力を持つ敵2人がかりで来られると、さすがに私達だけでは荷が重すぎる。だからといって援軍を呼ぶのも憚られる。死にに来いと言っているようで気が引けてしまう。それほどまでに、今回の敵は強大。
「もう少し悩むことにするよ」
「休憩もしてくださいね。ちょうど山城姉様がお茶を持ってきてくれましたよ」
こちらに向かってくる山城姉様の反応。あの時からほぼ毎日、司令官にお茶を出しているようだ。関係が進んでいるようで何よりである。だが、ほんの少しだけ山城姉様が羨ましく思えた。
甲斐甲斐しい山城姉様は、もうお茶の腕前も金剛並。ウォースパイトからも太鼓判。継続は力なり。