欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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防衛準備

その日1日は襲撃されることは無かった。翌日早朝にも無し。これによって、司令官の予想は現実味を帯びてきた。午後からの防衛線警備のために、午前中は最後の準備に取り掛かることになる。来なきゃ来ない方がいい。だが、やらなくては始まらない。

 

朝食後、すぐに部隊編成の会議が行われた。誰もが自分が選ばれる可能性があるとウズウズしている状態。別に好戦的というわけではないのだが、こういうときは、妙に昂揚するものだ。

敵の強大さは身にしみて感じている。次に交戦したらもう4度目だ。それだけやってまだ勝てないというのもなかなかない。何度も敗戦を喫し、辛酸を嘗めたのだ。今回で終わりにしたいというのもある。

 

「今までの戦闘経験や、相性のことも考え、部隊編成がようやく決まったよ。待たせてすまなかったね」

 

司令官も考えに考え、今回の部隊を選出。今までと同じように、襲撃しがてら鎮守府も攻撃してくる可能性は高い。

 

「今までの戦闘から、弱点……というより、少し効きやすい戦術が何かは理解した。それを踏まえて、今回の部隊を発表する」

 

緊張感が会議室を支配する。

 

「まず、制空権の確保が必要不可欠だ。ここには空母隊を配置する。龍驤君、蒼龍君、雲龍君。そこに、運搬役の響君」

「せやな。まずはそこからや」

「あのバカみたいな艦載機をどうにかしないとね」

 

空母には空母を。制空権争いのために空母勢総動員。龍驤さんと蒼龍さんの移動のために、響さんの大発動艇を使用。

 

「さらに対空を追加。吹雪君と天龍君」

「了解です! 天龍さんが対空として行くのは久し振りですね」

「あわよくば白兵戦にも行ってもらうよ」

「そうなるよな。腕がなるぜ」

 

艦載機のみでなく、高角砲による対空も入れた、徹底した制空権確保。これで空母鳳姫が艦載機を諦めてくれるのなら御の字。天龍さんは白兵戦に入り、吹雪さんは魚雷処理などの戦闘補助に入る事ができる。

 

「次、攻撃役。深海日棲姫の艤装のときは、魚雷が効くことはわかっている。そのため、手動操作魚雷によるピンポイント攻撃をメインにする。高雄君、霞君」

 

ここは前回の戦闘でも有用性がわかっている。無理矢理にでも深海鶴棲姫の艤装を出させなければ勝機は無い。この2人ならば、どのような状況でも放てさえすれば当てられる。

 

「深海鶴棲姫の艤装のときは、魚雷が効かなくなる代わりに本体への攻撃が通る。代わりに、強力な主砲による攻撃が入るため、素早く懐に潜れる者がいいだろう。皐月君、島風君」

 

2人とも金の『種子』によるブーストもかかるため、その素早さはより特化される。島風さんに至っては提督の力に追いつけるほどのスピードになるため、この戦いには必要不可欠。

 

「残り2人だが、慣れている前回の戦いの経験者から出したいと思う。万能戦力で対空も本体も狙うことの出来たイクサ君と、3度の戦闘全てに参加している朝潮君だ」

 

最終的な変化まで終え、それを乗り越えたことで、私の戦力外通告は撤回されたようだ。今まではなし崩し的に出撃していたが、今回は事前準備ありで私の出撃が決まった。

 

結局、追加された金の『種子』は使わずの方向となった。いや、使いはするが、鎮守府防衛のために割り当てることを選択した。万が一さらに近付かれ、鎮守府まで気配と匂いが届くようになってしまった場合、警護が疎かになってしまう。そのためにも、出来る限りの戦力強化はしていくつもりだ。

 

「私で無くても、龍田さんも参加しているはずですが」

「龍田君は軽巡岬姫の方を優先していたね。空母鳳姫のみに3度向かっているのは君だけだよ。あとは、今までの経験からの現場指揮能力を活かしてもらいたい」

 

響さんは大発動艇の運用に付きっきりになるだろう。そうなると、全員の場所の把握から、行動予測まで、私が一手に引き受けることになる。それならばと了承。

 

「久々に天龍ちゃん1人の出撃ね〜。ちょ〜っと寂しいかも〜」

「絶対帰ってくるからよ、お前が俺の居場所守ってくれや」

「そうね〜。大丈夫、ちゃんと守るわ〜」

 

天龍さんと龍田さんを分けて運用するのは久し振りのこと。対空を優先したいということから、その力を持つ天龍さんが白兵戦ではない理由で駆り出されている。

 

残りの人員は鎮守府防衛。扶桑姉妹とオーバースペック組が残っているということで安心感が強い。背中を気にせず出撃出来る。深海艦娘組も軒並み防衛にあたってくれるので、気配と匂いさえ遮ってしまえば、さらに強固な防衛システムとなってくれるだろう。

 

「では深海艤装組のみ残して解散だ。今日は迎撃準備に時間を費やす。皆、万全の態勢でことに当たってくれ」

 

一旦解散。各々が自由に決戦に向けて準備を進めていくことになるだろう。

 

 

 

深海艤装組のみが残ったのは当然、金の『種子』の埋め込みの件。既に5人が埋め込まれ、戦場でその力を遺憾無く発揮している状態。次の戦闘に参加するわけではないが、今のうちに埋め込み、万が一の時のために準備をしておくこととなる。

 

「今回は完全に立候補制にしようと思う。君達は皆強い。故に、優先順位が無いんだ」

 

特化した部分が無く、万能だからこそ、誰もがその権利を持つだろう。故に立候補制。強いて挙げれば、主砲と魚雷に特化した初霜、精密射撃が随一な深雪さん、駆逐艦を超えた超火力が期待できる時雨さん、万能の中でも飛び抜けているレキと春風辺りが少し有利か。

だが、レキはまだ子供だ。埋め込む快感には耐えられそうにない。そう考えると、他の4人の内の2人が妥当ではないかと思う。勿論、他の人達だって優秀な人員だ。出来ることなら全員に埋め込みたい。

 

「立候補、させてくださいませ。皆様の力になりたく存じます」

「春風さんが立候補するなら私も。欠陥(バグ)はありますが、片方の主砲と魚雷は強化されます」

 

挙手したのは春風と初霜。半深海棲艦であり、一度『種子』を埋め込まれているということで、今回のブーストはこの中でも受け入れやすいのではと本人も語っている。

 

「他にいないようなら、春風君と初霜君に使うこととする。構わないかな」

 

皆、異論無し。やはり『種子』を体内に埋め込むということは、若干不安はあるだろう。霞ですら、言われれば了解したが自分からは行かなかった。いくら力を得られるからと言っても、得体の知れないものであるのは確かだった。

 

結果的に問題児3人全員が金の『種子』を取り扱うことになった。ということは、埋め込むのは私になるだろう。おかしなことにならなければいいのだが。

 

「では朝潮君、これを」

「あ、やっぱり私がやるんですね」

「そうなるんじゃないかな。彼女らには姉妹艦はいないしね」

 

後ろからの2人の期待の視線が痛い。これからどうなるかも知らずに。霞も経験しているため呆れ顔である。島風さんと皐月さんはやらかしがあるので、2人の行く末に苦笑しか無かった。

 

「1人ずつにしましょう。多分やらかすから」

「で、ではわたくしがお先に……」

 

妖精さんのおかげで私室もようやく使えるほどに修復されているため、私の私室で埋め込むことにした。今なら周りに誰もいない。霞の時のように、瑞穂さんに見張りをお願いしている。

 

「何処にする?」

「霞さんは何処にされたのでしょう」

「傷と同じ背中にしてたわね」

「……では、わたくしも傷と同じ脇腹にお願いいたします」

 

スルスルと着物を脱いでいき、肌を晒す。霞と同じように痛々しい傷跡。ここに追い打ちをかけるようで気が引けるが、春風が望んだことだ。私も意を決した。爪で少しだけ傷を付け、『種子』を手に取る。

 

「それじゃあ……頑張って」

 

傷に押し当てた『種子』が潜り込んで行く。それと同時に、春風の身体が跳ねた。やはり聞いたことのないような嬌声。霞と同じように口に手をあて、ブルブル震えながら耐える。数度の痙攣の後、一際大きく震えてグッタリとベッドに寝そべった。

 

「お、おわり、ました……おそらく……」

「よく頑張ったわね。お疲れ様」

 

息も絶え絶え。まだ脚が震えており、ベッドから降りれそうにない。それに服を着ていない状態だ。そのままにしておくわけにもいかない。

そこで、私は春風に用意していたものがあった。こんなタイミングで渡すのもアレだが、都合がいいとも言える。

 

「春風、次があるから服を着てちょうだいね」

 

服を渡す。それを見て、目を見開いた。

 

「わ、わたくしに……これを……?」

「ええ。もう春風は充分に反省しているし、私はそもそも気にしていないもの。それに、私は着れなくなってしまったしね。()()()()()の春風として、これからもよろしくね」

 

渡したのは春風のサイズで作られた朝潮型の制服。以前と同じ姿になれるものだ。

『種子』による洗脳を悔やみ、反省の意を込めて神風型の着物に戻していたが、もう私が認める。春風は私の妹として、これからも活動してもらいたい。それがその証だ。

 

「御姉様……ありがとうございます。名誉朝潮型として、この春風、御姉様のお役に立てるよう誠心誠意励ませていただきます」

 

これで本当に元通り。長い時間を要したが、春風はあの頃の罪悪感から立ち直れたと思う。

 

続いて初霜の番。2人きりになると途端にしおらしくなる。春風の声が聞こえていたか、緊張してしまっているようだ。

 

「初霜、リラックスリラックス」

「わ、わかってるんですが、やっぱり緊張してしまいます。今から朝潮さんに痴態を見せてしまうのだと思うと……で、でも頑張ります」

 

霞から何か吹き込まれたか。とはいえ恥ずかしいところを見せることになるのは間違っていない。霞も、春風も、声を大きく上げるのは我慢したが、痙攣している姿はさすがに目を逸らしてしまうくらいのもの。本人の名誉のためにも、初霜には何も言わないでおく。

 

「何処にする?」

「やはりここだと思うので……ここにお願いします」

 

寄生の痕と治療の痕が重なる右腕を向ける。初霜の始まりの痣。罪の痕。私は気にしていなくても、初霜は重く受け止めている。この金の『種子』でそれを上塗り出来ればいいのだが。

腕ならば服を脱ぐ必要もなく、そのまま施術を開始。小さく傷を付け、『種子』をあてがう。

 

「それじゃあ……頑張って」

 

『種子』が潜り込んでいく。霞の背中や春風の脇腹のように胴体に埋め込んでいるわけではないので、そこまでの反応にならないのではないかと思っていたのだが、埋め込む場所など関係無かった。

 

「〜〜っ!?」

 

ビクンと大きく震え、そこからは酷かった。我慢出来そうに無かったらしく、大きな声が上がった。初霜の名誉のためにも、それ以上は語らない。ただ、腕に埋め込んだからか、今だけはその腕がうまく動かなかったらしい。口を押さえることも出来なかった。

 

「はぁ……はぁ……は、恥ずかしい……」

「えーっと……うん、これに関しては仕方ないわ」

「快感も、時には地獄ですね……」

 

未だに痙攣は治らない。上気した顔と潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。

 

「こ、腰が抜けてしまいました……」

「私も経験があるからわかるわ。落ち着くまではベッドに寝てればいいから」

 

そういう意味では、服を着たまま施術出来て良かったと思う。肌着姿で寝ていては、風邪を引いてしまうかもしれない。

 

「こんな姿……朝潮さんにしか見せられませんね」

「あんなに声を上げるとは思ってなかったわ」

「恥ずかしさがぶり返すー……」

 

頭を抱えて悶絶する。今の初霜の痴態は、私が墓まで持っていくことにした。

 

「よく耐えたわ。さすがは自称嫁ね」

「私も力になりたかったですから。最初はどうでもよかったこの鎮守府も……今は私を変えてくれた大切な場所です。他人の手で壊されたくはないですね」

 

人間不信から始まった初霜。この鎮守府も、ただ配属されただけの場所に過ぎなかったのだろう。それが、事故により半深海棲艦になってから一転、性格も変わり、価値観も変わり、何もかもがいい方向に向かった。ここに配属されなければ起こり得なかったことだ。大切な場所にもなるだろう。

 

「私が過去を捨てた場所ですから。仲間達のためにも、そして何より、愛する朝潮さんのためにも、この力を使っていきたいと思います」

「ええ……よろしくお願いね」

 

直接的な好意をぶつけられるのは、これだけ長く一緒にいてもまだ慣れないものだ。

 

「終わったみたいね」

 

霞が春風を引き連れて部屋に入ってくる。2人とも顔が赤い。何となくどういうことかは悟った。

 

「初霜、声大きすぎ」

「気持ちはわかりますが……もう少し押さえた方が……」

 

指摘され、初霜も顔が真っ赤になっていく。

 

「……うわぁん! 朝潮さん、私お嫁に行けませんー! あ、もう行ってるんでした。旦那様癒してください」

「あ、こら、どさくさに紛れて何やってんのよ!」

「初霜さんズルいです。わたくしも御姉様にそういうこと……」

「アンタは制服認められたんだからそれで終わりよ!」

「嫁の専売特許ですー。妹とはこんなこと出来ませんよね」

「わたくしは妹とそういう関係になってもいいと思うのです」

 

私を取り囲んで言い合いが始まってしまった。出来ることなら私を真ん中に置かないでほしい。

 

「仲がいいですねー」

「朝潮様は困っておられるように見えますが」

「なんだかんだお姉さんも楽しんでいますよ。そうじゃなきゃ、殴ってでも止めますから!」

「そうですね。さすが大潮様。朝潮様のことをよく理解していらっしゃいます」

 

部屋の外では様子を見に来た大潮が瑞穂さんとこちらを眺めていた。その前にこの馬鹿馬鹿しい論争を止めてほしい。楽しんでいないといえば嘘になるが。

 

『ご主人、楽しそうだね』

『そうだな。元の鞘に収まった感がするしな』

 

思考の海で他人事のように話すアサとヨル。無理矢理主導権を渡そうとしたが、ヨルの分までアサが突っぱねてきた。こういう痴話喧嘩は私の担当だと。

 

こんな騒がしい日常がもっと続けられるように、次の戦いは必ず勝利する。誰一人欠ける事なく、明日をむかえられるように。




普通とはまるで違う問題児3人。朝潮が絡むと途端にポンコツになる。朝潮を取り巻く、平和な日常の1つ。
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