欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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鳳凰狩り

午後からの防衛任務に向け準備が進んでいく鎮守府。準備といっても私は現状が最高の状態。心身ともに充実している。人間嫌いなんて今は関係ない。

戦いに参加する12人が工廠に集まり、装備の最後の調整に入っている。金の『種子』組は、艤装自体は体調に寄るものなのでそこまで仕事はない。皐月さんは深海艦娘故に艦娘と同じように調整が必要ではあるが、私や霞は殆どやることが無いほど。ヨルが島風さんの連装砲ちゃんと戯れ合うくらいであった。

 

「おう、朝潮、ちょいええか」

 

龍驤さん筆頭に空母組が私のところへ。この時点でおおよそ何がしたいのかはわかった。

 

「艦載機ですか?」

「さすが、話が早いわ。うちらに2つずつ預けてくれへんか」

 

艦載機の数は現在24機。3人に2つずつ、合計6機を貸し出しても、残る数はまだ変化前よりも多いほどだ。

 

「はい、問題ありません。ですけど、蒼龍さんもですか?」

「そうそう。龍ちゃんや雲龍とはちょっと違う使い方になるんだけどね。この時のために、他の深海艦娘の子達から借りて特訓してたんだよ」

 

私から借りるのは、混ぜ物が近くにいても動かせる深海の艦載機だからである。皐月さんから借りてもいいのだが、艦載機を足場に使う戦術は手持ちの6つを全て使って初めて成立するように鍛え上げたものだ。よって使い勝手がまるで違う。ならば私が貸し出した方がいい。

 

「ちょっと待っててくださいね。その場で艦載機が出せなくなってしまったので」

 

工廠に面する海に艤装を展開し、小型の方から艦載機を6機発艦。3人の手のひらの上に2機ずつ着艦した。

 

「ホンマ、いつ見ても不思議やな。うちらが使えば深海艦娘と同じように扱えるし」

「本当ね……私と龍驤は同じ使い方が出来て良かったわ」

「だから言うても式神全部作らせたんは許さへんからな」

 

さすが互換性のある発艦システム。全部龍驤さんに任せても雲龍さんの戦力アップ。見た目は龍驤さんの方が小さくても、完全に雲龍さんの保護者。雲龍さんが割とボーッとしてることが多いのでそれに拍車をかける。

 

「ほんじゃ、借りるわ。今度こそ終わりにしたる」

「そだね。私も鳳翔さんと戦うのは終わりにしたいよ」

 

龍驤さんは事前に準備がしてあるようなので、すぐにでも式神に加工。蒼龍さんはこの艦載機を矢にする必要があるので、明石さんの下へと向かっていった。雲龍さんはというと、マイペースに龍驤さんの方へ。戦いの前の緊張が全くないように見えた。それが雲龍さんのいいところだろう。

 

加工自体は午前中で終了。あとは実戦で使うのみ。皆、他の深海艦娘から借りて訓練を続けてきたようなので、本番でもその力を遺憾無く発揮してくれるだろう。

 

 

 

昼食後、いよいよ出撃の時。午後ではあるが、いつになるかはわからない。ギリギリまで防衛を行い、日が暮れたら撤収という方向になった。夜に艦載機を飛ばすことは出来ない。私が預けた艦載機のみでは押し潰されてしまうだろう。もし夜に来るようなら、メンバーを代えざるを得ない。

たが、それも普通にありそうな話だった。相手は来てほしくないタイミングで来ることが多い。深夜、お昼を回った直後、早朝と面倒な時間帯ばかりだ。なので、襲撃は夕方、日が暮れるギリギリなのではないかと思っている。

 

「御姉様が戻られる場所は、我々が守らせていただきます」

「背中のことは気にせず! アゲアゲで行ってきてください!」

 

妹達に背中を押される。鎮守府の防衛は全て任せるつもりだ。もしこちらで抑えきれない量の敵が流れ込んだとしても気にしない。頼もしい仲間達が背後を守ってくれている。なんと心強い。

 

改めて連合艦隊を確認。

第一艦隊、旗艦は龍驤さん。随伴が蒼龍さん、雲龍さん、響さん、吹雪さん、天龍さん。空母には空母をぶつけ、対空にも気を使った空母機動部隊。制空権の確保を主任務とするが、当然本体も狙っていく。

第二艦隊、旗艦は私、朝潮。随伴が高雄さん、皐月さん、島風さん、イクサさん、霞。弱点と言える弱点のない空母鳳姫に一矢報いることが出来るものを集めた、空母鳳姫対策チーム。

 

「うち、実は旗艦初めてやねん。最古参やのに」

「あ、そうなんですか。でも確かに、旗艦はやりづらい欠陥(バグ)ですもんね」

「せやから、割と気合い入っとるんよ」

 

響さんの運用する大発動艇に乗り込む龍驤さんと蒼龍さん。ここからは3人が一蓮托生。2人の安全は響さんが守り、響さんの安全は2人が守る。

 

「っしゃ、ほんなら行こか」

「ですね。連合艦隊旗艦、お願いします」

「任せとき」

 

大発動艇を少し前に。気合いを入れて、皆を鼓舞するように。

 

「第一艦隊旗艦、龍驤! 空母機動艦隊、出撃するで!」

「第二艦隊旗艦、朝潮。出撃します。行きましょう!」

 

ここに戻ってくるときは、勝利の報告を。ポーラさんではないが、皆で勝利の美酒を味わおうではないか。

 

「これで敵が来やへんかったら笑いもんやな。ほな、響頼むで」

「しまらねぇなぁ」

 

そんな出撃もいいだろう。いい具合に緊張も抜け、全力を出せるというものだ。

 

 

 

鎮守府を出てしばらく進み、所定位置に到着。以前の防衛線のように陸上型の陣地を移動させておくなどはしていない。セキさんの陣地は漂流物やら資源やらが載っているので移動させづらく、私の陣地はそもそもあの場所にあるからこそ意味があるものだ。そのため、周りに何もない海の真ん中での待機となる。

 

「鎮守府の気配も感じなくなりました。かなり離れましたね」

「ここでの戦闘なら鎮守府に影響あらへんっちゅーことやな」

 

各々自由に、だがすぐに戦闘態勢に移行できるように待機。

 

「緊張感が無いわね貴女達」

「いつ来るかわからない敵をずっと緊張しながら待つなんて出来ませんよ。先に疲れてしまったら意味がないですし」

 

呆れ顔のイクサさんだが、私達はこういう戦いを一度経験しているからこそ、この心構えが出来ている。島風さんは何も言わずともここの空気がわかっているのかのんびり。自分を取り戻してからずっと私達の鎮守府にいたため、しっかり染まっていた。

 

「ギリギリまではまったりですよ。イクサさん、お茶でも飲みます?」

「そんなものまで完備してるわけ?」

「どうせ待つと思ったので」

 

大発動艇に積んでおいた水筒からお茶を出す。イクサさんも諦めたか、素直に受け取った。

 

「あら美味しい」

「山城姉様手製の紅茶です。冷めても美味しい」

「あの子も多芸ねぇ。この前、お昼ご飯作ってたけど」

「それは皆やれますよ。私だって出来ますし。あ、榛名さん手製のお菓子もありますけど食べます?」

「至れり尽くせりね」

 

お茶を飲みながら世間話で時間を潰す。島風さんと皐月さんに至っては、大発動艇の中でお昼寝を始めてしまった。艤装を装備しているのに器用なものだ。雲龍さんも座り込んで船を漕いでいた。

 

『ヨル、お前も休んでおけよ』

『だいじょーぶ。ご主人が艤装出さないでくれてるから!』

『それなら良し。朝潮、私達もここでゆっくりさせてもらう』

「ええ。私は起きてるけど、そちらが寝られるなら寝ててもいいわ」

『ああ、そうさせてもらう』

 

アサとヨルにもいっぱい働いてもらうことになるだろう。休めるときに休んでおくべきだ。

 

この状態で1時間以上。防衛線だというのにゆっくりとした時間。天龍さんも大発動艇にもたれかかりうつらうつらとし始めている。おやつ時も超え、夕暮れが近付いてきたというところで、何かの反応が電探の端に入った。私と響さんが同時に空を見上げる。

 

「姉さん、どうしたの?」

「反応が入った。何か来たわ」

 

明らかに鳥と違うものがこちらを見ていることに気付いた。私の電探に反応が入ったので気にはなったが、やはり。響さんも私と同じように気付いたようだ。

 

「先生、見られてるね」

「ですね。敵の艦載機が上空にあります。電探で感知しました」

 

眠そうだった皆も目を覚まし、一斉に上を見る。かなり上空だが、視認出来る位置に黒い影が見える。ここにいる全員が確認出来た。

 

「なんだありゃ。偵察機か?」

「深海の彩雲ってとこじゃないかな。こんなとこまで飛ばしてるんだね」

 

撃ち落とすことは難しそうだったためスルー。あちらからも攻撃してこないのでスルーしても問題ない。むしろこちらがここにいることが伝わった。それならば、割と早くこちらに来てくれるかもしれない。

 

「さて、いつ来る」

「私の予想ではもう少し日が暮れてからです。空母組を封じるために」

「うわ、ありそう。いっつも嫌らしい時間に来てたもんね」

 

実際そうされると厳しい。あちらは冷静に厄介な時間を選択するはずだ。不利なのはこちらのまま。今攻め込まれても、時間をかけて攻め込まれても、圧倒的不利なのは確かだ。あちらが慢心して今攻め込んでくれたらまだ勝ち目があるのだが、そんなことはない。偵察機は周囲を飛んだまま。

 

「ずっと見られてるねー」

「帰らないか見てんじゃないの?」

 

お昼寝から目覚めた後も、大発動艇で寝そべって偵察機を眺めている島風さんと皐月さん。帰らないならどうしてくるつもりなのだろう。

 

「龍驤さん、こちらも偵察機を飛ばしましょうか」

「せやな。せめて何処におるかくらいは知っときたいわ」

 

龍驤さんが偵察機を飛ばし、偵察を開始。上空で偵察機同士がかち合うが、お互いに攻撃の手段が無いようで、そのままお互いが別方向へと飛んでいく。これであちらの出方も多少はわかるか。

 

「彩雲から受信。東で敵部隊を見つけたみたいやな」

「このまま来てたら……ああ、ゆっくり来てたら日没ですか」

「やっぱり嫌らしい時間じゃん。ここに来ておいてよかったね」

 

防衛線に来ておいてよかった。今から敵の部隊の方へ向かえば、まだ比較的日が高い内に会敵可能だろう。私達は迎え撃つために先へと進んだ。

 

 

 

龍驤さんの偵察機からの連絡を頼りに海上を進むと、混ぜ物の気配を端に感じた。同時に金の『種子』組の瞳が金色に輝き始める。つまり、あちらにもこちらの気配が気付かれたということだ。そもそも偵察機でバレているのだからもう変わらない。

 

「入りました。そのまま進めば会敵です。随伴艦多数。混ぜ物が他にいない代わりに、物量で押し潰そうとしてきたみたいですね」

 

北での北端上陸姫との戦いを思い出す。無尽蔵に現れるイロハ級の中、ボス格である何者かを倒さなくてはいけないという状況。今まではあちらも混ぜ物の二人一組(ツーマンセル)が出来ていたので、そこまで考えてはいなかったのだろうが、あちらもそうは言っていられなくなったようだ。1強の誰かと、それを補佐する多数の雑多兵が、こちらに押し寄せてくる。

 

「敵艦載機、発艦しました。対空準備!」

「っし、吹雪、対空行くぞ!」

「了解です!」

 

2人が高角砲をスタンバイ。空母組も艦載機の発艦を準備した。

敵の方向からやってくるのは、以前にも見たイナゴの群れのような艦載機の数。こちらの部隊に対して絨毯爆撃を仕掛けてきた。鎮守府ですら3階全損というほどの被害を受けたのに、生身であれを受けるのは厳しすぎる。イクサさんも三式弾を準備し、対空に専念する。

 

「っしゃあ、行くぞオラァ!」

「対空、行きます!」

 

天龍さんの号令と共に、一斉に対空砲火開始。ブーストによる三式弾の威力で、群れのど真ん中を削り取る。残りを2分割されたことにより、天龍さんと吹雪さんで二手に分かれて艦載機を撃ち墜とし始めた。

敵の艦載機も相当な熟練度だ。だが、この2人には関係なかった。特に吹雪さん。以前見たとき、夜の襲撃の時よりもさらに洗練された防空性能により、まるで潜水艦を相手にした潮さんの如く、淡々と艦載機を撃ち墜としていった。

爆撃は意に介さず、射撃自体はさせることもなく、確実に処理。自分の低速化欠陥(バグ)を視野に入れた移動法で、誰もが無傷。

 

「吹雪凄いわね……いつの間にあそこまで」

「すごーい! どんどん艦載機が無くなってく!」

 

真っ黒に染められたような空が晴れていく。数発の爆撃はあったものの、結果的に被害は無し。

その処理をする内に、敵部隊と会敵した。真ん中に空母鳳姫。その後ろに空母棲姫3体、空母水鬼3体。先程の空爆はこの7人で一斉に放ってきたのだろう。その周りには人形が何人も。駆逐艦だけではなく、他の艦種の人形まで揃えられている。

その中に1人、見慣れない深海棲艦がいた。深くフードを被った蛾のような姫級。身体の両隣に巨大な高射砲のようなものを装備しているので、防空棲姫の何かか。

 

「あいつは……防空埋護姫ね」

「初耳です。防空……ですか」

「徹底的にこちらを、というかリュウジョウを封じるつもりだったってことでしょ。一方的に嬲り殺すつもりで」

 

防空棲姫の上位版とも言えるものらしい。あちらは報酬艦の建造方法を押さえているため、何者かの艦の魂が使われているのかもしれない。

 

「……まさかそちらから来るとは思っていませんでしたよ」

「たまにゃこっちから仕掛けさせてもらうわ。日和ってばっかじゃ勝てるもんも勝てへんからな」

 

司令官の予想はまたもや正解。敵の意表を突くことが出来たようだ。

龍驤さんと空母鳳姫が睨み合う。戦いの中心にいるのはこの2人だ。冷たい空気が流れる。

 

「ふざけた挨拶してくれたやんけ」

「押し潰されなかったことは褒めてあげますよ」

「そりゃどうも。……今回で終わりにしようや」

 

深海組も艤装を展開。私は尻尾だけを展開。

敵の量は相当だ。普通の連合艦隊とは違う。空母鳳姫を省いたとしても、姫級が7体。攻撃班はまず随伴をある程度処理しなくては本体が狙えない。

 

「朝潮、そっちの部隊で随伴片付けられるか」

「なんとかします。空母隊で空母鳳姫を引き付けてください。ある程度処理が終わり次第合流します」

「それで頼むわ。でも島風だけ貸してくれ」

「了解。5人でやります。そちらも耐えてください」

「おう、何ならうちがヤツをぶちのめしてやるわ」

 

今の私の力なら、随伴をなぎ倒すことは可能だ。皆の力を借り、早急に合流しなくては話にならない。

 

「っしゃあ! ほな行くでぇ!」

 

龍驤さんの咆哮が、開戦の合図だった。




防空埋護姫は勿論、涼月を元に作られています。スリガオ海峡の時の報酬艦ですね。
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