欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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本来の意思は

鎮守府から離れた海上。空母鳳姫との決戦。私、朝潮は連合艦隊の第二艦隊旗艦として出撃していた。第一艦隊に空母鳳姫とその随伴、防空埋護姫を食い止めてもらい、こちらはこちらで他の随伴艦を処理した。

空母棲姫と空母水鬼3体ずつはアサとイクサさんが全て撃破し、その他の人形も皆で一掃。戦いが進むごとに皐月さんの感情が消えていくのはいたたまれなかった。それも狙いなのではと思えるほどに残酷な姿の敵である。

 

空母鳳姫は吹雪さんの猛攻により第2段階に移行。深海日棲姫の艤装を展開し、水上機の発艦と雷撃が追加された。雷撃は龍驤さんと蒼龍さんの足を失わせる天敵。その生命線となる響さんと、防空の要として活躍している吹雪さんが魚雷処理にまで手を伸ばしてどうにか均衡。

防空埋護姫も対空母戦術以外に雷撃を開始しており、完全に防戦一方。天龍さんも近付くことが出来ず、島風さんは空母鳳姫の提督の力のストッパーとして、スピードは出しているものの攻勢に出られない。

 

「霞! 高雄さん!」

 

人形処理が終了し、フリーになった魚雷担当に指示を飛ばす、深海日棲姫の艤装を出している第2段階は魚雷が効きやすくなるのは既にわかっていること。

 

「もうやらせませんよ。こちらに2度も見せてますよね」

「こっちのセリフだっての!」

 

再びその場から消えた。島風さんが同時に動き出す。スピード勝負は島風さんに任せ切るしかない。私達では到底追い付けず、ブーストがかかっていても見ることすら出来ない。未来を見たところで覆され、わかったとしても私が追いつけない。動き回るせいで照準も合わせられないようだ。

ターゲットは高雄さんだった。それを島風さんがどうにか食い止めるものの、今はそれしか出来ないのも事実。雷撃を掻い潜っての防御にならざるを得なく、タイミングが悪いと移動先に魚雷があるという大惨事。島風さんが脚をやられたら、私達は空母鳳姫に蹂躙されることがほぼ確定する。

 

「……小賢しい」

 

提督の力の行使により、自分が放った魚雷を追い抜いて突っ込んでくる。艦娘蹂躙用の力故に、自分の力すら上回る行動。だからこそ消耗が激しいはずだ。

それでも今回は提督の力の行使が多い。前回は4回行使した時点で汗だくになっていたが、今回はもう何度も使っているはずなのに涼しい顔をしている。あちらもパワーアップしているのか。

 

「うちら無視して何やっとんねん!」

「貴女に手を割く理由が無いからです。こちらの方が優先順位が高いんですよ」

 

甲板が主砲に変化。同時に艦載機が消滅。吹雪さんの仕事が減ったことはいいことだが、それと同時に防空埋護姫の動きも変化。そもそもが3人分の艦載機を次々と撃ち墜とすために防空一辺倒だったが、高射砲が大発動艇の方を向く。

それは仕方ないことだった。あまりに艦載機が墜とされすぎて、式神と矢がもう半分以下にまで少なくなっていたからだ。こちらは持久戦も視野に入れているため、ここからは節約していかなくては最後まで保たない。

 

「響、スマン!」

「大丈夫。場所は把握出来てる」

 

ここからは防空の必要がないと判断したのだろう。直接攻撃に打って出てきた。響さんの行動予測と視野の広さで回避は出来ているが、魚雷の処理と同時にやらされているため、消耗が激しい。

空母鳳姫も主砲軸に切り替えており、それでも深海日棲姫の艤装の効果で水上機は飛ばしてくるという厄介な状況。減っただけで無くなったわけではない吹雪さんの仕事。

 

「魚雷は減らんのに砲撃追加かい!」

「艦載機無くなったんで、水上機処理を徹底します!」

「任せたで吹雪ぃ!」

 

吹雪さんがたった1人で水上機処理。おかげで私達は空を気にしないで戦える。

 

まだ雲龍さんは私の託した艦載機を飛ばしたままだ。あれだけはそう簡単には墜ちない。さらには龍驤さんも私の艦載機を発艦。防空埋護姫の対空砲火を避けての攻撃をしているが、少しは掠めるものの致命打にはならない。むしろこちらへの猛攻で、逆に攻撃出来なくなってしまう。

 

「朝潮! まずあっちやってくれぇ!」

「了解しました。アサ!」

『任せろぉ!』

 

中枢棲姫の艤装が海上を駆け回り、防空埋護姫に一直線に向かっていく。当然ながら質量はこちらの方が上。体当たりでもそれなりのダメージを与えられるはずだ。

 

「……!」

 

思ったより素早い。アサの体当たりも紙一重で避け、すれ違いざまに一撃入れてくる。こちらの方が頑丈ではあるものの、今までとは違う火力に、その巨体も揺らいだ。一筋縄では行かないとは思っていたが、あちらもそれなりに大きな艤装を扱っているのに、それなりの回避能力があるとは。

 

『くっそ、避けやがった』

「ダメージは」

『まだ大丈夫だ。だが人形なんか比べ物にならんぞ』

 

即座にUターン。その時、アサの後ろに皐月さんがぶら下がっているのが見えた。隙を見て白兵戦を仕掛けるつもりなのだろう。あの揺れでもしっかりしがみついている。

今は空母鳳姫よりも防空埋護姫の撃破を優先するため、先程の随伴処理の時のように部隊を2分割。空母鳳姫には龍驤さん、響さん、霞、高雄さん、吹雪さん、島風さんの6人で耐えてもらう。残りの私、蒼龍さん、雲龍さん、天龍さん、皐月さん、イクサさんの6人で防空埋護姫の撃破を狙う。こちらに向かう魚雷は私が艦載機で破壊に専念。

 

ただの姫だと思っていたが、やけに反応がいい。対空母に特化した性能だとは思っていたが、単純に戦闘能力が高い。天龍さんの攻撃すら避け、合間を縫って砲撃を放ってくる辺り、相当強力な敵だ。その状態でも蒼龍さんと雲龍さんの艦載機を牽制し続けている。

 

「矢が当たらないでしょ。天龍が近付けてないでしょ。朝潮のアレも避けたでしょ。これ打つ手あんの?」

「そういう時に私がいるんでしょ。任せなさいよ」

 

ここで前に立つのがイクサさん。一撃必殺の頭部大型主砲ではなく、小回りの利く腕部主砲での砲撃で少しずつ追い込みをかける。1人で戦っているわけではないため、無言でのアサとの連携に。

 

『あいつ、追い込んでくれてるな!』

「ええ、うまく背中の皐月さんを連れて行って!」

『おう! ……は? サツキがしがみついてるのか!?』

 

驚きながらも海上を駆け抜け、防空埋護姫の避けられない方に向かっての突進。これなら避けようがないはずだ。避けてもイクサさんの腕部主砲の連射に巻き込まれる。イクサさんの腕部主砲は当然戦艦主砲だ。直撃したらいくら姫級でもひとたまりもないはずだ。

だが、その砲撃を艤装で弾くかの如く身体を回転させ、アサを避けながらも砲弾の直撃を防いだ。同時に高射砲からの砲撃でまたアサにダメージ。何度か同じところに当てられたことで、装甲が1枚剥がれた。

 

「行けぇ!」

 

そのタイミングで皐月さんがアサから飛び降りた。砲撃が終わった直後、反動で連射も出来ない。イクサさんの砲撃を弾くために体勢も崩れている。その隙を狙い、一撃首狙い。

それすらも回避された。そもそも高射砲が邪魔であり、それでも必殺狙いの一撃だったが、その場でしゃがみ込まれ、首は落とせず。代わりにフードは斬ることが出来たようで、素顔が露わに。

今まではフードに隠れて見えなかったが、私にはその顔から、深海棲艦とは思えなかった。髪は真っ白で瞳は金色だが、最初から深海棲艦として作られたように何故か見えない。まるで、()()()()()()()()()()違和感。

 

「背中に深海忌雷が寄生してる!」

 

攻撃後の皐月さんの発言。ということは、深海棲艦として建造されたわけではなく、艦娘として建造され、深海忌雷を寄生後に防空埋護姫らしく改造されたということだろう。違和感の正体はそれか。

頭ではなく背中に寄生されているということは、考える力を奪うことなく、最初から空母鳳姫の側近にするべく作られたと見てもいい。

 

それならば、まだどうにか出来るチャンスがある。深海忌雷除去後、中和剤を打ち込むことで何かしらの反応があるかもしれない。それでもダメそうなら……またその時に考える。

そもそも、深海忌雷を埋め込む必要があるということは、元は正しい艦娘だったということだ。治療は出来るはず。

 

「天龍さん! 作戦変更! 救出です!」

「おう、艤装と忌雷をぶっ壊してやる! 皐月! 背中狙え!」

「了解! 天さん艤装やって!」

 

今までに背中に深海忌雷が寄生していてどうにかなった例はある。私だってそうだし、島風さんだってそうだ。質は違うかもしれないが、やれるべきことはやりたい。

防空埋護姫は撃破せずに対処する。そのためには、背中に寄生している深海忌雷を破壊すれば多少は変わる。私の時のように、艤装そのものが『種子』の供給機構である可能性はあるため、そちらも破壊。生身は無傷で深海の要素のみを壊してしまえば、治療出来る可能性がある。

 

「イクサさん、皆の援護を。でも直撃は避けてください」

「貴女達、アレを救うつもり?」

「はい。頭に寄生しているわけではないのなら、やれることはやります」

 

その間に皐月さんと天龍さんが艤装破壊を目的とした攻撃を繰り出していた。魚雷は私が確実に処理し、道を開く。アサも強引に切り込んでいき、艤装がボロボロになろうとも突進をやめない。

 

「蒼龍さん、もう少しだけ艦載機をお願いします」

「皐月と天龍に攻撃出来る暇をあげるんだね。了解!」

「私もこっちで援護するわ」

 

蒼龍さんは節約していた艦載機をまた発艦してくれる。雲龍さんは私の艦載機を嗾ける。イクサさんも牽制攻撃。以前に天龍さんが軽巡岬姫相手にやった3人以上の同時攻撃。深海棲艦だとしても、手足は2本ずつ。艤装が大きすぎて防御も単調になるはず。

それが見事に的中した。艦載機の処理のために高射砲をそちらに向け、天龍さんの一撃は回避に走った。イクサさんの牽制も当たらない方向に回避。そのおかげで移動方向は単調となり、皐月さんの攻撃が通る。背中に貼り付いているためスレスレを真一文字に横薙ぎにし、肌を傷つけることなく、深海忌雷のみを斬る。

 

「っし! 通った!」

 

防空埋護姫の目が変わった気がした。まるで、鎖を外された深海艦娘のように、ほんの一瞬だけ正気に戻ったかのような反応。その時、口が小さく動いた。私にはその言葉が理解出来た。

 

 

 

「タ ス ケ テ」

 

 

 

防空埋護姫には心が残っている。だが、艤装側からの『種子』が流し込まれたか、また目が元に戻る。行けたと思った隙を突かれ、全方位に高射砲による砲撃と魚雷をばら撒いた。必死に回避行動を取り傷が付くことは無かったが、そのせいで間合いが大きく開いてしまった。

 

「防空埋護姫は助けられます! 一瞬正気に戻りました!」

「マジか! なら後は艤装ぶっ壊せばいいんだな!」

「ひとまずは! 破壊した後、中和です!」

 

簡単に出来れば苦労はしないだろう。しかしやれるのならここでやらねば。

 

一方、対空母鳳姫の場。嫌でも人数を減らさなくてはいけなくなり、苦戦を強いられることになる。それでも、吹雪さんの健闘が功を奏し、被害は未だに無い状態。吹雪さんと響さんの消耗が気になるところだが、あちらはスロースターターのようで、まだ均衡が保たれている。

 

「いい加減、往生際が悪いのでは?」

「すまんなぁ、それがうちらのやり方やねん」

 

龍驤さんが煽りつつ、霞と高雄さんが手動操作魚雷による攻撃。それでも避けてくる辺り、あの実力は滅茶苦茶過ぎる。

 

「チッ……ホント当たらないわね……」

「雷撃も減らない……」

 

常に大発動艇を一番に行動している響さん。明らかに疲労の色が見え始めていた。大発動艇の上にいる空母隊が、相手をする深海棲艦をわけてしまっていたのが失敗だった。どちらともの位置取りを考慮しつつ、魚雷も処理し、自分の身を守り続けるのは、長く続ければ続けるほどに精神をすり潰す。

 

「霞、貴女、行動予想出来たわよね」

「そんなの全開でやってるわよ! ブーストかかってんのに当たんないんだから!」

 

もう何度目かがわからない提督の力の行使。当然島風さんも一緒に動き出す。

 

「いい加減にしてもらいたいですね」

「こっちのセリフだって言ってるでしょ!」

 

あちらは提督の力の連続行使。こちらはそれを常に食い止める。ブーストがかかっているからこそ追い付けているのはわかるが、あちらは精度がさらに上がっている。汗ばんできているようにも見えるが、まだあちらは本気では無い。

動きが止められればまだ魚雷を当てるチャンスが来るだろう。私達が防空埋護姫を押し留めていることで、龍驤さんが艦載機を使う時間は出来ている。それを使えばまだ行けるはずだ。制空権争いをする水上機は吹雪さんが全て墜とし、空母鳳姫からの砲撃は響さんが回避させている。

 

「ここや!」

 

島風さんが空母鳳姫を止めた瞬間を見計らい、龍驤さんが操る私の艦載機が突撃。当然ながら狙いは必殺のヘッドショット。

 

「小賢しい!」

 

移動しようとした瞬間に、足下に連装砲ちゃん。超高速で動くであろう提督の力の行使でも、空間から空間をジャンプしているわけではない。足下に何かがあれば、それを避けて移動しなくてはいけないだろう。

不意に現れたことで、ほんの僅かでも考える時間を作った。その一瞬が命取り。

 

「ここ!」

 

高雄さんの魚雷が足下で爆発。連装砲ちゃんを巻き込んでしまったようにも見えたが、寸前で島風さんが艤装を消していたおかげで被害は空母鳳姫のみに。

爆発により空母鳳姫が少し浮いた。そこへ艦載機による射撃と爆撃。このままであれば回避不能。

 

「撃て撃て撃てぇ!」

 

島風さんは退避済み。霞もそこに向けて魚雷を撃ち込み続ける。

 

「魚雷が消えた……?」

「水上機も消えました!」

「あの艤装に連動しとるんやったら、最後の段階や」

 

吹雪さんと響さんが処理し続けていた魚雷と水上機が消える。それは深海日棲姫の艤装をやめたということに他ならない。つまり

 

「もう終わりにしましょう」

 

深海鶴棲姫の艤装の展開により、空母鳳姫自体の質量が大きくなる。ここからは魚雷が効きづらくなり、本体へのダメージが通りやすくなる。そのためにここにいる皐月さんが、今はこちらで防空埋護姫の救出中だ。あちらには途端に荷が重くなった。

 

「ここまで無傷でこれたことは褒めて差し上げます。ですが、もう終わりです。1人ずつ、確実に、息の根を止めてあげますよ」

「んな簡単に行く思うとるんやったら、アホなんやろなぁ!」

 

戦いは最終局面へ。撃破と救出の並行作業。早く合流しなくては押し潰される可能性もある。なるべく早く、しかし慎重に。ベストな状況を掴みとらなくてはいけない。

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