欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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見えてきた勝機

涼月さんが配属した日、鎮守府の復旧も完了。大部屋での生活も終わり、皆が私室に戻っていく。涼月さんも私室を与えられ、この鎮守府での居場所が作られた。夜は島風さんが一緒に寝ると豪語していた。孤独を嫌い、必ず誰かと一緒に眠る島風さんだからこそ許された行為。涼月さんも、同類相手だからかそれを咎めることはしない。

その涼月さんは、佐久間さんと面と向かったことで何か変わったかといえばそんなことはない。まだ1日目だ。ゆっくり腰を据えて付き合っていくのがいいだろう。急ぐことはない。ここで生活していれば、きっと人間嫌いも緩和されるはずだ。

決して治せとは言えない。深海の、黒の本質として完全に混ざり合ってしまっているのだから、それが今の涼月さんを作り上げているものなのだ。無理に治そうとしたらバランスを崩してしまうかもしれない。今は着実に進めていくことの方が大事である。

 

「姉さんはちゃんと治しましょ。本質とは違うんだから」

 

霞に念を押された。私もそれなりに重い後遺症に苛まれている。涼月さんにも普通に言ってしまったが、今の私は涼月さんのことをとやかく言えないくらいの人間嫌いだ。信用出来る人間以外は顔も合わせたくない。

前までの自分を知っているからこそ、治したい後遺症である。今後、他の人間と顔を合わせる機会もあるだろう。その時に何かやらかしてからでは困る。

 

「そうね……今はゆっくり向き合っていくことにするわ。焦りは禁物だと思うもの」

「それがいいわね。焦ったらまずいことになるでしょ」

 

失敗したら取り返しのつかないことになる可能性がある後遺症。なるべく気をつけて、慎重に。誰にも迷惑をかけないように。まずは、基本的に人間と関わり合いにならない方向で行こう。任せられる仲間は、それこそ沢山いるのだから。

 

 

 

翌日から、戦艦天姫との戦いに向けて準備を始める。今は朝の全員会議。ここ最近こういうこともまともに出来ていなかったため、現状をおさらいしがてら、次の戦いのことについて話す。

 

前回の空母鳳姫の時と違い、戦艦天姫の襲撃のタイミングは掴めない。気まぐれに来ているようにしか思えないからだ。そのため、今日襲撃されるかもしれないし、あちらが防衛に入って襲撃は無いかもしれない。それならば、緊張感に支配されるよりも、準備が出来るまで時間を有意義に使おうという事になった。

敵鎮守府の様子は、今も南司令官と川内さんが調査してくれている。襲撃のタイミングがわかれば、こちらに連絡してもらうよう手配済みだ。つまり、連絡が来るまでは戦闘はないということだ。

 

「連絡が来るまでは、皆、いつも通りに過ごしてほしい。変に気負わないこと。作戦はしっかり構想中だ」

 

敵鎮守府が本土に接していること、そして、大本営に近いこともあり、こちらからの襲撃は危険だ。出来れば襲撃を事前に知り、鎮守府に近づく前に押さえる。もしくは何らかの形で誘き出す方針で行きたい。

北端上陸姫は鎮守府内を陣取るだろうが、そちらは最後まで放置でももういい。とにかく最後の砦が大きすぎる。あれを対処しない限り、私達に勝ちは無い。

 

「皆は強い。あの強敵も、必ず討ち倒してくれるだろう。……私が海上に立つことが出来れば良かったのだが」

「久しぶりねそれ。今回はそれだけ強敵ってことかしらね」

 

山城姉様の言う通り、このセリフも久しぶりに聞いた。出られるものなら是非とも出ていただきたいのだが、それは叶わぬ夢。だから私達が頑張るのだ。司令官の愛娘であり伴侶である私達が。勿論勝つ。最善の状態で最高の勝利を司令官に届けよう。皆やる気は漲っている。

特に、ついに出番が回ってきたと清霜さんが一番張り切っている。フンスフンスと鼻息荒く、既にやる気が外に溢れるほどになっているほどだ。

 

「清霜君。ついにこの時が来たよ」

「うん! 戦艦の人達に教わったこと、全部ぶつけるんだから!」

 

元帥閣下の大和型から訓練してもらい、イクサさんのような深海の戦艦からも教えを請い、ここで出来ることを全てやり、毎日尽力してきた。全てはこの時のため。名誉大和型として、大和型をベースとした戦艦天姫を倒すため。この努力は決して無駄にならない。

 

「と、ここで1つ発表しなくてはいけないね。セキ君、話してくれ」

「ああ」

 

会議の場でセキさんが前に出るというのはとても珍しい。むしろ初めてのことだ。

 

「明石と共に、涼月から摘出した生成装置の解析が完了した。あのシステムと、朝潮の『種子』も組み合わせることで、おそらくだが深海艤装の過負荷は克服出来る」

 

つまり、今まではどうしてもここで待機していなくてはいけなかった深海艤装組が、全員出撃可能になったということだ。セキさんの言葉で、一斉に歓声が上がる。自分の名前は出たが意味がわからない涼月さんはビクンと震えるだけだった。

金の『種子』によるブーストは無いが、艤装が使えるようになるだけでも充分だった。搦め手も使えるし、数的優位を強引に勝ち取りに行くことも可能。戦術が一気に拡がる。

 

「MVPは睦月だ。睦月の閃きで解析が一気に進んだ。褒めてやってくれ。褒められて伸びるタイプらしいからな」

「褒めるがよいぞー!」

 

それはもう揉みくちゃにされていた。筆頭は妹である皐月さん。

なんでも、生成装置と深海艦娘に植え付けられていた小型艤装の共通点を睦月さんが指摘したことから解析が進んだらしい。それを体内ではなく艤装内だけで回す方法も。工廠組にしかわからない会話なのだろうが、それにより戦況はより良い方向に進んだのだから、睦月さんはヒーローである。

 

「昨日、朝潮から摘出した『種子』で、全員分賄えることは確認している。あとは簡易装置の量産と組み込みだけだ。余程のことがない限り、2日程度で完了するだろう」

 

たったそれだけの時間で量産出来るとは。一度作れてしまえば、簡単に量産出来るようなものなのだろうか。工廠組は本当に別世界である。

 

「あと、金の『種子』も1つだけ出来たよ」

「なら大潮にお願いします! 立候補させてください!」

 

佐久間さんに被るくらいの勢いで大潮が立候補。霞に続き、春風と初霜にも埋め込まれたことで、自分も欲しくなったのだろうか。ずっと燻っていたのが爆発したようだ。他に立候補者も出なかったので、最後の金の『種子』は大潮が埋め込むこととなる。

 

「以上のことから、こちらから挑む場合は早くても3日先だ。それまでは各自、研鑽に努めること。いつも通りで充分だよ」

「かぁーっ、提督の期待が重ぇなぁ!」

 

言いながらも笑顔の天龍さん。言葉とは裏腹に、重みなど一切感じていない。気の持ち方がより一層勝利に近付けただろう。

 

「……ここの人達は元気ですね」

 

ボソリと涼月さんが呟く。まだこの雰囲気には慣れていないだろうが、大丈夫。そのうち嫌でも慣れる。すぐにこの鎮守府の一員として板についてくる。

人間である司令官と佐久間さんがいる全員会議は不参加かと思ったが、律儀に参加してくれた辺り、やはり涼月さんはいい人。人間嫌いも治らないものでは無いだろう。やはり時間が解決してくれるはずだ。

 

「次の戦いは総力戦だ。敵は1人かもしれないが、こちらは全員を出すくらいに考えている。皆がベストの状態で挑めるように、私も尽力させてもらうよ」

 

総力戦。今までにない大規模な作戦。ここに配属された50余名全員が出撃するという前代未聞の戦場だ。部隊選定など必要ないほどだ。どういう順で攻め込むか、それを考えるだけ。

それほどまでに敵は強大。そこまでやらなくてはいけないほどに勝ちが薄い戦場。それでも、今の私達は負ける気がしないでいた。

 

 

 

朝会議終了後、各々持ち場に戻る。工廠組は今から大忙しだ。何より、誰も手伝えないというのが大きい。私には応援しか出来なかった。

各自演習や訓練、哨戒任務に向かう中、私はというと早速大潮に金の『種子』を埋め込むためにいろいろと準備していた。私が霞に施術したことから、埋め込むのは姉妹艦がやるのが暗黙の了解となっている。

だが今回は少し違い、瑞穂さんも同席。瑞穂さんに一番懐いている大潮だからこそ、傍にいてもらうことを望んだようだ。小型艤装を破壊した時もそうだが、大潮への施術は2人がかりになることが基本のようである。

 

「何処にする?」

「霞は背中なんですよね。じゃあ、大潮も背中にします。瑞穂さん、胸を貸してもらっていいですか?」

「声を抑えるためですね。かしこまりました」

 

小型艤装を破壊したときのように、角が刺さらないように瑞穂さんの胸に顔を押さえつけ、声が漏れないようにした。初霜のやらかしを知っているからこそ、最初から対策を取った。多分、大潮は声が抑えられない。やらかす。

手早く背中に小さな傷をつけて、『種子』をあてがう。これももう4度目。こなれたものではあるものの、反応を見るのはどうしても慣れない。

 

「じゃあ、頑張って」

 

『種子』が大潮の中に潜り込んだ瞬間、やはり大潮のものとは思えない嬌声。私からは少し見づらいが、表情すら見たことのないものだった。今まで会ってきた妹達の中では比較的幼いイメージの大潮だが、今だけは朝潮型の次女であると認識させてくれる。正直、霞より()()()()

 

「ひっ……ひっ……」

「落ち着かれるまでこのままで大丈夫です。余程の快楽なのでしょう。どうぞ瑞穂の胸で抑えていただければ」

「ありがとう、ございます」

「っ……」

 

瑞穂さんの反応からして、大潮の潤んだ瞳での上目遣いにドキドキしてしまったのだと思う。霞も同じことをしたので、そういうところはやはり姉妹だなと感じた。私も同じことが起きたら同じように振舞ってしまいそうだ。

 

「ふへぇ……治まりましたぁ……瑞穂さん、ありがとうございます」

「いえ、問題ありません。よくぞ耐えられました」

 

瑞穂さんの顔も少し赤い。妙な雰囲気になってしまうのがこの施術の厄介なところ。

 

「これでお姉さんと並んで戦えますね」

「……気にしてた?」

「少しだけ。みんなに置いていかれてるような気がしたのは確かです」

 

いつも明るい天真爛漫な性格の大潮にも、悩みはあるものだ。霞が洗脳された時に支えになってくれると言ってくれていたが、ここ最近はアサとヨルがいることで相談することも少なくなっていた。戦闘面でもそうだ。過負荷のせいで戦場に出られず、燻る日々が続いていたのだろう。

それが今、力を得たことで私に並び立てるようになった。心の底から喜んでいるのが見て取れる。次の戦いは、一緒に戦える。

 

「でも、大潮はお姉さんの1つ下の妹! 謂わば、お姉さんの側近中の側近です! 大潮に任せてください!」

「側近だなんて思ってはいないけど、よろしく大潮。私達とは違うオールラウンダーだもの。頼らせてもらうわね」

「はい! アゲアゲで行きましょう!」

 

いつになくやる気に満ち溢れている。空回りもしなそうに安定。目が燃えているようだった。春風のように炎が灯っているわけではないが。

 

「瑞穂も粉骨砕身の覚悟でお手伝いいたします。次の戦場は瑞穂にとっても聖戦と言えるでしょう。お役に立ちますので、是非ともお使いください」

「はい、勿論。私達朝潮型にはいてもらわなくてはいけない存在ですから。勝って必ず生きて帰りましょう。死んだら許しませんよ」

 

もう瑞穂さんも名誉朝潮型と言えるほどに深い繋がりを持った人だ。一緒に練習巡洋艦姉妹として活動していたくらいなのだから、もう切っても切れない仲であると断言できる。またお姉様なんて呼んでくれたら嬉しいものだ。

 

「無論です。瑞穂は全ての朝潮型に仕える者。死はより深い罪であると心得ております。お側を侍らせていただくことが無類の幸福です。それを死などという低俗なもので手放すなどとんでもない。瑞穂は死ぬことなく、一生を朝潮様のお側で終えることを誓いましょう。瑞穂の命は、常に朝潮様の手のひらに握られているのです。朝潮様が死ねと命令しない限り、瑞穂は死ぬことはございません」

 

命を握っている実感は無いが、私と共に生きてくれると言ってくれたのは素直に嬉しい。

 

「瑞穂さん、大潮もですよ!」

「はい、大潮様とも共に生きます。アゲアゲ、ですよね?」

「そうです! みんなでアゲアゲでいきましょう!」

 

どんな強大な敵が相手でも、死ぬつもりなんて毛頭無い。皆で討ち倒し、生きて次の日を迎えるのだ。

 

やる気は充分過ぎるほどある。この有り余る力を戦艦天姫にぶつけ、これで本当に最後としたい。次の戦闘で、ほぼ全てを終わりとしたいものだ。

 




大潮のそういう姿というのはちょっと想像しづらく。
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