欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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陣地にて

決戦への準備を進める鎮守府。工廠組の活躍で深海艤装への過負荷を取り除けることが確約されたことで、戦力外通告は無くなった。また、1つだけ出来た最後の金の『種子』も大潮に埋め込まれ、戦力もアップ。今から数日間は、普段通りに生活して英気を養いつつ、自分を高めていくことになる。

 

私、朝潮は基本的に以前のように訓練担当となるのだが、陸上型深海棲艦として自分の陣地に戻りたいというのもあった。領海の島を正真正銘自分のモノとしたことで、以前よりも愛着が湧いている。今の私はあの場所でも回復出来るため、出来ることなら行きたい。陸上型となったことで帰郷本能とでもいうべき感情が生まれている。

司令官に哨戒も兼ねて陣地に行きたいと交渉したところ、快く了承してくれた。心身共に十全な状態に持って行こうと思うと、そういった息抜きも必要であると理解してくれる。ただし、1つだけ任務を追加された。

 

「お母さん、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

 

その任務というのが、雪風さんの初陣。こんな時ではあるが、本当に緊急時は、自分の身を守るためにも戦える術を知っておいた方がいい。今回は哨戒任務ではあるが、万が一敵が現れた時のことを考えて、当然雪風さんも武器を装備している。

 

「今日も私と雪が随伴だから、雪風は大船に乗った気持ちでいていいよ!」

「うん、わたしも装備積み直したから、いざという時は戦えるからね」

「島風ちゃん、雪ちゃん、よろしくお願いします!」

 

随伴は領海に行く時には比較的多い島風さんと雪さん。今回は雪さんの保護者である叢雲さんは別件で参加出来ず。私に保護者の権利を託してくれた。雪さんに何かあったら私が酷い目に遭わされるため、少し慎重に。

佐久間さんの薬によって雪さんも体調不良に陥ることが無くなったので、装備を積み直した。今度の総力戦、力を借りることもあるかもしれない。あの当時の力は当然失われているものの、戦力としては充分である。

 

2人が随伴になった理由はもう一つあった。

 

「私もお付き合いします」

「はい、問題ありません。深海の身体なら、あの場所は落ち着くと思いますよ」

 

涼月さんが便乗するからである。緊急時に相乗効果で癒しを提供する。

口には出していないが、出来ることなら人間のいる場所から身を離したいと考えてのことだろう。破壊衝動に駆られないだけマシではあるが、やはり人間嫌いは根深い。時間をかけて、ゆっくりと進めて行こう。観察だけは続けているようだし、今はそこまでの心配はないはずだ。

 

 

 

領海、私の陣地に到着。いつ来てもこの風景は変わらず、私が近寄っただけで海が赤く染まっていく。主の帰還を待っていたかのようだった。

 

『やっぱり前よりも馴染む感じだな』

「そうね。鎮守府より落ち着くように思えちゃう」

『お前の身体の一部のようなものだからだろう。思考の海なのに私も落ち着けるんだからな』

 

浜辺で艤装展開。巨大なアサと尻尾のヨルを展開すると、より一層解放されたかのような気分。自然とアサにもたれかかる形に。

ここを自分のモノとしたとき、皆に完全に中枢棲姫だと言われたが、今のこの姿が中枢棲姫そのものらしい。艤装にもたれかかり、水平線をただ見つめるだけでボーッとしているのみ。とても落ち着く。ヨルですら、浜辺に身を委ねてピクリともしない。

 

『ここ好きー。ずっとここにいたくなっちゃう』

『だな。でも鎮守府の連中を放っておくわけにもいかない』

『うん。みんなと一緒にいるのも好きー』

 

後付けとはいえヨルももう私の一部。この場所は落ち着ける場所になっているようだ。ジッとしているだけで心身ともに回復しているように思える。いるだけで心地いい。やはり自分の陣地は良い。領海としてここに癒されに来ていた時よりも、深く休まる気がする。

 

皆がアサにもたれかかってうつらうつらしていた。一応哨戒任務という名目ではあるのだが、ただ単にここでのんびりする意味合いの方が強い。深海の身体である島風さんと雪さんは勿論のこと、元深海棲艦であるだけで今は艦娘の雪風さんですら、ここののんびりとした空気に和んでいる。

ただし、涼月さんだけは浜辺にすら上がることなくこちらを見ていた。こんなのんびりしていること自体が信じられないようだ。

 

「こんなことしていていいんでしょうか。哨戒任務なんですよね」

「いいんですよ。ここに来た目的は、これをするためです。哨戒は名目上で、私の陣地を私の色により染め上げるべく、ここに滞在しているんですから」

 

その証拠に、島はもちろんのこと、海にも私の力がどんどん流れ込んで行き、前以上に赤く染まっていた。意識していないのに領海は増えていく。そして、増えれば増えるほど心が落ち着いていくのがわかった。侵略してまで領海を増やそうなどとは思わないが、勝手に拡がってしまうものは仕方ない。

 

「ささ、涼月さんも上がってください」

「は、はぁ、失礼します」

 

おずおずと浜辺へ。

 

「ずっと緊張していると疲れるでしょう。ここには人間はいませんから、寛いでください」

 

人間が足を踏み入れていたら、涼月さん以前に普通に私が怒っている。この島には、気を許した者以外は上げるつもりはない。

 

「ここなら誰にも邪魔されずに落ち着けますからね」

「そうですね……来てよかったかもしれません」

 

島に上がったことで気分が落ち着いたか、他の人と同じようにアサにもたれかかる。心身共に癒しの場として成立させるためには、アサの存在が必要なのかもしれない。ただ座っているよりも癒される気がする。

 

「たまに来る予定なので、毎回便乗しますか?」

「よろしくお願いします。ここが唯一の心休まる場所なので」

 

鎮守府にいるだけでストレスが溜まると言っているようなものだ。

口には出さないが顔にはとても出ている涼月さん。やはり人間と同じ空間にいるのいうのがストレスになっている。まだ2日目。簡単に払拭なんて出来るわけがない。

 

「ところで教えてもらいたいことがあるんですが」

「はい、なんでしょう」

「雪風さんの言う、お母さんとは」

 

すごく説明しづらい。雪風さんの経緯をある程度話さなくてはいけないのが難しいところ。それに関しては雪風さんがいないところでゆっくりと話すことにしよう。余計なことをして雪風さんの記憶が戻ったりしたら辛い。

 

「その話題はこの場ではやめておきます。少し話しづらい内容なので」

「そうですか。普通の関係では無さそうですし……」

「ちょっと難しい関係なんです」

 

今までのことを話しておいた方がいいかもしれない。この場にいるメンバーでは私が最古参になる。一番新人の涼月さんに、今までどんな戦いをしてきたかは教えてもいいだろう。それでも余計なことは言わないように。

昨日のセキさんの話は鎮守府がどういうものかを説明したに過ぎない。鎮守府の歴史に関してはここで私が話そう。

 

「代わりに他の話をしましょうか。少しでも鎮守府に慣れられるように昔話でも。今までいろいろありましたからね」

 

これで少しでも涼月さんが鎮守府を好きになってくれれば、人間嫌いの払拭も早くなるだろう。私達の鎮守府に、涼月さんが嫌うようなところはない。人間という存在が嫌だというのなら、それは払拭できることだ。私が出来ているのだから、涼月さんだって出来る。

 

 

 

時間にして小一時間、涼月さんに昔話をいろいろと話をした。最初は普通だと思っていたような内容だったかもしれないが、二転三転する私の運命にハラハラしていた。こういう話術は得意な方では無いというか初めてだったのだが、楽しんでくれるのなら何より。

 

「その……いろいろありすぎじゃないですか」

「私もそう思います。楽しい人生ですけどね」

 

笑って言える。私は楽しい人生を謳歌できている。そして、これからも謳歌する。辛いことや悲しいことはあったが、それもちゃんと乗り越えられている。

 

「私もそういう人生を送ることが出来るでしょうか。楽しい人生と、自信を持って言えるような」

「出来ますよ、私達の鎮守府に居れば。ただ、こんな波乱に満ちた人生は望まないほうがいいです」

「あ、あはは……」

 

さすがに苦笑。自分では笑って話せるが、他人に同じ道を歩めとは絶対に言えない。身体を変えられて、頭の中を弄られて。私だって、駆逐艦朝潮として過ごしたいかと言われれば、迷わずYesと答える。でも、今までのことを捨ててと言われれば絶対に選ばない。

 

「涼月さんはまだ生まれたばかりですから。最初に一波乱ありましたが、これからは大丈夫ですよ。普通とは少し違う身体ですが、何も問題はありません」

「……そうですね。私が普通の涼月でないことは私自身でもわかっています。それでも受け入れてくれる皆さんは、心が広いですね」

「前例が沢山ありますからね。私もですし、深海艦娘の皆さんもそうです。司令官が全員を受け入れてくれるので、皆がそういう気持ちでやっています」

 

やはり人間(司令官)の話題になると顔を顰める。あまり振らないようにしようとは思っているが、この手の話になるとどうしても司令官のことを言わないと話が続かない。それくらい私達の根幹に存在する人なのだ。

 

「……私を受け入れてくれたことは感謝します。治療してくれたのも感謝します。ですが、今はそれだけです」

「感謝しているのならそれでいいですよ。無理しなくて大丈夫です。ただ……」

 

少しだけ真剣に。

 

「いくら嫌いだからといっても、手をあげるようなことはしないでくださいね。()()()()()()()

 

それだけは話しておかなくてはいけない。

まず私達で司令官をどうこうすることは不可能だ。洗脳されているときに殺そうとして、なすすべもなく私が屈服させられたため、私は身体でそれを理解している。

ただ、攻撃をしようとした時点で山城姉様に制圧される。そこからは命の保証が出来なくなる。私でも止められない。あと多分私も制圧に参加する。動けなくなるまで叩き潰すだろう。

 

「……いくら私でもそこまではしません。嫌いだからといって、壊す理由がないです」

 

私の気持ちは伝わってくれたか、嫌悪感より恐怖が勝ったように思える。私もそんなくだらないことで仲間を成敗したくない。

 

「抑えられるなら問題ありません。ダメそうなら無理に抑えますが」

「大丈夫です。観察だけはさせてもらいますが、襲うことはしませんよ」

 

諍いを起こさないでくれるなら、人間は嫌いでも、司令官や佐久間さんに関してはそのうち嫌いでは無くなるはずだ。急がず騒がず、遠目に眺める。無理に干渉もしない。

 

「今はそれでいいですよ。変にストレスを溜めないようにしてくださいね。私、ストレスで倒れた挙句、記憶障害になったこともあるので」

「……本当に何でもやってますね」

「そうですね。ここでやれる被害は全部被ってますね」

 

自慢にもならない。

 

「正直、尊敬してしまいます。私と同じ人間嫌いなのに、あの人間相手に明るく振る舞えるのが」

「私は後天性ですから。涼月さんとは重さが違います。いいんですよ。自分のペースで。今は治したいとも思わないでしょうけど、あそこにいれば勝手に治りますから大丈夫です」

 

この辺りで話を止めないと、余計なストレスになるだろう。今後は少しくらい話すかもしれないが、なるべく振らないようにしよう。それが涼月さんの特性、今の涼月さんを作っている要素でもあるのだから。

だから今は話を変える。もっと明るい話題に。

 

「そうそう、ここから南に行くと陸の鎮守府があるんですが、そこに照月さんが所属してますよ」

「照月姉さんが?」

「しかも、元深海棲艦です。防空棲姫だったと聞いてます」

 

一転表情が変わる。姉がおり、しかも自分と似たようなものであると聞けば、元気も出るだろう。

 

「いつか会いに行ってみたいですね」

「そうですね。私も久しぶりにお邪魔したいです。実は私が髪を結んでいるリボン、そこの鎮守府の人に借りてるものなんですよ。私が使い古してしまっているので、結果的に貰っちゃっているようなものなんですけどね」

 

ここからは楽しい話題で盛り上がった。涼月さんの知らない、私達の所属するところ以外の鎮守府の話題が多かった。この時には涼月さんも笑顔を見せてくれるように。

陣地の上というのもあり、回復効果は出ているだろう。その状態で人間の話題さえ出さなければ、涼月さんも優しく笑顔が綺麗な人だ。

 

ここに来たのなら、癒されなくてはならない。他の3人のように幸せそうに眠るも良し。涼月さんのようにお喋りでストレス解消をするも良し。

この島には持ち主が決めたルール、癒される義務がある。今はこの島の上にいる涼月さんも、当然その対象だ。最後には心身共に癒されて帰ってもらわなければ。そのためには、私は努力を惜しまない。

 

刻々と近付く戦いの前に陣地で癒されたことにより、良い結果に向かっているだろう。

 




朝潮が歴史を語る側になったというお話。あまりにも波瀾万丈すぎる人生に、涼月も苦笑い。
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