欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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3人での戦い

近況報告のために浦城鎮守府にお邪魔させてもらっている私、朝潮。浦城司令官への報告も終わり、現在は私の息抜きも兼ねた演習中。初戦、私との特訓を望んだ葛城さんを一蹴したことで、それを見ていた神通さんに火がついてしまった。即座にやってきて演習希望を出してくる。

受けない理由はないが、神通さんに因縁があるのは私ではなくアサだ。私も全て回避し続けるということはやったが、それは事実上の勝利であって、明確な勝利ではない。アサは神通さんに勝っているのだから、リベンジを受ける理由がある。

 

ウズウズしていたアサと交代。アサ自身もやりたがっていた。

 

「私が相手するぞ。お前の因縁は朝潮じゃなくて私にあるだろう」

「アサさんでしたね。ええ、貴女ともう一度やりたかった」

 

あれから時間が経っているので、神通さんもより伸びているのだろうと思うと恐ろしい。だが、楽しみでもあった。

 

「そういえば、ここで私が表に出るのって初めてだったか?」

「そうですね。私達は援軍に行った時に面識がありますが、ここでは初めてでしょう」

 

首をゴキゴキ鳴らしながらストレッチをするアサ。この身体での白兵戦は、アサも初めてである。私も大型艤装のコントロールは初めて。使うとは限らないが、少し緊張する。

 

『ご主人、初めてだけど大丈夫?』

『多分大丈夫よ』

 

本気で使ってしまったら、それは演習ではなく殺し合いになりかねない。防御に出すくらいはするだろうが、嗾けることはまず無いだろう。アサが手加減出来ないのだから、私が出来るわけがない。

 

「うし、それじゃあ、やるか」

「ええ。本気でどうぞ。艤装くらいなら破壊してくれても構いません」

「私が怒られるわそんなもん」

 

容赦無く頭を狙ってくる神通さん。弾速を上げ、よりピーキーな仕様にしているのは知っているため、予測は可能。軽く動くだけで回避。

戦闘のセンスなら本能の化身であるアサの方が上だ。自衛はアサに任せる方がいい。それでも私が表に出て戦闘をするのは、私を含めた3人全員の()()()()()()からである。

 

「さすが、不意打ちでも避けますね」

「当たり前だ。そんなもん不意打ちにも入らん」

 

()を展開し、艦載機を発艦。先程の葛城さんとの演習で多少減ってしまっているが、まだまだ健在。ヨルの方は今は出さず、本体による白兵戦での迎撃をメインにしていくつもりだ。

 

『アサ、私は念のため後ろに回り込んでおきましょうか』

「ああ、頼む。逃げ道封じだけしてくれ」

 

せっかく展開されたのだから、何かしら仕事はしよう。動かしてみると割と操作は簡単な方。まるで艦載機を操作するように海上を駆けることが出来る。ある意味大発動艇を運用しているイメージ。

 

『アサ姉、私はー?』

「近付いたらさっきみたいに縛ってやれ」

『わかった!』

 

こちらのやりたいことがわかっているように、神通さんは接近を許してくれない。必殺の急所狙いと牽制の行動封じを織り交ぜてくる。こちらの行動予測を知っているからか、わざわざ視線も外して、こちらに次の行動を読ませないようにまでしていた。

 

「これでも当たりませんか」

「そう簡単にやられたらダメなんでな」

 

ただ、こちらから攻撃することもなかなか難しい。艦載機を周囲に飛ばし、爆撃と射撃を組み合わせて攻撃しているが、それも綺麗に躱されている。高角砲でもないのに、主砲で艦載機を撃ち墜としてくるのもタチが悪い。

 

「慣れてきましたよ。そちらの行動予測」

「簡単に慣れてもらっちゃ困るんだよ!」

 

ここからは予測ではなく予知へ。神通さん相手だと、本気で行かないと一気に押し込まれる。アサもすぐに考えを切り替えた。

そのタイミングで魚雷まで追加してくる。神通さんは何の改造もされていない普通の艦娘であり、装備も主砲と魚雷だけだ。簡易爆雷くらいは持っていそうだがそれだけ。なのに、艦載機は当たり前のように墜とし、こちらの動きを簡単に封じてくる。攻撃は最大の防御とはよく言ったものである。

 

「予測の精度が上がりましたね……予知ですか」

「悪いが、これは私達の専売特許なんでな。キタカミの模倣とは違うぞ」

 

砲撃の方向全てを確認し、最善の場所へ移動。視線が見えなかろうが、フェイントをかけられようが関係ない。電探の反応を追いながらの前進。もう何度か神通さんとは演習させてもらっているため、癖は把握している。

近付けば近付くほど予知の精度が必要になるが、その辺りはもう心配ない。成長と共にそこも強化され、先を視続けても頭痛どころか目眩すら起こらない。もう完璧に使いこなせている。

 

「っらぁ!」

 

一気に近付き、神通さんの主砲を蹴り飛ばそうとしたが空振り。あちらも行動を予測してきたように思える。徒手空拳でしか戦えない本体なのだから、繰り出せるのは拳か蹴り。予測されても仕方あるまい。

その一撃が大振りだったことで、アサに隙が生まれる。当然見逃されない。

 

「そこです」

「ダメだな」

 

だが、その隙はアサが生身である場合だけだ。急所となる胸に向けて放たれた弾は、咄嗟に出現したヨルによって食い止められる。展開した勢いを活かして身体を回し、弾を防ぎつつ間合いを取った。

尻尾が生えた状態で前傾姿勢。私の身体を使って戦っているにも関わらず、獣のような構え。尻尾が生えたものはこの体勢が一番戦いやすいのだろうか。確かレ級艤装を取り扱う駆逐陽姫もこの姿勢だった。

 

「ダメだ。手が抜けん」

『だからといって私が突っ込むわけにはいかないし』

 

葛城さんに言われた『演習に向いていない』という言葉を噛み締める。そういえば自分の鎮守府で演習した時は、尻尾も思い切り振っていた。相手が天龍さんだったからこそ、それでも問題無いかと思い込んでしまっていた。

なら、神通さんにもそれくらい出さないと無理か。天龍さんに勝つほどの人相手に手加減など。

 

『アサ、ヨル使っちゃいましょ。神通さんなら避けられるわ』

「おいおいマジか。つってもこのままだとジリ貧だもんな。仕方ない」

『じゃあ殺さない程度にやればいいんだよね!』

 

ヨルも俄然やる気である。殺す気でやっても一筋縄では行かなそうだが。

私も逃げ道を無くすため以外に動くことにした。体当たりはさすがにまずいが、近場で暴れるだけでもペースを崩すことが出来るだろう。

 

これぞ私達の文字通り三位一体。1つの身体を使い、3人で連携する。

 

「悪いなジンツウ、殺さないようにやるってのが無理だった」

「そうですか。なら本気を見せてもらえるんですね?」

「ある程度はな」

 

まずは私が真後ろから急襲。スレスレの位置を通過して波を起こす。少しやんちゃな特二式内火艇のようで、動かしているとなかなかに楽しい。アサが楽しむのもわかる。これなら対地攻撃にも使えるかも。

 

「こちらが動き出しましたか……!」

「直撃はさせないから安心しろ。こっちはどうなるかわからないけどな!」

 

ヨルを振り回しながらの突撃。迎撃の砲撃も、ヨルのカタパルトで全て弾いていく。深海棲艦らしい、考えなしの猛進。乱暴ではあるが、今のアサにはこれが一番合っている。私では少し出来ない攻撃方法だ。

 

「これは……危険ですね」

「避けられるだろお前なら」

 

前転しながらの叩きつけ。避けることを前提にした攻撃。ヨルを振っているのだから胴体を狙って攻撃してくるが、それは私がまたスレスレを通過することで波を起こし体勢を崩させる。ヨルもさらにスレスレを通過し、砲撃が出来ないほどの揺れに。

 

「っし、隙!」

「仕方ありません、使います」

 

もう一度武器を蹴り飛ばそうとしたが、今度は神通さんが()()()()()()()()。気付けば真後ろで主砲を構えている。

北上さんと同じように、神通さんも瑞穂さんの移動法を扱えるようになっていた。身体への負荷は異常らしく小さく呻き声が聞こえたが、その程度で私が倒せるのなら良しとしたのだろう。ならば、私の予知も使えると見ていい。

 

ただし、相手が悪い。

 

「ジンツウ、私達がどれだけその動きを見てきていると思っているんだ」

 

ヨルがその主砲を払い飛ばそうとする。私達に死角はない。真後ろならヨルが即座に対応する。

 

「視てますよ」

 

やはり予知まで使ってきた。ヨルの動きを想定して既にそこから移動し、元いた位置で砲撃をしてくる。また小さな呻き声。一朝一夕で使えてもらっては困る。

当然、それはこちらも予知をしている行動。あちらが使えるとわかった以上、次の行動を抑えるために爆雷投下。水飛沫が視界を封じる。

 

「っらぁ!」

「甘い!」

 

お互いに水飛沫など関係なしに動き出し、最終的にはアサが神通さんの首を掴み、神通さんがアサのコメカミに主砲を突き付けている状態となった。

 

「これで終わりでいいか」

「……そうですね。引き分けならまだマシでしょう」

 

勝つことは出来なかったが、負けてもいない。あの神通さんにここまで行けたのなら上々。だが次は勝ちたいところである。

 

 

 

神通さんと戦ったことで満足したアサが主導権を返してきた。思考の海でにこやかな笑顔であることがわかる。滅多に見せない笑顔はこんなところで。

 

「またいつか、演習させてください。次は勝ちますから」

「こちらこそ。そのためにも、私は死ねませんね」

「ええ、死んでもらっては困ります」

 

既にこちらへの対策を考え始めているように見える。多分大丈夫だが、また私の戦い方が変化していたらどうするつもりなのだろう。

 

「お母さん、凄かったです!」

 

演習場から戻った途端に飛びついてきた雪風さん。アサに交代していたおかげでかなり荒っぽい戦い方をしてしまっていたが、雪風さんには凄かったの一言で済むようだ。

 

「おつかれー。なんだよ神通、勝てなかったじゃんかよ」

「北上さん、もう少しオブラートに包んで……」

 

私と神通さんの演習をジッと眺めていた北上さんと、それに困った顔の大井さん。今の結果に対して冷やかされるが、以前のように即演習を挑まない辺り、神通さんが消耗しているのか余裕がないのか。北上さんを無視して休息に入っていた。

 

「まぁ神通は本調子じゃ無かったからねぇ」

「え、そうなんですか?」

「あんまり寝れてなかったんじゃないかな。ほら、あたしに突っかかってこなかったっしょ」

 

確かに。戦闘中はそこまで感じなかったが、今ではアレ。体調が悪いというよりは、単に眠そうな感じにも思える。本調子だったら、私は普通に負けていたかもしれない。今回は運が良かっただけか。

 

「何かあったんですか?」

「聞いてない? つい最近、鎮守府で怪談話が流行ったのよ」

「ああ、浦城司令官から聞きましたよ」

 

演習の前に浦城司令官から、夜の哨戒の時に素性がわからない人影を見てすぐに消えたという話を聞いている。おそらく北端上陸姫が差し向けた人形の監視だと思うが、それを知らないここの鎮守府の人達には、怪談話に発展するくらいの現象ではあるか。

そういえば、一部の艦娘がその怪談話を怖がったと言っていたが、まさか。

 

「神通ってさ、そういう話、大の苦手なんだよね」

「件の怪談話で物凄く取り乱しちゃったみたいで」

 

凄く意外。あそこまで好戦的な人が、超常現象に恐怖し、寝不足になる程とは。私達の存在自体が超常現象の塊みたいなものだというのに。特に今の私なんて怨霊みたいなものである。

 

「こらそこ、何を余計なことを言ってるんです」

「いや、神通が本調子じゃなかったって朝潮に説明してやってんだよ」

「確かに少し寝不足でしたが、この程度で調子が悪くなることはありません」

「寝不足の原因な?」

 

神通さんの表情が固まる。すごく嫌がっていることがわかる。本当に苦手なようだ。神通さんが可愛く見えてしまった。

 

「そうですよ! お化けが苦手なんです! 何か問題でも!?」

「うわ、開き直ったよコイツ」

「苦手なものの1つや2つくらいあるでしょうけど、神通さんがそういうものが苦手っていうのはちょっと想像つかなかったです」

 

教え子達も神通さんがそういうことが苦手なのは知っていた様子。特に小さな私。神通さんと同じように、怪談話が得意ではないようだった。

 

「朝潮も苦手だったよね。例の怪談話聞いた後にトイレについてきてほしいって」

「時雨さん、大きい私がいる時に余計なことを言わないでくれませんか!?」

「でも、夕立もちょっと苦手っぽい。撃って死なない敵って怖いよね」

 

さすがソロモンの悪夢。苦手な理由が物騒。

 

「敷波もちょっと怖がってなかったか?」

「怖いっていうか、不思議だとは思ったかな。長波は?」

「あたしも似たようなもんかな。不気味だとは思うけど怖くは無ぇや」

 

神通さんの教え子の中では、小さい私だけが怪談話が苦手なようだ。そういうところでも先生と意気投合した様子。今晩は一緒に寝ようと変なところで団結していた。

この場で種明かしをすべきかはわからない。人形の件は浦城司令官の口から皆に話してもらった方がいいだろう。私は部外者なのだし。

 

「ここにはお化けが出るんですか?」

「そういう噂が立ってるみたいですね。雪風さんはそういう話は苦手ですか?」

「いえ! お母さんがいれば大丈夫です!」

 

この怪談話も、実は敵の監視の目かもしれないと知れば、そういう恐怖心なんて無くなるだろう。幽霊の正体見たり枯れ尾花なんて言葉もあるし。

 

「大きい朝潮、凄かったっぽい! 今度は私と演習しよ!」

「夕立、抜け駆けは良くない。僕も相手をしてほしいね」

「大きな私! 私とも是非!」

 

さすが教え子、好戦的な部分は先生に似てしまっているようだ。まだ時間もあるだろうし、これは息抜き。それに、自分の戦術を把握する絶好のチャンスでもある。

 

「いいでしょう。受けて立ちます」

 

失言だったかもしれない。この後時間が続く限り、延々と演習をさせられた。その全てに勝つことは出来たものの、思った以上に消費させられてしまった。

 




北上と同様、今までに見た戦術を自分に取り入れていく神通。北上は天才的なセンスから。神通はたゆまぬ努力から。それでも瑞穂移動と未来予知はまだ身体と頭に負荷がかかります。使いこなせている連中がおかしいだけです。
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