欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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折れない心

朝、鎮守府を発つ私、朝潮。向かうのは志摩司令官のいる鎮守府。あちらでも、夜の海に浮かぶ人影が目撃されたからである。

その正体はおおよそ見当はついており、北端上陸姫の作った人形、艦娘の命を冒涜した改造深海棲艦である。昨晩目撃したという最上さんと古鷹さんの証言から、深海忌雷と同様に、電探には引っかからない仕様にされていると思われる。おそらく、深海の気配すら遮断しているだろう。

 

「妹の様子が見たいのは朝潮も同じだよね」

「ですね。白露さんと同じで特殊な妹ですから」

 

今回の随伴の1人、白露さんは、今は私が展開したアサの上に乗って移動中。低速化欠陥(バグ)を補うためにこうしているが、なかなか乗り心地はいいみたいだ。大型艤装に備え付けられた小型艤装が、白露さんの服の裾を噛んで落ちないように支えている状態。

あちらの鎮守府にいる私の妹、峯雲は、白露さんの妹である村雨さんと一心同体である元深海棲艦。1人の深海棲艦が2人の艦娘に分裂するという初めての事例で誕生した妹達の様子は、私達には興味深いものである。

 

「私は演習のリベンジも要求されましたので」

「さすがあそこの陽炎。また憂さ晴らしみたいにボッコボコにすんの?」

「さすがにそこまでは。アサもヨルも使わずに戦うくらいしますよ」

「つまり素手でボコりたいと」

 

そこまで私は野蛮ではない。……多分。

 

「大潮も峯雲に会いたかったので嬉しいです!」

「僕も村雨と顔を合わせたかったから嬉しいよ。発見したのも僕だしね」

 

追加で大潮と時雨さん。奇しくも朝潮型と白露型の1番艦2番艦で揃えられた。万が一の時には出力の高いメンバー。その辺りも考慮しての司令官の采配なのだと思う。

私はさておき、深海艦娘である大潮と時雨さんは既に艦娘から逸脱しており、白露さんも通常の艦娘としては割とおかしい戦力。もし人形が群れをなして出現したとしても、処理は可能だと思う。日が昇っているうちから出てくるとは思っていないが。

 

最後まで時津風さんは駄々をこねたらしいが、雪風さんの面倒を見てもらいたいのでその辺りで勘弁してもらった。今の雪風さんはいろいろ危うい。私以外にも自分の妹に目を向けてもらいたい。

 

「それにしても、お化け騒ぎ、なんなんだろうねぇ」

「北端の監視……ですかね」

「それなら何で夜だけなんだろう。昼に来てもいいじゃないか」

 

航行中は専らお化け騒ぎの件。真相解明の推理中。司令官も同じように敵の狙いを突き止めようと奮闘しているが、私達でも考えてみることに。既にそれすら娯楽の1つにされている節がある。

夜にしか来ないのはおそらく、活動している艦娘の数が違うから。浦城鎮守府や志摩鎮守府は夜間の警戒に使う艦娘の数は少ない方だろう。私達の鎮守府ですら、夜間哨戒に2〜3人。そこに今は佐久間さん防衛隊が4人加わっているのみ。陸に接している鎮守府なら1〜2人でも充分。

 

「お姉さん、気配を感じたりしませんでした?」

「夜中だから寝てたわ。さすがに寝てる時にまで気を配っていられないし」

「だから夜なのかもしれないね」

 

そもそも電探に引っかからない仕様のため、私が起きていたとしてもわからなかったと思う。未だに深海忌雷の反応を追うことは出来ないわけだし。同じ仕様の敵が出てきたら、私としてはお手上げ。

 

「もしかしてさぁ、夜に攻め込んで来ようとしてて下見とか?」

「下見は必要ないくらい夜に攻め込まれてますけど」

「いやいや、うちじゃなくて、他の鎮守府。うちのはほら、援軍が出てくるかどうかの監視とか」

 

一理ある。志摩司令官は直接襲撃を受けたが、鎮守府にではなく、こちらに向かってくる最中だ。ある程度沖に出てきたことを確認しての襲撃。

北端上陸姫は正体からして各鎮守府の状況はある程度知っているだろう。内情はわからないにしろ、立地条件くらいは。それなら少し下見するくらいで襲撃出来る。

 

「じゃあ後はなんで襲撃するか、ですね」

「僕らに関わったから報復とか?」

「その線が強そうですけど、そんな簡単なことですかね」

 

その辺りはまだ想像がつかない。何を考えて監視を置いているのか。そもそも監視なのかは、今はあの()()()にしかわからないことである。

 

 

 

志摩鎮守府に到着。事前に連絡をしてあったので、鎮守府近海に来た時点で村雨さんと峯雲の気配が外にあることに気付く。どうやらお出迎えをしてくれているようだ。今回のメンバーの中で深海の気配を持つのは私のみ。ある意味わかりやすい目印にもなっている。

少ししたら視認可能な位置へ。前に見たとおり、しっかりと手を繋いでこちらに手を振ってきた。

 

「はいはーい、こっちだよー」

「ようこそおいでくださいました」

「また変わっちゃってるんだね朝潮」

「以前よりは変わっていませんけど」

 

交互に話すのも久しぶりに聞く。村雨さんは以前から様変わりして改二。峯雲もそれに合わせて制服を変えていた。左右非対称の制服を鏡写しにし、2人1組であることを表している。

それを見た白露さん、私の艤装から下りて村雨さんの前へ。

 

「村雨、改二になってんじゃん!」

「この前ようやくね」

「2人で日々精進してます」

 

努力がひしひしと伝わってくるものである。2人1組という艦娘の中でもまずあり得ない特徴を持ってしまった2人は、人一倍努力したのだろう。練度もさる事ながら、顔付きが前と違う。この鎮守府の一員として力を振るい続けてきた、自信に満ち溢れた顔。逞しく成長したことを、姉として嬉しく思う。

 

「ささ、提督が待ってるよ」

「近況報告と聞いています。どうぞこちらへ」

 

海の上で長話も良くない。2人に連れられて志摩司令官が待つ工廠へ。そこでは仁王立ちで志摩司令官が待ち構えていた。

 

「よく来たねアンタ達。朝潮はまた少し変わったかい?」

「はい……いろいろありまして」

「アンタの体質はわかってるさ。それくらいの戦いがあったってことだろう。話を聞かせてもらおうか」

 

私はそのまま執務室へ。他の3人にはここの鎮守府の人達を相手してもらうことに。特に村雨さんと峯雲、演習がしたくてウズウズしているように見えた。前以上にここにも馴染み、すっかり好戦的に。当たり方は違うが神通さんみたいなもの。

 

執務室では陽炎さんが秘書艦として待っていた。私の姿を見て目を見開く。前回の帰り際に現状維持すると息巻いた手前、会うのに少しだけ躊躇いはあった。成長はしていないものの、腕にヒビが入っていることで異形感が増している。

 

「ちょっと朝潮、成長してないとはいえ、何なのそれ」

「それについても今から話します。近況報告のうちに入っていますから」

 

時間はあるが、陽炎さんが演習したがっているのもわかるので、近況報告は手短に。駆逐陽姫が雪風さんに浄化されたことは時津風さんから聞いていたらしいが、詳細までは聞いていなかったようだ。その辺りは少し細かく。

 

「ひとまずはわかったよ。あと敵は1体なんだね」

「はい、その残りが最悪なんですが」

「あの大和が敵だなんてね。しかも何だっけ? 戦艦仏棲姫と太平洋深海棲姫の艤装まで使うたぁね。ふざけた敵じゃないか」

 

ほんの少しだけ勝機は見え始めているが、それでも数%の誤差レベル。苦戦を強いられているのは確かである。どれだけ人数がいても、圧倒的な力により何もかもが破壊される。敵だった頃の扶桑姉様の時のような、厄災を目の前にしている感覚。

 

「勝ち目はあるのかい?」

「無くは無いです。全員が戦場に立つことが出来るようにはなったので」

「そうかい。何かあったらうちの鎮守府にも声をかけな。こいつらなら抵抗は出来るだろうさ」

 

志摩司令官に振られてビクッとするものの、持ち前の明るさで胸を張る陽炎さん。今は何よりも精神力が必要だ。折れない心が一番の武器になる。

 

「ありがとうございます。その時はまた」

「じゃあ次の話だ。あの人影のことだね」

 

近況報告もだが、こちらも重要な話。先程の報告にも入ってはいたが、人形という敵の新戦力の対処法は知っておかなくてはいけない内容である。

 

「小型でも姫級に近いってのかい」

「そうですね……私達は白兵戦か魚雷、あとは戦艦主砲程の火力でどうにかしていました。重巡主砲では容易に弾かれてしまいます」

 

そして今はそれすらも厳しいかもしれない。人形も少しずつ改造されており、強化されているのはわかっている。今のお化け騒ぎの元凶が人形だとしたら、電探にすらかからないという特性を持ってしまっている。

これまでの敵のやり口から考えられるあらゆる手段を伝えた。特に、こちらを洗脳する手段に関してはいろいろとある。その辺りは知っておいて損はない。

 

「とにかく深海忌雷は最優先で壊せってことね」

「はい。ただ、やたら硬いですので」

「私らじゃ処理も厳しいってことかぁ」

 

項垂れる陽炎さん。普通の艦娘の場合はゴリ押しが出来ないため、何かしらのテクニックが必要になるだろう。

一番手っ取り早いのは、原型を無くすこと。今まで戦ってきたものは、頭は深海忌雷のせいでやたら頑丈だったが、首は普通の艦娘。私の場合は首を握り潰すことで確実に息の根を止めている。

 

「陽炎さん達はコンビネーションが上手いですから。1体に2人や3人かけてでも、確実に処理してください。忌雷そのものは魚雷か戦艦主砲で爆破するように心がければまだ」

「それなりに技がいるってことか。なら任せてよね。アンタ達に負けてから、私らはめちゃくちゃ特訓したからさ!」

 

敗北をバネに、より研鑽を積んだようだ。やる気満々、負ける気一切無しという表情。

先程の村雨さんと峯雲もそうだったが、ここの鎮守府の艦娘は皆、自信に満ち溢れているのがいい。とても活気のある鎮守府だ。私達の鎮守府とはまた違った温かさがある。

 

「では後から成果を見せてもらいますね」

「お、余裕かぁ? 覚悟しときなよ!」

「そうそう、今の私は完全に白兵戦のスタイルになりましたからそのつもりで。人形も素手で捻り潰しています」

「近付けさせなけりゃいいんでしょ。まだ手はあるから!」

 

本当にポジティブ。見習いたいほどの精神状態。今までいろいろあって心がガタガタにされた私とはえらい違いである。憧れてしまうほどだ。

それで思い出した。この鎮守府にも怪談話に抵抗がある人がいると聞いている。

 

「そういえば、志摩司令官。昨日、お化け騒ぎを怖がっている人がいると言っていましたが」

「ん? ああ、その子の名誉のために伏せておくよ」

「そうですね。そうしておいてください」

 

恥ずかしいことを詮索するのも良くないか。

 

 

 

近況報告と今後の話も終わり、私としては仕事終了。ここからはこちらのリクエストである演習に。浦城鎮守府と似たような展開になってしまったがやむを得ない。

陽炎さんと演習場にやってくると、今も白熱した戦いを繰り広げている。白露時雨ペアで村雨峯雲ペアと演習中のようだ。さっきまでは1対1の演習もやっていたようで、大潮が身体を綺麗にしながら鬼怒さんと演習を見ていた。勝てたようだが被弾は免れなかった模様。

 

「あ、お姉さん! お話は終わったんですか?」

「ええ、今終わったところ」

 

その隣の鬼怒さんは私の姿をしげしげと眺めてきた。物珍しいものだろうが、そこまで見られると視線がくすぐったい。

 

「まーた変わってんじゃん朝潮。身体にヒビって日々大丈夫? ヒビだけに」

「痣みたいなものですから。中で点滅してるのも慣れたものです」

 

陽炎さんは妹達の元へ。私も視線を演習の方へと向ける。

 

白露さんと時雨さんも、戦い方が違うとはいえ姉妹。コンビネーションプレイはなかなかのものである。精密射撃がメインの白露さんを時雨さんが支えるタイプの連携だ。

だが、それに輪をかけて村雨さんと峯雲の連携が上手い。ずっと手を繋いだままのために的が大きくなるかと思っていたが、その課題をしっかりとクリアしている。まるで社交ダンスのようにクルクル避けながら、時には攻撃、時にはフェイント。同時に攻撃することの方が稀になっている。

 

「うわ、手強い!」

「即席のコンビだと厳しいかもしれないね」

 

ずっとこれでやってきた、というのが大きいだろう。生まれてから今まで常にコンビで行動しているからこそ、複雑な連携すらアイコンタクトもせずにやってのける。以心伝心なんてレベルではない。

 

「峯雲さん!」

「はい、村雨さん!」

 

白露さんを先にやらないといけないというのはすぐにわかったのだろう。時雨さんの援護射撃を避けながら、白露さんに集中砲火。しっかり逃げ場を無くす攻撃で、徐々に追い詰められていく。

前回の合同演習のときから、成長しすぎというくらい成長していた。自分達の特性を完全に理解し、役割分担も完璧。連携という域を超えている。おそらく当人達は、右手と左手で別のことをやる、というくらいの感覚なのだろう。

 

『すごいな、前とは大違いだ』

「そうね。完全に1()()()()()として動いてる」

『こりゃ頼もしい。努力が半端ないな』

 

アサからも太鼓判を押される。

 

「あの2人が一番努力してるからねぇ。うんうん、隊長として鬼怒も2人の成長は嬉しいもんだよ」

「鬼怒さんが引っ張っていたんですか?」

「一応鬼怒が教育係だったからね。割とハードなのもついてきちゃうから、ちょっと調子に乗っちった」

 

さすが長良型。うちの長良さんもそうだが、身体を酷使する系統の訓練はお手の物ということか。それがしっかり形になっているのだから文句も言えないだろう。

 

「うおおお! 時雨援護ぉ!」

「やってるよ。うん、手に負えない」

 

白露さんも時雨さんも行動予測は使えない。追い詰められるとジリ貧になるのは課題か。今度また教育の機会があれば、その辺りを重点的に行こう。

 

「ほぎゃあ!?」

「白露!?」

 

ついに砲撃が白露さんの胴に当たり、大破判定。ここで時間切れにもなり、あちらの判定勝利となった。

 

「くっそー! 初めて負けたー!」

「ありがとう白露姉さん。自信がついたよ」

「ありがとうございます白露さん。もっと進めそうです」

 

お互いに無傷というわけではないが、小破までも届いていないダメージなら上々。これは油断ならない相手だ。

 

「よーし、朝潮! 次はあたしらの番だよ!」

「はい、受けて立ちましょう」

 

今の戦いを見て、私にも火がついていたのかもしれない。ここの鎮守府の空気に飲まれたか、少し疼いていた。あちらがどう出るかはわからないが、楽しませてもらおうか。

 

『ご主人、ラスボス?』

『女帝だ女帝』

 

頭の中で好き勝手言って。

 




血反吐を吐くような努力の末、村雨峯雲ペアはダブルアーツをモノにし、白露時雨ペアに勝てるほどの実力に。次回はそれをも凌ぐ可能性のある陽炎戦。果たして、女帝朝潮を打ち破ることが出来るか。
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