欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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涼月の根本

怪談話が流行した2つの鎮守府に近況報告を終えた私、朝潮。その場で演習もしてきたが、それもいい息抜きとなった。アサやヨルも気分転換になったようで、精神的にも癒しとなっている。身体の疲れも小さな傷も、お風呂に入れば綺麗さっぱり。こういう時に自分の身体の便利さを痛感する。

 

私達の鎮守府では、最後の戦いに向けて準備が進められている。特に大きなものといえば、深海艤装に過負荷を克服する装置を組み込むこと。志摩鎮守府へ出向した時雨さんも、これから組み込むとのこと。大潮は金の『種子』組なので不要である。

その様子を、工廠の端で涼月さんが眺めていた。今のその作業は、セキさん主導の下、睦月さんが手伝いつつ、佐久間さんもその場にいる。装置自体を作ったのはセキさんだが、システム案は佐久間さんも口を出しているためだ。

 

「人間観察ですか?」

「……はい」

 

未だ根深い人間嫌いだが、佐久間さんだって信用に値する人間である。今はまだ近付くこともしたくないのだろうが、こうやって視界に入ることを許容することは出来始めている。

司令官より佐久間さんの方が慣れやすいとは思っていた。異性より同性の方がマシだろう。こういうところからゆっくりと歩み寄れればいい。

 

「深海の艤装に触れるだなんて、人間からしたら最も嫌悪するような内容でしょう」

「あの人はそういう人ですから。上層部にトラウマがある春風が慣れているくらいですし。深海棲艦との共存が夢って高らかに宣言出来るくらいですから」

 

初めて佐久間さんと出会ったとき、春風は扶桑姉様の陰に隠れ、まともに話すことも出来なかった。それが今では普通に談笑出来るほどに。私が話していたというのもあるが、佐久間さんの人柄的に、春風の嫌うタイプの人間ではないということに気付けたことが大きい。

涼月さんはそれとは違う位置にいるのは私にも理解出来ている。半分だけ深海棲艦で艦娘の思考の方が強めの春風とはそもそもが違う。

 

「佐久間さんは深海棲艦に助けられたそうです。そこから方針転換して、今に至るらしいですよ」

「人間を助ける深海棲艦なんて……いえ、いっぱいいますね」

「はい、ここにいれば痛感しますよね」

 

佐久間さんの夢である深海棲艦との共存が、狭い空間ではあるものの実現出来ているのがこの鎮守府だ。

 

「いい場所だとは思います。艦娘と深海棲艦が手を取り合って生活しているのは」

「戦う必要が無いのなら、協力し合う方が自分達のためですから」

「そうですね。意味のない戦いは時間の無駄ですし、疲れたくはありません」

 

薄く微笑む。艦娘と深海棲艦が手を取り合うのは許容出来ることのようだ。そこに人間が加わると、根付いてしまっている嫌悪感がふつふつと沸き立ってしまうのだろう。

 

「ここに来て3日程ですけど、どうですか」

「……居心地は悪くないです」

 

そう言ってもらえると嬉しい。

 

「ですが……やはり人間を受け入れることはまだ出来ません」

「ゆっくり行きましょう」

 

これに関しては、長々と話してもどうにか出来るものではない。涼月さん自身が自分で納得しない限り、根本的な解決にはならないだろう。またウォースパイトさんの言葉を思い出す。

 

「お茶でも飲みながら、気持ちが変わっていくのを気長に待てばいい……と私は言われました。私も後天性の人間嫌いですが、この気持ちとは気長に折り合いをつけようかと思っていますので」

 

私もまだまだ緩和されない。顔見知り以外の人間には会いたくもないと思っている。薄汚い人間を助けるなんて真っ平御免だ。自分の手で滅ぼそうとも思わないが。

今の私達がやっていることは、間接的には人間の世界を護ることに繋がっているのだろうが、身を守ることを先決にしているだけ。私自身死にたくないだけだし、司令官や佐久間さんにも死んでもらいたくない。ただそれだけ。

 

「……朝潮さんは強い心を持っていますね」

「心が強かったらこんなことにはなっていません。私は本当に弱いですよ。先日話したじゃないですか。私は心を壊されています」

 

一歩間違えば、私も涼月さんと同じように司令官すらも嫌っていたのだと思う。そうならなくて本当に良かった。多分立ち直れない。一度洗脳により司令官にすら殺意を向けてしまったが、あれは司令官のおかげで即座に治療してもらえたから後を引かずに済んでいる。

 

「ま、ゆっくり行きましょう」

「……はい」

 

と、ここでセキさんから手招きされる。

 

「涼月、お前も深海艤装だろう。装置を設置するからこちらに来てくれ」

 

万が一の時には、全員が戦闘することになる。まだ哨戒に行った程度な雪風さんや、脚部艤装不備で非戦闘艦娘として運用されている大淀さん筆頭の鎮守府待機組すらも視野に入っている。

それこそこの鎮守府に配属されたばかりの涼月さんだって例外なく対象だ。深海棲艦故に訓練の必要もない即戦力である。

 

「私はちょっと離れようかな。終わったら声かけて」

「待て佐久間。お前もここにいてもらうぞ。何かあったら私では対処出来ん」

 

涼月さんが人間嫌いであることをわかっているため、ここから立ち去ろうとした佐久間さんだったが、セキさんに引き止められてしまった。万が一何かあった時に、『種子』に関してはセキさんでは対処できない可能性がある。それを危惧して。

涼月さんがすぐに不機嫌になるのがわかった。入渠中で意識がない内ならまだしも、意識がある状態で目の前で艤装を弄られるなど、我慢出来そうにないのだろう。

 

「ならば処置は結構です」

「してもらわなくては困る。敵が近付いてきたら動かなくなるだけじゃすまん。自衛も出来ずに倒れられて、お前の防衛戦になられてもこちらが面倒なんだ。つべこべ言わずにこちらに来い」

 

強い口調ではあるが、これも涼月さんを心配してのことである。

セキさんの言う通り、今のままでは足手纏いではすまないレベルになる。命ある置物。本当に邪魔な存在に成り果てる。それだけは避けてもらいたい。

 

「……わかりました。早く終わらせてください」

 

嫌々ながらもセキさんの下へ。あくまでも佐久間さんとは目も合わせない。今回は監修をしているだけで手は一切出さないため、涼月さん的にもまだマシであると判断したか。

 

「分解した状態でしまうのだけは絶対にやめろ。いいな?」

「わかりました」

 

さすがにこういうところは素直に言うことを聞く。セキさんの言い方が迫真だったというのもある。分解した状態で消すとどうなるかは試したことなんて当然ないが、破壊された状態で消すのとはワケが違うのだろう。もしかしたら後天性の欠陥(バグ)に繋がるとかあるのかもしれない。そもそも深海艤装を分解するなんてことがおかしな話だし。

 

入渠中に涼月さんの艤装の構造を把握していたのか、分解は手早く済まされた。元々生成装置が入っていた空白の部分が露わになる。そこへセキさん作の装置を組み込む。

元にした装置が涼月さんの艤装の中に入っていたものなので、余計な手間もかからずスッポリと嵌った。

 

「簡単に説明するとだな、この装置を使って朝潮の『種子』を艤装内だけで循環させるんだ。体内に入らないように通路を使ってやる必要があるから、ここからが大工事になる」

「時間がかかる、ということですか」

「ノーヒントならな。お前の場合、入渠している間に私が確認している。何かあった時のためにな」

 

涼月さんの今の艤装のままだと私の白い『種子』が体内に入ってしまい、本末転倒になってしまう。洗脳状態が一時的に切れた時に助けを求めたというのに、今度は私が洗脳してどうする。

 

「涼月さんの艤装の中身はこうなってるんですね」

「ヨルとは違うだろう。当然私のものとも違う。だから解析には時間がかかるんだ」

 

本当に手際よく、次々と新たな配線が繋がれていく。もう何人かやっているために、さらに手際が良くなったように思えた。涼月さんの心境も推し量り、なるべく早く終わらせてあげようという気待ちが見える。

 

この作業中、佐久間さんは一切口を開かなかった。艤装の中をジッと見つめ、何事もないことを確認し続けている。少し寂しそうに見えたのは、おそらく間違いではない。

 

「見立て通り、何事もないな。よし、あとは元に戻すだけだ」

「本当に早いですね」

「そうしろと言ったのはお前だろうに」

 

ささっと元に戻していき、わずか数分で事後処理は完了。これで涼月さんも、戦艦天姫に襲撃されたとしても艤装は動く。

 

「あくまでも艤装だけだ。体調不良になることは止められない。毎朝、薬を飲むこと。いいな?」

「薬……ですか。了解いたしました。そう言えば、朝食の時に皆さんが飲んでいるのを見ますが」

「それのことだ」

 

過負荷から艤装を守る方が出来るようになったとしても、身体に影響を出ないかどうかは、見てみなくてはわからない。それなら、朝飲むだけで丸一日持つ薬で前以て対策さえしておけば、突然の襲撃にも対応出来る。

 

「人間が作ったものだから飲まないなどとは言ってくれるなよ。お前の生死に関わる問題だ」

「……1つ質問が」

 

少し真剣な顔。

 

「貴女は何故そこまで人間を信用できるのですか?」

「何を言うかと思えば」

 

こういったことを佐久間さんの目の前で尋ねるとは思っていなかった。堂々と『私はお前が嫌いだ』と宣言しているようなもの。確かに涼月さんは明確に意思を見せているし、佐久間さんにも面と向かって信用していないと言い放っている人だ。だが、何度も言葉にするのはあまり良くはない。

 

「私は友人の伝手でここにいる。その時の私は敵に居場所を追われていてな、それでも快く受け入れてくれた。この話は佐久間にもしていなかったか」

「うん、聞いてなかったね。聞くのもどうかと思ってたし」

「そういうところ真面目だよな。一度許可すると酷い触り方をしてくるくせに」

 

面目無いと舌を出す。

佐久間さんは私のこともそこまで詮索してこなかった。研究と治療のために必要最低限は聞かれたが、本当に聞かれたくないことは聞かれていない。触り方にしては本人の性格が出ていると思うが。

 

「私は助けてくれたここの鎮守府の連中に恩を返そうと思っただけだ。それに種族なんぞ関係ない。そうしたら、居心地が良くなった」

 

セキさんは深海棲艦の中でも律儀な方だと思う。佐久間さんの求める共存可能な深海棲艦として、最も理想的な人だろう。なんだかんだ言いながらも、佐久間さんと一番仲がいい深海棲艦はセキさんに思える。

 

「私はそれだけだ。ズルズルと浸っていると言われても何も言えないが、それで誰も痛みを感じていないのならそれでいいだろう」

「……私はそれが割り切れません」

「根深いのはわかっている。それに対して私は深く関わるつもりはない。艤装、もうしまっていいぞ」

 

セキさんに言われて艤装を消す。

浮かない表情のままである。少しだけでも前進出来ただろうか。不意にこの鎮守府を出て行くなんて言い出さないだろうか。

 

「まぁ、時間がかかるのは誰もがわかっていることだ。私がカウンセリングじみたことをしても意味がないと思うが、最後に1つだけ言っておこう」

 

真剣な顔で向き合う。

 

()()()()()()はやめろ」

 

頭をポンポンと撫でる。

信用に値するか観察すると言う涼月さんは、根本が根本なために、観察していても人間の悪いところを探しているようにも見えた。嫌いになる理由を見つけたいという気持ちが見え隠れしていた。自分の気持ちを肯定するためだ。

それが、ここの人間は否定する部分がない。『これだから人間は』と言いたいのに、そんなことが言えないくらいの人しかいない。見せないようにしているのではなく、何も考えずに生活してこれだ。自然に生活していれば受け入れてもらえるとわたしも思っている。

 

「お前、ここの人間が否定出来ないから戸惑ってるだけだろ。佐久間は穴が多いから見つけられそうだが、提督は無理だぞ。あいつは真の聖人君子だ」

「セキちゃん、それは無いんじゃない?」

「自覚あるだろ」

「ありまーす」

 

セキさんからの評価も高い司令官。私達の大切な人がそう言ってもらえるのは嬉しい。人間の中では好かれないタイプの人かもしれないが、私達にはセキさんの言う通り聖人君子以外の何者でも無い。

 

「自分に良くないところが無いのだったら、素直に受け入れるんだな。戸惑うのはわかる。でもな、お前も駆逐艦(こども)だろうに。そこまで考えるな。甘えておけ」

 

セキさんのこの一言で、涼月さんの考えが少しずつ変わっていく。力添えは全て終わっただろう。あとは涼月さんがどうするかだけ。

 




セキも聖人君子の一種なのでは?
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