欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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大本営襲撃

深夜、膨大な数の人形に襲撃を受けた鎮守府。夜間部隊と深海組によりその全てを対処したが、それ自体が完全に陽動作戦だった。この戦いの最中に、大本営が襲撃を受けていたのだ。

捕縛された裏切り者を奪うために毎日のように襲撃を受けていたが、それは元帥閣下が仕切る鎮守府である。そこも含めて、大本営そのものが襲撃を受けるのは前代未聞。

 

「げ、元帥閣下は!?」

「大丈夫、元気とは言いづらいが無事だよ。今からその事について皆に話しておく。すぐに会議室に集まってほしい」

 

このことを伝えるため、深夜にも関わらず全員が会議室に集められる。襲撃により全員起きていたために、早急にことに当たろうとしていた。萩風さんは司令官が運んでくれた。今は椅子で眠り、姉である時津風さんと雪風さんが隣についてくれている。

出撃組は汚れだけとって、お風呂は後回しに。こちらの方が重要という判断。

 

「最初に執務室を狙われたのは、通信を遅らせるためだった。幸いダメージは少なかったため、妖精さんにすぐに直してもらえたんだ。そうしたら、元帥閣下から連絡がすぐに来た」

 

元帥閣下が無事であることは喜ぶべきことだ。司令官も突然のことだったとはいえ、運良く無傷。敵の狙いは本当に通信設備だけだったようだ。あわよくばこちらの戦力を減らそうという魂胆。結果的に、鎮守府は少しだけ破壊されるのみで済んでいる。

その場所がピンポイントでわかっているということは、夜に皆が見かけたお化けというのは鎮守府設備の確認のために来ていたものと思われる。電探の反応と深海の気配が消されていたのもこのためか。

 

「浦城君と志摩君の鎮守府も、我々と同様に襲撃を受けている。通信設備の破壊と、膨大な量の人形だ。朝潮君が事前に対策を伝えてくれたおかげで、怪我人は出たが轟沈したものは出なかったそうだ」

 

そちらも安心。今では通信設備も回復しており、私達が戦場に出ている間に話が出来たようだ。

だが、何故襲撃を受ける必要がある。お化け騒ぎが起きたために、事前から襲撃する予定があったということになるが。

 

「我々の鎮守府は現状では最も大本営に近い位置にある鎮守府になる。その次は浦城君の、そしてその次は志摩君の鎮守府だ。救援をさせないために、こちらを襲撃したと考えられる」

 

あちらの目的は、あくまでも大本営襲撃。私達に邪魔をさせないために、足止めのためにあれほどの人形を用意してきている。

今回の敵の作戦は今までとは違う。力の入れ方が変わった。ついに切羽詰まってきたか。ある意味、こちらが敵を追い込めている事が明確にわかった。

 

「大本営はどれくらいやられたんだ? 爺さんから連絡来たんだろ?」

 

天龍さんの言葉に、司令官が少しだけ言い淀む。通信が出来たのだから、元帥閣下が無事なのはわかるが、他はどうなのか。

 

「少なくとも、元帥閣下と南君、あとはその部下の艦娘は無事だよ。怪我は負ってしまったようだがね」

「それなら安心ね」

「だが……捕縛していた裏切り者3人のうち、2人が奪われてしまった。もう1人はその戦火の中で死亡が確認されている」

 

誰がどういう状態かというのは聞かなかったが、また犠牲者が出たということで空気が一気に重くなる。()()()()()()()()()()

自分の後遺症がどれだけ重いかを痛感する。喜びはしないが、悲しくもない。他の人間に対して、一切関心が向かなかった。阿奈波さんが命を落としたと聞いて、怒りにより変化を促された自分が嘘のようだった。顔を知っているかいないかという違いはあるが、これは自分でもおかしいと思える。

 

2人が奪われたということは、おそらく即座に素材に使われるだろう。つまり、残り1人まで減らした混ぜ物が、ここに来て2人増えるということだ。毎回酷い戦いを強いられ、それもついに終わりだと思っていた矢先にこれだ。堪ったものではない。

 

「大本営と接している元帥閣下の鎮守府は、全壊とまではいかないが相当な痛手を負っている。通信設備だけは何とか回復したそうだが、工廠や居住区が破壊されてしまったらしい。怪我人もドックに入れられず困っているそうだ」

「なら一番近いここに来てもらえば? 知らない仲じゃないんだし」

「ああ、そのつもりで話をしておいた。こんな夜ではあるが、元帥閣下とドックが必要な艦娘数名がこの鎮守府に向かっている」

 

皆多かれ少なかれ怪我を負っている。海上での戦いならまだしも、建物の中での防衛戦となると勝手が違いすぎる。さらには、あちらは全て破壊するつもりで来ているのに対し、なるべく壊さずに防衛するという厳しい戦いを強いられたのだ。これは誰も責められない。

 

「大本営そのものも半壊した。多数の上層部が重傷を負ったが、命に別状は無いそうだ。医療設備そのものも破壊されてしまったことと、あったところで出来る治療は高が知れているため、近隣の施設に搬送されたらしい」

 

ここまでの大損害は、深海棲艦との戦争の中でも初めてのことだそうだ。攻撃されることはあっても、今までは対処が出来ていたが、あの戦艦天姫は常識では考えてはいけないもの。照準を定められたのなら、無傷では済まない。

 

「怪我してない上層部はどうすんだ?」

「おそらくは、他の鎮守府で大本営復旧を待つことになるだろうね」

「まさか、ここに来るなんて言いださないでしょうね」

 

山城姉様も上層部が嫌いなのか、嫌そうに話す。顔も知らない上に、司令官のやり方にケチをつけるような人間が、この鎮守府の敷居を跨ごうとするだけでも気に入らない。中には元帥閣下の息がかかり、司令官に賛同してくれている人間もいるだろうが、そうでない人間だった場合、涼月さんはともかく、私も気持ちを抑えられるかわからない。

 

「正直、それがわからないんだ。元帥閣下はなるべく避けてくれるが、今は事情が事情だからね。ただし、私にもいろいろと考えはある。君達に不快な思いは絶対にさせない」

 

ここで、大淀さんが外部からの通信を受け取ったと司令官に通達。会議室に繋ぐように指示をした。受けた相手は私達が知っている声。

 

『加藤少将、南です。ご無沙汰しています』

「無事で良かった。そちらの状況を教えてほしい」

『現在は航路の上です。僕の船と、あきつ丸の大発動艇でそちらに向かっています。ドックが必要なのは、赤城、長門、武蔵です』

 

聞き慣れない艦娘の名前が聞こえたがそれは少し置いておいて、怪我人の名前で驚かざるを得なかった。

元帥閣下の秘書艦であり、護衛艦隊のリーダーである赤城さん、ビッグ7の1人であり、連携による超火力を実現する長門さん、そして、名実共に最強の艦娘と名高い武蔵さん。その3人が大破で危険な状態だという。それだけでも、私達を萎縮させるには充分だった。

 

「了解した。ドックは準備してある。他には誰かこちらに来るかな」

『僕の川内以外は、加賀、大和、雪風です。他の艦娘達は別の提督に任せてあります。そちらと面識のある僕と艦娘が代表でそちらに向かわせてもらっています』

 

私としてはとても助かる。面識のない人間に来られるのは困る。今の口ぶりから、南司令官と元帥閣下以外の人間はいないようだ。

涼月さんは嫌悪感が見え隠れし始めている。外部からやってくる人間は、当然だが司令官と佐久間さんよりも慣れていない。面と向かったら確実に悪態をつく。

 

『すみません、もうすぐ到着します。そちらの朝潮とヴェールヌイが気付く頃かと』

「はい、南司令官の言う通り、反応を確認しました」

『連絡が遅れて申し訳ありません。一度切らせてもらいます』

 

通信が切れる。到着はあと数分というところだろう。怪我人を運ぶために私達はドックに向かうことに。

 

 

 

南司令官が運転する船と、一緒に航行していた大発動艇が工廠に到着。元帥閣下が南司令官の支えで下りてきた。少し傷が見えるが、擦り傷程度で済んでいる。おそらく武蔵さんや長門さんが守りきったのだろう。護衛艦隊の鑑である。

 

「すまん、3人をすぐに入渠させてやってくれ」

「ああ、わかっているさ! 明石君、セキ君、睦月君! 艤装を外してやるんだ!」

 

先んじて準備していた工廠組が、手早く艤装を外していく。赤城さんはそこまで大きい艤装ではないため簡単だが、武蔵さんと長門さんは戦艦故に艤装がかなり大きい。その艤装もボロボロだった。

 

「赤城さんは私が運びます。山城姉様、扶桑姉様、戦艦2人を」

「ええ。姉様、長門をお願いします」

「わかったわ……」

 

艤装が外された者から、扶桑型3姉妹でドックへ運んでいく。赤城さんは思ったより軽く、今の私ならお姫様抱っこでも余裕で持ち上げられる。

 

「朝潮……よね。赤城さんをよろしくお願いします」

「はい、すぐに運びますので!」

 

戦艦天姫と交戦してきた加賀さんも相当に消耗している。その加賀さんに見送られ、私は赤城さんをドックへと運び入れた。ここに辿り着いた時点で3人とも意識を失っていたが、今のところ命に別状はない。それでも急いで入渠させなくては危ない可能性がある。

私がドックに寝かせた後、扶桑姉様と山城姉様も戦艦2人を入渠させた。長門さんは扶桑姉様にやられたことがあるので見たことはあったが、武蔵さんがあそこまでボロボロなのは初めてである。戦艦天姫はそれほどということがよくわかる。

 

「入渠させました。あとは時間が解決してくれるかと」

「ありがとう。これで一先ずは安心だ」

 

元帥閣下もかなり疲労している。深夜なので、すぐにでも眠ってもらった方がいいだろう。話はその後の方がいい。私達も大分消耗している。先程出撃したレキに至っては、立ちながら眠りかけフラフラしているほどだ。

だが、その前にこれだけはやっておかなくてはいけないということがある。司令官もそれには気付いていた。佐久間さんに目配せしてその準備。

 

「君達も無事にここに辿り着けてよかった。だが、多かれ少なかれ怪我をしている。何があるかわからないため、例の薬を投与させてもらいたい」

 

加賀さんと大和さんがビクンと震える。今回は押さえつける人が入渠中。さりげなく扶桑姉妹が2人の後ろに立っている。

 

「はーい、お注射の時間ですよー。雪ちゃん、手伝ってね」

「はい、以前と同じようにしますね」

 

攻撃を受けているのだから、その時に『種子』を埋め込まれていてもおかしくない。今すでに洗脳状態だったら目も当てられない。

 

「……ご、後生ですから」

「加賀よ、いい加減腹をくくるんじゃな。こら大和、こっそり逃げようとするな」

 

相変わらず注射は苦手な様子。緊張感の高まる戦場での微笑ましい光景である。2人には申し訳ないが、こういったことで空気が和むのはありがたい。

結局加賀さんは山城姉様が、大和さんは扶桑姉様が押さえつけていた。雪さんの技術なら痛みなく薬が投与されるのだから、すぐに諦めてもらいたいものだ。

 

その中で1人、今までにこの鎮守府に来たことがない人の姿が。黒の学ランのような制服の女性は、目を爛々と輝かせながら工廠を見ていた。雪さんからの注射を受けるときも、とても楽しそう。

 

「ところで、そちらの方は」

「ああ、この子は皆を運んできてくれた……」

「自分、あきつ丸であります。南配下の揚陸艦であり、提督殿と川内殿の仲人を務めている者であります」

 

南司令官が連れてきた特務艦、あきつ丸さん。揚陸艦という上陸用舟艇であり、大発動艇運用に長けた特殊な艦種。私達の鎮守府でいうと、秋津洲さんが近しい存在か。名前も近しいし。

仲人ということは、2人の関係の手助けをしていたということだろうか。あきつ丸さんもまた、何かしらの忍びの術を持っているのかも。

 

「話に聞いていた加藤鎮守府にお手伝い出来たこと、誇りに思うのであります」

「手伝ってくれてありがとうあきつ丸君」

 

握手をした後、あきつ丸さんはとても喜んでいた。この鎮守府は外部でも大きな噂になっているのは私達も知っていることだが、ここまでの()()()は初めて見る。

 

「皆、今は身体を休めて欲しい。爺さん、大丈夫かい」

「老いぼれに無茶させおって……儂はもう眠いわい」

 

詳しい話は明朝ということとなり、今は身体を休めることとなった。注射の結果、誰も反応が無かったことで『種子』は埋め込まれていないということもわかったことで、さらに安心。怪我は攻撃を受けた怪我でなく、鎮守府倒壊の際に受けたものばかりだったようだ。

 

戦場に出ていた私達は眠る前にお風呂へ。近海での戦闘では今までにない戦闘時間。常に気を張っていたために心的疲労も膨大。身体以上に精神的に参ってしまった。特に十七駆の4人。お風呂でぐったり。

軽傷だった護衛艦娘の方々も一緒にお風呂に入っている。あちらの雪風さんとは北の攻略以来だ。眠いものの、積もる話があるためお風呂で交流となった。

 

「あの時と全然違いますね。それに、こっちにも雪風がいました」

「あの子のことについては、また改めてお話ししますね」

「ワケありなんですね。じゃあ深く聞かないことにします」

 

こちらの雪風さんは少し大人な考え方。むしろ、私達の仲間の雪風さんが子供っぽい。環境によっての個体差か。この雪風さんの周りには戦艦や空母など、大人の女性が多いため、心の成長が早いのかもしれない。

 

「でも、お腹に穴が空いてるのはビックリです! 霞ちゃんの背中も凄いことに」

「こっちの雪風は本当に久し振りだものね。積もる話もいろいろあるし、起きたらまた話をしましょ。これ、結構長い話になるから」

「了解です! 鎮守府は大変なことになっちゃいましたけど、みんなにまた会えたのはすごく嬉しいので!」

 

死なずにまた会えたのは私も嬉しい。皆変わりないことが何よりである。私が変わりすぎなだけ。

 

「誰も欠けていないのは上々ね。あの黒い大和相手に、よく耐えているわ」

「大和としては複雑な気分ですけどね……。自分と同じ顔の敵が好き勝手やっているのかと思うと」

 

加賀さんと大和さんも、戦艦天姫は今までに類を見ない強敵であることは理解しているようだ。仲間達が長い入渠を課せられるほどの大怪我を負ったのだから無理もない。

 

最後の戦いは始まったばかりである。ここからより地獄に向かっていくのだろうと思うと、身体が少しだけ震えた。

 




通常グラが加藤鎮守府の雪風。水着グラが元帥閣下の雪風。
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