夕暮れ時、そろそろ夕食の準備が始まるというくらいの時間で、武蔵さんと長門さんの入渠が完了。これで戦力としては全員が復帰し、装備周りも鎮守府としての決戦準備はほぼ完了。あとは川内さんと青葉さんによる海図の作成と、南司令官による敵鎮守府偵察が終われば、いよいよ最終決戦となる。
鎮守府を襲撃するというのは初めてのこと。むしろ本来なら誰もやることのない所業である。鎮守府のみならず、敵陣地以外への襲撃は人類への叛逆に等しい。深海棲艦が鎮守府を占拠するという前代未聞の事態を解決すれば、今回の戦いは本当に終了である。
「すまない、心配かけた」
「はっはっは! いやぁ、またとんでもない奴が敵になったな!」
夕食の場には2人も合流。神妙な具合の長門さんとは真逆に、あれだけの大怪我を笑い飛ばす武蔵さん。豪胆だとは思うが、危うさも感じてしまう。
「面白くなってきた。大和型の不始末は大和型が付けないとな」
「そう言って大破したんだろう。私も大破したのだから何も言えないが」
「長門は爺さんを守ってたんだ、仕方ないだろ。私はガチでやりあってアレだからな」
あの場で最優先なのは元帥閣下並びに上層部の防衛。長門さんの主任務は、敵との戦闘よりも防衛だったようだ。それで大破しているのだから、余程の苛烈な攻撃だったのだろう。
「前に見たときより酷くなっていたな。馬鹿みたいにデカイ尻尾がやたら硬かったぞ」
「武蔵さんがここで最後に見たのは、あちらの手段を何も見ていない時でしたか。一応全ての手段は割れていますので、それに対して作戦立案中というところですね」
聞いている限り、破壊工作は戦艦仏棲姫の艤装でのようだ。太平洋深海棲姫の艤装は一切使っていない。やはり消費が激しすぎるのか。
「詳しい話は私が後から聞いておこう」
「ああ。私はややこしい話は苦手だからな。長門に任せる」
戦艦のリーダーは長門さんらしい。武蔵さんはご覧の通り豪快すぎ、大和さんは性格上リーダーは苦手だそうだ。結果的には艦歴も長い長門さんが受け持つことに。さすがビッグ7、大和型も率いるほどの統率力。護衛艦隊は赤城さんリーダーで長門さんが副リーダーという具合かも。
「前に来たときより、また賑やかになっているようだな。 楽しそうで何よりだよ」
「長門さんと雪風さんは本当に久しぶりですもんね。北の拠点攻略以来ですか」
「ああ。こちらのも込みで雪風が2人になっているのも驚いた」
雪風さんはこちらの雪風さんと一緒に夕食を食べていた。2人並んでいるとややこしいということで、私の与り知らぬところで服を変えている。元帥閣下の護衛艦娘である雪風さんはそのまま。私達の鎮守府に所属している雪風さんは服を色を反転させた形にしてある。これにより、北の拠点攻略中のように黒雪風さんと白雪風さんという形で呼び分けるように。
並んでみると、白雪風さんの方がやはり少し成長しているように見える。改装しているからか、黒雪風さんが個体差で幼いのか、それは定かではない。
「あ、お母さん! 雪風も黒くしてみました! お母さんや霞ちゃん達とお揃いですね!」
「そうですね。ここの鎮守府所属ってイメージが強くなりましたね」
私の視線に気付いた黒雪風さんがこちらへ。白雪風さんも便乗。元深海棲艦であることも表している黒い服。今の雪風さんにはとても似合っている。
「お母さん、ついでに雪風のことも呼び捨てでお願いします。子供に丁寧語ってなんか変です。レキちゃんやクウちゃんと同じようにしてほしいです」
いつか来るんじゃないかと思っていたが、このタイミングか。服も変わって心機一転、決戦前の最後の扱い更新。
雪風さんを呼び捨てにするのは、実は抵抗がある。私を母と見てしまっているのは、心が壊れているからだ。それに関してはもう仕方がない。だが、それを許容してしまうと、もしかしたら出来るかもしれない修復が出来なくなってしまうかもしれないと思ったからだ。だから、私は言われるまではスタンスを変えないつもりだった。
だが、ついに望まれてしまった。チラッと霞達の方を確認。例の3人が少し考えた後、3人揃って手で丸を作った。妹ではなく娘。それに対しては皆寛容である。霞と春風からは姪、初霜からも娘の扱い。
「わかったわ。じゃあこれからは呼び捨てね。雪風」
「はい! ありがとうございます!」
なんだか新鮮。初霜をこういう扱いにした時とはまた違った気持ちである。元より元に戻る見込みはゼロに等しい。それは瑞穂さんでわかっていることだ。ならば、こういう扱いでもいいだろう。本人がそれを望み、されたことで喜んでいるのなら問題ない。
「朝潮、これは何と言えばいい」
「詳しくは明日でいいですか。結構難しい関係なので」
「わかった。深く聞かない方がいいような内容なんだな」
長門さんはうまく察してくれる。黒雪風は瞳に光が無いので、見れば壊れていることはわかる。今の言動はそこから生まれたものだとわかってもらえたようだ。これに関しては、今まで戦ってきた敵のことも説明する必要があるため、今からでは時間が足りない。ちゃんと腰を据えて話すべきだろう。
「知らない間に三児の母か。胸が熱いな」
「いやまったくだ。この武蔵の目をもってしても見抜けなんだ」
「成り行き上な部分は多いですがね。背負うものが増えれば増えるほど、私は戦いやすいみたいです」
死ねない
翌日。護衛艦娘の方々には、現在わかっている敵の現状と、ここまで来た経緯が説明された。長門さんと白雪風さんは、北の拠点攻略以来のため、それ以降の戦いのことも同時に。私の身体の変化についてもしっかりと。
その話は司令官と大淀さんがいれば可能なので、外交担当となりつつある私がいる必要はない。その間に私は別件をお願いされていた。そのお願いというのが、
「ただいまかもー! いーっぱい持ってきたよ!」
帰投する秋津洲さんの資材確認。
決戦前ということで、手に入るものは全て手に入れてきてくれていた秋津洲さん。燃料弾薬などなどは勿論のこと、食糧や生活用品まで。いざという時に籠城出来るほどである。いつもの船だけでなく、大発動艇2つに積み込まれた大量の資源を、数人で鎮守府内に運び込んでいた。
「うわ、凄いですねこの搬入帳票。こんなに分厚いの初めて見ます」
「いつもの3倍は仕入れてきたからね! これならみんな万全で戦えるかも!」
力自慢の艦娘達の手で次々と運び込まれる。やはり戦艦勢がそれの筆頭となり、私がそれをカウントしていく。整合性が取れていることの確認は重要。
「朝潮ちゃんは大丈夫かも? 身体、最後の変化だよねそれ」
「はい、おかげさまで
「それなら良かったかも! じゃあもう頼りになる主戦力だね」
私が何処に配置されるかはまだわからないが、主戦力として認識されているのは嬉しいことだ、自分でも大分力を持ってしまったとは思っているが、これを皆を守ることに活かしていきたい。
「今回は総力戦って聞いてるからね。あたしも今日からここに残るよ」
「え、そうなんですか? でも秋津洲さん、非戦闘員って」
「今回は特別。ここの秋津洲の戦い、見せてあげるからね」
なんと秋津洲さんまで戦闘要員として戦いに参加するらしい。本来の水上機母艦秋津洲とは違う戦い方になるそうだ。少し楽しみである。
「秋津洲さんだけじゃないよ」
はちさんの声。振り向くと、その姿に驚きが隠せなかった。カウントの手が一時的に止まってしまうレベル。
今のはちさんは、ゴーヤさん達と同じく指定のスクール水着姿。つまり、潜水艦としての業務を行うということだ。
「え、は、はちさん!?」
「はっちゃんも潜水艦隊に入るよ。総力戦だからね」
はちさんの
それでも出撃するということは、何か策があるのだろう。
「はっちゃん潜水艦娘なんだけど、背に腹はかえられないよね」
「それはそうですけど……思い切った決断ですね」
呼吸以外は全て潜水艦であるがゆえに、泳ぎは当然得意。つまり、人間と同じ装備をすることで、ある程度の潜水は可能になる。
そこではちさんは、人間が潜水するときに使うタンクやシュノーケルを装備。本来の潜水艦娘とは違い、潜れる時間は格段に短いものの、潜れないわけではなくなる。作戦海域までは海面を移動し、作戦開始と共に海中で活動、という流れのようだ。
「明石さんがいろいろ改良してくれて、30分潜れるようにしてくれたの。実は前々から練習してて」
「原始的かもしれませんが確実ですもんね。泳ぎ方も変わってしまいますか」
「他の子達と同じ泳ぎ方だとうまく進まなくて。だから、独自の泳法を編み出す必要はあったんだ」
機関部艤装のパワーアシストのお陰で、タンクが多少大きくなっても余裕で持ち上げることは可能。ただし、泳ぎ方自体が本来の潜水艦からかけ離れることになり兼ねない。それを克服するためにも、潜水艦娘以外の皆には内緒で、こっそり訓練していたそうだ。
潜水艦隊一同が、一丸となって取り組む決戦。はちさんもやる気満々。資料室の管理も一時的にやめてまで訓練をしているのだから、その意気込みもわかる。
「非戦闘員も、今回は戦闘員かも! みんなで頑張るかもー!」
「はい、はっちゃんも頑張ります」
本当にオールスターだ。今回に限り、非戦闘員すらいない。もしかしたら明石さんや大淀さんですら出撃するかもしれない。
「じゃあ、はっちゃんは練習に行ってきます」
それだけ言い残して、海に飛び込んだ。潜水装備も万全。反応的には他の潜水艦と同様、しっかり深くに潜っていけているようだ。
人間と同じ程度の呼吸しか出来ないということは、人間と同じように克服してしまえばいい。人間というある意味先駆者がいるのだから、いくらでも使い方はわかる。
短時間だが潜水艦と同じように海中をスイスイ泳いでいくはちさんの反応が私にも届いている。感動した。こんな形で
「すごいね、はっちゃん。
「ですね。物凄く重い
「あたしも負けてられないかもー! 戦闘中、期待しててね!」
秋津洲さんも、何かを準備しているようだ。それが何かは秘密と言っているが、資源搬入で少しだけわかってしまう。
『朝潮、気付いてるか?』
「ええ。見たことのない装備が搬入されてる」
『見たことのない妖精さんもいるよ。可愛いね!』
私達では到底扱えないような装備がいくつも搬入されていた。深読みするのはやめておくが、これが秋津洲さんの奥の手。非戦闘員の戦闘方法なのだろう。
いつもは人工島への物資輸送の根幹を担う秋津洲さんも、今回は戦闘員。意気込みが違う。
「やっぱり戦えるっていうのは嬉しいかも。秋津洲っていうのが、そもそも戦闘が得意なわけじゃない艦娘だから、殆どの鎮守府で待機要員かも」
二式大艇ちゃんの運用に特化しているため、
「提督には感謝してるかも。みんなが喜んでくれるお仕事くれたもん。あたしも楽しいし、鎮守府の役に立ってるっていうのがわかるし」
「私もすごく感謝しています。今、この鎮守府に配属された人で秋津洲さんに足を向けて寝ることが出来る人いませんよ」
「それは言い過ぎかも!」
嘘はついていない。司令官ですらそう言っているくらいなのだから間違いない。清霜さんは土下座するレベル。
「秋津洲さんはこの鎮守府が鎮守府として成立する根幹です。いつもありがとうございます」
「んふー、そうやって言われると嬉しいかも! 今だけの戦闘要員、楽しんじゃうかも!」
戦闘を楽しむ、というのは少し物騒ではあるが、いつもと違う方向で鎮守府に貢献できるというのは、それだけで嬉しいことなのだと思う。私が訓練担当をやっているときと似たような充足感か。
「はい、これで全部ですね。本当に多かったです」
「増えた人数分も賄って、5日は耐えられるくらい持ってきたからね!」
搬入作業はこれにて終了。足りないものは一切無く、むしろ少し多いほどである。これだけあれば、戦っている最中に物資不足でジリ貧なんてことは無いだろう。改めて、輸送隊のありがたみを感じる。
「総力戦なんて初めてかも。というか戦闘自体初めてかも。バックアップになるんだけど任せてね」
「はい、よろしくお願いします」
皆が決戦のために力を入れている。私もその空気に引っ張られるように、やる気が満ち溢れてきた。ここまでやっているのだ、決戦は必ず勝ちに行く。
秋津洲の戦闘方法は決戦のときまでお待ちください。