決戦当日。朝から会議室に集められる。作戦立案は終了し、それが全員に伝えられた。
今回の戦いでは無理して北端上陸姫の討伐までは行かなくてもよく、最優先は戦艦天姫の撃破。さらには新たに生まれたであろう混ぜ物の調査と撃破である。出来ることなら今日で全てを終わらせるという気概で。
戦艦天姫に全員ぶつけるということは、全員重傷を負い、そのまま鎮守府に攻め込むことが出来なくなる可能性だってある。私達の任務の最重要事項は、あくまでも『全員生きて帰る』こと。あちらがどう出てくるかはわからないが、敗戦と撤退も最初から視野に入れている。
無論、負ける気は無い。ここで終わらせるために全員行動している。だが死んだら意味がない。命大事に。
「まずは戦艦天姫を鎮守府から誘き出す。その後、鎮守府同士の中間まで移動させ、そこからが本番だ」
鎮守府同士の中間ということは、空母鳳姫を撃破した海域だろう。周囲に何もない、実力のぶつけ合いしか出来ない戦場だ。鎮守府に直接の攻撃をすると、本土にダメージが入ってしまう。復興が難しくなるのはよろしくない。だからといってこの鎮守府まで連れてくるのも違う。司令官達が命を落とす方が問題だ。
「よって、こちらは戦力を小出しにする。纏めて行っても攻撃がしづらいのはわかっているからね」
「それに、奴は時間をかければ消耗することはわかっておる。持久戦を仕掛ける方がいいじゃろ」
白兵戦組と戦艦組は同時に戦場に立つことが難しい。どうしても白兵戦組が射線を封じてしまう。そのため、戦力の小出しが作戦の中に入れられた。ただし、少数すぎると歯が立たず、大人数では戦いにくい。ここが難しいところ。
また、スタミナが他の混ぜ物よりも少ないのは何度も戦っているためにわかっている。少ないというよりは、艤装のコストが重すぎるということだろう。徐々に改良されているみたいだが、底が見えるのが早いのは変わってはいない。小出しし続けて持久戦に持ち込むことも勝ちに繋がるだろう。
「向かう順番はこちらで決めさせてもらった。ただし、朝潮君には謝らなくてはいけない」
「え、私に、ですか」
「君だけはほぼ出突っ張りになるだろう。あちらが君を狙っている以上、それを有効に使うべきと判断した」
無論、戦闘中に一時帰投することもあるだろう。小さい回復なら工廠組に任せられる。
戦艦天姫が私を狙ってくることはわかっていることだ。最初は堕として友達になるため、今は裏切られた腹癒せに。ならば私が囮になり、行動を固定化した方がいいだろう。そういう意味で出突っ張り。以前のように私の周りから殺そうとしてくるのなら、それはそれで指示がしやすくなる。
「それで皆が戦いやすくなるのなら、私が踏ん張ります」
「いつも重荷を背負わせてしまって、本当にすまない……。こんな作戦しか立てられなかった我々に責任がある」
「いえ。今回は私も因縁がありますから、逆にありがたいですよ」
ということで、私は最初から最後まで戦場に立ち続けることとなる。現場判断をするのが私の仕事。戦力としてもカウントされているが、一番重要なのは指揮である。
全員が通信設備を搭載するが、私はその全員分の通信が受け取ることが出来るようにされる。結果的に、私は囮として、司令塔として、戦力として、私は全力で駆け回ることになるだろう。
一番ハードな仕事になるが、今日の私は今まで以上にやる気が出ていた。今日で終わらせてやるという気持ちが溢れ出ている。
出撃は午後一となり、それまでは鎮守府で準備。準備といっても昨日までに全て終えているので、英気を養うのみである。私は陣地にも行っているため、英気の充填はMAXと言ってもいいほどである。
会議終了直後に、佐久間さんが大きな袋を持って会議室に入ってきた。薬の投与や検診は昨日のうちに全て終えているため、これ以上佐久間さんの仕事は無かったはずだが。
「せっかく決戦ってことだからさ、これ、どうかなって」
袋から出てきたのは白い鉢巻。なんでも、過去の戦いでは決戦の時に白い鉢巻を巻いて出撃する人が多くいたそうだ。この中にも、その経験を持つものが多数。
「レイテ以来だな……使わせてもらおう」
「気合いが入るというものだ。佐久間女史、感謝するぞ」
長門さんと武蔵さんがまず貰い、ギュッと額に巻いた。それだけでも決戦に向けた意気込みが見えるというものだ。あと普通にカッコよく見える。
それに倣って皆が巻いていく。私も1本貰い、ポニーテールがズレないようにうまく巻いた。武蔵さんの言う通り、これだけでも気合いが入る。鉢巻として巻くもの、髪を結ぶリボンの代わりにするものと身につけ方は自由。だが、身につけないものは誰もいない。
「アサ姉ちゃーん」
「姫様ー」
「お母さーん」
子供達が私の下へ鉢巻を持ってやってくる。電波を受けないようにするイヤリングを着けてあげた時のように、私が鉢巻を巻いてあげた。
「私が出来ることはここまで。あとはここで応援するだけだからね。みんな、頑張って!」
「ありがとう佐久間君。皆一丸となって決戦に臨めるよ」
司令官達も鉢巻を巻いた。言う通り、人間も艦娘も深海棲艦も一丸となってこの決戦に挑む。指輪とはまた違った一体感。思いは1つだ。
と、今度は大和さんと武蔵さんが、このタイミングを狙っていたかのように動き出した。
「清霜、お前には私と大和からもう1つ渡すものがある」
「ちょっと待っててね」
それだけ言って、武蔵さんが会議室から出ていく。大和型2人から名誉大和型にプレゼントがあるというが、決戦直前で一体何を渡すというのか。
ものの数分ではあるものの、工廠に物を取りに行った後、すぐに戻ってきた。武蔵さんが持っていたものは、黒い指ぬきグローブと、桜の花弁のヘアピン、そして桜の紋が入った金属輪。どちらも大和さんや武蔵さんが身につけるには小さい。つまり
「清霜、こいつはお前のものだ」
「名誉大和型として、戦艦天姫を倒すためにね」
清霜さんが本当に大和型として扱われるためのアイテムである。あまりのことに清霜さんは硬直してしまった。会議室、全員集まるこの場で、憧れ尊敬し慕う最強の戦艦から、妹として扱われるようになるのだ。これはもう授与式の様相。
「大和の桜のピンです。これはここに」
「この武蔵のグローブだ。使ってくれ」
「そして、大和型の象徴、桜の紋。今の清霜ちゃんには、これも持っていてほしいの」
ガッチガチに緊張する中、大和さんと武蔵さんが手早く身につけさせる。あっという間に
大和さんと同じ位置に桜のヘアピンがつけられ、今まで素手だったのがグローブをつけられ。そして一番目立つ首の金属輪。桜の紋が勇ましく輝く。
「あ、あの、あたし……本当に、大和型に……」
「嫌だったか?」
「そんなわけないです! 憧れで、ずっと夢見てて、こうなれればいいなってずっと思ってて……でも本当にこうなると実感が……」
首に着けられた金属輪に触れ、感動に震えている。何処からどう見ても大和さんと武蔵さんのものを小型化したもの。色も質も何もかもが同じ。
「清霜ちゃん、貴女はもう大和型を名乗っていいほどに研鑽を積んでいるわ。力も、心も、もう立派な戦艦よ」
「そういうことだ。私達が認めるんだから胸を張れ。お前は充分に強い。大和型を名乗れるほどにな」
大和型のベタ褒めに、ついには泣き始めてしまった清霜さん。喜びの涙なら誰も責めやしない。決戦前に最高の贈り物だ。
「あ、あたしは、大和型戦艦、清霜です!」
「そうだ、それでいい」
「これからも頑張ってね清霜ちゃん」
これでさらに士気が上がった。ここまで来たら、相手がどんな強敵であろうと負ける気がしない。特に清霜さんは、大和型としてこの漲る力を十全に使うことだろう。
そして、午後。昼食も終え、作戦が開始される。
先遣隊は私が旗艦。随伴は中間地点への撤退戦を考慮し、回避能力に優れた駆逐艦で構成される。中でも、あの場所を知り、さらには電探にギリギリ反応する夜間の潜水艦を毎日のように撃破し続けた十七駆の4人は、夜襲をしてきた人形が山ほど現れたとしても対処できる技量を持ち合わせている。今回の先遣隊にはもってこいの人材。そして最後の1人は
「私は姉さんの守護者よ。ここで出ないで誰が出るってのよ」
霞となった。金の『種子』組の中でも私との組み合わせの慣れが段違い。最初から最後まで戦艦天姫を引きつけるという過酷な任務を、霞はずっと隣で守り続けると司令官に宣言した。考えに考えたが、その熱意に負け、霞を採用。厳しくなったらすぐに交代の約束もしている。
「誘導はゴーヤ達も手伝うからね。今回ははっちゃんも参加!」
「ギリギリまで海上にいるから、出来れば守ってほしいかな」
駆逐艦のみの部隊に加え、フルメンバーとなった潜水艦隊を並行で走らせる。牽制、情報収集、囮と仕事は沢山ある。
ゴーヤさんとはちさんは海図も全て覚えてきており、また、はちさんが海中で会話が出来ないためにイクさんとしおいさんが手話まで覚えてきている。潜水艦隊の連携は抜群だ。
「先遣隊の君達が中間地点にまで誘導し、戦いが開始する。君達が出撃した後、時間差で遊撃部隊を複数個出撃させることになるからね」
「了解しました。こちらからは逐一通信させていただきます」
「頼んだ。特に中間地点に来た時、否応無しに戦場を変える必要がある場合はお願いするよ」
戦場に出たら、私も司令官と同じように現場指揮をすることになる。元は一駆逐艦だった私が大出世である。
状況次第では元より考えていた戦場、中間地点から場所を変える必要も出てくるだろう。その判断は全て私に任されていた。それはそれで緊張する役割ではある。
「朝潮、また後から」
「山城姉様……はい、お願いします」
「
既に準備を開始している遊撃部隊。最初に来る第一遊撃部隊は山城姉様が旗艦であることが決まっているようだ。これは心強い。確実に誘導しなくては。
「深海艦娘組は衛生班だ。戦場駆け回って怪我人運ぶぜぇ」
「後方支援は電達に任せてほしいのです!」
戦闘もするが、基本は戦闘補助に徹するというのが深海艦娘組。この中でも大潮と皐月さんは金の『種子』組なので戦場がメインとなるが、他のメンバーはその高スペックを活かした戦闘補助部隊となった。残った深海艦娘には
私と同じように神経をやたら使うことになる、フルタイムの部隊だ。常に作戦海域を駆け回り、時には援護、時には撤退補助。むしろ私よりも酷いことになるかもしれない。
「提督ーっ! 準備始めるかも!」
「秋津洲君、よろしく頼むよ」
「オッケー!」
秋津洲さんは、南司令官のところのあきつ丸さんと共に外で作業開始。私達の後方支援となる秘密兵器の準備が始まるらしい。このためにも海図は必須だったそうだ。これもあって、戦場が変わる場合に連絡が必要だと言われている。何をしてくれるかはまだわからないが、期待していていいらしい。ならば、お言葉に甘えよう。
「我々を先遣隊に選んでくれて感謝する」
「君達の本来の居場所なんだ。その目で見るのは辛いことかと思ったが、あの場を一番よく知るものとしてね」
「いえ、助かります。私達の鎮守府に一度戻りたかったので」
だが、十七駆には辛い戦場になる。居場所を奪われ、阿奈波さんを奪われ、その阿奈波さんが素材として使われた戦艦天姫が敵だ。さらには、それが記憶をある程度持った状態で敵対しているのだからタチが悪い。トラウマを二重三重に抉ってくるようなもの。
それでも4人は前向きだった。全てを終わらせるために力を貸してくれる。目は死んでいない。
部隊全員の準備は整った。もう後は出撃するだけ。
「では朝潮君、お願いするよ」
「はい。……必ず帰ってきます」
「当然だよ。戻ってこないなんて、私が絶対に許さない」
全員が一斉に敬礼。こちらも敬礼し、外へ向く。ここからは、激戦繰り広げられる戦場。必ずここに勝って戻る。次にこの場に立つときは、勝利の凱旋だ。
「先遣隊、旗艦朝潮! 出撃します!」
気合いは充分。鉢巻を棚引かせ、私達は鎮守府から出発した。
決戦仕様mode、出たときはすごく盛り上がりましたね。島風のグラ変更はとても良かった。今回はあの時には無かった者も白鉢巻という具合と思っていただければ。