欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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刻まれた業

最終決戦への出撃。私、朝潮を旗艦とした先遣隊は、フルメンバーとなった潜水艦隊と共に、鎮守府同士の中間地点へと辿り着いた。今回の戦いはここで執り行われる予定。そうするために、今から敵を誘き出す必要がある。それをするには私が適役だ。

 

「先遣隊旗艦朝潮です。司令官、聞こえますか」

『通信の感度は問題無いようだね』

「はい。現在、中間地点に到達。このまま進みます」

『了解した。呉々も気をつけて』

 

海図の全容はゴーヤさんとはちさんが全て覚えている。ここからはまだ潜っていないはちさんの案内で敵鎮守府に近付くことに。

 

「はちさん、大丈夫ですか?」

「問題無いよ。むしろ調子がいいくらい」

 

極々稀に海に入ることもあったようだが、基本は資料室管理に明け暮れていたはちさん。戦闘経験は殆ど無いと言っても過言では無い。

それでも潜水艦娘の(さが)があるか、海に浸かるというのはそれだけで昂揚するもののようだ。

 

「やっぱりね、潜りたいって思っちゃった。こんな形でだけど、欠陥(バグ)が少しだけ克服できたと思うと嬉しいね」

「人間と同じ手段でも、潜れるのなら良し、ですか」

「うん。やっぱりはっちゃん潜水艦なんだなって」

 

他の潜水艦娘とは違い、長時間の潜水は不可能。本来ならこの場所にも常に潜水して到着するのが潜水艦である。現に、はちさん以外の潜水艦隊は海上に顔すら出していない。こちらの状況は私とはちさんが逐一伝えている。

 

「今回が最初で最後かもしれないけど、潜水艦の仕事、全うするよ」

「よろしくお願いします。それと、任務じゃなくても潜ればいいと思いますよ」

「せっかく作ってもらったしね。息抜きに潜るくらいしようかな」

 

はちさんの顔は、何処か明るく感じた。切羽詰まったこの戦場でも、楽しめているのなら何よりだ。

 

 

 

しばらく進み、はちさんが潜水の準備を始める。潜れる時間は30分。急速潜航から、振り返ることなく全速力で鎮守府に戻ったとしても、片道持たない程度。中間地点を越えてしまえば海上でも問題は無くなる。少しだけの戦闘行為も可能。この中で一番最初に離脱するのは、まず間違いなくはちさん。

 

「そろそろ潜るね。こちらからは話せないけど、音は聞こえてるから。指示には従うから何かあったら言って」

 

シュノーケルを咥えて潜水。場所的にもそろそろ敵鎮守府の気配を感じるほどにまで来ている。海図を記憶し、海の位置まですべて把握しているからこそ先んじての動きが出来るようだ。

 

「我々にももう見覚えのある場所だ」

「うちらの領海に入っとるけぇ、気ぃ付けなあかんね」

 

磯風さんと浦風さんも場所から反応。元々の居場所に近付いている。以前に海図を作るためにやってきた領海ギリギリのところも、既に通過している。本来ならば領海侵犯。だが今は深海棲艦の領海となっているため、そんなことは関係ない。元帥閣下のお墨付きでもある。

 

「こうやって見るとなーんも変わっちゃいないんだけどねぇ」

「海も赤くありませんね。まだ隠してるんでしょうか」

「その必要無いんじゃないの? かぁーっ、訳わかんねぇ!」

 

浜風さんの言う通り、近海に来ても海が赤くなる気配がない。 赤かったら、昨日の調査結果で南司令官が何かしら話しているはずだ。

あの赤い海は領海を誇示するために海そのものを侵食している深海の力だ。あれがあるだけで扶桑姉様は進めなくなってしまうため、無いなら無いで良しとする。深くは考えないでおこう。私の予想では、人工物を自分の陣地とするためにその辺りの力を使っているのだと思う。

 

「気配を感知。混ぜ物です」

「この気持ち悪い匂い、忘れもしないわ。戦艦天姫よ」

 

私と霞はいち早く存在を察知する。距離的には、まだ鎮守府の中にいる状態。そこにもう1つ、新しい混ぜ物の気配。やはりもう建造されている。

 

「あちらも気付きました。さらに接近します」

「多分人形の気配よね……うじゃうじゃいるわ」

『姫級も大量。はっ、敵の本拠地って感じがしていいな』

 

北の拠点を攻め込んだ時以上の数。これの処理のためにも、援軍は多めに欲しい。

 

「この気配……北端上陸姫」

 

今の部隊の中で敵の姫の気配を知っているのは私のみ。私本人がここに来ているのはあちらも気付いている。

少し近付くと、電探側にも反応が現れ始めた。やはり鎮守府の中に陣取っている。戦艦天姫と謎の混ぜ物は、既に鎮守府の外に出ており、こちらに向かってきている。迎撃する態勢だ。

 

「会敵。残念ながら鎮守府までは辿り着けませんでしたね」

 

敵鎮守府を目視できる位置まで行けず、戦艦天姫と会敵。今までと同じように余裕のある笑みを浮かべ、和傘をクルクル回していた。前回の去り際にぶつけられた溢れんばかりの殺意は、何処かに行ってしまったように見える。これだけ時間が経っても、中身の子供っぽさは改善されず。むしろそのせいで、より残酷になっている節はある。

その隣、見たことのない深海棲艦。深海の匂いからして混ぜ物であることは確定。今までにない雰囲気の人だ。

 

「お久しぶりですね、アサちゃん。もしかして考え直してくれました?」

「何を馬鹿なことを。私達は、ここを攻略しに来たんですよ」

「勿体ないです。お母様はアサちゃんのこと大好きなのに」

「反吐が出ますね。私は大嫌いですよ」

 

まだ私を懐柔しようと考えているようだった。どれだけ言われても、何をされても、私があちらに傾くことはもう無いというのに。

 

「あらら、第十七駆逐隊の子たちもいるんですね。アマツ達を裏切った後、ずっとそっちにいたのは知ってましたが」

「……すまない、司令。我々のせいでそのような姿に堕ちてしまって。磯風が洗脳などされていなければ、こんなことにはならなかったろう」

 

戦艦天姫の素材にされた阿奈波さんは、磯風さん達第十七駆逐隊を率いていた研究員兼司令官。目の前で素材にされるところを見せつけられている。

 

「謝らなくてもいいですよ。貴女達の提督の力と記憶は、アマツがありがたく使わせてもらってます。ああ、アマツがその人本人なんでしたっけ。よくわかりませんが、ちゃーんと貴女達のことも覚えてますよ。むしろ感謝しています」

 

笑顔は一切崩さない。こちらに対して精神的に追い込むのが心底楽しそうだった。そういうところも北端上陸姫の愛娘として調整されているように見える。

 

「貴女達がお母様の仲間になってくれていたおかげで、アマツは生まれたんですからね。だから、お母様にお願いしたら貴女達もこちらに来れると思うんです。アサちゃんと一緒に、お母様と一緒に戦いませんか?」

 

この期に及んで、まだこちらを仲違いさせようとしてくる。私はもう揺らがないが、第十七駆逐隊はどうだ。いや、そんな心配する必要はないだろう。

 

「……はぁ、まったく。彼の記憶を持っているのなら、私達がどういう艦娘かわかっているでしょう」

「かぁーっ! 谷風さんがそんなことで揺らぐと思ってんのかい!? 馬鹿だねぇ!」

「うちらがここに立っとるのは屈するためじゃないけぇ。なぁ、磯風?」

 

一番揺らぎそうなのは磯風さんなのだろう。おそらく、阿奈波さんと一番親密だったのは磯風さんだ。

 

「彼をこの手にかけたのは、何を隠そうこの磯風だ。洗脳されていたなど言い訳にしかならん。だからこそ、我々はこの場に立っている。責任を取るためだ」

 

絶句してしまった。霞も言葉が無いようだった。

提督の力を持つものが混ぜ物の素材にされたということに、そもそも違和感を覚えていた。艦娘だろうが深海棲艦だろうが跳ね飛ばすほどの力があれば、回避など簡単だっただろう。それなのに今、戦艦天姫となり私達と相対している。何故だ。

簡単なことだった。愛する者の裏切りだ。洗脳された磯風さんに攻撃されたことで、提督の力を使う間も無く気絶させられ、そして、そのまま素材にされたのだろう。

 

磯風さんが正気に戻った時に自傷行為にまで走った理由がよくわかった。時津風さんに諌められ、その時はそれで止まっていた。今までそんな素振りも見せていなかったが、ずっとこの時まで耐えていたのだ。

折れそうな心を必死に繋ぎ止め、仲間達と一緒にここまでやってきた。こうなってしまったのは自分達のせいだと、責任を取るために。

 

「彼のためならいくらでも力を貸そう。だが、貴様は彼ではない。彼はもう死んだんだ。我々の目の前で、この磯風の手でだ。貴様は、彼の記憶を持つだけのただの化け物だ」

 

主砲を構える磯風さん。同時に十七駆が一斉に構えた。照準は戦艦天姫に定められた。

 

「アンタがいる限り、あの人が浮かばれないんだよねぇ」

「生きていてもらっては困るんですよ。貴女には」

「じゃけぇ、ここで沈んでくれんか」

「嫌だと言っても、沈めてやる」

 

4人同時の砲撃。だが、それは謎の混ぜ物により弾かれる。同じ方向からの砲撃とはいえ、4つの同時砲撃を1人で、()()()()()()。あちらには扶桑姉様に組み込んだ白兵戦のデータもあるのだろう。生まれたばかりの混ぜ物にしてはやたらと強い。

 

「無視してお話ししてないでもらえますか? ハヤミ、ちょっと寂しいです」

「あちらがいちゃもん付けてくるのが悪いんです。アマツは悪くないです」

 

謎の混ぜ物は軽くストレッチするように手を回し、こちらを見てくるハヤミという混ぜ物。

見ただけでは艦種がよくわからない。着ているのは黒のジャージの上着だが、その下には競泳水着か何かか。潜水艦なのに海上艦というのもおかしな話。今までと同じように、混合種であることは間違いない。ならば、片方は潜水艦と何かだろうか。

気になるのは、艤装らしい艤装を持っていないこと。今必要ないからか、主砲すら持っていない。あれは何だ。

 

補給速姫(ホキュウハヤミヒメ)、そちらの呼び方では速吸だそうです。生まれて間もない新参ですけど、よろしくお願いしますね」

 

私達の鎮守府にはいない艦種、補給艦。微量ながら水上機や艦載機を搭載することが出来、航空戦を仕掛けてくるが、特筆すべきは洋上補給という特殊な能力。戦闘海域でも他の者を回復させることが出来る唯一の艦種である。

 

つまり、戦艦天姫の唯一の弱点とも言えるスタミナ切れが今までよりも相当遠くなったということ。フルスペックで戦える時間が長くなったということは、こちらがジリ貧になる可能性が異常に高くなってしまった。

 

「補給艦……想定外の新戦力ね」

「あっちを先にやらないとダメよね」

「ええ。補給線を断たないと勝ち目が無くなるわね」

 

洋上補給もそうだが、先程の砲撃の回避方法で白兵戦能力が強めであることも確認出来ている。扶桑姉様や山城姉様ほどの力を持たれていると、ブレーキをかけられるのはここにはいない。

 

「アサちゃん、最後にもう一度だけ。こっち来ませんか? 優遇しますよ。大嫌いな人間殺し放題です」

「私を嘗めてます? わざわざ殺すくらいなら、無関心を貫き通しますよ」

「そうですか……残念です。じゃあ、そのままいてもらっても困るので、ここで死んでもらいましょう。一度だけじゃなく、何度もお母様を裏切ってきたんですから、死ぬしか無いですよね」

 

やはりそういう流れになるだろう。だからこそ、今回の作戦を立てたのだから。

 

「ハヤミちゃん、アマツはアサちゃんと遊ぶので、海の中のを任せていいですか?」

「問題無いです。そのための()()()()()ですよね」

「その通りです! じゃあ、お願いしますね」

 

トプンと潜水を始めた補給速姫。やはり潜水艦の力を植え付けられている。海中で質量が増え、姫の艤装が展開された。あの形状は知っている。潜水棲姫、センさんと同じ艤装。

 

「ゴーヤさん、補給速姫がそちらに向かいます! 撤退戦開始!」

『了解でち! みんな、撤退! てったーい!』

 

潜水艦隊は先に撤退戦を開始。気配からして、潜水艦の人形も海中に現れ始めている。あちらはあちらで厳しい戦いになる。特に、補給速姫の実力は現在完全に不明。速力はセンさんの艤装を使っているだけありほぼ互角。全力で潜航すれば追いつかれることはないだろう。引き剥がすことも難しそうだが。

 

「まずは補給速姫です! 皆で追いますよ!」

「逃がすわけないでしょう。アサちゃんはアマツがこの手で殺しちゃいます。お母様のお願いをずーっと無視し続けてるんですから、もう死ぬしか無いですよね」

「お断りしますよ」

 

全員揃って撤退戦開始。あちらは主砲を展開し私に狙いを定めているようだが、今の私にはそんな簡単には当たらない。

 

「アサ、お願い!」

『任せろ。自衛なら私だ。ヨル、お前もタイミング合わせろよ!』

『任せて! キヨシーとハルナにタイミング合わせ手伝って貰ったから!』

 

主導権をアサに渡し、艤装を展開してもらう。これでいざという時は大型艤装によるガードも可能。

あんなことを言いながら、私の周りを狙ってくる可能性だって充分にある。あちらは提督の力で未来予知を乗り越えてくる難敵だ。行動予測に頼り過ぎると確実にやられる。

 

「威力はキヨシモと同じくらいだったよな」

『ええ。弾速が少し速いくらい』

『なら私がやれるよ!』

 

撤退する私に向けて、戦艦天姫が主砲を発射。予想通り弾速が少し速い。だが、そこまで対応してきた。私も、アサも、ヨルだって、この戦闘を待ち望んでいたのだ。出来るときにはしっかりと訓練をして、直接対決への力を蓄えてきた。

 

『アサ姉もうまく合わせてよ! せーのっ!』

「おらぁっ!」

 

着弾の直前でヨルを振り回し、砲弾を撃ち返した。重いが、相手が砲撃ならヨルは簡単には破壊されない。タイミングさえ合えば、ノーダメージで砲撃を本人に撃ち返すことが出来る。

 

『ほむーらん!』

「ホームランな」

『あれだとライナーね』

 

撃ち返した砲撃は戦艦天姫に直撃……するはずが、片手で軽くいなすことで回避される。予想はしていたが、本当に大概である。

 

「さすがはアサちゃんですね。もうアマツの攻撃は効きませんか」

「砲撃は弾いてやるよ」

「なら、ゲンコツでやりましょう。覚悟してくださいね」

 

周りに仲間達がいるのに私しか見ていない。視野が狭いのは本当に助かるが、突然ターゲットを変える可能性も捨て切れないため、全員なるべくバラけての撤退だ。

潜水艦隊の方に意識を向けると、やはりまだ追い付かれてはいない。補給速姫や、ついてきている潜水艦の人形が魚雷を放っているようだが、回避は余裕のようだ。これならば予定通り中間地点まで行ける。

 

「先遣隊旗艦のアサだ! 提督、撤退戦開始した! 追加の混ぜ物は補給速姫! ハヤスイ! 潜水棲姫の力と白兵戦能力持ちだ!」

 

手早く、確実に司令官に通信。要所だけ連絡して、撤退戦に専念する。私とヨルも、思考の海から行動予測をフル稼働。提督の力には、3人がかりの行動予測で出来るところまで対応する。

霞は私に比較的近い位置。十七駆の4人は大きくバラけ、戦艦天姫の後ろから湧いてきた人形や姫級に牽制攻撃を始めている。中間地点に辿り着くまでは、牽制と回避に専念する作戦。

 

ここからは作戦通りに行くかどうかの戦いだ。まずは中間地点へ。そこからの総力戦で全てを出す。

 




混ぜ物最後の将、補給速姫。ベースは速吸。戦艦天姫のスタミナ問題の解決一点に絞られて建造されたものです。速吸は15年夏イベの最終海域報酬ですね。報酬艦の建造方法を持っているからこそ出来た、最悪の補助艦。
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