欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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それぞれの戦線

少しだけ時は遡る。

潜水艦隊が交戦中、こちらでは戦艦天姫との戦いが始まっていた。海上の人形は海中の数倍。それに加え、姫級の深海棲艦も多数。対するこちらは連合艦隊12人。最高戦力である扶桑姉妹が加わったとはいえ、それ以上の力を持つ戦艦天姫があちらにはいる。

 

「……大和さんがあんな風になっちゃうなんて。前にも見たけど、やっぱりショックだよ」

「気にしちゃダメだよきよしー。あれは大和さんとは別物でしょ」

「時津風姉さんの言う通り、見た目が同じな別人です。清霜さん、気にしないで」

 

大和型としてここに立つ清霜さんには、戦艦天姫の外見がどうしても気になってしまう。あの外見だからこそ立ち上がったのだが。

 

「あ、清霜ちゃんですね。戦艦に憧れている駆逐艦の子。でもここの清霜ちゃんは戦艦の装備なんですよね。良かったですね、夢が叶って」

「うん。晴れて大和型として認めてもらえたから。だから、あたしはこう名乗らせてもらうよ」

 

山城姉様よりも前に出て、戦艦天姫と対面。もう躊躇いも戸惑いもない。気にはなるが、抵抗もない。討ち倒すべき最悪の敵として睨みつける。

 

「第一遊撃部隊、()()()()()、清霜! 抜錨ぉ!」

 

轟音と共に放たれた一撃は、一直線に戦艦天姫へ向かって飛んでいく。これが私達への開戦の合図となる。

 

「陽炎型6人は人形処理を! 姉様方、清霜さんと戦艦天姫を! 霞、春風、私と姫級の処理よ!」

 

一気に役割分担。とにかく戦艦天姫の周りを処理しないと話にならない。横槍が鬱陶しいため、最高戦力以外はそちらの処理に向ける。この後からまだ援軍は来るのだ。時間稼ぎをしながら人数を揃え、確実に勝てる状況へともっていく。

 

清霜さんの放った砲撃は、戦艦天姫が軽く払うことで弾かれる。相変わらずめちゃくちゃだ。

清霜さんの装備は、鎮守府で用意できる最高火力、51cm連装砲。戦艦天姫の持つ主砲とほぼ同じ火力が出ている筈だ。それでも(あし)らう程度で攻撃を無効化してくるのは厄介極まりない。

 

「アマツはアサちゃんに用があるんです。貴女達は周りの子達と遊んでてください」

「朝潮は周りの子と遊ぶの。アンタの相手は私達よ」

 

さらに清霜さんの砲撃。今度は払うのではなく回避。その回避方向に向けて、扶桑姉様が飛び込む。

 

「貴女は生きていちゃいけないの……ここで……くたばりなさい」

 

容赦なく回し蹴り。以前までなら簡単に受け止められ、そのまま脚が折られていただろう。だが、もうその心配はない。並みの戦艦主砲とは比べ物にならない威力を誇る蹴りだ。いくらなんでも簡単に受け止められては困る。

 

「そういえば聞きましたよ。扶桑さんも元々はお母様に従っていたんですよね。裏切らなければ死ぬことなんて無いのに」

 

あの強烈な蹴りですら、払い除けるように回避。掴んでいたものを敢えて払った辺り、今回の攻撃は前と違うと直感で判断したか。

 

「私が死ぬ……? 寝言は寝て言いなさい……」

「この前と何も変わってないじゃないですか。なら、今回もアマツの勝ちです。手加減もしません」

「なら何故払ったの……? 掴めばいいのに」

 

強烈な踏み込みにより、海が津波のように波打った。さらにはタイミングよく、海中の戦闘で発生した大型魚雷の爆発のおかげで波が大きくなる。

ほんの少しだけでも足を取られるのが見えた瞬間、今度は山城姉様が真っ直ぐに打ち込む。ノーモーションからの正拳突き。まだ本気ではない。

扶桑姉様の指摘があったからか、戦艦天姫は山城姉様の拳は手首から掴もうとした。誘導に引っかかっている。

 

「やらせると……思う?」

 

津波を起こした方とは逆の脚で強烈なローキック。並でなくても喰らえば折れるほどの蹴り。ただでさえ扶桑姉様は脚技主体の白兵戦型だ。艤装ですら簡単に粉砕する蹴撃は、戦艦天姫に回避を選択させるだけの威力はあった。

 

「見えたぁ! てぇーっ!」

 

脚技を回避するということはそれなりに間合いを取るということ、扶桑姉妹から離れたことにより、射線が出来上がる。すかさず清霜さんが砲撃。それに対しては瞬間的に展開した大和型艤装による砲撃をぶつけガードされる。

 

「からのぉ、もいっぱぁーつ!」

 

弾もカロリーも考えない、衛生班頼りの消耗度外視の連打。少なくとも清霜さんの砲撃を弾いている間はその場から動けないはずだ。回避行動を取った直後だからこそ、その動きを硬直させることが出来る。

 

「その程度の砲撃で!」

「動けないでしょうがぁ!」

 

今度はルーティン込みの一撃。顔面狙いの拳は咄嗟に出した艤装に阻まれるが、艤装を粉々に砕いた。深海の、それも戦艦の艤装だろうがもう関係ない。戦艦棲姫の自立型艤装ですら粉砕するその拳でなら、戦艦天姫に艤装も破壊することができた。

 

「前より強く……!?」

「当たり前でしょうが。ほら、次のを出しなさい。出さなきゃ死ぬわよ」

 

戦艦天姫は今なら押さえ込めている。その間に周りの群衆をどうにか処理しなければまだいけない。0にするのはおそらく不可能だ。それだけ数が多いのだから、邪魔されない程度に減らす。

 

 

 

陽炎型6人はバラけながらも協力して人形を処理していた。ある一定のラインから内側に入れないようにして、戦艦天姫と戦う3人の邪魔をさせないように、全ての人形を処理していた。

まだ日は高いため、萩風さんの心配はない。また、時津風さんは充分に寝溜めしてきた。それでもここまで全力だと、萩風さんと同じタイミングで落ちる可能性がある。そこまでの長期戦になるとは思えないが、気をつけておくに越したことはない。

 

「かぁーっ! さすがオーバースペック! 派手だねぇ!」

「谷風姉さんは器用だね。すごく的確」

「この前嫌ってほどやらされたからですよ。谷風は基本大雑把ですから」

 

今回用意されている人形は、お化け騒ぎの時の人形とは違い気配も読めるし匂いも感じる。代わりにスペックが少し高い、それより前の第二水雷戦隊仕様。連携もさる事ながら、とにかく倒しづらい。

 

「磯風ー、あれこの前のお化けなんじゃなーい?」

「お化けなんて嘘だ。あれはただの敵だ」

「時姉あんまり磯風のことイジメんといたって」

 

だが、この6人には関係無かった。まず時津風さんの火力が高く、当たってしまえば一撃。弾こうとする腕を的確に狙う磯風さんと浦風さんがそれを補助することで、3人で1体を瞬殺。それを繰り返すのみ。

同じことを萩風さん、谷風さん、浜風さんでもやっているだけで、次々と確実に人形は減っていく。

 

「でもねぇ、アレ見るとあたしらもまともなんじゃね?って思うわけよ」

 

ノールックで人形1体を撃破する時津風さん。それも充分に恐ろしい。回避方向まで視野に入れて攻撃している。見ていないが。

時津風さんの言う()()とは、勿論私達である。

 

「アサ、今回は電探の反応あるから大丈夫ね?」

『おうよ。好き勝手やらせてもらうぞ』

「ええ、好きなだけ暴れていいわ」

 

言うが早いか、アサが即座に敵の姫級に突っ込む。人形は陽炎型に任せているため、率先して姫級へ。手近な姫級に向かい突撃。戦艦棲姫から主砲を放たれても、行動予測を使い紙一重で避けつつ粉砕。その後また手近な姫級に突撃を繰り返す。

 

「御姉様の『種子』のおかげで力が漲ります。ひとまずは……()()()()をやっていきますか」

 

春風は駆逐古姫を優先的に撃破していった。充分過ぎるほどのオーバースペックに、金の『種子』の上乗せもあり、姫であろうが一撃で粉砕。自分と同じ戦い方をするのだから、最終的には力が強い方に軍配が上がるだろう。

 

「空母は邪魔よね。先にやっておきましょ」

 

霞は艦載機を飛ばすもの全てを視野に入れていた。放った魚雷は見える範囲の空母全てに向かって進み、足下から次々と爆破していく。一撃の威力が高いおかげで、撃破まで行かずとも艦載機の発艦が不能になるほどには即座にダメージを与えていた。

 

「ヨル、私達も行きましょうか」

『いいよ! 見つけたのから壊していいんだよね?』

「ええ、今回はそれでいいわ」

 

そして私も、手近な敵から片付ける。人形だろうが姫級だろうが関係ない。ヨルが噛める範囲ならば1体ずつ確実に嚙み潰し、私ですら届く範囲に入れば手ずから引導を渡す。姫だろうが人形だろうが関係ない。敵すら選ばない。

 

「ほら、アレ見るとさぁ」

「わ、私達は私達でやれることをやりましょう」

 

時津風さんと萩風さんが同時に魚雷を発射。主砲による砲撃よりもダメージは大きく、当たってしまえばそちらの方が確実に処理が出来るため、主砲よりも多用している。十七駆の4人も、オーバースペックな2人をサポートするように動き回っていた。

 

「衛生班到着ぅ! 怪我人はまだいないか!?」

「こっちは大丈夫です! 人形の処理をお願いします!」

 

ここで深雪さん率いる深海艦娘の衛生班が到着。大潮と皐月さん以外の深海艦娘がここから参戦。

混ぜ物の片方が潜水艦の力を持っているため、潮さんにはそちらに行ってもらう。あとは海上に出たタイミングで火力のある攻撃が可能な時雨さんも潜水艦隊の補助へ。

 

「おー、助かるねぇ。叢雲、突っ込んで突っ込んで」

「白兵戦組だからって頼りすぎんじゃないわよ」

 

言いながらも人形の首を刎ね飛ばす。砲撃を弾くような防御をする人形は、白兵戦を仕掛けるものが有効であることは今までの戦場でわかっている。衛生班だとしても、叢雲さんは心強い援軍だ。

 

「衛生班! あ……」

 

浮上してきたはちさんとゴーヤさん。ゴーヤさんは武器を持っていた腕が潰されており、はちさんはもうタンクに酸素が残っていない状態。

 

「はっちゃん! 睦月のとこに来て!」

 

大発動艇を2台も運用してきた睦月さんがすぐにはちさんの下へ。大発動艇にははちさんのための追加のタンクも用意されており、工作艦の力を使える睦月さんならその場で交換可能。

はちさんは足の怪我により小破状態。あまり戦闘を続行してもらいたくはないが、最低限動くためにタンクだけは交換する。

 

「睦月ちゃん、修理施設ってある?」

「工作艦の力で当然持ってきてるぞよ。小破までならすぐに治すにゃしぃ」

Ich brauche keinen(本当に最高)! 足の怪我をすぐに治してくれないかな。また潜るから」

「了解にゃしい! ちょっと待ってて!」

 

ゴーヤさんの怪我は少し重いため撤退の方向で。はちさんは軽いため、睦月さんがその場で治療する。工作艦特有の修理施設装備が火を吹いた。

 

『朝潮ちゃん、鎮守府の秋津洲だよ。衛生班、到着したよね?』

 

今度は通信。戦闘中に通信してくるということは、重要な何か。そこに秋津洲さんが絡んでいるということは、先日に話していた秋津洲さんの戦いというものの準備が整ったということか。

 

「はい、たった今。睦月さんが現在はちさんを治療中。ゴーヤさんが撤退します」

『了解かも。そろそろ、あたしとあきっちゃんの渾身の攻撃が届くよ!』

 

秋津洲さんとあきつ丸さん、Wあきつによる鎮守府からの攻撃。

 

『大艇ちゃんからそっちの様子見えた!』

 

水平線の向こう側、普通のものとはまるで違うサイズの艦載機が戦場に向かってくることがわかった。飛んできたのは秋津洲さんが大事にしている大型飛行艇の二式大艇ちゃん。さらにその後ろからは、秋津洲さんの物資搬入の時に見かけた艦載機、陸上攻撃機が多数。

 

『基地航空隊! 攻撃ぃ……はじめぇ!』

 

戦場の真上、敵を抉り取るように陸上攻撃機から空爆が開始された。水母の水上機は勿論、空母の最新鋭の艦載機よりも威力のある爆撃が、敵陣を壊滅させていく。

敵味方の区別がしっかりついているのも凄まじい。多少なり移動はしなくてはいけないが、私達に影響は一切無し。

 

『届いたでありますな!』

『二式大艇ちゃんの案内があればアレくらいの距離行けるかも!』

『さすがであります!』

 

本来は陸上攻撃機では届かない場所ではあるが、秋津洲さんの二式大艇ちゃんを使うことでここまで届かせた。それがあるからこそ、運用を秋津洲さんがやっているのだろう。

 

おかげで見えている範囲の人形はほぼ一掃。姫級にも甚大な被害である。後から後から次から次へと敵の増援はやってくるが、基地航空隊の援護により一時的に綺麗になった。

 

「滅茶苦茶しますね貴女達!?」

 

それでも無傷で戦場に立っているのが戦艦天姫。大和型艤装を山城姉様に砕かれたことにより、第2段階、戦艦仏棲姫の艤装を展開している。それを使い、自分への爆撃は全て回避した模様。

 

「アマツさーん、ハヤミ、こんなの聞いてないですよぉ」

「あっちの人達、使えるものを全部使ってくる人達ですから」

 

補給速姫も無傷。空爆開始の瞬間から海中に潜っていたようだ。いくら高火力の絨毯爆撃でも、潜水艦は処理出来ない。

 

「相変わらずしぶといわね」

「こっちのセリフですよ! でももうおしまいです。前の時もこれはどうにも出来なかったでしょう!」

 

戦艦仏棲姫の艤装が振り回され始める。単純な質量兵器が、大型主砲を撒き散らしながら全方位に攻撃してくるのだから困る。掠めるだけでもダメージが大きいアレをどう止めるか。

 

『第2陣、準備中かも!』

『何度でも送り込む所存であります!』

 

基地航空隊からの支援はまだまだ来るようだ。あの爆撃は何度でもお願いしたい。

 

戦闘は次の段階へ。そしてここからが本番である。戦艦仏棲姫、そして、太平洋深海棲姫の艤装を攻略しなくては、この戦いは終わらない。補給速姫の第2艤装もまだわからずだ。

皆がそれぞれの戦線で踏ん張る。時間をかければかけるほど、こちらが有利になるのはわかりきっているのだ。ならば、やれることをやり続けるしかない。

 




基地航空隊は通常海域でも使えるようになりましたが、いろいろ段階があります。物資搬入の際に、その辺りの段階を全て終わらせていたのが秋津洲。二式大艇マイスターは伊達ではない。
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