戦艦天姫との最終決戦の真っ只中、基地航空隊による空爆で、敵の人形と姫級が、今見えている分は一網打尽にされる。だが戦艦天姫、並びに補給速姫は未だに無傷である。さらに戦艦天姫は第2段階、戦艦仏棲姫の艤装を展開。戦場は次の段階に入った。
あの巨大な尻尾を処理しない限り勝機はない。最後の段階はもっと厄介だが、まず現段階をどうにかしなくては。
「全員薙ぎ倒してあげますよ!」
早速主砲を連射しながら尻尾を振り回し始めた。まるで独楽のように自分を軸にしてグルングルンと回転し、見境なく主砲を乱射。砲撃が避けられても、アレそのものに当たってしまうと良くても大破。
「もう、ハヤミもいるんですから、あんまり無茶しないでくださいよぅ」
「ハヤミちゃんは潜れるから問題ないですよね」
「うわぁん、無茶振りですよ」
補給速姫は無差別攻撃を回避するため再び潜航。あの攻撃をまともに回避出来るのは海中だけ。それが出来るのは深海棲艦と潜水艦のみだ。私も可能ではあるが、攻撃方法が限られすぎるので、あの尻尾はどうにか対処したい。
今は人形や姫級が基地航空隊のおかげで一掃されている。全員でまとめて攻撃するチャンスは今だ。
「アサちゃんが第一目標ですよ! 押し潰してあげます!」
回転による遠心力を突然縦回転に変えた。真上からの叩きつけ。私が壊れた時にヨルが戦艦天姫に対して繰り出した攻撃の意趣返し。回転力がついていたために、その叩きつけも恐ろしい速さだった。
ガードなんて出来るわけがない。そのままいたら押し潰されて終わり。これは流石に避けなければ。
「回避!」
同じ直線上にいた霞にも指示。霞も行動予測が出来るとはいえ、あの質量をあの速さで叩きつけられたら指示の後に移動してもギリギリ。
辛うじて回避に成功するが、海面に叩きつけられたことで、先程扶桑姉様が起こしたものよりも激しい波が立つ。超至近距離で波を受けた私と霞は、当然その波に呑まれることに。
霞は私と逆方向に流されてしまった。ここで私は孤立。
「避けましたか。なら薙ぎ倒します!」
着水と同時に私の方へと振ってきた。至近距離、かつ波に足を取られていたせいで回避が出来ない。遠心力が無いため先程よりは格段に威力は低いが、そもそも質量がある。
『ご主人、潜る!』
「お願い!」
ヨルの機転で海中に無理矢理引っ張られ、薙ぎ払いも紙一重で回避。だが、その衝撃だけで骨が軋むような音が聞こえた。おそらく小破。戦闘続行は可能。
『大丈夫か朝潮!』
「ヨルのおかげで大丈夫!」
私ばかりを狙うことで、他の仲間はフリーになる。敵援軍が来る前に総攻撃。
「朝潮ばっか狙ってさぁ、大和さんな割に陰険だよねぇ」
まず時津風さんが隙を見て、当然頭狙いの一撃。同時に十七駆全員が一斉に四肢を狙う。同時に着弾するようにタイミングを合わせた攻撃なら、どれか1つは当たるはずと踏んだ連携。
「邪魔をしないでもらえますか」
私に対して振った尻尾を、勢いそのまま時津風さんの方へ振ることで、全ての弾を弾き返した。今度は無差別ではなく、尻尾に備え付けられた主砲全てを時津風さんに集中し、同時に発射。完全に逃げ道を封じた攻撃。
「うぇえっ!? ちょっ、待っ!?」
「姉さん!」
咄嗟に動いた萩風さんが時津風さんに飛び付き、射線から強引に押し出した。その際に砲撃が掠め、機関部と脚を負傷してしまう。見るからに中破以上のダメージ。
「萩風!?」
「何やってんのよアンタは!」
砲撃後の硬直を狙い、山城姉様が飛び込む。尻尾の付け根を狙い、次の砲撃をさせないようにするが、戦艦天姫も一筋縄ではいかない。その攻撃を迎撃するため、一時的に尻尾を消す。
「山城さん、本当に懲りませんね。いい加減、死んでもらえませんか」
「それはこちらのセリフよ。いい加減、死になさいよ」
振りかぶった拳は尻尾を消されたことで空振るが、すぐさま身体を反転させて胴への一撃。それも軽く蹴られることで簡単に弾かれる。むしろ蹴り1回で海が裂けるかのような衝撃。ガードするだけでも体勢が崩されるほど。
「山城さん! 撃つからぁ!」
山城姉様が引き付けている内に、今度は清霜さんが砲撃。完全に背中を狙った不意打ちのような一撃だが、四の五の言っていられない。
「効くわけないでしょう」
だがもう一度尻尾を展開され、清霜さんの砲撃が弾かれる。質量もさることながら、単純に硬いのが厄介。あれを破壊したいのに、今の私達の攻撃力では傷1つ付けられない。
「硬すぎなんだけど!?」
「清霜ちゃん、横槍は良くないですよ。しかも背中なんて、戦艦の風上にも置けませんね」
「貴女が何を言っても説得力ないわ……」
今度は扶桑姉様が展開された尻尾に向かい蹴り込むが、また消されて回避。
扶桑姉妹2人がかりに清霜さんの火力を加えても、未だに無傷。頻繁に出し入れされている尻尾も、そもそも当てることすら出来ず、今は山城姉様が大和型艤装を破壊したのみに留まっている。
「邪魔です。アマツから離れてくださいね」
またもや尻尾を展開し、即座に身体を回転させ尻尾を振り回す。回避する余裕はなく、山城姉様も扶桑姉様も咄嗟にガード。強烈な質量兵器のぶちかましに、為すすべもなく吹き飛ばされた。
ガードの仕方がうまかったか、骨に何かがあるようには見えない。無傷ではないものの、致命傷は免れた。
「貴女達は裏切り者ですから、さっさと死にましょう」
周囲に振って間合いを無理矢理取らせた後、主砲の照準は磯風さんに向けられる。
「磯風、伏せなさい!」
容赦ない砲撃だが、衛生班の叢雲さんが磯風さんの前に立ち、槍で危険な砲弾のみを弾き飛ばした。相当重かったようで顔を顰めたが、叢雲さんも磯風さんも無傷。
だが次の瞬間、叢雲さんが宙を舞っていた。砲撃を放ったはずの戦艦天姫が、瞬きする間に叢雲さんに接近し、蹴り飛ばしていた。あの動き、提督の力か。
「これ疲れるから嫌いなんですよ。でも使っちゃいます。大盤振る舞いです」
『やらせるかよ!』
次は磯風さんをやろうとしたところにアサが突っ込む。せめて叢雲さんが退避する時間を稼がなくては。
提督の力さえ使われなければ行動予測は可能。アサも戦艦天姫の行動を予測しながら突っ込み、磯風さんから間合いを取らせる。元より当てるつもりはない。全員の安全を確保するための攻撃だ。
「アサちゃん、それはちょっと雑なのでは?」
「足止め出来ればいいんですよ。衛生班!」
「叢雲ちゃんは回収済み!」
先程宙を舞った叢雲さんは、衛生班の五月雨さんが回収。中破した萩風さんも時津風さんが衛生班の大発動艇にまで運んでいる。
「あーあ、トドメさせませんでしたね。じゃあまた始めますよ。頑張ってくださいね!」
またもや尻尾を展開。今度は振り回すのではなく、1人ずつ確実に狙う戦術に移行。無差別よりも確実に息の根を止めることを選んできた。
「まずは邪魔なのでどいてください」
最初の狙いは、すぐに動きを止めようとした山城姉様である。あれほどにまで太く長い尻尾を展開したままでもその機動力は一切落ちず、白兵戦による迎撃。山城姉様を押さえつつも、尻尾は扶桑姉様の方をしっかりと向いている。
「近付けないわね……」
「近付かせるわけないじゃないですか」
大きな回し蹴りで山城姉様を吹き飛ばした後、尻尾の主砲の連射で扶桑姉様も近付けなくされる。砲撃が重くて、弾けはするものの前に進めない。
砲撃の合間に突然扶桑姉様が舞い上がる。またもや提督の力による一撃。ガードは間に合ったが、大きく間合いを取らされてしまった。
「そちらもそろそろダメですよ」
フリーになったことで、潜っている補給速姫を狙い続けている潮さんに狙いを付けていた。尻尾の回転が止まったことで対潜行動を再開していたが、戦艦天姫に目をつけられてしまった。
あれだけの手練の潮さんでも、未だに補給速姫を捉えることが出来ていない。今までは戦艦天姫が尻尾を振り回していた挙句、その下に潜り込んでいたせいで、潮さんも手が届かない場所だったからだ。
「潮、危ない!」
潮さんが狙われていることを時雨さんが察知し、戦艦天姫の尻尾に背部大型連装砲を放つ。狙い自体は良かったが、戦艦天姫の膂力が異常であり、それが当たったところで照準にそこまで影響がない。僅かにズレたものの、変わらず照準は潮さんに定まったまま。
「っ!?」
「遅いですよ!」
回避行動を取ろうとした瞬間に尻尾の主砲が全て放たれた。土壇場のところで艤装を犠牲に身を守るが、機関部が粉々にされ大破。致命傷には届かなかったようで安心だが、先程の叢雲さんと同様、大きく吹き飛ばされて気を失う。
「やっぱり手を抜いちゃダメですね。最初から艤装は使っていかないと」
「やってくれるじゃない……! 衛生班!」
「うっしー確保! 後からまた来るんで!」
大破した潮さんは漣さんが回収。
「てぇーっ!」
それと同時に清霜さんが砲撃。このタイミングならガードせざるを得ないはずだ。だが、清霜さんの足下に気配と反応。補給速姫が清霜さんを狙っている。海中での戦いも難航しているようだ。
「清霜さん、跳んで!」
「あぇっ!? と、跳ぶ!」
私の指示に咄嗟に反応してくれた。主砲が放たれると同時にジャンプしたことで、砲撃の衝撃で後ろに飛ばされてしまう。しかし、ジャンプの直後に足下で爆発が起きた。跳んでいなかったら、あの爆発、補給速姫の魚雷にやられていた。
支えを失ったことで砲撃はあらぬ方向へ飛んでしまうが、清霜さんは無事着地。怪我をするより攻撃が当たらない方がマシである。
「浦風、谷風、対潜だ! 潮がやられた今、丁改装のお前達に任せるしかない!」
「へぁ! 見せ場だねぇ! 粋だねぇ!」
「やっちゃるけぇ、任せとき!」
潮さんの穴は対潜特化の改装を受けた浦風さんと谷風さんが埋める。対潜行動を続けておかなければ、上から下からの攻撃で戦列がガタガタにされるのは間違いない。
「アマツだけに気を取られてて大丈夫ですか? こちらも援軍来ちゃいましたよ」
戦艦天姫の言う通り、先程基地航空隊が一掃した雑多な敵軍勢が回復しつつあった。霞と春風が視界に入る人形と姫級を処理していたが、2人だけでは維持できないくらいになってきた。
「援軍があるのはそちらだけじゃないことくらい、貴女もわかっているでしょう!」
「そうですね、わかりますよ。こっちの方ですか」
突然あらぬ方向へ主砲を向ける。まさにこちらの援軍が向かってきている方向。
『あのクズ……! やらせるかよ!』
アサが切り返し、体当たりをすることで照準をズラそうとするが、それを見越してか即座にアサへと照準を切り替えてきた。
「アサちゃん、これは鬱陶しいですよ。もっとスマートに攻撃出来ません?」
アサの口内目掛けて主砲を発射。空母鳳姫の時とは比べ物にならない火力により、歯による防御もままならず一撃で半壊。まだ艦載機の発艦は可能なため、ここで全機発艦する。
『すまん朝潮、攻撃不能だ』
「大丈夫、艦載機のコントロール権を渡すわ」
『あいよ。今度は空爆だ』
そうこうしている内に、お互いに援軍が到着。
「第二遊撃部隊到着! 旗艦天龍だ!」
「助かります! 手が付けられません!」
援軍である第二遊撃部隊の旗艦は天龍さん。随伴は龍田さん、大潮、初霜、皐月さん、島風さん、イクサさんと金の『種子』組勢揃い。高火力であるため、戦艦天姫にぶつかってもらおう。
「第三遊撃部隊到着です!」
「最高のタイミングね! 敵増援の処理お願い!」
さらに榛名さん旗艦の第三遊撃部隊。随伴は青葉さん、古鷹さん、高雄さん、那珂ちゃんさん、長良さんの巡洋艦部隊。こちらには増え続ける敵援軍の処理をお願いする。
「朝潮、我々が援軍側に向かう。霞と春風をこちらにつけるぞ。この磯風の火力では傷がつけられん」
「了解です。磯風さん、浜風さん、人形と姫級の処理を!」
ここで増援処理班を交代し、こちらに霞と春風が合流。
「滅茶苦茶ねアイツ……こっちは束になってかかってるってのに」
「こんな大人数で戦うことにこちらも慣れてないもの。何かしら弱点がわかれば……」
「大丈夫です。司令官から策を貰ってきました」
大潮と初霜がこちらと合流。金の『種子』がしっかりと効いており、瞳が爛々と輝いていた。
「搦め手に弱いということは以前の戦いでわかっていましたから。いろいろと持ってきていますよ私達」
「まだまだ援軍は来ますから! 大潮達で乗り切りましょう!」
この戦いはスタミナ切れの時間稼ぎが根本だ。想定外の補給速姫の存在があるが、それはもうどうだっていい。どういう形で補給するかはわからないが、それをさせることなく戦いを終了する必要がある。
「わらわらわらわらわと! 貴女達は虫か何かですか!」
「それだけしねぇとお前が倒せねぇってことだ。強さを誇ってもいいんだぜ?」
「アマツが強いのは当たり前です。お母様に育てられたんですから。ああもう、わかりました、わかりましたよ。まずは一掃しちゃいます」
戦艦仏棲姫の艤装が消え、シンプルな主砲の矛が出現。つまり、太平洋深海棲姫の艤装を一時展開したということ。
「散開しなさい! ヤマシロ、アンタの下!」
「私を狙ってくるわけ!?」
イクサさんの指示で山城姉様が即座にその場から離れた。それでもギリギリになりそう。
一時的に出したのだろう、まだ最終段階とは言えない。ここまで増えた私達の部隊を一気に処理するために、あの超巨大艤装を使おうという魂胆だ。
「皆殺しです!」
海面が波打ち、地響きすらしながら、巨大な鯨が大口を開けて海上にせり上がってくる。山城姉様は紙一重。周りにいた扶桑姉様もギリギリで回避。
「もうアマツも手加減なんてしません! すぐにでも! 全部! 飲み込んであげますよ!」
あちらも出し惜しみしてこない。かなり厳しいが、仲間達はいつになく多い。
終わりが近付いてきている。こちらが全滅か、あちらが全滅か。2つに1つだ。