欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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続く悪夢

次々と増えるこちらの援軍に痺れを切らした戦艦天姫が、ついに太平洋深海棲姫の艤装を展開。消耗してから出したわけではないので、ほぼ十全の力で繰り出してきている。

こちらはもう部隊とは到底言えない人数がここに集結している。鎮守府の半分以上が戦いに挑み、まだまだ増える。

 

「全部飲み込んであげますよ!」

「んな簡単にやられるわけ無ぇだろ!」

 

鯨の体当たりを避けながら、胴に斬撃を入れる天龍さん。しかし、傷1つつかない。刃こぼれしていないだけマシか。

 

「天龍……退きなさい」

「扶桑姐さん、やってみてくれ!」

 

今度は扶桑姉様がどんな艤装も粉砕する蹴りを繰り出す。が、こちらでも傷1つつかない。重い音が響いたものの、ただそれだけ。

 

巨体故に動きは遅いが、巨体故に異常な防御力を持っていた。扶桑姉様の蹴りでもビクともせず、天龍さんの刀も一切通らない。弱点らしい弱点が何も見当たらない。強いて言うなら、これを使っている間は戦艦天姫自身の装備が矛1本になることと、消耗が異常に激しいということくらい。

 

そしてもう1つの問題。それが補給速姫の存在である。あの消耗の問題をクリアするために生まれたと言っても過言ではない存在。白兵戦可能で潜水艦の能力も有する補給艦というわけのわからないものが、現段階で最大の問題点。

 

「出し惜しみなんてしません! ここで全員喰い殺してあげます!」

「テンリュウ! フソウ! 離れなさい!」

 

さらにイクサさんの自立型艤装による頭部大型主砲の一撃。まともに胴体に入ったように見えたが、少し焦げたくらいでやはり無傷。

打も斬も砲も通用しないインチキ兵器。戦艦仏棲姫の尻尾よりもタチが悪い。やはり消耗を待つしかないのか。

 

「天龍さん、龍田さん、本体を!」

「おう! あの馬鹿でかいのが無理なら、使ってる本人をぶった斬る!」

「天龍ちゃんのサポートをするわ〜」

 

鯨が駆け回る戦場を掻い潜り、戦艦天姫本人を狙いに向かうが、矛による砲撃も火力は落ちておらず、弾くだけでも手一杯。あまり時間をかけると鯨が突撃してくる。鯨にも主砲が備え付けられており、周囲を砲撃しながら暴れ回っていた。艦隊で最も素早いはずの天龍さんですら手をこまねいている状況。

 

「くっそ、近付けねぇ!」

「なら魚雷よ! 私がすぐに」

 

霞の危険性は戦艦天姫もよくわかっているのだろう。鯨は霞の魚雷の匂いに即座に反応したか、霞に向かって突撃を開始。魚雷は深くに潜らせたために破壊はされないが、霞自体がやられたらおしまいだ。

 

「霞、舌噛むよ!」

 

大潮が霞の服を掴んで強引に海中に潜った。深海艦娘も半深海棲艦も多少なりは海中で活動が可能。本当に紙一重のところで回避に成功。衝撃で大潮がダメージを受けるが、まだ戦闘不能には遠い。

海中から魚雷をコントロールする霞。鯨を潜り抜け、戦艦天姫の真下まで運び、そのまま真上へ。海中にいるからこそ正確な位置がわかる。

 

「霞ちゃん、魚雷はダメですよ」

 

軽く飛び上がり、矛による砲撃で魚雷を全て破壊する。その時の隙すら、鯨がカバー。

ならばと、鯨の裏側に回り込んでいたイクサさんと清霜さんが同時に砲撃。2人がかりの砲撃ならば、何とか出来るだろうと判断したのだが、今度は鯨を消し、戦艦仏棲姫の尻尾を展開。砲撃をシャットアウトする。

 

「そんな簡単に出し入れ出来るのはズルいわね」

「これがアマツの力ですから。ではまたやりますよ」

 

尻尾が消え、鯨が再臨。戦艦天姫の真横からせり上がってきて、すぐさまイクサさんと清霜さんに襲いかかる。

あれほどまでに連続で出し入れしていれば、改造されているとしてもスタミナ切れは通常以上に早く訪れるだろう。だが、その辺りを一切気にしていない。補給速姫がこの戦場にいるからか。

 

「キヨシモ、ちょっと我慢しなさい!」

 

イクサさんが自立型艤装で清霜さんを掴み上げると、攻撃範囲外に投げ飛ばした。金の『種子』によるブーストで、戦艦艤装を装備した清霜さんでも難なく放ることが出来た。

しかし、そのせいでイクサさんは鯨の前から逃げられなくなる。

 

「アサ!」

『わかってる! 空爆だ!』

「ボクも行くから!」

 

もう一度、戦艦仏棲姫の艤装に切り替えさせるため、発艦しておいた艦載機により集中的に絨毯爆撃。加えて、皐月さんが自身の艦載機を足場にして戦艦天姫の直上から斬り下ろす。

 

「……それはよろしくないです。ガード」

 

思惑通り、戦艦仏棲姫の艤装によりガードしてくれた。皐月さんの斬撃でも貫くことが出来ず、鈍い音がした後に間合いを取り直す。

ひとまずイクサさんが助かったので安心する。だが、戦況は一向に芳しくない。初霜の持ってきた搦め手をそろそろ使ってもらわなくては。

 

 

 

一方海中。補給速姫がこちらの戦いに横槍を入れるため、潜水艦隊がそれを対処しようと追い込みを始めている。対潜の鬼、潮さんが戦艦天姫にやられてしまったため、浦風さんと谷風さんが代打で来ているのは承知の上。2人も対潜は得意であり、2人がかりであれば潮さん以上の成果は出せる。

 

「そろそろ止まってもらわないと困るわ……」

「そーだそーだ! 帰れー!」

 

潜水艦姉妹がどうにか押さえ込もうとするが、白兵戦を挑まれると退避するしか無くなってしまう。霞や高雄さんの魚雷ならもっと戦えるのだろうが、一直線にしか進まない魚雷ではどうしても戦いが泥沼化する。

海中での白兵戦に比較的対応出来るゴーヤさんが退場したのも痛手だった。イクさんとしおいさんが合流したものの、かなり厳しい。

 

「うーん、貴女達と戦っていると、正直時間の無駄なんですよね」

「なら……何をするというの……?」

「それは勿論、さっさと死んでもらいますよ」

 

今までの攻撃が嘘のように魚雷が生成された。火力よりも量で押し込んできた。

 

「回避、出来ます?」

 

一斉に放つ。今までの魚雷と同じように直線にしか進まないが、上下左右全てを埋め尽くすような密度。回避はほぼ不可能だ。

 

「回避じゃなくて、全部ぶっ壊してやるの!」

「ちょっと数が多過ぎるけどね!」

 

それを処理するのがイクさんとしおいさんの役目。1つ破壊すれば周りが誘爆していくため、効率のいい場所を2人で次々と撃っていく。

だが、それが補給速姫の策だったのだろう。魚雷が爆発するたびに視界が封じられていき、補給速姫の姿を泡が包み込んでしまった。

 

「まずはそこの子供からにしましょうか。妙に火力高いですし」

 

その宣言と同時にセンさんがシンさんを掴んで急浮上。紙一重で泡の中から伸びる腕を回避。

しかしその後、本命の魚雷が放たれていた。咄嗟に艤装を前に出し、その魚雷を受ける。

 

「お姉ちゃん!?」

「っぐ……大丈夫よ……」

 

もろに受けてしまい、艤装は粉々。それを掴んでいた右腕もボロボロになるほどのダメージ。少なくともセンさんは戦闘続行不能。攻撃手段も潜航能力も失われてしまったが、代わりにシンさんは無傷で済んでいる。

 

「あらら、しぶといですね。ではトドメを……!?」

 

センさんに手を伸ばそうとした補給速姫が、すぐさま引っ込めて後方へ退避した。補給速姫が今いた場所に、ミサイルのように突っ込んできたはちさんが擦り抜ける。

睦月さんによる治療と装備換装が終了し、戦闘開始時とほぼ同等の状態に戻っていた。タンクの酸素は充分。ここからさらに30分の潜航が可能。

 

「カ級みたいな子がまた来ましたね。さすがに驚きましたよ。タンクをぶつけに来るなんて」

 

海底で切り返し、本を開く。入れられていたのはセンさんの大型魚雷。直進しか出来ない魚雷では簡単に避けられてしまうが、その隙にシンさんがセンさんを引きずって睦月さんの下へと向かい戦場を離脱。

 

「アイツ、ホントしぶといの」

「はっちゃん、足大丈夫みたいだね」

 

イクさんとしおいさんも合流。そして、海面に向けて放った魚雷により、海上の対潜艦、浦風さんと谷風さんにも居場所を伝える。ソナーで場所を把握しているとは思うが、明確な位置はこれでわかったはずだ。

 

そして、海中にも援軍が駆けつける。

 

「おい、お前シン達のことイジめただろ」

 

補給速姫の真後ろ、海中でも行動できるレキが首を掴もうと手を伸ばしていた。気配を感じるはずなのだが完全に不意をついたようで、慌てて間合いを取った。

 

「さっき見たぞ。シン泣いてた。お前がやったんだろ」

「レ級ちゃんまで。話は聞いてたけど、ホント豪華ですね」

「答えろよ。お前だろ。お前なんだろ」

「だとしたらどうするんです」

 

余裕そうな補給速姫に対し、レキは怒り心頭。

 

「こ こ で ぶ っ 壊 し て や る」

 

海中であるにも関わらず、猛烈なスピードで突貫。並の潜水艦を優に超える機動性により、補給速姫の胸ぐらを掴んでいた。

 

「速っ……」

 

顔面に向かって頭突きを入れ、即座に尻尾でかち上げるように脇腹を薙ぎ払う。その衝撃で海上まで打ち上げられた。

 

「うっそ!? 何ですかその威力!?」

「壊れろぉ!」

 

海中から主砲を構え、補給速姫に向けて発射。打ち上げられたことにより空中に投げ出され、回避不能。扶桑姉様並の白兵戦能力で強引にその弾を弾き飛ばすが、そのせいで隙だらけと言ってもいい状態。

 

「対潜する暇ありゃしないねぇ!」

「頼もしい仲間じゃけぇ!」

 

即座に補給速姫を撃つが、新たな艤装を空中で展開。大剣のような(いしゆみ)を振り回し、放たれた弾を弾き飛ばした。同時にエイのような艦載機が展開され、一斉に空爆を始める。

 

「へぁ!? こいつ、空母かい!?」

「航空戦艦、欧州棲姫の艤装です。ハヤミは陸海空全てを制する補給艦ですよ」

「航空戦艦が普通の艦載機飛ばすんはズルいけぇ!」

 

水上バイクのような艤装で海上を駆けながら、弩により艦載機を発艦。先程まで潜水艦の戦術をとっていたと思えば、今度は空母の戦術。相変わらず混ぜ物はめちゃくちゃである。

 

「逃がさないぞ! お前はみんなをイジめてる! レキがぶっ倒してやる!」

「レ級ちゃんの相手はハヤミには荷が重いんですけどぉ!」

 

言葉とは裏腹に、かなり余裕そうである。混ぜ物全てに言えることだが、こちらのことを若干軽視している節がある。補給速姫もその気があるようだ。

ならば、ここで吠え面をかかせるしかあるまい。

 

 

 

こちらはまだ戦艦天姫の弱点探し中。ジリ貧なのはわかっているが、やらないよりはやった方がいい。

 

「援軍来たぞ! 深海部隊推参!」

 

新たな援軍はガングートさん率いる深海部隊。随伴はウォースパイト さん、ポーラさん、涼月さん、瑞穂さん、クウ、そして補給速姫と絶賛交戦中のレキ。

 

もうこれで鎮守府にはほとんど艦娘が残っていない。あと来ていないのは空母隊と一部純粋な艦娘。そして元帥閣下と南司令官配下の艦娘のみ。

この状況でもある程度鎮守府防衛は必要である。この隙をついて鎮守府側に部隊を送り込んでいてもおかしくない。私達だけ残って司令官達が全滅というのは絶対にあってはいけない。

 

「朝潮様、瑞穂合流致しました。ご指示を」

「戦艦天姫の弱点を探しています。何か気付いたことがあれば何でも教えてください」

「承知致しました」

 

ここからは部隊の再配分だ。敵の現状から得手不得手を分け、一番適している場所に置く。

 

「ガングートさん、涼月さんは補給速姫へ! ウォースパイトさんとポーラさんは敵増援部隊の処理を! クウ、こっちに来て一緒に空爆!」

 

レキはそのまま補給速姫につけておくべき。敵が万能戦力なら、こちらも万能戦力だ。

 

『朝潮ちゃん、秋津洲かも! 基地航空隊第二陣、向かったよ!』

「ありがとうございます!」

 

ここで基地航空隊もやってくることが確定。敵増援を一時的に一掃出来る力はありがたい。今は補給速姫の艦載機があるが、それに関しては涼月さんがいる。対空母として絶対的な力がある涼月さんなら何も心配はない。

 

「また増えましたね。本当に虫みたいですよ」

「そちらは虫の息ではないですか? そんなに艤装を切り替えて。疲れが見えていますよ」

 

現在は鯨が消えており、尻尾で応戦してきている。それはそれで厄介極まりないのだが、鯨に暴れ回られるよりはまだマシ。あちらも鯨を出し続けるほどスタミナが残っていないと見た。汗ばんでいるようにも見える。

 

「疲れているのは確かですね。ハヤミちゃん、来てくださーい」

「あ、時間ですか。了解です」

 

レキを無理矢理引き剥がし、艦載機と艤装に設置された戦艦主砲のような高角砲で誰も近寄らせないようにしてから戦艦天姫の真横に。戦艦天姫も誰も近付けないような尻尾を大きく振り、一時的に間合いを取った。

 

「補給します。その分だけ耐えてくださいね」

 

事もあろうか、この切羽詰まった戦場でディープなキス。そんな形で補給するとは想定してなかったため、驚きで思考が一瞬停止してしまう。

補給を邪魔しようとイクサさんと清霜さんが砲撃するが、尻尾で全て阻んでいる。全方向の攻撃を阻むために2人で抱き合ってクルクル回りながら補給する姿は、まるで社交ダンスのようだった。それがこちらへの攻撃になっているのだからたまったものではないが。

 

「ぷはっ、ご馳走様でした。アマツ、全快です!」

「あと2回分ありますからね。では、またその時に!」

 

あの無双状態がまだ続く。悪夢以外の何者でもない。動きにようやく慣れてきたため、鯨も尻尾も回避出来るようにはなってきたが、ジリ貧なのは変わりない。

 

悪夢はまだ続く。だが、こちらも人数がいる。打開はもう少しで出来るはずだ。圧倒的な力を前にしても、誰も諦めていない。

 




現在鎮守府に残っているのは

・加藤艦隊
龍驤、蒼龍、雲龍、吹雪、白露、黒雪風、最上、雪、秋津洲、大淀、明石、セキ
・元帥閣下護衛部隊
赤城、加賀、大和、武蔵、長門、白雪風
・南艦隊
川内、あきつ丸
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