時は再び少し遡る。
レキ達が補給速姫と戦っている時、私達は戦艦天姫と相対している。補給され全回復した天姫に対し、私達は人数は増やしているものの消耗著しい。
特に、最初期から戦艦天姫と戦っている清霜さんは、デメリットがかなり来ている。飢えに耐えながらも、常に戦艦天姫を見据えていた。
今はまず、清霜さんの回復を優先すべきか。このままだと戦闘ではなく餓死で沈んでしまう。
睦月さんは人形と姫級の群れを処理している仲間の小破を修理施設により治療中。合間に清霜さんの補給も出来るだろう。
『アキツシマの通信あったよな。基地航空隊はいつ頃来る』
「すぐには来ないわ。だからせめて、そこまで耐えないと!」
やはり勝ち筋はスタミナ切れ狙い。補給されたとはいえ、あんな雑でゴリ押しな艤装切り替えばかりをしていたら、すぐに枯渇するはずだ。次の補給をさせないだけでも、戦況は大きく変わる。
ただし、それをやられ続けるだけでこちらは過剰すぎる損害を被ることになる。そもそもあの鯨の艤装が酷い。質量兵器にしてもやり過ぎだ。
「さぁ、元気いっぱいですし、仕切り直しですよ!」
太平洋深海棲姫の艤装を展開。鯨は清霜さんの方へと向かう。消耗しているのがバレたか。
「キヨシモ、アンタはムツキのところに行きなさい。早く!」
「ご、ごめんなさい、すぐ戻るから!」
イクサさんの指示で清霜さんは大急ぎで一時撤退。まずはカロリーを摂取しないと倒れてしまう。
「逃がしませんよ!」
「逃がすんですよ」
ここで攻撃を始めたのは、搦め手をいくつも用意してきたという初霜。右腕の深海艤装ではなく、左腕の艦娘艤装による砲撃。
たかが駆逐主砲、戦艦天姫も甘く見ているだろう。回避もせず、矛を軽く振るうだけでその砲撃を弾く。
「朝潮さん、全員に伝達。
「全員目を閉じて」
全員に通信できるのは私のみ。大声で叫んだら戦艦天姫にバレてしまうため、私が静かに一斉通知。戦艦天姫が弾いた砲撃は、矛にぶつかった瞬間、強烈な光を放った。本来とは違う形で作られた照明弾である。
本来ならば、落下傘付きのものを夜戦で打ち上げるのが基本だが、初霜の放ったものは主砲で撃ち出せる特殊なもの。夜戦好きな川内さんが愛用する特殊兵装。搦め手その1。
「なっ、また目を……!?」
「清霜さん、今です!」
戦艦天姫の目が眩んだことで、鯨の動きも鈍った。艤装であるがために、本体と若干だが連動しているようだ。おかげで清霜さんは退避に成功。
本体さえどうにかすればいいのは勿論だが、弱らせるだけでも行動が制限できるのは大きい。搦め手が間接的に艤装に効くということがわかっただけでも、今後の作戦が立て易くなる。
「睦月ちゃぁん、お、オヤツ、オヤツちょうだい……」
「すぐに出すぞよ! ちょっと待つにゃしい!」
限界ギリギリまで耐えた清霜さんは餓死寸前。息も絶え絶えで睦月さんの下へ。
「みんな手伝って!」
「清霜食え食え!」
「食べるのですー!」
群れとの戦いで小破し、睦月さんから治療を受けていた深雪さんと電さんも、治療を一旦止めて清霜さんのためにオヤツを用意。こうしている間にもカロリーを消費してしまうデメリットは辛い。皆で協力して清霜さんの回復に努める。
その間に、私達も戦艦天姫の打倒に向けて行動開始。
照明弾により目潰しをしたことで鯨の動きは鈍ったが、それはすぐに回復してしまうだろう。今のうちに攻撃を。
「なんでこうおかしな手段ばかり使うんですか!」
目が一時的に見えないためか、矛を振り回しながら主砲も放ってくる。鯨もフラつきながら、備え付けられた主砲を乱射。
流れ弾が睦月さんに当たってしまいそうだったため、イクサさんが即座に守りに入る。自立型艤装により主砲を弾きながら、清霜さんの回復を安全にしてくれた。
「キヨシモはどんどん食べなさい。私が守ってあげる」
「
「礼はいいからモリモリ食べる!」
その間にこちらはもっと戦い易くする必要があるだろう。
「クウ、爆撃よ。私も協力するわ」
「ヲ。姫様と一緒なら頑張れる」
まず私とクウで空爆。クウの艦載機の搭載数は、私の24機を優に超える96機。ついには加賀さん超え。2人合わせて120機で、戦艦天姫に集中砲火を仕掛ける。たった1人にこの量なら、狭い範囲の絨毯爆撃。
「艦載機の音!」
まだ目がしっかり見えていない状態でも、私達の空爆を音を聞きつけ、戦艦仏棲姫の艤装に切り替えてガード。前回の基地航空隊から身を守った時と同様、尻尾を傘のようにすることでノーダメージ。
代わりに下半身がガラ空きになる。これを見逃さないのが私達の仲間だ。
「連装砲ちゃん!」
私とクウの爆撃を避けるように、島風さんの連装砲ちゃんが戦艦天姫の脚に砲撃。提督の力を使うにしろ、脚を破壊出来れば機動力は一気に下がる。
「そんなもの、受けるわけないでしょう!」
目くらましの効果も切れてきたか、完璧に連装砲ちゃんを見据えて砲撃を避け、空爆すらも避けて連装砲ちゃんを蹴り飛ばした。
3体いる連装砲ちゃんを全て破壊した後、その場から姿が消える。瞬間、島風さんが吹き飛んでいた。提督の力に唯一追いつくことが出来る島風さんが、提督の力により、いの一番に排除されてしまった。追いつくことが出来ても、パワーが足りないために起こった悲劇。
「ようやく目が慣れてきましたよ。ああ、今蹴ったのはお母様のところから逃げ出した島風ちゃんでしたか。ちょこまか動くので先に終わらせられたのは良かったですね」
次にクウが吹き飛ばされる。さっきまで逆方向にいたのに、提督の力の連続使用でこちらに移動してきていた。よりによって矛を展開しての横薙ぎ。鯨も再臨し、戦場を再び暴れ回る。
「アマツ、空から爆弾落とされるのが大っ嫌いなんですよ。なので、ヲ級ちゃんはダメです」
あの一撃で大破。クウは気を失ってしまっている。怒り任せの一撃だったからか、急所から外れていてくれたおかげでそれだけで済んでいる。命に別状は無いが、飛んでいた艦載機は全て消滅。
私の艦載機だけではもはや足りず、爆撃に使うよりは防御に使う方がいいと判断する。
「当然、アサちゃんもですよ」
同じように今度は私が横薙ぎにされる。予測すらさせてくれないスピードのため、ほぼ勘で柄の部分を掴む。
昔の私ならこんなことも出来なかったと思うが、戦艦の膂力を手に入れたおかげでギリギリ食い止めることが出来た。腕が痺れたが、痛みはまだ無い。
「っぶな……!」
「お姉さん、我慢してください!」
大潮が戦艦天姫に主砲を向けた。矛を握ったままなら私が動きを封じ込めている状態だが、さすがにこんな近距離で撃たせてくれるほど甘くない。鯨と矛が消え、私がつんのめる形に。その隙に大潮の主砲を蹴って破壊。
その時に何か違和感を覚えたのだろう。戦艦天姫が眉をひそめる。
「ん……? 何ですかこの……」
「特製弾ですよ!」
破壊された主砲から弾丸を抜き取り、戦艦天姫の胸元にぶつける。殺傷力のない悪足掻きと判断してか、それは避けることなく受け、大潮が殴り飛ばされた。腹にモロに入り、何かが折れる音まで聞こえたが、貫かれていないだけマシか。
「がふ……避けなかったこと……後悔してくださいね」
血を吐きながらも戦艦天姫を見据えていた。胸元に投げた弾は当たった瞬間に破裂し、久しぶりの
「えっ、く、臭ぁっ!?」
「誰にでも効くんですよそれ……!」
白吹雪さんにも通用した、スウェーデンの缶詰ペイント弾。こういう強敵、頭を使わないゴリ押しタイプの敵だからこそ通用する、気を衒う一撃。視覚に続き、嗅覚へのダメージである。
「この……!」
「いい加減にしなさいよ!」
山城姉様の猛烈な拳で、退避を余儀なくさせた。あの臭いは暫くどころか、この戦闘中ずっと付いて回るものだ。嫌でも集中力を削がれる。目くらましとは違うベクトルの攻撃である。
「朝潮、倒れてる子達を睦月のところに運んでおきなさい!」
「了解です! 初霜、霞、手伝って!」
言いながらも、戦艦天姫に突撃していく。扶桑姉様も駆けつけ、2人がかりでこの場から引き剥がしてくれた。今のうちに退避しなくては。
大潮はまだ意識を持っているが傷が深い。島風さんとクウは気を失ってしまっているため、運ぶのも難しいだろう。
「睦月さん、怪我人を載せられますか!」
「大丈夫! 応急処置しておくから
今載っているのは萩風さんのみ。まだスペースに余裕がある。他の怪我人は、深海艦娘による護衛退避により戦場から離脱。護衛のために、五月雨さんと漣さん、シンさんはもうこの戦場にはいない。
「ごめんなさいお姉さん……大潮離脱します……」
「傷が酷いわ。そうしなさい。誰か大潮を!」
「朝潮様、瑞穂にお任せください。必ずや鎮守府に送り届けさせていただきます」
瑞穂さんなら安心して任せられる。大潮が懐いているのだから尚更だ。
気を失っている島風さんとクウを大発動艇に積み込み、大潮は瑞穂さんの護衛退避により離脱。
「ああもう、何なんですか! 臭いものぶつけるとか!」
「私達の訓練じゃ日常茶飯事よ」
自分の身体が立ち込める臭いに顔をしかめながらでも、山城姉様の攻撃は受け流している辺り厄介である。それでも確実に最初よりは鈍っているのがわかる。
と、ここでレキ達の戦場から大きな爆発音がした。その後、1発の砲撃音。さすがの戦艦天姫もそちらに意識が動いた。
「ハヤミちゃん……?」
「アンタの補給艦、やられたみたいね」
「うそ、また、なんで……」
仲間の死により気が動転している。そういうところは振る舞いの通り、精神が子供だ。
ここは戦場。戦艦天姫だってこちらを殺しに来ている。こちらが苦しみながら艦娘の顔をした敵を倒しているというのに、あちらは笑顔で皆殺し。だが、いざ自分が同じ目に遭うと被害者面である。
今までの行いから、憐れみも躊躇いもない。心を壊され、捻じ曲げられているのだとしても、戦艦天姫には容赦しない。そうしなければこちらがやられる。
「許さない……絶対に許さない!」
先程まででも手がつけられなかったのに、仲間の死で暴走状態になってしまった。
防空霞姫の時も暴れ回ろうとしたが、即座にスタミナ切れを起こしたことで、ここまでにはならず撤退。だが、今回はまだ有り余っているせいで、怒り狂い周囲のものを全て破壊する厄災と化した。
「カスミちゃん……ヒナタちゃん……ミサキちゃん……オオトリさん……ハヤミちゃん……みんなの仇、今から討ちますから……アマツの命に代えても、ここにいる奴らは皆殺しにしますから!」
戦艦仏棲姫の尻尾を展開し、山城姉様を薙ぎ倒す。うまくガードをし、衝撃を逃がしたようでも、その場から吹き飛ばされ小破。まだ腕は動く。
「全員! 喰い殺してあげますよぉ!」
即座に太平洋深海棲姫の艤装を展開。追い討ちをかけるように鯨が山城姉様の真下からせり上がってくる。これはもう回避が出来ないタイミング。
「山城姉様!?」
「朝潮……心配しないで……私が行くわ……」
扶桑姉様が山城姉様の側へ。これでは2人まとめて喰われてしまう。だが、扶桑姉様の目には自信が見えた。今までに見たことのない、力強い瞳。ならば、任せるしかなかろう。
「姉様、まさか……」
「これも艤装なんでしょう……なら……
これはもう賭けだ。なるべくなら避けたい、失敗したら死が確定する大勝負。だから今まで考えていてもやらなかったことだ。
扶桑姉様も山城姉様も、意を決したようにその場から動かない。当然、諦めたわけではない。
「バカですね! 貴女達が絶望の狼煙ですよ! 死んでください!」
2人のいる周囲そのものが丸呑みにされてしまった。何層にも生え揃った歯にすり潰され、影も形も残されないだろう。絶対的な暴力の体現。それが誰であろうとも変わらない、圧倒的な力。
「っああああああああっ!」
2人を呑み込んだ鯨が暴れ回る中、何かが砕ける音。何かがすり潰される音。そして、通信機越しに聞こえる、山城姉様の声。
「これで! 終わりなのよ!」
一際大きな破砕音と共に、鯨が動きを止めた。鯨の中心、ちょうど腹のあたりからヒビが拡がっていく。ヒビが全身に拡がり、
「邪魔だぁ! 退けぇえっ!」
山城姉様の咆哮と共に、鯨が内部破壊により崩壊。
その瓦礫の中から、血塗れの扶桑姉様と山城姉様が姿を現した。特に扶桑姉様は、腕が良くない方向に曲がり、脚もズタズタ。山城姉様も腕が大変なことになっている。
それでも、鯨を崩壊に導いた左の拳だけは綺麗なものだった。ケッコン指輪、司令官の加護のおかげだ。
「嘘……嘘だ、なんで、なんでなんでなんで!」
「んなもん、決まってるでしょうが……」
血塗れのまま、跳ぶ。空中でルーティン、渾身の一撃の予備動作。
「アンタより、私らの信念の方が強いからよ!」
山城姉様の拳が、戦艦天姫の顔面に叩き込まれた。鯨が破壊されたことで動揺していた戦艦天姫は受け身すら取ることが出来ず、物の見事に海面に叩き付けられる。
鯨が脆くなっていたのは簡単なことだった。照明弾の時に、本体と鯨が繋がっていることはわかっている。そこに臭い弾という集中力を削ぐ搦め手が挟まったことで、鯨自体のスペックが若干落ちていたのだ。
「でも……そろそろ私も限界ね……あとは頼んだわよ……清霜ォ!」
「任せて!」
カロリー摂取が完了し、清霜さんが戦線復帰。同時に山城姉様が倒れた。扶桑姉様も瓦礫の中で倒れていた。
戦いは佳境。勝機は、光明は見えた。