欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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生を揺るがす欠陥(バグ)

歓迎会の翌日から、私、朝潮の艦娘としての訓練が始まった。

産まれたばかりの私は水の上に立つこともままならず、艦娘の基礎からまったくできていない。睡眠学習で身体には教えられているらしいが、実際にやるとなると話は別だ。さんざん海に沈む形で立ち方、移動の方法を叩き込まれた。まさか海上を駆ける艦娘が一番最初に水着を着ることになるとは思っても見なかった。

 

「やっと……やっとまともに動けるようになりました……」

「お疲れ様ー! もう水着着なくて大丈夫?」

 

どうにかゆっくりとだが移動できるようになったところで、訓練を見ていてくれた皐月さんが、海上を駆けて近付いてきた。今の自分と違って軽やかだ。

 

「どうにか倒れることなく移動できるようになりました。それでもまだまだですけど」

「あはは、終わった後に身体痛そうにしてるもんね」

「全身筋肉痛です……」

 

波の上で自分の身体を支え続ける必要があるのだから、全身を使ってバランスを取る。慣れてくれば、陸を歩くように海を駆けることができるのだろう。だが、私はようやく慎重に動くことができるようになれた程度。倒れないようにすることで手一杯だ。

 

「慣れれば意識しなくても動けるようになるよ」

「そうですよね。これからも毎日訓練しなくては」

「でも、そろそろ他の訓練もしないとね」

 

私はまだ決めかねていた。まずはやれる事を全てやってみて、一番しっくりすることを伸ばそうと思ってはいるものの、まず何から手をつけていいものか。私の欠陥上、主力としての性能は無いようなもの。火力のある主砲と駆逐艦の非力を補う魚雷を装備できないのは相当なハンデだ。

自分の今後のスペックを知らないというのも大きかった。

艦娘はその艦ごとに特定の成長法則がある。例えば皐月さんなら最初から対空能力が伸びることが約束されている。また、白露さんは火力が伸びるとのこと。主砲に欠陥が無かったことを喜んでいた。

そして、2人には『改二』という2段階の改装があるらしい。通常、艦娘はある程度の練度になると改装という形で限界値を上げることができるが、特定の艦娘はそれを2度行える。限界値が2回上がるということは、それだけ強くなるということだ。中には駆逐艦とは思えないほどの性能になる人もいるのだとか。

私はどうなるのだろう。今後の方針のために、知っておく必要がありそうだ。

 

「まず、私がどのように成長する艦娘なのかを調べてみます。皐月さんはどうやって知ったんですか?」

「資料室に艦娘のデータベースがあってね。そこで調べたんだよ。さすがに自分のことしか調べてないけどね」

 

資料室はまだ行ったことが無かった。本来ならいの一番に行くべきだったのだろうが、自分には少し余裕が無かった。本来の私を知りたくなかったというのが、心の何処かにあったのだろう。無意識に避けていた。

 

「今日は自分のデータを見てみます。今後を決めるために」

「うん、そうだね。いつかはやらないといけないだろうし」

 

少し目を逸らしたような気がした。改めて自分の欠陥を見直すというのは、とても勇気がいる行為なのだろう。私も怖い。

 

「資料室には管理人がいるから、その人に聞きながら調べるといいよ。自分で探すより早いからね」

「わかりました。では行ってきまぁああっ!?」

 

最後の最後にバランスを崩し、顔面から海に飛び込む形になった。気を抜くとこうなる辺り、私はまだまだだ。

 

 

 

資料室は鎮守府の中でも頻繁に使われているらしく、執務室から近い位置にあった。管理人もいるとのことなので、キチンと整理されているのだろう。

 

「失礼します」

 

少し薄暗い中へと恐る恐る入る。おそらく鎮守府中の本がここに集まっているのだろう。本棚が立ち並び、中にはギッシリと本が詰められている。歴史書や海域図、中には漫画や小説などの娯楽本も結構あった。

 

「あら、貴女は新人さん」

 

室内を見て回っていると、奥から管理人と思われる人が出てきた。

本を片手に携えた金髪碧眼で眼鏡をかけた人。おそらく艦娘だろうが、以前の食事会では姿を見ていなかった人だ。

見た感じ、私のように艦娘の制服を着ているように見えない。管理人の仕事は艦娘とは外れているから私服なのだろうか。

 

「貴女がここの管理人ですか?」

「はい。潜水艦の伊8、呼びづらいだろうから、はちと呼んでね」

 

伊8さん、はちさんは潜水艦である。潜水艦の制服は水着、私が訓練の際に着ていた指定の水着がそのまま制服となっている。さすがに水着のまま鎮守府内で活動することはないようだ。

名前を聞くに私と同じ国の人なのだが、見た目は外人のように見えた。後から聞いたが、艦だったときの経験から、肉体(うつわ)がドイツ人のようにされたらしい。艦の魂が余程ドイツに思い入れがあるのだろう。

 

「そういえば、ごめんなさいね。はっちゃん、食事会に出られなくて。ちょっと忙しかった」

「い、いえ、大丈夫です。こうしてちゃんとお会いできましたから」

 

潜水艦という艦種は、私達水上艦とはまるで違う。そもそも海に潜っているのだから、できることが私達以上に制限されている。

この鎮守府にいるということは、この人も少なからず欠陥(バグ)があるはずだ。潜水艦が持つ欠陥は、私とは比べものにならないほど苦労していると思う。

 

「あの、失礼になるかもしれないんですが……」

「はっちゃんの欠陥? ちょっと深刻、かな」

 

やっぱり。攻撃方法すら限られているのだ。そこに欠陥があると、攻撃すらままならない。私が潜水艦娘をよく知らないというのもあるが、主砲なども装備できるとは思えない。

 

「はっちゃんはね、息が続かないの」

「……え?」

「潜水艦なのに、人間と同じくらいしか潜れないの」

 

本来の潜水艦は、作戦海域で常に潜っているほどだ。数分などというレベルではない。長ければ数時間も潜る必要だってある。それが人間並となると、私で例えるなら、数秒しか水の上に立てない、ということだろう。水上艦としては致命的な欠陥(バグ)だ。艦娘としての機能がほとんど無いようなものである。

私は言葉に詰まってしまった。あまりにも絶望的な欠陥(バグ)。自分の存在を揺るがしかねない異常。

 

「でも、瑞雲とかカ号……水上機は飛ばせるから、鎮守府から飛ばして近海監視が基本の仕事、かな。ここの管理人は、本が好きでやってるの」

 

自分がどれだけ恵まれているかを実感した。本来の戦闘ができない人だっているのだ。生まれてきた意味すら、欠陥(バグ)のせいで失いかけている。

 

「辛く……ないんですか?」

「本を読む時間が出来ていいかな。出来ないことは割り切って、出来ることをやっていかなくちゃ。みんなもそうでしょ?」

 

それでも、はちさんはここで艦娘としての生を全うしている。楽しんでいるようにさえ見える。私も見習いたいと、素直に思った。

 

 

 

「あ、そうだ、貴女がここに来た理由は?」

「そうでした……私の……朝潮のデータベースが見たくて。配属されたばかりで、自分がどう成長するか知りたいんです」

「駆逐艦朝潮のデータだね、すぐに出すよ」

 

本来の目的を忘れるところだった。

現在発見されている艦娘は、建造ドロップ含めて200種類を超える。1種につき1冊、全鎮守府での運用データを纏めたデータが用意されているそうだ。私、朝潮は発生例が多いらしく、データも精密なのだとか。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

私の今後が書かれた本、運命の書だ。開くのにも勇気がいる。少し息を吐いた後、意を決して読み始めた。

序盤は今の私でもわかるような基礎知識だった。朝潮型駆逐艦のネームシップであること。自分の進化改良型が陽炎型駆逐艦であること。

特型と呼ばれる駆逐艦より初期装備のランクが上がっているという記述は、装備できない故に手ぶらだった自分には地味に刺さる。

 

「私にも改二が……」

 

読み進めていくと、私にも皐月さんや白露さんのように改二が用意されていることがわかった。

改二という目標がある以上、その特徴に合わせた訓練を今の内からやっていった方が、すぐに戦場に対応できるだろう。

 

「朝潮改二で特化されるのは……火力と……雷撃……」

「主砲の攻撃と、魚雷の攻撃の性能が高いってことね」

 

調べていく内にわかったのは、私の改二は欠陥によって出来ない2つの戦術に重点が置かれていること。どちらも駆逐艦トップというわけではないが、上位に位置付けられる高スペックである。

だが、私には存在しない。

改二になっても、そこまでのスペックアップは見込めない。最初なら少し諦めていた部分だが、現実として突きつけられると苦しかった。

 

「朝潮ちゃん、もしかして欠陥は主砲と魚雷?」

「えっ? あ、はい。そうです」

「朝潮改二で伸びるところに欠陥があるのね……でも、大丈夫。もう少し先を読んでみて」

 

朝潮改二以降に何かあるのだろうか。データを読み進めていく。

 

「朝潮改二……丁?」

 

次に書かれていたのは、2つ目の改二のデータであった。

朝潮改二丁。

丁型と呼ばれる、対空戦闘能力を重視した駆逐艦のスタイルに改装した形。通常の改二より主砲と魚雷のスペックは大幅に下がるが、代わりに対空と対潜水艦の能力、さらには耐久力も上がっている。今の私にはうってつけの改装だ。

 

「駆逐艦朝潮は、改二が2つあるの。普通の改二で火力と雷撃を取るか、改二丁で対空と対潜を取るか。改装した後戻すこともできるから、すっごく便利なの」

 

戻す選択肢は無いにしろ、私が目指す先は決まった。最終的には対空と対潜に特化された成長ができるのだから、そこを今から強化していくのがいいだろう。結果的に、皐月さんと同じ道を歩くことになる。先達者がいるのはありがたい。

 

「これからのこと、決まりました。改二丁を目指します」

「そう、よかった。またわからないことがあったら、資料室に来てね。はっちゃん、応援してる」

「はい、ありがとうございました」

 

先の道が見えたことで、私は決意に満ちていた。足取り軽やかに資料室から出る。自分が歩く道の先に光が見えたのは幸先がいい。明日からの訓練にも一層身が入るだろう。

 

「おや、朝潮君。ご機嫌じゃないか。何かあったのかい?」

 

資料室を出た矢先に司令官と鉢合わせになった。見てわかるほどだったようだ。少し恥ずかしい。

はちさんとの話を司令官にも話す。自分のやるべき事を、自分で決めた事を。

 

「そうかい、朝潮君は自分の歩く道が決まったんだね」

「はい。私は改二丁を目指して、対空と対潜の強化をしていきたいと思います」

「了解した。ならば、私もそのように他の者に連絡しておこう。朝潮君の門出だ、今日はお祝いだな!」

 

直後、執務室から出てきた大淀さんが司令官を引っ張っていった。聞いていた通り、頻繁に宴会をしたがるようだ。祝ってもらえるのは嬉しいが、他の人を巻き込むほどかと言えば、そうではないと思う。

 

「まずは、もっとスムーズに水の上を移動できるようにならなくちゃ!」

 

意気込みを新たに、私は訓練に戻った。司令官の、鎮守府の役に立てる手段はいくらでもあることがわかったのだ。やる気も出るというものだ。

 

力が入りすぎてまた頭から沈んでいったのは当然だったのかもしれない。




朝潮が戦場に出られるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうです。
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