欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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本来の敵

対戦艦棲姫に向けて準備を進める鎮守府。私、朝潮も直接戦うことは無いにしろ、周りのサポートに徹するために日々練度を上げている。

敵が戦艦ということで、決戦艦隊は高火力な戦艦や空母を主軸にした部隊を編成する。そうなると私は該当しないのだが、主力部隊の道を開けるために敵空母群の艦載機の突破、また、不意打ちの潜水艦を撃破する必要がある。私はそちら。

今回は総力戦だ。鎮守府全員で立ち向かう事になるだろう。

 

その主力部隊の1人となるであろう榛名さんも無事改二に。高い練度が必要だったが、私の訓練をしてくれていた時にすでにあと僅かという段階だったため、資源的な問題が解決したところですぐに改装された。

本人の見た目は誤差レベルの変化だが、榛名さんだけが持つ特殊な主砲、ダズル迷彩の35.6cm連装砲を携えている。これにより、榛名さんは対空も若干カバーできるようになったそうだ。

 

この鎮守府には、主力となりうる戦艦と空母が合わせて6人しかいない。そして、戦艦2人は白兵戦特化、空母2人は浮き砲台という状況だ。

そこで、未だ私があまり関われていない重巡洋艦の方々にいろいろと頼ることになる。私が訓練を見たことがある主砲特化の古鷹さん、スナイプ雷撃の高雄さんの他にも数人いる。

その内の1人、基本的に部屋に籠ることが多い人なので、戦っている姿は見たことがない。だが、練度だけでいえば古鷹さんと同等、それ以上の人がいた。

 

「青葉君、君に()()をお願いする時が来たよ」

「おっ、司令官が青葉に何をお願いするんですかぁ?」

 

青葉型重巡洋艦1番艦、ネームシップの青葉さん。欠陥(バグ)は魚雷接続不備。この火力不足で古鷹さんには一歩及ばないが、その分青葉さんにしかない強みもあった。

 

「北への遠征。戦艦棲姫の拠点をある程度絞りたいんだ」

「なるほど、了解ですぅ。あちらの方はまだ()()してませんでしたねぇ」

「危険を冒してまで深入りしなくてもいい。君の資料はとても有益だからね。是非ともお願いしたいんだ」

 

青葉さんの強み、それは低燃費と、訓練によって特化された精密射撃と索敵能力。特に後者である。

本来は一般的、むしろ新鋭の重巡洋艦には一歩劣る索敵能力であるが、青葉さんはそこを優先的に伸ばした。今ではどの重巡洋艦よりも優れた能力として機能している。

最近の作戦は索敵を優先するものがなかったため、あまり出番がなかった。事前調査が必要な場合は必ず駆り出されるとのこと。

 

「ガングート君とその他駆逐艦数名を連れて、()()をお願いするよ。危険と思ったらすぐに撤退すること」

「はぁい、司令官の方針は青葉一番わかってますからぁ」

「朝潮君、青葉君の()()にヒメ君と同行してほしい。あの子を担いで海域を渡るのは君が一番慣れているからね」

「了解しました」

 

私が呼び出された理由はヒメさんの曳航、もとい、運搬。現場に戻ることで何かわかることもあるかもしれない。

 

「では、準備をお願いするよ。ヒメ君にももう伝えてある」

「じゃあ青葉も準備しまーす。いつもの筆記具とノートと……」

 

おおよそ戦場に向かうには不要な準備を始めた青葉さん。本当に()()として出撃するようだ。

 

 

 

工廠に集まったメンバーは、あまり見ない組み合わせだった。

旗艦の青葉さん、北に向かうということで何かわかるかもしれないガングートさん、ヒメさん運搬役としての私の他に、燃費で選ばれた皐月さん、これもまた北ということで響さん、そして珍しくゴーヤさん。

青葉さんの出撃の際には、大体潜水艦が1人付くことになるらしい。その理由はすぐにわかることになる。

 

「アソコニモドルノカ?」

「はい。戦艦棲姫の居場所が少しでもわかるかと思って見に行くんです」

「ワカッタ。ワタシモアソコニカエレルヨウニ、キョウリョクスル。コウワンネエチャンモ、ソウシロッテイッテタ」

 

ヒメさんを以前と同じように抱きかかえて、出撃した。

 

今回の出撃はあくまでも調査。これで敵の拠点がわかれば御の字である。その調査の一環として、青葉さんはゴーヤさんと話しながら進んでいた。

青葉さんの本来の目的、それは北の海域調査だ。港湾棲姫とヒメさんが出現した海域はまだ調査不足。これを機に、調査済みの海域を増やすというのも目的だった。ゴーヤさんが部隊に入ったのは、青葉さんでは調査できない海底を確認するため。

 

「……久しぶりに来るという感覚だな……記憶が混濁する」

 

頭を押さえてガングートさんが呟く。北方水姫として港湾棲姫と関係を持っていたわけだから、やはりこの辺りで発生したようだ。艦娘となった時に抜け落ちた記憶の半分が、この海域に来てからは刺激されているらしい。

 

「大丈夫かい。同志ガングート」

「ああ、大丈夫だ、同志ヴェールヌイ。私は北方水姫ではない、ガングートだ」

 

部隊の中で、実際にあの海域に来ているのは私と皐月さん。進むにつれ、あの時の光景が見えてくる。海が少しずつ赤くなる。だが、敵影は今のところ見ていない。色以外は穏やかな海だ。

 

「ここら辺だったよね、戦艦棲姫と交戦したの」

「ですね。ヒメさんの陣地はそろそろですか?」

「コウワンネエチャンガウゴイタカラワカリヅライケド、ソロソロダゾ」

 

以前ならすでに岩礁帯などが見えてもおかしくないところまではきているが、陣地ごと鎮守府には移動してきたことにより、その辺りも全て消えている。海の色は陣地の名残だろうか。

 

「海域調査します。ここで一旦待機お願いしまぁす」

 

青葉さんとゴーヤさんがいろいろとやり始めた。私には何をやっているかもわからないが、これが今後重要になってくるのだろう。

司令官達が使っている海図は、すべて青葉さんが描いたものと聞いた時には驚いたものだ。元々ブン屋、新聞記者としての性質を強く持っていた青葉さんだが、海の真ん中の鎮守府では書くものも限られる。そこで目をつけたのが海図だそうだ。

青葉さんの海図は、近辺の小島から海底の地形まで丁寧に書き込まれている。出撃の時にはとても頼りになる代物。

 

「ふむふむ……ゴーヤさん、海底の方はどうですかぁ?」

「普通の海と同じでち。拠点があるならもっと遠いとこかも。もうちょっと潜ってくるね」

「お願いしまぁす」

 

私達は青葉さんとゴーヤさんの調査の護衛ということにもなるのだろう。私はヒメさんを抱きかかえているので大した戦力にはならないが、他の3人は普通に戦える。駆逐艦に足りない雷撃は、ガングートさんが賄っている。

 

「目視でも敵は見えないね。今は本当に引き払っちゃっただけなのかな」

「あちらもここまで来るのに遠征しているのかもしれませんね。ここよりももっと遠いところに拠点があるのならいいんですけど」

 

周りを見回しても、海が続いているだけだ。

だが、ヒメさんとガングートさんだけは一点をジッと見つめていた。

 

「……アサ、ナンカクル」

 

ヒメさんが何かに気付いた時、ガングートさんが即座に動き出した。

 

「青葉! 歯を食いしばれ!」

「えっ、ちょっ!?」

 

艤装の腕を使って青葉さんを掴み上げると、即座にそこから撤退。その直後、青葉さんが立っていた地点に何処からか飛んできた砲弾が降りかかった。

大きな水飛沫が立っている間に、私達にも指示。混乱の中で、爆音が言葉を掻き消していたが、すぐにここから撤退しろと、口の動きからわかった。

 

「アサ! アッチ! ()()()()()!」

 

ヒメさんが指差す方、私には何も見えなかった。艦娘の目視確認の外からの射撃。青葉さんの索敵範囲からも外れている。水飛沫の大きさから言って大口径。

 

「青葉、提督に連絡しろ! 黒の砲撃を受けた! あれは間違いなく戦艦棲姫だ!」

「りょ、了解です! その前に下ろしてくださぁい!」

 

突如撤退戦が始まった。

青葉さんの索敵から外れたのは、海底から現れたからだ。青葉さんは重巡洋艦故に、ソナーが装備できない。そのため、海上ならかなりの広範囲を索敵できるが、海中となると話が変わってしまう。さらにいえば、海中にいるゴーヤさんは索敵範囲がソナーほどではない。

この超アウトレンジの攻撃は想定外だった。海中から主砲の先端だけ出して撃ってきている。それでこの精度。

 

「青葉の索敵にもかかりました! 海中から大口径はズルいですぅ!」

「のたまってないでさっさと連絡しろぉ!」

 

撤退している間も、周りにいくつも着弾。ゴーヤさんは海中にいるおかげで被弾は無いが、私達には堪ったものではない。

 

「こちら青葉です! 黒の深海棲艦からの強襲! 撤退戦始めますぅ!」

「アサ! ダキカタカエロ! ワタシガダス!」

 

お姫様抱っこの状態では難しいと判断し、傍から抱える形に。これでヒメさんの両手が自由になる。ということは、

 

「スイキネエチャン! コッチ!」

「棲姫! 行けぇ!」

 

回避訓練の中で見せた、ヒメさんの全機発艦。今回は全てが実弾の、本当の攻撃。私の撤退するスピードの中、ヒメさんが攻撃していると、さながら私が空母になった気分だった。

ガングートさんが私の後ろまで下がると、ヒメさんの艦載機が一斉に砲撃の主へと飛んでいく。それを目くらましにして、一気に距離を離す作戦だ。

 

「テキ! イッパイ!」

「戦艦棲姫は!」

「イル! ソイツダケハヤイ!」

「あいつ低速じゃないのか!?」

 

青葉さんの連絡も終わっており、全力で逃げる状況の中、青葉さんからも絶望的な言葉。

 

「1体だけ極端に速いです! サイズも大きい!」

「ちっ、私が迎え撃つ!」

 

すぐに目視できるところまで来ていた。一度見たことのある戦艦棲姫の姿が目に入った。

相変わらずの巨大な自律型艤装。以前に見た大和さんや武蔵さんのものと同じようなサイズの主砲。それに抱きかかえられた黒い女。

 

「棲姫! お前は艦載機で雑魚どもを散らせ!」

「スイキネエチャンハ!」

「戦艦棲姫を止める! 青葉、同志ヴェールヌイ、援護しろ! このままだと確実に追いつかれる!」

 

追いつかれるのは確かだ。敵の方が格段に速い。私達は調査のために来ているから、速度はガングートさんに合わせた低速仕様だ。さらに、私はヒメさんを抱きかかえるために装備を少し下ろしている。

 

「こ、こちら青葉、逃げ切れないのでガングートさんが戦艦棲姫を迎え撃とうとしてますぅ! 実働隊を早くぅ!」

「いくぞ! 我に続けぇ! Ураааааааа!」

 

逃げ切れないと判断したガングートさんが急速旋回。響さんもそれに続く。青葉さんは少し出遅れたが、調査道具をしまい主砲を用意した。

 

「潜水艦はいないでち! ゴーヤはヒメちゃんの艦載機の方に行くよ!」

「任せた! 朝潮と皐月は棲姫を頼む!」

 

すでに間近まで戦艦棲姫が迫ってきていた。私でも目視できる範囲だ。だが、以前に見た戦艦棲姫と少し違う。外套を羽織っている。

 

「皐月さん、あの戦艦棲姫……」

「うん、ボクらが見たヤツと違う!」

 

以前の戦艦棲姫は古鷹さんと白露さんの2人がかりで無傷。こちらも傷は負わなかったが、撃退までしか行けなかった。

だが、今回は何かおかしい。戦艦棲姫から違うものを感じる。

 

「戦艦棲姫! いや、貴様、()だな!?」

「ヨクワカッテイルミタイネ……」

 

戦艦棲姫()。大幅なスペックアップが施された深海棲艦。深海棲艦にも改造の技術がある事も驚きだが、今はそんなことを言っていられない。

以前見た戦艦棲姫ではない。こちらが本来の敵。白の深海棲艦との共闘で倒すべき目標。

 

「分が悪いが仕方あるまい。最低限の迎撃はさせてもらうぞ!」

「ナンドデモ……シズメテ……アゲル……」

「沈むのは貴様だ! カカッテコイヨォ!」

 

実働隊がここに到着するまで、私達は撤退しながら粘らなくてはいけない。少なくとも現状は3対1。他の深海棲艦はヒメさんが食い止めてくれている。

それでも心許なかった。何よりあの巨大な艤装が危険すぎる。ガングートさんは自らの艤装で打ち合えているが、私達はあの攻撃を受けたら大破は免れない。

 

「本体も守られて……!」

 

接近戦のサポートは天龍さんで慣れているはずの響さんでも、なかなか2人の戦いに入れないでいる。本体を攻撃したくとも、艤装が巨大で即座にガードする。さらにはその肩の部分に備え付けられた主砲が定期的にこちらを狙ってくるのが厄介だ。

私と皐月さんは避けることしかできない。特に私はヒメさんに負担のかからないように慎重に行動する必要がある。

 

「とりあえず、あの主砲を止めますね」

 

簡単に言う青葉さんだが、本体は狙えない。

 

「どうやってだい。私の攻撃もすぐにガードされるんだが」

「簡単ですよ。()()()()()()()()()()

 

主砲がこちらに向いた瞬間、敵の砲撃よりも先に青葉さんの攻撃が砲の中へと導かれるように撃ち込まれた。行き場を無くした砲弾が砲内部で爆発。自律型艤装の砲を吹き飛ばす。

異常な程の精密射撃。おいそれと真似できるものではない。足りない火力を補うために磨き続けた、青葉さんの技術の賜物だ。

 

「いいぞ青葉! Ура!」

「ヤルジャナイ……」

 

ガングートさんの攻撃が一層激しくなる。が、主砲を破壊された戦艦棲姫改は何食わぬ顔でその攻撃をヒラリヒラリと躱していく。躱せなくても、自律型艤装が攻撃をガードする。

あの自律型艤装、それそのものがガングートさんより強い。膂力もさる事ながら、耐久力が桁違いだった。主砲が破壊されても、そこが少し焦げただけ。それ以上のダメージが見当たらない。白兵戦では分が悪い。

 

「うー……一度やるとすごく警戒されるのが玉に瑕ですぅ」

「他に狙えるところは……」

「あの艤装、弱点が見えないんですよぉ!」

 

ついには主砲攻撃までサポートの2人を無視してガングートさんに集中し始めた。響さんと青葉さんの攻撃は装甲に弾かれ、白兵戦も徐々に消耗。主砲を避けながら攻撃していては、威力が足りずに簡単にいなされる。

 

「ツカマエタ……♪」

 

その一瞬の隙を突かれたのだろう。自律型艤装の腕が、ガングートさんを掴んでしまった。今のままではサポートの2人の攻撃がガングートさんに当たってしまう。

 

「シズミナサイ……」

 

主砲がガングートさんの頭に向いた。だが、今は一番密着できている状態。最大の隙。

 

「Ураааааааа!」

 

ガングートさんには、本来あり得ない隠し球があった。魚雷だ。掴まれた状態で発射すれば、お互いに大破するほどのダメージになる。

流石の戦艦棲姫改もこればかりはまずいかと思ったようで、魚雷が発射されそうなタイミングでガングートさんを遠くに投げ飛ばした。それも、狙ったかのように私の方へ。

 

「アサ! ニゲロ!」

「わかってます! ヒメさんも艦載機を止めないで!」

 

艤装のせいもあってかガングートさんは大きい。最大戦速でも紙一重だった。なんとかヒメさんの維持もできている。

だが、避けた先は戦艦棲姫改の射線上。おそらく、最初から狙いはヒメさんだ。私ごと葬ってしまえば、邪魔な白の深海棲艦が減る上に、鎮守府の戦力も1人減る。

 

「まずい……!」

 

ギリギリまで加速し、射線から脱出を試みる。が、間に合いそうにない。せめて、ヒメさんだけでも。戦艦棲姫改に背中を向け、ヒメさんに覆い被さる。

 

主砲の轟音を聞いた時、私の意識が途絶えた。




戦艦棲姫は低速だけど、戦艦棲姫改は高速。マント羽織ったら速くなるとかインチキかと思いました。
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