欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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深海海月姫

戦艦天姫の自立型艤装を破壊した際に体内に丸呑みにされてしまったことが原因で、その細胞が体内に入り込んでしまった扶桑姉様と山城姉様。そのせいで入渠が終わっても取り除けない高熱を患ってしまった。

扶桑姉様はまだ半分が深海棲艦であるおかげで高熱だけで済んでいるが、純粋な艦娘である山城姉様の体内に深海棲艦の細胞が入り込んでしまっているというのは、どんな悪影響があるかわかったものではない。最悪の場合、山城姉様が深海棲艦化してしまう可能性だってある。

体内に入った細胞を中和するための薬を作るためには、本人の細胞が欲しい。だが、戦艦天姫は撃破済み。消滅しているというのに体内に細胞を残してくるとは、最後まで厄介極まりない敵であった。

 

 

 

私、朝潮は今、その治療薬の材料になるかもしれない細胞を持つ深海棲艦、深海海月姫に会うため、センさんの案内の下、西へと向かっている。

 

「こちらの方に来るのは久しぶりね」

「泊地棲鬼の時以来、来てなかったんだっけ。もう大分昔に思えるわ」

「そこからいろいろありましたからね……」

 

午後に鎮守府を出たので、事と次第によっては帰投が夜になる可能性があった。それを考慮して、高速艦の駆逐艦のみの部隊で、哨戒を兼ねた出撃。つまりは哨戒部隊。私を駆逐艦として認識していいかはわからないが、姉様達のことだから居ても立っても居られなかった。

今回の哨戒部隊は私、霞、春風の3人。こちら方面に来ている経験があることと、深海組であれば相手を刺激しないかもしれないため。

 

3人で哨戒部隊で来るのも、泊地棲鬼の一件以来。何だかんだこの組み合わせは、この海域に合っているかも。

 

『朝潮、そろそろ到着よ……』

「了解です。緊急時は撤退を視野に入れていますので」

 

海底のセンさんから通信が入る。今のところ、見知らぬ深海の気配は感じない。春風とここに来た時に反応しなかったのだから、余程深いところにいるか、まったく違うところにいるか。

 

『前見た時から動いてるみたいだよー』

『少し……南下するわ』

 

気配が見つけられなかったためか、周辺を調査。すると、センさんの向かったさらに南の方から、僅かにだが深海の気配を確認した。霞と春風も気付いたらしく、そちらの方を凝視。

 

「うっすいわね……」

「大分深いところにいらっしゃるのでしょうか」

 

奥深くにいることは間違いが無かった。気配が海底の方向に遠い。霞と春風には、本当に薄っすらとしか感じられないようである。

 

「気配、確認しました。大分底の方のようですが」

『こちらでも確認……少し警戒してるわね……』

『朝潮の大っきい気配で怖がってるのかもだよ』

 

あちらには私の気配が大きく伝わっているようだった。抑え込むことが出来れば抑え込むのだが、これだけ長いこと付き合ってきても制御の方法だけはピンと来ないのだから仕方ない。

 

『私達が……まず話をしてくるわ……』

「はい、お願いします」

 

私も潜れないことはないが、まず顔見知りが説明してくれた方がいいだろう。溺れていた人間を助けるような温和な性格であるのなら、センさんの説明で何かしらのアクションをしてくれるはず。

 

『久しぶりね……深海海月姫』

『クラゲのお姉ちゃん、久しぶり!』

『……ええ、久しぶり。珍しいな』

 

聞いたことのない声が通信の先から聞こえる。これが深海海月姫。溺れていた佐久間さんを助けたという、穏健派の深海棲艦。海の底の底にひっそりと暮らしているのは、誰とも関わり合いにならないようにするためなのだろうか。

 

『ここから離れていたみたいだけど』

『ええ……以前、黒に領海を侵略されてね……妹と一緒に別の場所に移動していたの』

『……それは難儀なことだ』

 

ゆったりとした会話。以前から知り合いだったということがわかる、お互いを認め合っているような言葉遣い。深海棲艦でもこういった人付き合いというのもあるのだと思うと、人間や艦娘と何ら大差ないのだと思い知らされる。

だがそれは穏健派だからである。黒は侵略を快楽として考えている節が多い。イクサさんは例外だが、戦ってきた黒は軒並みそうだった。

 

『それで、そんな貴様が何故ここへ?』

『貴女にお願いがあって来たの……』

 

ここからが本題。

ある意味病に冒された艦娘と半深海棲艦の治療に、身体の一部、髪の毛でもいいので分けてほしいと交渉する。

私達は海上で黙って聞いているしかない。変に口出ししても、話をややこしくするだけ。下心などなく、純粋に姉様達を助けるために行動しているのだが、その意思が通信越しに伝わるとは到底思えない。

 

『……私で無ければならない理由は』

『貴女の細胞が薬に使える可能性があるの……お願い……出来ないかしら』

 

表情は見えないが、深海海月姫は難色を示しているように聞こえる。穏健派といえど、人間や艦娘と馴れ合うつもりはないということだろうか。

なら何故佐久間さんを助けたのだろう。気まぐれか、何かしら理由があるのか。

 

『海の上にいる気配と何か関係が?』

『助けたいのは……その子の姉なの』

 

私に興味を向けた。やはり海の底まで届いてしまっているようだった。もう少し離れた方が良かったか。

 

『……直接会って話そうか』

『わかった……朝潮……今からそちらに向かうわ』

「了解です」

 

海の底にいる見知らぬ気配が少しずつ海面に向かって浮上してくる。警戒は解かれておらず、艤装も展開している状態。成人女性と、それと同じほどの大きさの艤装が、それなりのスピードで浮上してきたため、一時的にその場から離れる。

今まで出会った人達とはまた違ったタイプの深海棲艦が海上に浮上。素足なのに海面に立つことが出来るようだが、基本は海中で生活しているようだ。それでも艦種は正規空母。深海棲艦はつくづく特殊。

 

「……中枢棲姫……? いや、奴は陸上型だからここには来れないはず」

 

こう言われるのは想定内。

 

「私は元艦娘の深海棲艦、朝潮です。初めまして、深海海月姫」

「元艦娘? ……元艦娘!?」

「新鮮な反応ですね。後ろにいるのは私の妹の霞と春風。共に半分深海棲艦です」

 

私達は立場がおかしい3人だ。早速、深海海月姫は混乱してしまっている。先天性も後天性もおり、まともでないのは見てわかるだろう。

 

「私達のことは少し置いておかせてください。お願いです。私の姉を救うため、力を貸してもらえませんか」

 

誠意を込めて、頭を下げる。これで絶対に助かるとは限らない。私の細胞で薬が出来ていて無駄骨になるかもしれない。だが、私が今やれることはこれしかない。私の細胞でダメなら、深海海月姫の細胞に頼るしかなくなる。

 

「……ダメ……でしょうか」

「1つ教えてほしい。誰から私の存在を知った」

 

自分の存在の出所を妙に気にしているように思える。

そういう性質を持つのもわからなくはない。私も陣地にいるときは干渉されたくないと思う。深海海月姫は海の底にいる時に同じように感じるのだろう。

 

「数年前、貴女は溺れていた人間の女性を救助しませんでしたか?」

「……ああ、今でもハッキリと覚えている。久しぶりに陽の光を浴びようと思っていた矢先に、上から人間が沈んできたんだ。私から他人に干渉したのは、後にも先にもアレだけだ」

 

そもそもこんな何もない海で何故人間が沈んでくるんだと疑問に思ったそうだが、目の前で死なれても寝覚めが悪いと救助したようだ。

佐久間さんがここにいたのは、新人時代に海域調査に出ていたから。今でこそこれだが、当時は深海棲艦がいない海域とされていたため、教育の場としてよく使われていたらしい。そんな中、沖に流されてしまった佐久間さんが、混乱して小船から落下したことが事の顛末。

 

もしここに深海海月姫がいない、また浮上してきていなかったら、佐久間さんは死んでいた。偶然に偶然が重なった結果、命が救われ、深海棲艦研究の道を選ぶことになったわけだ。

佐久間さんの運命を大きく変えた出来事は、深海海月姫の気まぐれだった。今までのことを考えると、佐久間さんは雪風を凌ぐほどの豪運なのかもしれない。

 

「貴女が救助した人間、今は私達の仲間なんです。その人に教えてもらいました。そうしたらセンさんが貴女の居場所を知っていると」

「ごめんなさいね……緊急事態だったから」

「セン? ……ああ、潜水棲姫のことか」

 

センさんも深海海月姫の性格はわかっているようで、なるべくその居場所を隠すようにしているそうだ。今回は本当に緊急事態だったため、案内もしてくれたし、交渉もしてくれた。

 

「……そうか。私はそう簡単に見つかるつもりは無かったが……それなら仕方あるまい」

 

ただでさえ他人に無干渉を貫いているような深海海月姫だ。おそらく知り合いなんてこの周辺にいる深海棲艦のみ。まともに会話が出来るのも潜水艦姉妹くらいだろう。

 

「悪意があるわけではないんだな?」

「勿論。その人間は、貴女に助けてもらった御礼が言いたいと話していました。是非とも会ってほしいくらいです」

 

こちらに攻撃の意思がないことは伝わったようだ。騙しているわけでもない、本心からの協力願いであることも。

 

「……その人間に会いたい。貴様達についていこうか」

「ありがとうございます。本当に助かります」

 

快く、というわけではないが、私達についてきてくれることとなった。深海海月姫も、救助した人間がどうなったかは少し気になっていたらしい。

 

「……戦うことにならなくてよかったわ」

「ええ……浮上してわかりましたね。あの方はとても強い」

 

ひとまずは何事もなくてよかった。霞と春風は臨戦態勢ではあったものの、武装を展開するまでもなく話が進んだことで胸を撫で下ろしている。

この深海海月姫、海上に浮上したことでわかったが、相当手練れな深海棲艦だ。敵対された場合、この少数で勝てるかが正直わからなかった。長くこの場所で生きているだけある。

 

 

 

鎮守府へ帰投。その間、深海海月姫は常に海中に潜っていた。ほとんど潜水艦と同じように行動しているのは、名前通り海月(クラゲ)ということか。

 

「帰投しました」

「ご苦労様、朝潮君。それで、深海海月姫は……」

「浮上してきます」

 

工廠内に入ったことで、深海海月姫が浮上してくる。異形の艤装もそのままなため、ここで攻撃されたら酷い目に遭いそうではあるものの、敵意は感じられない。警戒心を無くすことはないが。

 

「……人間……艦娘……深海棲艦……()()()……なんだここは」

「ここは全ての種族が共存する鎮守府。ようこそ深海海月姫、協力してくれてありがとう」

 

異様な雰囲気の工廠に驚きを隠せない深海海月姫。司令官が引き上げるために手を伸ばすが、その手を取ることは抵抗があるようで、すり抜けるように地上に上がった。ちょっと残念そうに苦笑する司令官。

 

「潜水棲姫から話はある程度聞いている。サクマという女は何処に?」

「佐久間君なら今までここに……佐久間君?」

 

工廠の隅、自分の部屋の方でこちらの様子を伺っていた。過去の命の恩人であり、自分の方向性を決めた人が目の前にいるということで、あの佐久間さんですら緊張で萎縮してしまっていた。

このままだと話が進まないので、私が腰から抱きかかえてこの場に引きずり出す。

 

「あ、朝潮ちゃん、乱暴はやめてほしいな」

「この期に及んで何を躊躇ってるんですか。御礼を言うんでしょう」

「流石にビビっちゃうって」

 

深海海月姫の目の前で下ろした。

 

「……私が助けたままだな」

「はい……私は貴女に助けられて今まで生きてこれました。ずっと御礼が言いたかった。あの時は、本当にありがとうございました。貴女のおかげで、私はこの道を目指すようになりました」

 

涙目で御礼を言う佐久間さん。そういうことを言われ慣れていない深海海月姫は、どう返せばいいのかわからずにただ言葉を聞いているだけ。まるでお見合いである。

 

「そ、そうだ! 細胞、細胞を頂けたら! 朝潮ちゃんの細胞はやっぱり難しそうで、うん、深海海月姫さんの細胞なら行けるかもしれないので!」

「……そういう話だったな。ああ、提供しよう」

 

無言の空間で気まずくなったか、すぐに本題を切り出した。深海海月姫も佐久間さんの顔を見て、今まで揺らいでいた協力を正式に決めてくれた。

 

「研究室は私の部屋なので、こ、こちらへ……」

「ああ」

 

来て早々ではあるものの、深海海月姫は艤装を消した後、素直に佐久間さんについていった。今まで警戒心しか無かったが、佐久間さんの顔を見た途端に素直になった。誠意が伝わった、と考えればいいだろうか。

 

「ここに来たら必ず協力してくれると思っていたわ……」

 

シンさんを車椅子に座らせたセンさんがこちらへ。深海海月姫の後ろ姿を見ながらポツリと呟く。

 

「確証があったんですか?」

「あの子……助けた人間のこと、ずっと気にしていたもの。私達と知り合ってから……度々話題に出したくらいだし」

「クラゲのお姉ちゃん、あの時の人間にまた会いたいってずっと言ってたんだよ」

 

ずっと1人で海底にいたが、たった1回の例外との邂逅によりその考えに変化があったようだ。

深海海月姫もまた、人間との出会いで考え方が変わった者であった。佐久間さんは積極的に動き続け、深海海月姫はこの時をずっと待ち続けた。お互いに念願が叶ったということだ。

 

これならきっと上手く行く。流れはいい方向に向かっている。




深海海月姫、頭上に現れる艤装はラスボス時のみなんですよね。久々に出たときはありませんでした。B環礁にいるかいないかで変わるのかもしれません。
ここで出た深海海月姫は、B環礁でなくても艤装を持ちます。特別な理由はありませんが、強個体だから、ということで。
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