欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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研究者の本気

深海海月姫が鎮守府に来てくれたおかげで、扶桑姉妹を治療する薬の作成に取り掛かる。

私、朝潮の持つ中枢棲姫亜種の細胞では、治療薬にはならなかったそうだ。扶桑姉妹を苦しめる原因である太平洋深海棲姫と似たような生まれである中枢棲姫とは、やはり一線を画しているということ。私の身体はあまりに特殊すぎる。近しいものにもならなかったらしい。

 

深海海月姫からは、艤装や艦載機に生えている触手のようなものから細胞を貰った。本体に痛みがなく、回復により修復されるため、そういう場所の方がお互いに気が楽。

他の材料は既に用意してあった。大和さんの細胞は、元帥閣下にもお願いして、護衛艦隊の大和さんから、髪の毛の一部を貰う。注射嫌いであることは知っていたので血液は今のところ断念。本当に必要になった場合は、縛り上げてでも奪うとのこと。

 

そして人間の細胞は、

 

「戦艦天姫の細胞に似せたいのなら、提督という役に就くものの細胞がいいだろう。私が提供しているよ」

 

我らが加藤司令官が提供。血液と髪の毛を採取し、薬の一部とする。最初は佐久間さんの細胞の予定だったが、より戦艦天姫の細胞に近いものをと、提督の力を持つ司令官が率先して協力している。山城姉様はとても喜びそう。

 

「山城さん、入渠自体は終わるんでしたっけ」

「ああ、もう少しというところだよ。だが、前にも言った通りそのままにしておく。高熱を出した状態で起こされても、山城君が辛いだけだろう」

 

薬が完成し、それによる治療が完了してから起こすという方向性は変わらない。少しでも負担は減らした方がいいだろう。今回のこれは、ただの体調不良ではない。艦娘としての死を招く可能性だってある。

 

「まずはすぐに調合します。確率は低いですが、やれることは全てやりますので」

「佐久間君しか頼れる者がいない……頼んだ」

「任せてください。こんなことで終わらせたりしませんから」

 

力強い言葉だった。今まで、北端上陸姫が引き起こしてきた脅威を、人間の身で解決してきた佐久間さんは、もはや私達の希望。今回もきっとやってくれるだろう。

 

 

 

翌朝。扶桑姉様の入渠も完了するが、ドックは開けていない。薬がまだ完成していないからである。

佐久間さんはあの後、深海海月姫と自分の部屋に篭り、休憩も取らずに調合をし続けていた。早急に治療しなくてはいけないという焦りもあったのだろうが、やはり本物の細胞とは違うために上手く中和が出来ないということに尽きる。

 

徹夜での作業を労うため、私は雪さんと一緒に朝食を部屋に運ぶ。手が離せない可能性もあるため、簡単に食べられるパンの類で。

部屋の前に着くなり、中から叫び声が聞こえた。

 

「……あぁーっ! ダメだ! ほんの少し残る!」

「残ったらダメなのか?」

「ダメダメダメ! 艦娘の身体に深海の細胞が残るとか、絶対悪影響あるよ!」

 

難航しているのは火を見るよりも明らか。私達が中に入っても、一瞥すらされないくらい憔悴しているようだった。深海海月姫はチラリとこちらを見るがそれだけ。

佐久間さんと深海海月姫は同じ部屋で一晩を過ごし、とてもなかよくなっていた。最初の緊張感は無くなり、距離も近い。お互いの考えを変えた者として、無二の親友と言えるような仲に。

 

「くっそー……何がダメなんだろ……。均等じゃダメ、深海多めもダメ、艦娘多めもダメ、人間多めもダメ、1つ少なめも全部試したし……」

 

頭を抱える佐久間さん。疲れ切っていて頭はボサボサ。着ている白衣も汚れに汚れ、女性からは出てはいけない匂いがほんのり。これは指摘した方が良さそう。

 

「佐久間さん、朝食です」

「えっ!? あ、いたんだ。ありがとね2人とも」

 

本当に私達は気付かれていなかった模様。本当に余裕が無いようだ。

 

「佐久間さん、お風呂に入ってください。ちょっと臭いますよ」

「いやもうそんな余裕なくて」

 

雪さんの指摘に対しても、軽く躱すような話し方。朝食もパンだとわかると、手掴みしてさっさと食べてしまった。時間が惜しいのはわかるが、焦っていては進められるものも進められない。

 

「佐久間さん、お風呂に入ってくださいね」

「いや、だからね」

「入 っ て く だ さ い ね」

「ウス」

 

珍しく強く出る雪さん。長いこと助手をしているだけあり、そういったところのサポートもしているようだ。佐久間さんは研究以外はかなりズボラなようで、こういうところは雪さんに頼りっぱなしなのだろう。素直に言うことを聞いた。

 

「海月さん、ちょっと休憩しよう。行き詰まっちゃったし、頭休ませないとダメっぽい」

「そうか。なら休むといい。そのフロというのに行けばいいのか?」

「それがいいね。あ、そっか、お風呂初めてだよね」

 

疲れた顔で深海海月姫を連れてお風呂に向かった。部屋には私と雪さんが残される。雪さんは溜息を1つついてから、部屋の片付けを始めた。研究しているものの場所はそのままに、散らかったものだけを元の位置に戻していく。

 

「雪さん、強いですね」

「言わないと研究やめないんだもん。いつか身体壊すよ」

『ユキの方が保護者だな』

 

アサも苦笑である。

 

雪さんと部屋を片付けていたら、お風呂からドタドタと走ってくる佐久間さんの反応。深海海月姫もそれを追っているところを見ると、お風呂に入ったことで何か思い付いたようだった。

 

「ユーリカ! ユーリカ! あっちも建造で作ってんだから、建造の材料も混ぜないとダメじゃん! 細胞だけじゃなくて建造素材!」

 

部屋に入るなり高らかに叫んだ。なるほど、確かに。

戦艦天姫が建造された瞬間を見ているのは磯風さん達だ。真相のことを話した時に、深海の素材が入れられていたと言っていた。建造に使われる深海の素材というのが何かはわからないが、それについてはまた聞けば……と、ここまで考えたが、今の磯風さんにあの当時のことを聞くのは憚られる。

 

「建造に使う深海素材……一体何なんでしょう」

「片っ端から試すしか無いよね。よし、セキちゃんから調達しよう!」

 

そのまま工廠へ向かってしまった。本当に嵐のような人である。研修室に置いていかれてしまった深海海月姫も、ここに来てこの行動力に呆然。

 

「……すごいなサクマは」

「本当に。いつも助けられています」

 

呆然の中に、尊敬も混じっている。他者を助けるために、寝る間も惜しんで動き続けている佐久間さんは、私達には少し眩しい。私達の司令官と並んで、人間としては最上級に位置付けられるのではないかと思えるほど。

 

「こういう人間なら信用出来る」

「それは良かったです」

 

深海海月姫も仲間になってくれれば心強いのだが、それはさすがに高望みか。そもそもが誰とも関わり合いを持たないように日がな一日海底で過ごしていたような人が、わざわざ最前線に滞在するなど考えられない。

 

 

 

昼食時、食堂に姿を現さなかった佐久間さん。またもや食事を抜いて研究に没頭している。それを知った雪さんは即座に叱りに向かおうとしたところ、その前に佐久間さんが食堂に駆け込んでくる。

 

「朝潮ちゃん、中和剤完成したからすぐ治療するよ!」

 

それだけ言って、またすぐに出て行く。時が止まったかのように静まり返るが、すぐに大歓声。当事者はここにはいなくなってしまったが、その功績を称えていた。

私もすぐに行かなければ。用意されている昼食を大急ぎで食べ、すぐに片付けて工廠へ。

 

「来ました!」

「今、ドックの中に投与したよ。扶桑さんの血液の中にある細胞はこれで中和して消滅したから、これで大丈夫なはず……!」

 

近しい細胞でもどうにか調整し、他のものと調合しながら辻褄を合わせ、最終的には敵の細胞とほぼ同じものを作り上げてしまった。決め手はやはり、建造のための深海素材だった。さらには、深海の細胞は私、中枢棲姫亜種のものも含めたハイブリッドな状態だそうだ。私と深海海月姫、どちらか片方だけでもダメだったらしい。

 

少なくとも扶桑姉様は大丈夫だと確信している。調合の結果自体を、扶桑姉様の細胞を使って実験をし、中和を確認しているのだ。

全ての問題は、山城姉様の方に集約していた。『種子』を埋め込まれるのとはわけが違う。

 

「ちゃんと中和されたとしても、高熱はすぐには下がらないと思う。今日1日は安静にしてもらわなくちゃだね。起こさない方がいいかな」

 

中和剤が投与されたものの、外見的な変化はあまりない。全て体内で引き起こされていることのため、定期的に血液検査をするくらいしか確認する手段がない。ならば、ドックに入ったままの方が安心か。

 

『私はもう起きてるわ。開けてちょうだい』

 

なんて話している最中にドックから突然声が。今まで眠っていたかと思われた山城姉様が、うっすら目を開けていた。大分前、ドック内から自力で抜け出ようとしたガングートさん以来である。

ほぼ無いことのため、必要以上に驚いてしまった佐久間さん。私もドックの中から声をかけられるのは2回目のため、流石に驚く。

 

『頭がクラクラするけど、大丈夫よ』

「正直なこというと、起きててもらった方が楽ではあるんだよね。検査がしやすいから」

 

ドックの中の者を検査するのはどうしても妖精さん経由になる。ということは、明石さんも必要になるため、必要以上に人員を割く必要が出てきてしまう。管理のしやすさで言うのならドックで寝ているよりは起きて部屋で寝ている方が楽と。

ただし、山城姉様への負担は当然段違い。高熱の辛さは私も知っている。

 

『私も……開けてもらえないかしら……』

 

扶桑姉様まで目を覚ましてしまった。この姉妹は規格外過ぎる。

 

「はぁ……流石に私の独断では決められないから、加藤少将に許可貰ってくる」

「それまでは私が側にいます」

「うん、お願い」

 

佐久間さんが司令官に許可を貰ってくる間に、私は2人の着るものを用意しておく。許可されようがされなかろうが、用意しておいて損は無いはずだ。

 

『フソウ姉さんもヤマシロ姉さんも、何で入渠してるのに起きられるんだ……』

「昔にガングートさんも似たようなことがあったの。その時は内側からドックこじ開けたわ」

『滅茶苦茶すぎるだろ』

 

それについては否定できない。

 

佐久間さんはすぐに許可を貰ってきた。司令官曰く、本人の意思は尊重するが、くれぐれも安静にというのが条件。今は当然全裸なので司令官はこの場には来ていないが、すぐにこちらに来るとのこと。

 

「明石さん、ドック開けて」

「はいはい。ホントここの扶桑姉妹は何処かおかしいね」

 

苦笑しながら明石さんが2つのドックを開けた。当然身体は本調子では無いが、身体を起こすことくらいは出来るようだ。

用意しておいた着るものは、寝間着の作務衣とは違う浴衣のような検査着。今ならこちらの方が着やすくて楽なはず。それに、2人とも浴衣が良く似合う。

 

「……身体が普通に動かないわね」

「病み上がりじゃなくて絶賛病み中なんだから、絶対無理しないこと。倒れたらドックに押し込んででももう一度寝かすから」

「肝に銘じておくわ」

 

自力で歩くのも辛そうなので、車椅子を用意してもらった。私1人で2人のものを押すのは難しいものの、出来なくは無い。いざという時はヨルに手伝ってもらおう。そういう意味では、尻尾は3本目の腕として使える。

 

「ここまで弱るのは初めてね。アレからどれだけ経ったの?」

「約2日ですね。あれから二晩越え、今は午後です」

「そう。結構寝てたのね」

 

あっけらかんと言い放つが、顔色はやはり良くない。扶桑姉様も元々色素が薄いのも相まって、体調不良が如実に表れている。

 

「定期的に血液検査するから、絶対安静。事情ってわかってる?」

「今起きたばかりだもの。わかるわけないでしょ」

「今2人の身体の中には、戦艦天姫の()()()()が入れられてるの。中和剤を作ったから自然と良くなると思うけど、山城さんの場合はうまく作用しない可能性だってあるから」

 

掻い摘んで私が説明した。鯨を中から破壊したことがこんな事態を引き起こすなんて思っても見なかっただろう。だが、後悔したような顔はせず、素直に受け入れていた。こうなっても仕方がないことだし、ああしなければあれ以上の被害が出ていた可能性がある。

扶桑姉様が咄嗟に思い付き、山城姉様が覚悟を決め、2人がかりで破壊し、最後の被害を被る。全て姉妹の中で終わらせ、二次被害すら起こさない。あの戦いのMVPは、この2人だろう。

 

「ちなみに、うまく作用しなかった場合、私はどうなるの?」

「ずっと体調不良が治らないか、深海棲艦化かな。死にはしないと思うけど……いや、艦娘としては死ぬことになるかもしれない」

「そう。まぁそれは無いわね。私が筋肉で捩じ伏せるわ。誰が深海棲艦になんてなってやるもんか」

 

やれそうだから恐ろしい。深海棲艦化に筋肉万能論が通用したら、それはそれで怖い。

 

「中和剤というのは……どうやって作ったのかしら……」

「戦艦天姫の細胞に酷似したものを代用品で作ったよ。護衛艦隊の大和さんと、ここにいる海月さん、あと朝潮ちゃんと加藤少将の細胞をうまく調合した後、深海の建造素材を隠し味にして」

 

私の名前が出たことで扶桑姉様が、そして、司令官の名前が出たことで山城姉様が反応を見せる。

 

「……朝潮の一部が……私の中に入ったのね……」

「そうなります。中枢棲姫としての身体が役に立ってよかったです」

「これで……朝潮とは本当に姉妹よ……嬉しいわ……」

 

一方山城姉様は、無言で自分の身体にある司令官の細胞を感じている。ひょんなことではあるが、愛する者の一部が身体に入ったというのは嬉しい事なのだろう。

左の拳は2人の拳と言っているが、真の意味で2人分となったのかもしれない。

 

「2人とも、大丈夫かい」

 

頃合いを見て、司令官がドックにやってくる。車椅子に座る2人を見て心配そうな顔をするが、その表情から悲観することはないとわかり、普段の調査にすぐに戻った。

 

「ええ、大丈夫。安静にはしておくわ」

「山城と一緒に……身体を休めるわね……」

「ああ、そうしてほしい。……目が覚めて本当に良かった」

 

経過観察は必要だが、姉様達も目を覚まし、これで全員が揃ったことになる。治療薬のために協力してくれた深海海月姫には感謝しかない。

 




愛する者の細胞を取り込んで喜ぶとか病んでる感じがしないでもないですが、病ま城……もとい、山城姉様復活。
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