北端上陸姫が占拠する鎮守府へ向け、最後の出撃をした私、朝潮。私は陸上から鎮守府に潜入する部隊の旗艦として、皆を先導することとなった。
まず向かうのは、破壊された元帥閣下の鎮守府。そこを陸上拠点とし、そこから川内さんの案内の下、鎮守府に潜入し、攻撃を仕掛けることとなる。今までにない作戦で、少し緊張。
外側の部隊、道を拓くための第一陣は、所謂
第一艦隊は旗艦大和さん、随伴に武蔵さん、赤城さん、加賀さん、ウォースパイトさん、クウと戦艦と空母を半々に配置したゴリ押し高火力部隊。
第二艦隊は旗艦天龍さん、随伴に龍田さん、霞、春風、初霜、大潮と小回りが利くスピード重視火力部隊。
中でも霞とウォースパイトさんは、私達が陸上拠点に辿り着くギリギリまでをサポートしてくれることになっている。確実に私達を最初の位置まで運んでくれるようだ。
「陛下、ギリギリまで温存していてちょうだい」
「ありがとうございます、女王様。もう自然に言うようになりましたね」
「敬意を払っているだけよ」
悪びれもせず私のことを陛下と呼んでくるウォースパイトさん。女王様に言われるのは、やはりくすぐったい。
今の私は、ウォースパイトさんの自立型艤装、フィフの手に乗せられ、海上を運ばれている。戦場に到着するギリギリまで体力を温存し、なるべくベストな状態を維持するためだ。
他の陸上部隊の面々も、あきつ丸さんが運用する大発動艇により輸送中。どちらも激戦になるのは皆理解しているが、陸上部隊は撤退すら難しい。万全を期すためにも、皆が休んでいる。
「敵はいませんね。あちらも鎮守府防衛に専念しているんでしょうか」
「あり得るねぇ。戦艦天姫がやられて、こちらが攻めるのも時間の問題だったわけだしさ」
川内さんも双眼鏡で周囲探索をしているが、何も発見しないとのこと。以前のお化け騒ぎの時のように、電探に反応が映らない人形が出てこられては困る。
春風は以前使った海中を見る眼鏡で深海忌雷が無いことを確認しながら進んでいる。この辺りではまだあちらの防衛ラインにも入っていないようだ。
今までの攻撃や罠を総動員されてもおかしくはない。とにかく慎重に。
「中間地点……戦艦天姫との戦場を越えました。そろそろ二手に分かれましょうか」
ここからは内側と外側の部隊が分離。外側から霞とウォースパイトさんを借り受け、陸上拠点までの守護者をしてもらう。
あちらは10人。戦艦天姫の時と同じで、ここからどんどん増える。私達が侵入する前に、大和さんと武蔵さんの超火力で破壊出来るのなら儲けものだが、そう簡単には行かないだろう。
「それでは、一旦ここで」
「次に会うのは、勝利を収めた後です。陽動は任せてくださいね」
旗艦の大和さんに手を振り、進む方向を分かつ。こちらはもうこれ以上の援軍はない。最高のスペックを持つ小さな部隊だ。
「御姉様! ご武運を!」
「ええ、後からまた!」
これは今生の別れなどではない。勝って帰るのだ。
しばらく進み、陸地が見えてくる。以前にゴーヤさん達潜水艦隊が調査に来た、元帥閣下の鎮守府跡。その隣には大本営らしき廃墟もある。
見るに堪えない有様。これを復旧させるには時間がかかるだろう。私達の鎮守府が、半壊して1週間強。ここはそれ以上の規模がそれ以上に破壊されている。1ヶ月は視野に入れる必要がありそうだ。
「ここまでは何事もなく、ですね」
「敵の襲撃もなし。気配も感じなかったんだっけ?」
「はい、何も。敵鎮守府から近いとはいえ、電探範囲に入らない距離はありますからね。当然、北端上陸姫の気配も感じません」
陸上部隊は、ここから陸路。歩いていくわけではなく、あきつ丸さんが妖精さんに手配した車両に乗り換えて向かう。なんでも、この瓦礫の山から作り上げたらしい。妖精さんの謎の技術が光る。
艤装を装備した艦娘6人を載せられるくらいの大型車のため、海上からもわかるほどのもの。装甲車にもなっているらしく、並みの攻撃ではビクともしない。
「初めてだらけですね」
「最後の最後に滅茶苦茶な作戦よね。艦娘が陸路だなんて」
山城姉様とぼやく。だが、そもそも鎮守府を占拠する深海棲艦という時点で前代未聞なのだ。滅茶苦茶には滅茶苦茶をぶつけなくては。
「私達はここまでね」
陸に着き、ウォースパイトさんに下ろしてもらう。ここから守護者の2人は、大和さん率いる連合艦隊と合流し、外側の陽動部隊として大暴れしてもらうことになる。私達への攻撃を減らすと同時に、あわよくば私達を使うことなく敵鎮守府を破壊する。
私達の下にクウの艦載機が飛んできた。2人はこれに案内されて連合艦隊と合流することになる。
「ありがとうございました。ご武運を」
「We pray for your good fortune in battle. 陛下、必ずまた鎮守府で」
フィフも親指を上げて私達を祝福してくれた。
「霞、お互い頑張りましょう」
「ええ、また後でね、姉さん」
素っ気ない去り際だが、私達が生きて帰ってくると確信した別れだ。悲観されるよりずっとマシ。
2人の守護者が陽動へ向かい、こちらはこちらで準備を始める。大型装甲車の運転はあきつ丸さんが行うそうだ。
「んっふー、やはり装甲車はいいでありますなぁ」
「相変わらず好きだねぇ。それじゃあ、全員後ろに乗ってね。私とあきつで鎮守府まで
艤装を装備していて立っていても余裕がある後ろの空間に6人が乗り込み、運転席にはあきつ丸さん、助手席には川内さん。即座に降りられるように立ち乗りとなるみたいだ。手すりにしっかりと掴まった。
座席とも言えない後部の空間は、窓ガラス1つ無い密閉空間。辛うじて見えるのは前の席の一部。それだけすることで、より頑丈にしているのだと思う。
「全員乗ったね? よーし、じゃあ行こう!」
「了解であります! 皆様、少し荒れますが我慢してほしいのでありますよ!」
いきなりアクセルを踏み込み、その巨体に似合わない加速度で陸上拠点から出発。ここまで大きいと瓦礫など関係なく、何もかも踏み潰して進む。
ここから敵鎮守府までに民間のものは一切ない。ただの1本の広い道と、大本営の施設がちらほらある程度。それすらも今は無人。割と好き勝手出来る戦場だ。
「ひゅーっ! トップスピードもなかなかであります! 現地まで20分程度でありますな!」
ハンドルを握らせると人格が変わるのか、ノリノリのあきつ丸さん。本当に一直線の道だからいいものの、これで曲がりくねった道だったら、私達は手すりがあっても壁に叩きつけられていただろう。
初めて乗る車がコレとか、少し常識が変わってしまいそう。川内さんはこれに慣れているように見える。南司令官と諜報活動をするとき、毎回これと似たようなことがあるのかもしれない。
少し走っているともう深海の気配が感じられる。北端上陸姫もそうだが、それ以外のものも多種多様。陽動は陽動で引っ張れているのだと思うが、鎮守府にもそれなりの数を残していた。
陸路は初めてだが、展開が早い。手すりを握りしめ、臨戦態勢に。
「近いのね……敵が……」
「そろそろだね。なんか緊張してきちゃった」
扶桑姉様も島風さんも、敵の気配に気付いている。つまり、あちらも気付いている。ならば、そろそろ敵からの攻撃があってもおかしくない。
「艦載機が発艦したでありますよ! 爆撃を避けながら向かうので、舌を噛まないように気をつけてほしいのでありまぁす!」
案の定、敵鎮守府から何者かの艦載機が発艦された。見たことのある、深海の艦載機。空母棲姫が使うものによく似ている。陸の上だというのに容赦が無い。
それを全て回避するため、突然ハンドルを切る。私達のいる空間が強烈に横に振られ、壁に激突しかけた。直後、爆撃が身近に落下し、道路が抉られるように爆破される。
「あっぶな!?」
「皐月さん、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫!」
一番小柄な皐月さんは、この振動でも結構危ない。白兵戦型として腕力を鍛えていたおかげで何とか掴まっていられたが、これは戦闘前に体力を削がれてしまう。
「盛り上がってきたでありますなぁ!」
「これで楽しめるのはアンタだけだよ! 後ろの子達吹っ飛びかけたけど!?」
「しっかり掴まってるでありますよぉ!」
右は左へと揺さぶり爆撃を回避。激しい揺れはあるが、装甲車そのものには傷1つ付いていない。
装甲車の頑丈さもさる事ながら、あきつ丸さんの運転技術も恐ろしい。艦娘という枠を逸脱してはいるが、もうこの程度では驚かない。ただただ、この揺れだけは早く治まってほしいと願った。
「見えた! 鎮守府!」
「人形もゾロゾロ出てきたであります!」
猛スピードの蛇行運転を繰り返している内に、気配が大分近付いてきているのがわかる。電探の方にも大量の反応が見えていた。北端上陸姫だけではない。あきつ丸さんの言う通り、人形の気配も多い。
「まともな艦娘はいないでありますな?」
「いないね、残念だけど」
「ならば、突っ込むであります! 全員轢殺でミンチにしてやるでありまぁす!」
なんかとんでもないこと言い出した。やっぱりハンドルを握って性格が変わっている。進めば進むほど小さな衝撃音がするのは、つまりはそういうことなのだろう。反応が次々と消えていく。
突き進むことで、鎮守府の外壁が目前となっていた。だが、ハンドルを切るような素振りも見せない。本当に突っ込むつもりだ。
「た、対衝撃防御ォ!」
言った瞬間に強烈な衝撃。鎮守府を守るための分厚い外壁に突っ込み、その壁を容赦なく破壊した。スピードは落ちず、急カーブから入り口方面に移動。
そのまま突撃でもいいと思ったが、鎮守府の壁自体が北端上陸姫の力が染み渡った陣地となっているのなら、装甲車といえども破壊出来るかわからない。あきつ丸さんの今の判断は間違っていないと思う。外壁に何もなくて良かった。
「み、皆さん大丈夫ですか……」
「連装砲ちゃんで皐月と磯風は押さえといた!」
「ナイスです島風さん」
もう滅茶苦茶だ。まるで箱の中をかき混ぜたかのような衝撃が続き、前後左右から尋常ではない重力がかかる。押さえが無かったら皐月さんはこの密閉空間の中でピンボールしていたかもしれない。
「朝潮、敵の姫は何処にいるかわかるか」
振動と衝撃でフラフラな磯風さんから聞かれ、大体の場所を電探で確認。
「1階、入り口とは真反対!」
「執務室だ。彼の場所を使っているということか」
鎮守府の内部に一番詳しいのは磯風さんだ。大まかな場所だけで、居場所が正確にわかった様子。あきつ丸さんは入り口に向かっているので、そのまま突っ込んでもらってそのまま執務室まで駆け抜ければいい。
入り口の前にも気配と反応を感じるが、あきつ丸さんは容赦なく装甲車で突撃していく。
「突っ込むでありますよぉ!」
御構い無しに轢殺。入り口を破壊し、鎮守府内に装甲車ごと突っ込んだ。が、それ以上進めなくなってしまった。側溝に嵌ったかのようにタイヤが空回りしている音が鳴り響いたため、強引に下がる。ありがたいことに前には行かずとも後ろには下がれたため、入り口を装甲車で封じるなんてことが無かった。
「道は拓きました! 自分はここまでであります。後はよろしくお願いするであります!」
後部の扉が開く。ここからは陸上部隊で鎮守府突入だ。
「なんだこれは……この磯風がいた頃と、内部が変えられている!」
やはり内装が変えられている。自身の陣地として侵食しているのなら、それくらい出来ると思っていた。入り口正面だというのに、眼前に壁がある。本来なら壁などなく、そのまま真っ直ぐ行けば執務室だったらしい。
装甲車はこれに食い止められて直進出来なくなっていたようだ。やはり迂回して正解。
「気配は真正面よ……壁を……破壊するわ」
扶桑姉様が壁を蹴り飛ばす。が、壁は傷1つ付かない。あまりに硬すぎる。こちらが準備する時間で、より強力な防御を敷く余裕を与えてしまったか。
扶桑姉様の蹴りで破壊出来ないのなら、戦艦主砲でも無理なレベル。ここにいるメンバーでは破壊出来ないし、陽動部隊の最高火力でもおそらく無理。素直に道を辿るしかないか。
「川内さん、内部まで侵入したことは」
「あるけど、その時から変わってる。多分私が見たのは磯風が知っている状態だよ」
「なら……私が今から道筋を調べます。電探で全部わかっているんですから!」
目を瞑り、壁の位置を確認。
「真正面から撃たれないように壁が作ってあるだけです。迂回ルートは使えます!」
「ならばこちらだ! すぐに案内する!」
入り口正面の壁が新設されただけで、他は何も変わっていないようだ。ただし、通路には敵が配置されているため、北端上陸姫の下に辿り着くまでにも邪魔は多い。
『そんなことしなくても……朝潮
全体放送のように鎮守府内に声が響き渡る。忘れもしない、憎たらしい声。北端上陸姫の声だ。
それと同時に、私達を阻んでいる正面の壁から鎖が伸び、私の腕と脚に絡みついた。完全に隙をつかれたせいで、反応が遅れてしまう。
「朝潮!?」
「っ……先に行きます。追ってきてください!」
そのまま壁に引っ張られ、叩きつけられるかと思いきや、引きずり込まれるように壁を突き抜ける。壁はまた元に戻っていたようなので、私は完全に孤立させられた状態に。
そのまま引っ張られ続け、執務室へ移動させられた。鎖に操られるように椅子に座らせられた。
「会いたかったわ……朝潮」
そして、目の前には北端上陸姫。憎き最後の敵。ようやく対面出来た。