欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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姫の真意

陸上部隊として北端上陸姫の占拠する鎮守府に攻勢をかける私、朝潮。あきつ丸さんが用意してくれた装甲車で鎮守府の入り口まで辿り着くことが出来たが、そこで敵の罠により私だけが孤立させられてしまった。

 

「会いたかったわ……朝潮」

 

椅子に座らせられ、北端上陸姫と対面。椅子に拘束され、手首にはしっかりと鎖が巻きつき、この場から離れられない。

 

『クソ、艤装が出せない』

『私も動かないよ!?』

「この鎖のせいね……」

 

どうやらこの鎖に縛られていると艤装を展開することが出来なくなるようだ。電探の反応すら見えなくなってしまった。

アサが主導権を奪おうとしたが、私が何もしていないのに交代することが出来ない。私の深海棲艦としての力が封じられていると考えられる。侵食する力といい、封じる力といい、やってくることが何もかもが深海棲艦から逸脱している。

北端上陸姫が深海棲艦がどういうものであるかを理解しているからこそ、改造やら洗脳やらを容易に成し遂げてくるのだろう。元々の記憶、人間であった時の経験が、今までに類を見ない凶悪な存在へと押し上げている。

 

「ねぇ朝潮……人間は愚かだと思わない……?」

「思いませんね」

「嘘ばっかり。貴女も人間は嫌いでしょう……汚らしい人間の本質に触れているもの。一度くらいは人間を滅ぼしたくなったんじゃないかしら」

 

見透かされている。私が今まで歩いてきた道を、戦場に出ずにずっと後ろから見てきたような腐った姫に。

クスクスと笑いながら北端上陸姫が近付いてきた。今の私は椅子に繋がれているような状態。艤装も出せなければ、部屋から出て行くことも出来ず、甘んじて今の状況を受け入れるしかない。白兵戦を仕掛けたくても、腕は動かせない。だからせめてと、目を合わせ睨み付ける。

 

「人間は貴女がそこまでして守るようなものじゃないわ……」

 

頰を撫でられる。まるで死んでいるような、生気を感じられないような、おそろしく冷たい手。温もりは一切感じられない。

 

「貴女も知っているでしょう……私は人間に殺されて……ここにいる。世界を……人間を救うために働いていたのにも関わらず……救うはずの人間に殺されたの」

「知っています。同情もしました。でも、貴女はやりすぎです」

「やりすぎ? 私が? 必要以上にやられたのは……私よ。わかる……? 人間の身で……艦娘に撃たれるということが」

 

私は寺津という男は裏切り者に殺されたとしか聞いていない。()()()()()()()は知らなかった。あの裏切り者達は、人間相手に艦娘を嗾けたのか。いくら護衛艦隊がいるにしても、それはやりすぎだ。

まるで人間を深海棲艦と同じに扱ったような攻撃。艦娘ですら当たりどころが悪ければ死ぬものを、身体の欠損が入渠で戻ってこない人間が受けるだなんて。

 

「私はね……人間の未来を考えて働いていたの。殲滅でも……共存でも……休戦でも……どんな形でもよかった。戦いをね……止めたかったの……止めたかったのよ。……貴女のところの提督と同じよ」

 

寺津という男は、本当に人間のことを考えて研究をしていたのだろう。

以前、志摩司令官から聞いたのは、深海棲艦の謎が解けるかもしれないと喜んでいたこと。人間のためになる研究をし、いち早くこの戦いを終わらせようとしていたことはそこからわかる。

 

いい人だったのだろう。もっと早く出会えていれば、司令官と協力出来たかもしれない。こんな大惨事にはならなかったかもしれない。

 

「それを……たかが自分の利益と保身のために……命と共に潰されたの」

「……」

「そんな人間を……救えると思う? 身を粉にして働き……人間の未来を考えていたのに……私の研究は何だったの?」

 

敵の言葉とはいえ、何も言い返せない。同情以上の感情、復讐の正当性を認めてしまいそうだった。その感情すら見透かされたかのように、笑みはより強くなる。

 

「だから……私が滅ぼすのよ。そんなに戦争が続けたいのなら、私が続けてあげるの。世界が滅びるまでずっと……」

 

死ぬ間際、痛みと苦しみの中で完全に狂ってしまったのだろう。元々の正義感は反転し、守るべきものを破壊する破滅主義者となってしまった。

 

「今まで培ってきたあらゆる手段……あらゆる知識を使って……人間を追い詰めていこうと誓ったわ……。だって……他ならぬ人間がそれを望んでいるんだもの」

 

誰も望んでいない。だが、そう思い込んでしまった。たった数人のクズのせいで、ここまで転落してしまっていた。こればっかりは、否が応でも同情してしまう。

だが、絶対態度には出さない。今の北端上陸姫は、私を取り込もうと情に訴えかけてきている。傾いたら、この場で結着はつけられない。

 

「私はその深い深い憎しみのおかげで……運良く深海棲艦という第2の生を手に入れたわ……。正確には……寺津清志の死体を核に生まれた深海棲艦ね……」

 

人工的に人間を素材にした深海棲艦である混ぜ物と同じように、天然で人間を素材にした深海棲艦だと思えばいいのか。そうだとしたら、酷い匂いが無いのは天然物だからか。

今の言い分では、北端上陸姫は寺津本人ではなく、寺津の記憶を引き継いで生まれた深海棲艦と考えるのが正しそうだ。似たようなものだからそこまで深く考えなくてもよさそうだが。

 

「少し話が逸れてしまったわね……。こんな人間達は……救うに値すると思うかしら……ねぇ、朝潮?」

 

自分語りを切り上げ、再び私に問い掛ける。

少なくとも、今の話を聞いたことで私は一瞬揺らいでしまったのは認める。裏切り者のやったことは、それほどまでに罪深い。北端上陸姫にまたもや同情したのは自覚している。アサもヨルも黙って聞いているのは、その話に少しだけでも同情してしまったからか。

以前、アサから同情を咎められた。だが、今の話はあまりに救えなさすぎる。同じことを私がやられたとしたら、同じように狂うかもしれない。

 

それでも、滅ぼすのは間違っている。いい人間だっている。その思いを捨てずにいられるのは、間違いなく司令官のおかげだ。

 

「貴女を陥れたような人間しかいないのなら滅ぶべきでしょう。ですが、少なくとも死ぬべきでは無い人間を何人も知っています。そういう人間も一緒くたにして、全部滅ぼすというのは……私は間違っていると思います」

 

その言葉を聞いて、北端上陸姫は少しだけ悲しそうな顔をした。どういう感情かはわからない。仲間にならなかったことへの悲観か、未だに人間側につく私への憐れみか。

 

「ここまで歪んでも……その一念は変わらないのね」

「私はもう、貴女の思い通りにはなりません。さんざん身体を書き換えられ、頭の中も弄られ、朝潮という存在を壊されても、私はもう何も変わりません」

 

確固たる信念を持って、北端上陸姫に反発する。椅子に拘束されている姿では格好がつかないが、私の意思を示した。

 

『よく言った、朝潮。私達はここから声をかけることしか出来ないが、私達も屈しないぞ』

『その人が可哀想なのはわかったけど、だからってご主人を弄くり回すのはおかしいもん!』

 

心強い仲間。最も身近で、切っても切れない間柄の2人の後押しもあり、私はもう揺らがない。

 

「……残念ね。何から何まで私と同じになったと思っていたけど……憎しみが足りないのかしら」

「貴女よりは恵まれているでしょう。仲間が多いですから。それが一番大きいです」

 

以前に空母鳳姫が私に対して言った『後継者』という言葉を思い出す。北端上陸姫は、自分と同じ境遇を作り上げて、自分の側に引き込もうとしていたのだろう。同じ思いをし、人間に絶望した後継者という意味だったか。

そんな仕組まれた状態で、誰が後継者になると思うのだろうか。一度も北端上陸姫の顔を見ていないというのなら話は別だが。

 

「……自分の意思で……敵を洗脳するまで至った貴女が……」

「あれを激しく後悔しています。躊躇もなく他人を利用できる貴女と同じにしないでください」

 

もう一度、北端上陸姫を睨みつける。

 

「……仕方がないわね……なら……無理矢理にでも仲間になってもらいましょうか」

「お断りします。貴女のやり方は間違っている」

 

やり方が違えば、共に戦うことも出来ただろう。悪しき人間を罰し、世界に平和をもたらそうとするだけならば、喜んで仲間になったのだが、北端上陸姫の『仲間』というのは『手駒』という意味に他ならない。

 

「……離島のように……自分の意思で仲間になってくれれば良かったのだけど」

 

私を壊すための準備をしながら、ボソリと呟く。久しぶりに聞く名前。私がこの手で握り潰した、北端上陸姫唯一の心許せる仲間だったであろう深海棲艦、離島棲姫。あの存在も気にはなっていた。

このままでは私は本当に壊されてしまうだろう。どうやら北端上陸姫は自分語りが好きなように見える。それをさせて時間稼ぎをし、仲間がここに辿り着くのを待つしかない。

 

「あの離島棲姫……一体何だったんですか」

「あの子はね……私の護衛艦隊の成れの果て。味方に……艦娘に殺された恨み辛みの集合体……私と共に生まれた……思いを共にする仲間たったわ……」

 

寺津という男と共に味方に葬られてしまった護衛艦隊の亡骸を使って生まれた存在だと、北端上陸姫は語る。やはり語っている間は手が少し遅くなった。時間稼ぎとしては有効。

 

「あの子は……()()()()()よ」

「えっ……」

 

第八駆逐隊。朝潮型駆逐艦4人の駆逐隊である。その構成員は、荒潮、満潮、大潮、そして朝潮。私が属していた駆逐隊だ。離島棲姫は、艦娘4人分の恨みの集約だったわけだ。そういう意味では、私の手で葬れたのは良かったかもしれない。

 

「貴女にはね……運命を感じたのよ……」

 

最初は数ある朝潮の中の1人。ただただ手駒にするだけのつもりが、たまたま洗脳を切り抜けた。それは手に余る存在だと、即座に排除しようとしたが、それすらも退けた。

 

「私達の最大の壁が『朝潮である』ということにね……私も離島も運命を感じた……途端に貴女が欲しくなったの。後はわかるでしょう。時間をかけて……怒りと……憎しみと……人間への嫌悪感を埋め込むために……ひたすらに貴女を育てた。そして……貴女は完成したわ……でも、それすらも乗り越えた」

 

殺そうとしたのは、千尋の谷に我が子を落とす獅子のようなものと語る。わざわざ被験体(モルモット)なんて言い方までして私に怒りを植え付けようとしたことに、謝罪すらされた。

全ては、私をこの姿にし、心を壊し、塗り潰し、新たな同志を作り上げるため。

 

「……天姫に話を聞いて……嬉しい悲鳴があがったもの……。貴女は予想以上の成果を挙げてくれた。そして今……ここにいる。確実に私の仲間になってもらうわ……今度こそ塗り潰してあげる」

 

時間稼ぎもここまでか。早く、早く来てほしい。

 

「貴女の心の支えは……加藤提督でしょう。その記憶を……破壊するわ。深海棲艦ってね……頭の作りはとても単純なの……外から記憶が簡単に消せる」

 

頭に強い衝撃で初期化(リセット)されたレキを見ればそれがわかる。レキに関して言えば、あの時から元の記憶が戻ることもない。

レキの場合は当たりどころが悪かっただけだが、北端上陸姫は私に対して故意に同じことを引き起こそうとしている。深海棲艦に変えられたことでそれが可能になってしまった。

 

「加藤提督の記憶を壊し……私への愛を植え付けてあげるわ……。天姫のように娘にするのもいいけど……私としては……無二の親友がいいでしょう……」

 

嫌悪感から吐き気がしてきた。

 

「私以外に何も必要がない子にしてあげる。貴女が朝潮である事実は変わらないもの」

 

取り出したのは見たことのない小さな艤装。深海艦娘の首筋に埋め込まれたものに近いが、超小型の深海忌雷のようにも見える。あれが埋め込まれたら、私は本当に終わり。

 

「最後はやっぱり……直にやらなくちゃいけなかったのね。ありがとう朝潮……ここまで来てくれて」

「……最後に1つ、いいですか」

 

後少しだけ、後少しだけ時間稼ぎを。

 

「……何かしら」

「佐久間さんを殺そうとしたのも、私を怒らせるためですか」

 

少しだけ思案するような顔。

 

「あの子はね……殺しておかないと確実に邪魔になると思ったの。才能は知っていた……光るものを感じたわ……。貴女達の下に行ったことでそれが顕著になったもの……」

「元の貴女と同じような思想ですよ。志半ばで潰えてしまった貴女の意志を継ぎ、深海棲艦との戦いを共存という形で終わらせるために、日々頑張っています」

「そうね……でもね……人間というだけでもうダメなのよ。だから……刺客を差し向け続けただけ」

 

もう少し壊れてなければ、幾らでも道は用意されていたのだと思う。何もかも裏切り者のせいであるせいで、北端上陸姫も報われない存在だ。

 

「話は終わり……貴女も終わり。仲良くしましょう……愛しい朝潮」

 

小さな艤装を持って近付いてくる。間に合って。間に合って。

 

 

 

「邪魔だァ! 退けェ!」

 

 

 

山城姉様の咆哮と共に執務室の扉が爆発するように破壊され、中にグチャグチャにされた人形が飛び込んできた。磯風さんの案内で回り道をしたものの、仲間達がここに辿り着いてくれた。

 

「皐月! 磯風!」

 

執務室に入った瞬間、皐月さんが駆け出していた。即座に私の側まで来て、私を拘束する鎖を斬る。同時に磯風さんが北端上陸姫に対して砲撃し、私から距離を取らせた。

 

「朝潮、運ぶよーっ!」

 

座らせられた椅子は、連装砲ちゃんが壊してくれた。私は無傷で運ばれて、皆と合流。北端上陸姫が持っていた小さな艤装は、今のゴタゴタの間に川内さんが破壊してくれていた。

 

「……邪魔が入ったわね」

「北端上陸姫……私は貴女を同情します。もう少し道が違えば、最高の仲間になれたでしょう。ですが……貴女はもうダメです」

 

手に力が入る。ここで決着をつけなければいけない。これ以上野放しに出来ない。

 

 

 

「終わりにしましょう。これが最後の戦いです」

 

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