苛烈する鎮守府内戦闘。北端上陸姫は人間の知識と深海の力を併用する常識外の戦闘をしてくる。
その1つが、扶桑姉様でも破壊出来なかった壁を破壊するほどの火力を誇る主砲、
そしてもう1つ、今まで使われてきたのに今回は出してこなかったが、土壇場で使ってきた侵食の鎖。深海の力を封じる鎖を使っている合間に使ってきたため、扶桑姉様の力を封じると思っていた山城姉様が不意打ちを受けることになった。
だが、
「山城はそのままでなくてはいけないのだろう。ならば、この磯風が食い止めよう」
それをさらに守るため、鎖の前に磯風さんが立ち塞がり、その鎖を掴んだ。鎖は山城姉様に伸びることなく磯風さんにより食い止められる。
この行動にはさすがの北端上陸姫も驚いたようだった。自分の身体が変えられ、洗脳され、仲間と敵対することがわかっているものに、自ら突っ込んでくる者などまずいない。
「あら……あらあら……自分から私に屈するというのかしら……」
「屈する? そんなわけ無かろう。勝算があるからこれを掴んでいるんだ」
本来ならば、鎖に触れた瞬間から変化が始まる。その間は動くどころか話すことすらままならない。私には実体験があるからそれがわかる。
だが、磯風さんは当たり前のように鎖を掴み続け、その動きを止め続けている。変化はしているようだが、知っているそれより進行が遅く、今の磯風さんは深雪さんよりも影響が見えない状態。少し髪にメッシュが入った程度。
「……侵食が遅い……何故……」
「山城! やれぇ!」
「アンタの覚悟、受け取ったわ!」
磯風さんの指示で、山城姉様が動き出す。磯風さんを跳び越え、上から叩きつけるような拳を繰り出した。
「撃ち落とせと言っているようなものね……」
そこへ列車砲を合わせてきた。空中では方向転換出来ない。だがそこで飛んできたのは皐月さんの艦載機だ。強引な体当たりで照準をズラし、山城姉様に直撃することはなかったが、爆風で山城姉様も飛ばされてしまう。
それを見てから、今度は皐月さんの番。皐月さんは先程と同じように、姿勢を低くしての斬撃。列車砲の攻撃範囲も考え、スピードはさらに増し、脚を狙うように一撃を決めに行く。
「どんな小細工があるかは知らないけど……全員止めればいいだけよ……」
それを再び、深海の力を封じる鎖による拘束で食い止めようとしたが、同じことは何度も通用しない。連装砲ちゃんの1体がそこに向かって体当たりをし、皐月さんを守る。
2本、3本と増えるが、連装砲ちゃんも同じように増え、皐月さんの攻撃をアシストした。島風さんのスピードを継いでいる連装砲ちゃんだからできる、高速戦闘のサポートである。
「ちょろちょろと……ならこれよ……」
磯風さんの掴む鎖を強引に動かし、磯風さんごと皐月さんにぶつけてしまった。山城姉様を投げ飛ばした時もそうだが、たかが鎖を1本でやたらとパワーがある。
その時に磯風さんが侵食の鎖の根元を撃ち抜いた。これでこれ以上の変化は防げるはずだ。
「すまん、皐月!」
「大丈夫! 侵食は!?」
「心配するな。工廠組のおかげで、侵食が
セキさんが以前、どういう仕組みで鎖が対象を侵食するかは解析しており、霞が受けたように半深海棲艦にされるのも同じ原理だろうと判断した。最後の戦いでは確実に使われると予想して、侵食を食い止める手段を模索していたそうだ。
しかし、完全にシャットアウトすることはどうにも難しかったらしい。そのため、身体を侵食する速度を極力遅らせることで時間稼ぎをしている。磯風さんの場合は手袋にそのシステムを組み込んでいた。
「鎖は手放したが、まだゆっくり変化していくだろう。握った時点で変化を退ける手段が無いことくらい、この磯風も重々承知している」
あの鎖はまた出てくるかもしれない。それに注意しながら、北端上陸姫への攻撃は止めない。艦載機に止められても、撃っている間は艦載機がこちらを攻撃してくることはない。
「随分と覚悟があるのね……なら……貴女は私の手駒に戻してあげる」
「この磯風ばかりに気を取られて大丈夫か?」
既に扶桑姉様が跳んでいる。本体狙いの一撃であり、鎖すら間に合わない速度だったが、身を振ることで列車砲によるガード。轟音と共に列車砲の砲身が蹴り飛ばされたが、それでも折れない辺り、この鎮守府の壁くらいの強度はありそうだ。破壊はされないが、衝撃で大きく揺さぶられる。
「折れないのね……随分と固い……」
「そんな簡単に壊されたらたまらないわ……」
「それならっ!」
体勢が大きく振られたところを見計らって、島風さんが持ち前のスピードを活かした体当たり。
混ぜ物がいないため金の『種子』のブーストは無いが、それでも提督の力に匹敵するほどの速度が出ていた。速度だけで言えば皐月さんより上。
そこには深海の力を封じる鎖が対応。ギリギリのところで絡みつかれ、逆側へと飛ばされる。壁に激突し、崩れ落ちる。
「……捨てたはずのゴミが……ここに戻ってきてどうするの……」
列車砲を島風さんへ。
「はいはいダメダメ」
懐に入っていた川内さんが砲身をかち上げるように蹴る。直後に発射。僅かに照準がズレてくれたおかげで島風さんへの直撃は免れたが、壁が破壊されたために瓦礫に埋もれてしまう。連装砲ちゃんが必死に助け出そうとしていた。
「……南の嫁ね。貴女が死んだら……彼も絶望してくれるかしら」
「はっ、死ぬかっつーの」
後ろから伸びてきた深海化の鎖をヒラリと躱し、縛られている私の側へ。
「朝潮……じゃないね、アサ、助けるよ」
「悪い。この鎖、インチキ過ぎるぞ」
身体を拘束する鎖を根元から破壊してくれた。ようやく動くことが出来る。川内さんはそのまま島風さんの救出へ。
解放された電探の反応を確認。陽動部隊の反応はここからでは確認出来ない。敵の深海の気配も当然ながら感じない。
だが、そこからいくつかの反応がこちらに向かってきているのがわかった。陽動部隊の一部が、敵の群れを抜けてこちらに来てくれる。おそらく最初の連合艦隊以外の人も合流していた。
その中に1人だけ、この現状を打開できる人がいる。司令官達が、この戦場の特性を察してくれたのだろう。本当に必要な人員を派遣してくれた。
「くっ……侵食が……」
磯風さんの髪の半分近くが白く染まり、右眼が紅くなっていた。ほぼ深雪さんと同等な状態。先送りにしていた深海の侵食がここまで進んでしまった。おそらくまだ進む。それなりに長く握っていたため、完全に侵食されることは確約されてしまっている。
「身体を張った割には……何も出来ないわね……」
「何も出来ていない? お前の目は節穴か。山城が守れた。それなら、扶桑と朝潮も守れたことになる。充分だろう」
攻撃しようにも、鎖がいたるところから出現して絡みついてくる。どの位置からどの力を持つ鎖が出るかを記憶するつもりでいたが、同じ場所から違う鎖も出たので、場所だけ覚えて諦めた。
隙がとにかく無い。鎖のせいで近付くことが出来ず、間合いをとっても列車砲がある。特に山城姉様のような純粋な艦娘は、深海化の鎖が鬼門過ぎた。
「誰も何も出来ない……私の邪魔は出来ないの。朝潮……今は朝棲姫ね……諦めてこちらにつきなさい。そうしたら……ここにいる子は殺さないであげる。しっかり洗脳して……貴女の手駒にしてあげるわ」
「おうおうお優しいことで。だけどな、クソ喰らえだ。お前は何もわかっちゃいない」
自分には列車砲を撃つようなことはしないと踏んで、強引に白兵戦を仕掛けた。当然、深海の力を封じる鎖が脚に絡みついてくるが、それは予測済み。記憶している場所からの出現のため、鎖を回避して顔面を殴りつける。
が、北端上陸姫の攻撃はそれだけでは済まず、2本3本と私に絡みつく。拳は届くことなく、壁まで引き摺られる。そのまま入り口近くの壁に磔にされてしまった。
「私はな、お前のやっていることが心底気に入らないんだ。お前につくことは未来永劫無いんだよ」
「……そう……ならそこで仲間が壊れるところを見ていなさい。その後に……ゆっくり教えてあげるわ」
動き出す前にすぐさま全員が深海の力を封じる鎖で拘束された。脚に絡みつき、その場から動けない。私だけは特別に壁際だが、他の仲間はその場に固定されてしまった。
最悪な状況。このまま列車砲を放たれたらひとたまりもない。しっかり両脚が縛り付けられているため、山城姉様ですら動くことが出来ないでいる。
「それじゃあ……まずは山城……貴女を壊してあげる。朝潮も……扶桑も……それで心が壊れるかもしれないもの」
「……はっ、やれるものならやってみなさいよ」
念入りに堕とすためか、霞の時と同様に侵食の鎖が何本も出現。あの数の鎖に同時に巻き付かれたら、山城姉様も一瞬で堕とされてしまうだろう。いくら『種子』への対策をしていても、アレに関しては耐性を作らずにいる。
「なら……お言葉に甘えて……さようなら山城……堕ちなさい」
鎖が一斉に山城姉様に絡みついた。
と思いきや、ギリギリのところで突如鎖の動きが止まった。さらには私達を拘束する鎖は勝手に解け、私達を避けるように引っ込んで行く。
「何……何が……」
こんな事態、北端上陸姫すらも予想していなかった。北端上陸姫の意思に従わず、鎖は沈黙を守り続ける。何が何だかわかっていないようだが、私にはもうわかっている。
執務室の外、陽動作戦から抜け出てきてくれた
北端上陸姫から埋め込まれた力が、艦隊での生活に全く役に立たなかった人。今までは普通の深海艦娘と同じように生活してきたが、今だけは違う。この時のためにいたと言ってもおかしくない、最高の人材。
漣さんである。
「鎖をコントロールする力を埋め込んだの、忘れちゃったのかな?」
漣さんの鎖をコントロールする力により、北端上陸姫のコントロールする鎖は完全に沈黙。攻撃と防御にも意識を割く必要のある北端上陸姫が、鎖のコントロール一本に全力を尽くす漣さんから、鎖のコントロールを奪い返すことは不可能。
「スパさんに投げてもらって正解でしたわ。この大ピンチに漣ちゃん登場ですぞ!」
「普段適当な割にいいとこで活躍していくー!」
「さつきち! 余計なこと言わなくてよろしい!」
反応からしてわかった。ちょうどいいタイミングで、ウォースパイトさんの投擲によりここに辿り着いている。ちょっと涙目なのはその衝撃でか。
「こいつ……!」
「へへっ、自業自得すぎワロタ。これはメシウマですわー!」
初めて北端上陸姫の顔が歪んだ。
こちらを完封するための2つの武器の片方、触れただけで戦力を減らす鎖は、これで失われたも同然。強いて言うなら漣さんを確実に守らなくてはいけなくなったが、今までの苦戦から考えると問題にすらならない。
「漣……貴女はすぐにでも始末するわ……」
「わお、何その馬鹿でかい主砲。漣ちゃん大ピンチかな? じゃあ、そっちを拘束するよ」
沈黙を守っていた鎖が、今度は一斉に北端上陸姫に向かって伸び始める。この鎖の効果が何かはわかっていないようだが、拘束出来れば儲け物である。
「これは私のものよ……貴女が使っていいものでは無いわ」
「ならそっちに集中した方がいいんじゃないんスかね。漣に意識持ってって大丈夫?」
鎖の動きは止まってしまうが、私達の邪魔になることはない。北端上陸姫が鎖のコントロールに意識を向けたということは、他のことに疎かになるということだ。
拘束が無くなったことで、私達は一斉に動き出していた。鎖はまだちらほら見えるが、避ければいい話。
「漣はやらせん!」
磯風さんがヘッドショット。気を取られている内に狙えば当たるかと思ったが、それは艦載機でガード。
「へいへい、疎か疎か」
「反応おっそーい!」
そのタイミングを見計らって、今度は川内さんと島風さんが別方向から砲撃。島風さん自身はまだ瓦礫が全て撤去されていないために動くのが難しいが、連装砲ちゃんなら自由だ。ここが自立型艤装の強み。
「邪魔をしないでもらえるかしら……」
それも艦載機によるガード。今度はガードに意識が動いた。
「お姫様、ゲットだぜ!」
その隙に漣さんが鎖を北端上陸姫に絡み付かせる。深海の力を封じる鎖が巻き付いたことが確認できたが、流石に自分に対してはセーフティがかかるようになっているだろう。
それでも、動きが封じられたのなら問題ない。少しだけでも動けないタイミングがあるのなら、その僅かな時間にでも攻撃できるのが白兵戦組だ。
同じタイミングで扶桑姉様と山城姉様が跳ぶ。姉妹の連携。
「……出したくなかったけど……仕方ないわね。
今まで展開していなかっただけだった。あのとんでもない火力の列車砲がもう1本、逆側の肩に現れ、跳ぶ扶桑姉様に狙いを定めていた。
「
「やらせないよ!」
ここで皐月さんが艦載機を発艦。6機全てを列車砲の砲門に押し込むように突っ込んだ。このまま撃てば砲身が爆発する。だが、御構い無しに砲撃するようだ。どうあっても扶桑姉様は大変なことになりかねない。
「フソウ姉さん!」
アサが列車砲の砲身に対して渾身の蹴りを入れる。これでまた照準がズレた。その瞬間に砲撃され、先程の山城姉様と同じように爆風で扶桑姉様が飛ばされてしまった。砲弾自体は執務室の壁をまたもや破壊。そろそろ鎮守府に限界が近い。
「そんなことで……私は止まらないわ」
「いいや、充分よ」
列車砲の圏外、今の砲撃を無傷で乗り切り、ルーティンを終えた山城姉様が拳を振りかぶっていた。
「私とあの人の、2人の拳よっ! 喰らえぇっ!」
北端上陸姫の脇腹に向けて、渾身の一撃が捻じ込まれた。