欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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崩れゆく戦場

激化する鎮守府内戦闘。北端上陸姫が操る、触れた瞬間に戦力を削られる鎖により、私達は圧倒的に不利な戦況であった。

侵食の鎖の効果で磯風さんが深海艦娘に変化することが確約され、封じる鎖の効果で私含む深海組はまともに戦うことが出来ない。そこに列車砲も重ねられ、未だ中破以上の怪我人が出ていないのが奇跡にしか思えない。

 

だが、それをたった1人で打開してくれる援軍が到着した。北端上陸姫に鎖をコントロールする力を与えられていた漣さんである。救出された時点であって無いようなものである能力が、この土壇場で役に立った。北端上陸姫ですら忘れていた天敵である。

 

そのサポートも受け、ついに山城姉様が北端上陸姫の懐に入っていた。ここにいる全員の力で押し通した。

 

「私とあの人の、2人の拳よっ! 喰らえぇっ!」

 

戦艦天姫の鯨の艤装すら内部から破壊した暴力が、司令官の細胞を取り込んだことによりさらに唸りを上げ、北端上陸姫の脇腹に向けて、渾身の一撃が捻じ込まれた。漣さんが鎖でその場に縛り付けてくれているおかげで、北端上陸姫は直撃を回避することは不可能。

 

「っぁ……っ!?」

 

肉が裂け、骨を砕かれても、北端上陸姫は健在。山城姉様の拳はしっかりと振り抜け、脇腹を抉っているというのに。本来ならば上半身と下半身がお別れしていてもおかしくない一撃だ。だが、それを受けても、北端上陸姫は立っている。

 

「耐えるの!?」

「ここは……私の陣地なのよ……。私が唯一無二の存在となる……私の世界なの……。いくら貴女が強くても……いくら手段を封じられても……この場所では私が勝者なの……」

 

今まで、陸上型の深海棲艦と戦うようなことは無かった。だから勝手がわからなかったというのもある。

陣地の上でのみ十全な力を発揮出来る陸上型は、陣地の上ならば無類の力を発揮するということにもなる。ただでさえ身体にも艤装にも改造を施している北端上陸姫なのに、陣地という無限の供給源の上に立っているのだ。まさか山城姉様の攻撃ですら受けてしまうとは思わなかった。

 

「お返しよ……」

 

新たに現れた列車砲(グスタフ)も合わせ、2砲身で山城姉様を薙ぎ倒す。あの一撃をまともに受けて倒れなかったことにほんの少し動揺していた山城姉様は、咄嗟にガードしたが壁に激突するほど飛ばされてしまった。アサも至近距離だったために即座に間合いを取る。

 

「邪魔ね……私のものだけど……」

「うわっ、うわぁっ!? ハエが群がってくる!」

 

漣さんには艦載機を嗾けて集中力を削いだ。漣さん自身もそれをどうにかする力を持っているが、別事をやりながら鎖までコントロールする余裕など無い。すぐさま北端上陸姫にコントロールを奪われ、脚に絡み付いていたそれを解かれる。

 

「あっ……くっそー! メシウマがメシマズに……」

 

すぐに艦載機を処理したが、その時にはもう遅い。北端上陸姫は自由になっていた。そこからはまた私達の邪魔をしないようにコントロールし続けることに。漣さんはほぼロックされているようなもの。その場から動けない。

 

「痛い……痛いわ……でも……()()()()()

 

抉られた脇腹が修復されていく。砕けた骨は元に戻り、裂けた肉はくっついていった。陣地の上だからと言っても、この回復力は異常だった。

 

「う、嘘でしょ……」

「一撃で()れってことだ。無茶言ってくれる」

 

愕然とする皐月さんと、溜息をつくアサ。

鎖を封じることが出来たものの、新たな問題が現れた。一撃で息の根を止めなければ、超回復により無かったことにされてしまう。これをどうにかするためには、まず北端上陸姫を陣地から退かさなければならない。

 

「っぐ……まずい……っああっ」

 

そうこうしている内に、磯風さんの先延ばしにしていた侵食が限界まで来ようとしていた。髪はもうほぼ真っ白に染まり、瞳も紅くなっていた。角も生えようとしている。深海の気配まで漂ってきたため、あの鎖は深海艦娘ではなく、半深海棲艦に変化させる鎖。

変化しきってしまった場合、考えられる問題が2つ。1つは、この鎮守府内が洗脳電波の効果範囲にされている可能性。鎖を握っていなくても関係なく洗脳される。そしてもう1つは、私と島風さんの強すぎる深海の匂いに当てられる可能性。心持ち如何では戦闘どころでは無くなる。

 

『磯風さんがまずい! 皐月さんに保護させて!』

「サツキ! イソカゼに近付け!」

 

皐月さんは洗脳電波キャンセラーであるイヤリングをしている。霞のときのように、限りなく近くにいればキャンセラーの効果範囲内に入れるだろう。

その現場を知っている皐月さんは、すかさず磯風さんに抱きついた。こんな戦場の中でも、こちらは緊急事態だ。磯風さんに敵に回られる方が厳しい。

 

「ひとところに固まって……撃ち抜かれたいのかしら」

 

それを見逃していない北端上陸姫。これは確実に狙われる。タイミングは予測した。

変化の最終段階に入り動けない磯風さんと、それに抱きつく皐月さんでは、回避の余裕なんて無い。山城姉様は逆側の壁。島風さんは瓦礫がまだ撤去中。川内さんもそちら。漣さんは鎖のコントロールに専念していなければ現状がさらに悪化する。私も距離があり、今から飛び出しても間に合わない。ならば、

 

『アサ! 展開っ!』

『私も出すよご主人!』

「フソウ姉さんも頼む!」

 

北端上陸姫と2人の対角線上に自立型艤装を展開。海上では無いため身動きは取れないが、壁にはなれる。アサが表のため、艤装操作は私。即座に艦載機を全機発艦させ、ヨルからも水上機を発艦。半分は一旦割れた窓から外に出す。

列車砲の超火力を受け切れるとは到底思えないが、照準ズラしと威力軽減くらいにはなるはず。残り半分の艦載機と水上機も列車砲の射線に入る場所に配置し壁とする。

 

「っ……そうだったわね……朝潮はそういう子だったわ」

 

2人に照準を合わせようとした北端上陸姫が、目の前に立ち塞がった自立型艤装を忌ま忌ましそうに睨みつける。もう笑顔を維持する余裕も無いようだ。

 

「撃たせないわ……」

 

それでも構わず列車砲を放とうとした瞬間に扶桑姉様が本体を蹴り飛ばそうとした。さすがにそれは看過出来なかったか、回避行動を取りながらの砲撃に。

2砲門同時の砲撃は空気を震撼させるほどの威力。扶桑姉様のおかげで誰もいない方へと向き、私の自立型艤装を掠めて壁に直撃した。

掠めただけでも大きな傷がついてしまった。直撃していたら、脆い口内に撃たれていなくても粉砕されていた。

 

「磯風! 大丈夫!?」

「だ、大丈夫だ……。なんだこの甘い匂いは……」

「それは朝潮と島風の匂い! 気にしないで!」

 

やはり半深海棲艦化の影響で私と島風さんの気配と匂いを知覚できるようになってしまっている。それも考えての侵食の鎖だったか。漣さんが来てくれなかったら、全員がこの恐怖に怯えながらになっていた。深海艦娘の皐月さんですら侵食される。

 

ここで鎮守府外に反応を捉える。漣さんをここまで投擲したウォースパイトさんと、大潮、霞、春風、初霜。さすが私の妹達。駆けつけてくれたか。人手が増えるのはありがたい。

 

「また増えそうね……磯風、こちらに来なさい」

「断る! 我が身は堕とされようとも、心は堕ちん!」

「……そう……そうやって電波を回避していたのね……」

 

今までの経験が効いている。やられ、対抗し、打ち勝ってきた。もしあの鎖で出来ることが変化していたとしても、こちらはそれを想定してマイナーチェンジし続けている。この洗脳電波キャンセラーだって、当時から強化されている。

戦場に出られない工廠組と佐久間さんが、私達の戦闘を完全にサポートしてくれている。頼れる仲間だ。

 

「余所見するんじゃないわよ!」

 

北端上陸姫の真後ろから拳を繰り出す山城姉様。今度は脇腹ではなく頭。一撃必殺を狙った渾身の一撃。

 

「してないわ……ちゃんと殺す算段はつけているもの」

 

振り向きざまに砲撃。あの超火力の列車砲を、このペースで体勢を整えずに連射してくるのも異常。山城姉様は咄嗟にしゃがんで回避し、その砲撃は壁へ。

 

壁が破壊された瞬間、執務室自体が地響きを立て始めた。天井や壁、床に何度も何度も列車砲を受け、ついに限界が来たようだった。鎮守府自体は大きいのでまだ倒壊することはないだろうが、執務室の周囲はもう崩れる。

 

「やっと出られた! おっそーい!」

「またしちゃ瓦礫が落ちてくんだから仕方ないでしょうが!」

 

ここでようやく島風さんの瓦礫処理が終わったようだ。度重なる砲撃で瓦礫が追加されていたらしい。川内さんもそれだけで疲れ果てていた。

今まで一度も狙われなかったのは助かった。いくら北端上陸姫でも、これだけの猛攻の中では、島風さんの方には意識が向けられなかったようだ。それに、漣さんと常に鎖のコントロールの奪い合いが発生しているため、余裕を奪い続けている。

 

『執務室が崩れるわ。脱出を!』

「ああ! 崩れるぞ! 早く外に出ろ!」

 

私はアサに身体を任せて今できることを全力で計算する。

脱出の最善ルートは、現在漣さんがいる窓側。海に直接向かうルート。これは窓を飛び越えればいいし、扶桑姉様に壁を破壊してもらうのもいい。ここまで崩れているのだから、扶桑姉様も破壊出来るはずだ。

 

私が危惧しているのは、北端上陸姫の脱出ルート。地下に逃げられた後、鎮守府が崩れてしまったら、また取り逃がすことになってしまうからだ。そのため、未来予知まで総動員して北端上陸姫の行動を予知した。

この部屋から地下に行けるかどうかを全力で探すが、それらしいものは見当たらない。ならば、私達と同じように外に出るはず。私をこの部屋に引きずり込んだように、北端上陸姫だけは壁抜けのような真似が出来るかもしれないが。

 

北端上陸姫の視線が、ほんの一瞬だけ執務室の入り口に向いた。あちらの経路は鎮守府内部。そこから電探の反応を全て確認。

地下への階段を発見した。この部屋から外に出られたら、すぐにそちらに逃げられる。それは困る。こちらを迎撃しながらも、身体は入り口側に寄せてきているのもわかった。どう退避したいかはこれでわかった。

 

『アサ、艤装を入り口に展開し直して』

「そっちから逃げるつもりだったか。了解だ」

 

アサに指示し、自立型艤装を執務室の入り口前に展開し直し、脱出経路を塞ぐ。それでもまだ余裕そうな表情を浮かべている辺り、壁抜けは可能そう。床は抜けられないようで助かる。

 

「アサ……こっちよね……」

「ありがとうフソウ姉さん! 全員! あそこから退避!」

 

度重なる列車砲の砲撃により脆くなった海側の壁を破壊してくれた扶桑姉様。これで海までの経路は確保した。あとは北端上陸姫を強引にでも外に出す。

 

「……逃げられると思っているの?」

 

状況が悪いために先に出ようとした皐月さんと磯風さんが真っ先に狙われる。今の磯風さんは決して離れることが出来ない状況。どうしてもお互いが枷になってしまう。

 

「おうっ! 邪魔ぁ!」

 

このタイミングで瓦礫から抜け出ることが出来た島風さんがトップスピードからの体当たりを決める。鎮守府最速の脚力から繰り出される体当たりは、純然たる質量兵器。さすがの北端上陸姫でも身体が浮いた。ダメージが無くとも動かせる状態になればこちらにはいくらでも手段がある。

 

「この……ゴミっ……!」

「っし、いいよぜかま氏! コントロールゲットぉ!」

 

不意打ちに鎖のコントロールが離れた。その隙に漣さんがほんの少しだけでも掌握し、北端上陸姫の脚を縛りあげ、執務室外に投げ飛ばす。

これで北端上陸姫は執務室にはいなくなった。脱出経路も封じ、地下に逃げ込むようなことは出来ない。

 

「全員出たか!?」

 

その間に執務室から全員が脱出。自立型艤装を消した途端、部屋が完全に倒壊した。その上にある階層も雪崩のように降り注ぎ、あのままいたら瓦礫どころか建物自体に押し潰されて再起不能だった。

 

「……仕方ないわね……自分で蒔いた種だもの」

 

外に出され、埃を払う北端上陸姫。笑顔はもう見せないが、まだまだ余裕そうな素振りである。逃げ場が無くなり、封印と侵食の鎖も完全に封じられ、私達は人数を増やしていく一方なのに、自信満々である。

この地は北端上陸姫の地。それだけでもこちらは不利だ。以前とは違う、自身でも充分に戦闘が出来るようになった北端上陸姫は、今までで最も凶悪な難敵だ。

 

 

 

ここからが第二ラウンド。本来の陸上型との戦闘に移行する。

たった1人の敵にここまでやられるとは、さすが戦艦天姫の親とでも言おうか。だが、こちらもやられるわけにはいかない。

 

決着は近い。

 

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