倒壊する執務室内での戦闘は、島風さんと漣さんの連携で北端上陸姫を外に追い出すことで一時終わりを告げる。次は第二ラウンド、外での戦闘となった。
現状を確認。
瓦礫に押し潰されていた島風さんは、最後の北端上陸姫への体当たりにより中破に近いほどにまで損傷。まだ戦えるが無理はしない程度に。
磯風さんは完全に半深海棲艦化してしまい、キャンセラーを持たないために、キャンセラー持ちの近くにいないと即座に洗脳されてしまう危険な状態。さらには私と島風さんの深海の匂いが身体を蝕んでしまっている。
それ以外にも、今までの戦闘で少なからず怪我を負っている。小破届かずとはいえ、疲労は蓄積される一方。かくいう私、朝潮も、今はアサに身体を任せているが、消耗してきているのがわかる。
とにかく、地上での戦闘というのがキツイ。海上ならば、脚部艤装の力で移動できるためそこまで考えなくてもいいが、地上では全て自分の脚力がモノを言う。今回はそのための部隊でもあったが、海上より断然消耗が激しい。
『アサ、一旦交代しましょ。ここなら艤装を使うこともあるかもしれないわ』
「ああ、頼んだ」
ここでアサと交代し、私が表に。どっと疲れが押し寄せるが、まだ戦える。
海が近いために、戦場が海に移る可能性もある。そうなれば、アサはやりたい放題だ。まだ艤装は掠めて傷がついただけで、機能は失われていない。
「せっかく戦場が広くなったんだもの……パーティーと行きましょうか」
指を鳴らし、その場で優雅に一回転。すると、空を埋め尽くすほどの艦載機が発艦された。以前の白吹雪さんとの戦闘とは比べるのも烏滸がましい、太陽が隠されるほどの群れ。ざっと見た限り、300は出ている。それが、爆撃や射撃を織り交ぜながら、こちらに猛攻撃を仕掛けてきた。
屋内戦闘はお互いに力を拘束していたようなもの。あれだけ列車砲を放っておきながら、まだまだ温存していたらしい。無限の供給といい、超回復といい、インチキも大概にしてもらわないと困る。
「合流よ! 姉さん、大丈夫!?」
「ええ。随分と早く再会出来たわね」
「陽動のみんなが後押ししてくれたのよ。私達が行けってね」
霞達援軍が合流したことで、ようやくこちらも連合艦隊。半数以上は地上のまま、援軍は少し遠いが海側。主砲は当てられる距離。
「春風と大潮は対空に専念!」
「あれはまた……やり甲斐があるというものです」
早速春風は対空砲火を開始。あの数を前にしたら微々たるものかもしれないが、確実に1機ずつ墜としていく。私もヨルで対空砲火に参加。
「増員が欲しいですよぉ!」
「向かってきてないの!?」
「陽動の方に次々来てます! 何人かはこっちに来てくれるかもなので、それまでは大潮達で踏ん張ります! アゲアゲで行きましょう!」
大潮も対空に専念しながら向こうの状況を簡単に説明してくれた。陽動作戦組も戦闘が苛烈を極めているようだ。こちらはたった1人が異常すぎるが、あちらは異常な数がいる。質と量を分断出来ているだけ良しとしなくては。
「大丈夫よ陛下。あちらにはガングートもいるわ。今頃、誰かをこちらに投げているでしょう」
「貴女達は何でそう人を投げたがるんです」
「その方が早いからよ。それを教えてくれたのは陛下じゃなくって?」
確かに、以前から投擲の戦術は頻繁に使っている。何も言い返せない。
ウォースパイトさんも三式弾で対空砲火。これだけ人数を割いても、減っているかすらわからない。
「磯の子は漣が運ぶよ! すぐに撤退しないといつ洗脳されるかわかんないし!」
「お願いします!」
「あとは頼んだ……お前達を守ることが出来てよかった」
五体満足だがここでの戦闘が危うい磯風さんは、皐月さんから漣さんに譲渡され、この戦場から離れることに。鎖が全て瓦礫の下に埋まったことで、漣さんは仕事を終えている。
本当に最高のタイミングで来てくれた。漣さんがいなかったら、今頃山城姉様と敵対していただろう。そうなれば、扶桑姉様が理性を失い暴走まであった。
「逃がすと思っているの……?」
「こっちのセリフよ!」
「広くなったもの……私達も戦いやすいわ」
漣さんに列車砲を向けようとするが、すかさず扶桑姉妹が迎撃。室内という狭い空間でも無ければ、鎖による拘束も無い。もう、2人を止めるものなどどこにも無い。
「本当に貴女達は……面倒な子ね」
その場で回転しながら列車砲の砲身を振り回す。強力な質量兵器に対し扶桑姉様は脚を、山城姉様は拳を打ち込むが、強度は一切衰えずに弾き飛ばされてしまった。
「そこも……来ないでちょうだいね」
「っいい!?」
そのまま列車砲による砲撃。扶桑姉妹の連携を囮に使った3人目、皐月さんの突撃は、地面を撃ち抜くような砲撃により未然に防がれてしまった。辛うじて避けることが出来たものの、爆風で吹き飛ばされる。
「こっちも逃げらんない!」
「漣……この磯風も攻撃しよう。退避を優先させてくれ」
半深海棲艦化したことで、元々の装備が剥がれてしまっている。代わりに、新たに深海艤装を展開していた。順応が早い。
夥しい爆撃を二人三脚のように回避しながら2人がかりで対空砲火。退避の経路を探しながら徐々に離れようとするが、なかなか道が見つからない。
「今です!」
初霜は皐月さんを囮に近付いていた。今回も搦め手のため、艦娘の艤装からの砲撃。
「わかってるわよ……初霜、貴女はおかしなもので攻撃してくる」
当たらないように大きく回避。さすがに勘付かれている。弾的に、おそらくあれは催涙弾。あれもそうだが、大概は何処かに当たらなくては効果を発揮しない。回避に弾くことを多用する相手には有用だが、知られてしまっては普通に避けられる。
避けた後、初霜に対して急降下爆撃をされた。深海の艤装でどうにか迎撃するが、空に注意を逸らされたことで、列車砲が向いていることに反応が出来ない。
「初霜! 右に回避!」
予測していた私の指示により、紙一重で回避成功。衝撃で艦娘側の左腕が悲鳴をあげたようだが、まだ小破にも届かず。
「
今度は霞が特二式内火艇を操り北端上陸姫へと嗾けた。私達と共に連合艦隊で出撃したときは無かったが、後の合流で白露さんから譲渡されたそうだ。対地特化の性能を存分に発揮する。
特に霞は恨みのこもった攻撃だった。身体を変えられ、私と敵対させられた恨みは深い。
「内火艇……厄介ね。破壊するわ……」
列車砲を特二式内火艇に向けたものの、不規則な挙動を描き翻弄する。その間も砲撃は続けるが、かすり傷程度では即座に修復されてしまう。
「Open fire!」
「そんなの……当たらないわ」
特二式内火艇で翻弄する間に、ウォースパイトさんが一旦対空砲火をやめ、フィフの頭部大型主砲による一撃。北端上陸姫は白兵戦をするタイプではないため、砲撃は基本回避のはず。内火艇との二方向での攻撃なら、回避方向はある程度固定出来る。
案の定ヒラリと躱されるが、回避方向には扶桑姉様が待ち構えていた。
「……死になさい」
回避に合わせた猛烈な蹴り。先程の超回復を見ているため、一撃必殺を狙える頭を狙う。しかし、列車砲が邪魔でうまく狙えず、砲身もまだ傷付かず。相変わらず硬すぎる。
「ダメよ……死ぬのは貴女達だもの。朝潮を差し出せば……生かしてあげてもいいわ」
「嘗めんじゃないわよ!」
今度の山城姉様は、列車砲の砲身の挙動を考えた、腹への手刀。自分が以前に戦艦天姫にやられた時のように、土手っ腹を貫こうという策。消滅するまで抜かなければ、修復もされないはず。
「二度も三度も受けると思う……?」
そこ目掛けて艦載機が急降下爆撃を放ってきた。腹を貫けたとしても、山城姉様がやられてしまう。この爆撃が北端上陸姫に傷をつけたとしても、死んでいないのなら即修復。自爆すら痛みは伴うものの相手だけ一方的にやれる一撃となってしまっている。
さすがにまずいと踏んだ山城姉様は、扶桑姉様と一緒に間合いを取る。直後、元いた場所に爆撃が届き、吹き飛ばされることに。
「痛いわ……痛いけど……死んでいないわ」
自分の爆発を受け、脚がズタボロになっていた北端上陸姫だが、陣地上での超回復により傷は修復。服まで直っているのはどういうことだ。それすらも艤装ということか。
「それも……いい加減にしなさいね」
爆撃に巻き込まれて立ち往生していた内火艇が、列車砲で破壊されてしまった。これにより霞は攻撃の手段を失ってしまうことになる。
「一度お掃除しましょうか……」
空を覆う艦載機が一斉に急降下爆撃をしてくる。近付くに近付けず、白兵戦組も一度間合いを取らざるを得なくなった。
鎮守府外で戦っているが、あれだけの爆撃を受けても地面が少しくらいしか抉れない辺り、北端上陸姫の侵食が満遍なく行き渡っているのだろうと思う。
「あ、あれどうすればいいんですかね」
爆撃を回避した初霜がこちらへ。通常の砲撃も回避され、搦め手すら理解されているとなると、初霜としてはかなり厳しい戦い。
『滅茶苦茶過ぎる。どうするよ』
「考えてる。あれだって深海棲艦なんだし、無敵なわけないんだから……何か、何か通用する手段があるはず」
考えろ。考えろ。私が今出来ること。皆にやってもらえること。ここにいる全員の能力を全て思い出せ。今まで生きてきた私の、最初から最後までの記憶を紐解け。
たった一つだけ、私に出来ることを思い付いた。思い付いてしまった。
「……ある。どうにかする手段。やりたくなかったけど、四の五の言ってられないわ」
だがそれは、私にとっては忌むべき手段。やることはないと思っていたが、ここで、この土壇場で私は最悪の手段を取れば、現状が打開出来る。
「まさか、白い『種子』!?」
「それはもう撤去済み。北端上陸姫は混ぜ物じゃないから追加も無いわ。貴女達の瞳、金になってないでしょ」
「確かに……なら何を」
今の今まで自分の特性を忘れていた。
「北端上陸姫の陣地を……
水陸両用の陸上型という他にない特徴を持たされた私にのみ出来る、他の深海棲艦には絶対に出来ないこと。私の深海の力を土地自体に侵食させ、他の島を私の陣地として手中に収める侵略行為。
「侵略って……自分の陣地にするってこと!?」
「出来るかはわからないし、私にこんな力を与えたのは他でも無い北端上陸姫だけど……やらないよりはマシよね」
私の力の源も北端上陸姫のモノであると言っても過言ではないが、同じ力なら私の侵略も押し通せるかもしれない。突き崩せる隙はあるはずだ。
ただし、この地は北端上陸姫が長い時間をかけ、海すら赤く染めずに侵略した場所だ。そう簡単に私の力を侵食させてくれるとは思えない。
「全部じゃなくてもいい。一部だけでも陣地を奪うことが出来れば、そこに誘い込んで供給源が断てる。なんなら、私がギリギリまで近付いてから侵略を始めようかしらね。誘い込む手間が省けるわ」
「危険過ぎよそんなの!」
危険なのは承知だ。だが、そうしなくては北端上陸姫が倒せないことは明らか。今も尚、無限の供給源と超回復を得ているのだ。そのままにしておけば、被害者は次々と増える。
私が最後の被害者になればいい。無論、死ぬつもりはない。私には死ねない約束が沢山あるのだから。
「霞さん、御姉様を信じましょう」
「私達もわかっていることですよ。旦那様は言い出したら聞かないって」
春風と初霜が後押ししてくれる。失敗したら全滅であり、私は改めて北端上陸姫に壊され、世界の敵とされるだろう。だが、成功したら私達の勝利が掴み取れる。この戦いを終わらせることが出来る。
「……なら、私達が全力でサポートする。絶対に失敗させない」
「大潮達に任せてください! 必ず、必ず姫の下に辿り着かせますから!」
頼もしい妹達と自称嫁。皆の助けがあれば、きっとこの作戦は成功する。
「よろしく。貴女達のサポートなら百人力ね」
相手は異常過ぎる力を持つバケモノ。それに対するは規格外の深海棲艦と駆逐艦4人。それに、まだまだ仲間はいる。皆の力を貸してもらおう。
私で考えた策だが、私が最大のキーパーソン。私でしかやれない、私だけの最後の仕事だ。
『もう何も言わん。お前がやれ朝潮。いざとなったら代わってやる』
『ご主人、私達もサポートするから!』
私自身が1人だけじゃない。3人がかりで侵略すれば、きっと活路が見出せる。
やる気が漲る。力が溢れ出る。こんなにも絶望的な状況なのに、一切負ける気がしない。