欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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一本の楔

圧倒的に不利な状況で続く北端上陸姫との最終決戦。外での戦闘となったことで、空が艦載機に埋め尽くされ爆撃を受け続けるという酷い状況。近付こうにも爆撃と列車砲により迂闊に近寄れず、砲撃は回避され、傷が付けられたとしても超回復により即座に修復。扶桑姉様や山城姉様ですら打つ手がない。

 

が、ここでたった1つだけの打開策を見つけた。私にしか出来ない、私しか持たない力、陣地生成、侵略の力である。

ここら一帯は全て北端上陸姫の支配下なのはわかっている。その一部、足下だけでもいい、そこを私の陣地として侵略すれば、無限の供給と超回復は止まるはずだ。

それが上手くいくかはわからない。だが、やらなくては戦況は好転しない。一か八かの勝負だ。

 

『だが、近付くにもあの艦載機はどうする。私達の対空砲火じゃ足りないぞ』

「私は通してくれそうだけど」

『気に入らないけどな』

 

未だに空を埋め尽くす艦載機。急降下爆撃をしたものはそのまま地面に激突するものすらあるが、その都度補充されている。これも無限の供給の賜物か。

砲弾も減らない。艦載機も減らない。体力も減らない。常に万全。最初から最後までMAXの力を出し続け、息切れすらしない。そんな敵に近付くのは至難の業である。

 

と、ここで陽動部隊の方から反応。聞いているとやはりあちらもとんでもない数のようだし、ここで新たに援軍が来てくれるのはありがたい。来れたとしても数人だろうが、その数人で道は拓く。

 

「ヲヲ、姫様、来た」

「朝潮様。瑞穂、馳せ参じて御座います」

 

合流したのはクウと瑞穂さん。さらに帝国民が増え、こちらも戦力を充実させていく。

 

「レキさんは陽動部隊の方で活躍中です。何なりとご命令を」

「ヲ! 姫様、わたしもやる。何すればいい」

 

クウが来てくれたのはかなり大きい。艦載機の量であの群れを一時的にも食い止めることが出来るかもしれない。

 

「戦場でやらなくちゃいけないことがあるの。だから、皆で私を守って」

 

未だに続く爆撃の雨。この話も、対空砲火をしながらである。一向に手が休まらない。

 

「……危ない橋を渡るのですね。お任せください。この瑞穂、粉骨砕身の覚悟で、朝潮様をお守りいたしましょう。命に代えても……は違いますね。皆であの場所に帰るために」

「はい、全員で帰りましょう」

 

さぁ、最後の大仕事だ。皆の力を借りて私は真っ直ぐに北端上陸姫の下へと向かう。

 

 

 

爆撃が一旦止んだ。ここにいる全員が、北端上陸姫と間合いを取った状態である。まさに仕切り直しという様相。

その間に、漣さんと磯風さんは大分離れることが出来た。2人で離れることが出来ないというのは非常に厄介で、お互いに中破以上の損害を受けていたが、何とか命を留めたまま戦場から離脱。村雨さんと峯雲のように動くのは流石に無理である。

 

北端上陸姫は当然ながら無傷。傷は負っていたのだろうが、即座に修復したことで()()()()()()ことにされてしまった。

あれだけやって、私達が削られたのみ。封印と侵食の鎖が無くなっただけでも良しとしなくては。

 

「朝潮……諦めたかしら……。ここは私の世界……貴女達に最初から勝ち目なんて無いの」

「諦めるなんて言葉、私の辞書にはないので。むしろそちらが諦めては? 私を生かすように戦っているみたいですが」

「だって……ねぇ? どうしても……貴女が欲しいの。欲しくて欲しくて……堪らないのよ」

 

狂気を宿した瞳で見られ怖気立つが、弱みは見せない。

あちらの執着のおかげで、私は死ぬほどの攻撃はされない。これは好都合だ。まずは触れられるほどに接近して、真下を侵略する。侵略していることを気取られないようにするつもりではあるが、陣地を侵食していくのだから、遅かれ早かれ私のやることはバレるだろう。それを、仲間達に何とかしてもらう。

 

私がやる、一世一代の大仕事。それを邪魔されないように、仲間達に働いてもらう。今だけは、私は自ら女帝として振る舞おう。

 

()()()()()()

 

「皆さんの命、私に預けてください!」

 

真っ直ぐに突っ込む。無謀とも言える突進だが、私だって今や白兵戦組の一員。扶桑姉様や山城姉様と同じように、直進から渾身の一撃を入れる戦闘方法を扱う。

 

「自分から来てくれるのね……なら……一度動けないようにしてあげましょう……脚の1本や2本なら……後からくっ付けられるものね」

 

列車砲が私の方へ向いた。

こうなるのではないかとは思っていた。あちらの技術力的に、私が生きてさえいれば別にどうとでもなるのだから、攻撃はしてくるのではないかと。今までの爆撃だってそうだ。私が避けられる範囲、当たれば死なない程度の大怪我を負う程度で攻撃してきている。

私が動けない方が向こうとしては好都合だろう。列車砲は脚を狙ってきている。

 

それをどうにかしてもらうために、仲間達にお願いするのだ。

 

「朝潮を守ればいいんでしょ! 連装砲ちゃん、行っちゃってー!」

 

あくまでも、私の侵略は秘匿。知っているのは先程話した者のみ。それ以外は私が一撃必殺の何かを企んでいるくらいにしか思っていないだろう。それでも、私の思いに応えて動いてくれた。

島風さんの連装砲ちゃんは3体全てが未だ健在。その3体全てが纏まって体当たりを仕掛けた。先程部屋の外に突き飛ばした、俊足の体当たりだ。

 

「っ……何度も何度も……っ」

 

そのおかげで私から照準が外れ、少し横の地面を抉る。爆発の衝撃で少し体勢を崩されるが、まだ行ける。撃った直後のタイムラグ、ヨルを展開してトップスピードのまま前転。

 

『うりゃああ!』

「そんな大振りな攻撃が……当たると思っているの?」

 

大胆過ぎたか、かなり大きく避けられる。ここで予知を使えばもう少しいい場所に叩きつけることが出来たかもしれないが敢えてやらない。私達は当てる気が無い攻撃を、そうは見せないように繰り出した。理由はある。

 

『ここが! 私達の陣地!』

 

地面に叩きつけたと同時に、ヨル経由で私の深海の力を地面に流し込んだ。以前、領海の島を陣地にした時とは少し違う感覚。無理矢理抉じ開けるようにイメージした。これが成功しなければスタートにも立てない。

直径数cm、足1つ分にも満たない攻撃の跡。そこを陣地にすることが出来たかは、その場所を自ら踏みつけることで確認。

 

「……よし、()()()

 

ほんの僅かではあるが、私に対する恩恵が見られる。回復するわけでも、痛みが無くなるわけでもない。こんな死と隣り合わせの戦場のど真ん中でも、ただただ()()()()()()()に変化したことがわかった。

 

やはり私の力は北端上陸姫の力と同じだ。長い時間かけて作られた陣地に対しても、1回の攻撃で僅かながらの()を打ち込むことが出来た。危惧していた失敗は免れた。

おそらくここから足を離したらすぐにでも消えてしまう、小さな小さな楔。今からはこれの防衛戦となる。

 

「……ゴミはゴミらしく……燃やしておくわ」

 

照準をズラした島風さんに対し列車砲を向けるが、その時にはもうそこにはいない。さすがの速さに、北端上陸姫も聞こえるか聞こえないかの舌打ちをしていた。

 

「へっへー、おっそーい!」

「ええ、遅いですね」

「ホント、隙だらけだよ」

 

島風さんに気を取られている隙に、川内さんと瑞穂さんが北端上陸姫の真後ろに立っていた。例の移動法、川内さんも出来ている。おそらく質が違う似たようなものだろう。

川内さんが頭を狙い撃ち、瑞穂さんが爆雷を放る。当たれば致命傷の2撃。

 

「隙なんて……あって無いようなものよ……」

 

その場所に数機の深海爆撃機が急降下爆撃を行ってきた。こうされるであろうと予測しての前以ての行動。

だが、それくらい私だって読んでいる。クウに先んじて指示をしておいた。私達が接近したときに急降下爆撃が来るだろうと。

 

「ヲ、さすが姫様、ホントに来た」

 

クウの艦載機により、その急降下爆撃は阻止。私と違い自由にコントロール出来るわけではないが、クウの艦載機も立派な深海製。さらにはクウ自身の成長により、攻撃力は姫級とも遜色がないほどになっている。

クウもなんだかんだ歴戦の勇士。活躍の場があまり無かっただけで、我が鎮守府の空母陣に鍛えられた猛者である。爆撃を回避しながら艦載機を次々と発艦し、無尽蔵に発艦される敵艦載機を的確に処理していた。

 

これによりキャンセルされなかった川内さんの砲撃が北端上陸姫の左耳を吹き飛ばし、瑞穂さんの爆雷が背中を焼き尽くす。ギリギリで回避していたようだが、川内さんの分しか回避出来なかった様子。

瑞穂さんの爆雷は致命傷に近い。本来ならこれで終わりだろう。だが、

 

「言ったわよね……この場所では……私が勝者なんだって……」

 

既に修復されていた。そのまま置いておけば命を燃やし尽くす大火傷でも、北端上陸姫にとっては関係ない。生と死は1か0、その時死ななければ、それは無かったことになる。

振り向きざまに列車砲の砲身で薙ぎ倒そうとするが、いつもの移動法でそれは回避。瑞穂さんはクウの側へ。川内さんは傷付いた島風さんの側へ。

 

『注げ注げ!』

『もっと拡げるよ!』

 

その間も侵略は続けている。少しずつ、少しずつ準備を進めていく。この場所だけは私の陣地。楔に深海の力を注ぎ、私の場所を拡張していく。現在、ようやく1m前後。ポーラさんの領海にある岩の島にも満たない。

まだまだ足りない。出来ることなら数m。目標は2人入っても余裕なくらいの範囲である。

 

「朝潮……何をしているのかしら」

 

だが、ここまでやればさすがにバレる。私の気配が、私を中心に拡がっていっているはずだ。

ここからが本番。妹達に守ってもらいながら、私はこの範囲を拡張し続けることになる。私は動けない。最初の楔はヨル経由だったが、直接注ぐのが一番侵食が早いはず。

 

「……貴女……まさか……!」

 

私の足下に目が行った。やってることまでバレた。明らかに表情が変わった。

 

「御姉様の邪魔はさせません」

「旦那様には近付けさせませんよ」

 

春風と初霜が私に近付けさせないように砲撃を開始する。私の出番なく終われるのならそれでいいと、1回1回が致命傷になるような場所を狙っていく。初霜は勿論搦め手も込みだ。

 

「……させないわ……朝潮……魂胆が見え見えよ」

 

2人の攻撃を軽く避けるが、それにより北端上陸姫の位置は私からは遠退いていく。今は遠退かせることが目的だからそれでいい。ある程度準備が出来たら、今度は近付いてもらわなくてはいけないが。

 

「死ななければ治せるわ……少し……お仕置きしなくてはいけないわね……」

 

私をこの場所から排除しようとしているのはわかる。私が注いでいない限り、この陣地は拡がらない。むしろ、ある程度の大きさが確保出来なければ、周りの北端上陸姫の陣地に押し潰されて消えてしまう。

私の真上に空を覆う艦載機が集結しているのがわかる。全ての爆撃を受けたらさすがにまずい。北端上陸姫はお仕置きなんて言っているが、死と隣り合わせである。

 

「お姉さんは! 大潮が! 守りますよぉ!」

「陛下、私が盾になるわ!」

「瑞穂も微力ながらお力添えさせていただきます」

 

大潮、ウォースパイトさん、瑞穂さんが私の側へ。一蓮托生と言わんばかりに、私の近くから対空砲火を開始。ただの爆撃と急降下爆撃が入り交じる死の雨を、未然に防いでくれていた。

 

「姫様、姫様は絶対に守るから、安心して」

 

さらにクウの艦載機が私の真上へ。爆撃機を1つ、また1つと破壊してくれる。真上に爆弾が落ちてきそうになっても、艦載機を使って防いでくれた。おかげで誰もが無傷でいられる。

4人がかりと局所的な防空により、私の身は守られている。帝国民の輪形陣。

 

だが、それは空爆相手の場合のみだ。その真横、間合いを取らせたことで、こちらに向けてしっかりと列車砲を構えていた。

 

「都合よく固まってくれたわね……なら……朝潮以外は一網打尽かしら」

 

このまま撃たれたらウォースパイトさんは直撃コース。いくらフィフでもあれは耐えられない火力だ。大潮と瑞穂さんにも影響が出る。私はこの場から動けない。どうする。どうする。

 

「姉様に……任せなさい……」

「アンタ達は防空に専念しなさい」

 

そこに立ち塞がるのは扶桑姉妹。大潮と瑞穂さん、そして私を守るように目の前に。

 

「余程死にたいようだし……やっぱり貴女達が最初かしらね」

 

列車砲が放たれる。先程までずっと回避していた凶悪な火力の前から2人は退かない。

着弾寸前、本当にいつものようにその砲撃を素手で弾いた。敵の火力がどうであれ、わかってしまえばもう関係ない。

 

「あれだけ見せられたら、タイミングくらいわかってんのよ」

「だから……弾くくらい出来るわ……妹を……皆を守るために」

 

自信たっぷりに笑う山城姉様と、狂気が無くなったかのように微笑む扶桑姉様。なんて心強い、愛する姉達だ。私の安全は保証されている。

だが、小声で山城姉様に呟かれる。

 

「何発も保たないわ。せいぜいあと……3回よ」

 

砲弾を弾いた腕が黒ずんでいた。今の防御により、腕に深刻なダメージが入っている。清霜さんの51cm連装砲相手でもこうはならなかったのに。それほどまでに、北端上陸姫の列車砲はとんでもないものなのだと実感させられる。

 

「だから……私達も他の子に頼るわ……」

「心強い仲間がいるものね。安心して任せられる」

 

爆撃と列車砲を私の方に寄せているせいで背後からの皐月さんの一撃に対応出来ていない。

 

「っだぁーっ!」

 

頭を両断しようとする渾身の一撃。いくら回復能力が異常でも、脳と心臓が壊れれば死ぬはずだ。

だからだろう、北端上陸姫はそういう攻撃に対してやたら敏感。背後からであろうが御構い無しに反応し、即座に振り返り皐月さんを砲身で薙ぎ倒した。刃は額を掠める程度で終わってしまい、それもすぐに修復され無かったことに。

逆に皐月さんはこの一撃でほぼ大破の重傷。脇腹への重い一撃と、砲撃直後の熱量による火傷。

 

「げほっ……くっそぉ……インチキすぎる……!」

「なら離れて攻撃したらいいわ!」

 

霞が魚雷しか使えないことは北端上陸姫も知っていることだ。だから甘く見ていた部分はあるだろう。霞が何を言っても素知らぬ顔である。

ただし、次の瞬間に認識を改めた。

 

「アンタが私にやらせたことでしょうが。記憶力足りないんじゃない!?」

 

陸上で手を払い、()()()()を生成。ほぼミサイルと化したそれは、一直線に北端上陸姫に向かって飛んでいく。当然こちらもコントロール可能の霞の最終兵器。

だが本人への負荷も異常。以前やらされたときは鎖6本を繋がれた強制オーバースペックであったが、今回はその状況を自力で引き出している。放った瞬間、鼻血を噴き出していた。

 

「……本当に貴女達は……厄介な連中ね」

 

列車砲と艦載機によるガードを試みるが、縫うように進む陸上魚雷は事前に破壊することも出来ない。当たれば木っ端微塵だが、そこまで甘くない。

 

「認識を改めましょう……霞……貴女は殺さずに朝潮の側近に変えてあげる……喜びなさい……」

 

艦載機が盾のように北端上陸姫の周りを敷き詰め、魚雷が直撃することなく爆発してしまった。

爆炎が晴れたところで、北端上陸姫は無傷。いや、反応的には一部欠損していたようだが、超回復により無かったことにされた。

 

「チッ……本当に頑丈なクズね。姉さん、私達に任せて、事を成して!」

 

姉に守られ、妹に守られ、私は私にしか出来ないことを進めていく。心強い仲間、信頼できる姉妹。その存在を身近に感じ、力がまた湧き上がる。

 

『もっと! もっとだ!』

『いっぱい注ぐよーっ!』

 

皆の後押しを受け、注がれる力が一気に増した。私も楔に向け、全力を出し続ける。そして、

 

「ヲ……すごい、姫様に抱かれてるみたい」

 

陣地が目に見えるほどにまで拡張された。小さな小さな侵略は、仲間達の協力の下、確実な成果を挙げることが出来たのだ。

 

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