欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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大団円

戦場跡に残された陣地を放棄したことにより、こちらで出来る後始末はこれで全て完了。これで本当に戦いは終わったと言えるだろう。私、朝潮も肩の荷が全て下り、ようやく日常が戻ってくる。

戦いが終わったことは、私が目を覚ましたことですぐに関係各位に報されたそうだ。浦城司令官も志摩司令官も、この戦いが終わったことを大いに喜んでくれた。

 

そして、報告を受けたのはもう2人。

 

「アサ!」

「ヒメさん! 遊びに来てくれたんですね」

「今日はお泊りだ!」

 

レキの尻尾に乗ってやってきたヒメさんが、私を見るなり飛び付いてきた。

報告を受けたことで、北の拠点からわざわざ鎮守府に来てくれた陸上型姉妹。なんと今回は陣地ごとである。鎮守府近海に久しぶりにミナトさんの陣地が現れた時は驚いた。しかも以前より近い位置に出現している。

報告は雲龍さんが結局未だに返していないミナトさんの艦載機で行ったそうだ。すっかり深海の艦載機も使いこなしている。

 

「今度はちっちゃくなったな。会った時と同じくらいだ」

「はい、いろいろあって、体格だけは元に戻ることが出来ました」

「元に? アサ、ここはこんなにでっかくなかったぞ」

 

胸をバンバン叩かれる。ある意味これも戦後の後遺症であろう。痛くも痒くも無い上に私にはとても喜ばしいことであるが。

 

「朝潮……うん、安定しているな」

「最終段階まで行ってしまいましたが……皆のおかげで乗り越えることが出来ました。もうこれ以上何か起こることもありません」

「そうか。それなら安心だ」

 

ミナトさんも雲龍さんに担ぎ上げられて陸へ。この光景を見るのも本当に久しぶり。地に降りて第一声が私の姿への見解。ミナトさんからも安定していると言われれば安心だ。

 

「私も提督に話を聞きに来た。今回の敵の姫は、我々深海棲艦にも無関係ではない話だ」

「そうですね……ミナトさんには知っておいてもらった方がいいと思います」

 

詳細は雲龍さんも知らないことだが、おそらく普通じゃない深海棲艦とだけ伝えたのだろう。元人間であることは、戦いが終わった今でも極秘中の極秘であるため、その辺りを伝えるかどうかは司令官に任せることにする。

 

「アサ、なんか雰囲気変わったな。私達と似てる感じがするぞ」

「私も陸上型になったからですね。海上を移動できる陸上型にされてしまいました」

「なんだそれ! 羨ましい!」

 

陸上型にとって海上を移動するというのはそれだけで羨ましいことなのだろう。おそらく私にしかない特性。侵略者としての特性を与えられたことが今回の勝因にもなったため、この力は手放せない大切なものとなった。そこだけは北端上陸姫に感謝しておこう。

 

 

 

ミナトさんが司令官に話を聞いている間、ヒメさんは暇になってしまう。その間は私が一緒にいてあげることになった。積もる話もあるし、ここに来るのは久々なヒメさんには、紹介したい人も沢山いる。

今は私が旗艦のお散歩部隊。ヒメさんの他に、レキとクウがついてきている。クウの変貌ぶりに最初は大きく驚いたヒメさんだったが、ここにそれなりに長く滞在した経験があるおかげか、すぐに適応した。

 

「みんなに会えるの、楽しみだったんだ」

「レキ達はたまに会いに行ってたんだけど、他の姉ちゃん達は忙しかったもんなー」

「人も増えてる。仲良くなれると思うよ」

 

お散歩しながら私の周りをクルクル駆け回る。心温まる光景である。子供達が仲良く遊んでいる姿は、それだけでも癒し。私達はこの光景を勝ち取ったとも言える。

 

「本当だ。知らない奴がいっぱいだ」

「あの後に結構人が増えましたから」

 

少し人見知り気味なヒメさんは、知らない人が見えると少しだけ歩みが遅くなる。でも大丈夫、皆優しい人だから心配は要らない。それに、ここにはコミュケーション能力が振り切れている人達ばかりだ。すぐに仲良くなれる。

 

「貴女達、本当に顔が広いわね。陸上型の陣地がそこに出てきたら流石に驚くわ」

 

外で陣地をしげしげと見つめていたイクサさんに遭遇。姿を見た瞬間にヒメさんが私の後ろに身を隠した。子供ならまだしも大人では人見知りが先立つか。特にイクサさんは戦艦水鬼、領海を侵略しようとした戦艦棲姫の上位互換だ。その時の感情も入り交じってしまうかも。

 

「あ、そうそう、まだ言ってなかったわね。私、ここに居座らせてもらうわ。提督にも伝えたわ」

「正式に決めたんですね」

「ええ。ここなら気負わずに生きていけるんでしょう? アサじゃないけれど、私もボーッと生きていきたいのよ。争いなんてせずに」

 

白寄りの戦艦水鬼という珍しいタイプのイクサさんは、この鎮守府に残ることを決めたようだ。こうは言っているが、おそらく理由は違うところにある。この人、司令官のことを気に入ったと言っていたし。

 

「だから度々会うことになるでしょう。北方棲姫……ここではどう呼ばれているの?」

「……ヒメだ」

「そう、ならヒメ。私もこの鎮守府の一員よ。仲良くしてもらえるかしら」

 

膝をついて視線を合わせて手を差し出す。子供の扱いもわかっているような紳士淑女の対応。イクサさん、人が出来すぎているのでは。

 

「ん、わかった。よろしくな」

 

それを察して、ヒメさんもその手を取る。人見知りかもしれないが、仲間とわかれば即友好的。そういったところは子供かも。

 

「で、そっちの大きな人見知りはどうするのかしら?」

 

今の光景を物陰から見ている深海海月姫。もう皆が佐久間さんと同じように海月さんと呼んでいる。本人も拒んでいないのでその流れに。

基本的には佐久間さんの助手2号として研究室に入り浸っているが、ここ最近は佐久間さんもようやく余裕が出てきたため、こうして散歩をしているようだ。

今のところ正式にこの鎮守府に居座ることを決めていないため、フワフワした存在ではある。そういうところもクラゲ。

 

「……まだ考えているところ」

「ここに居ればサクマとずっと一緒に居られるわよー」

「……考えていると言っているだろう」

 

その言葉を聞き、レキとクウが海月さんを囲む。

 

「クラゲの姉ちゃん、レキ達は”だいかんげー”だぞ!」

「うん、ひめさまのお姉さんの命の恩人だから」

 

やんややんやと囃し立てられるが、見た目だけは態度を崩さない海月さん。だが、見ていてわかる。こうされているのも居心地を良さそうにしているのを。

 

「あの子、確実に居座るわ」

「ですね。私でもわかりますよ」

「そもそもサクマにゾッコンだもの。ここから離れるとは到底思えないわね」

 

そのうちヒメさんも囃し立てるのに加わり、海月さんは迷惑そうにしながらもその状態を楽しんでいた。あの人も佐久間さんという人間と知り合ったことで変わった人だ。全ていい方向に進んでいる。

 

 

 

ミナトさんへの説明が終わった後、全体放送で皆が工廠に集められる。この流れ、何をするかは大体わかる。

 

「作戦終了を祝して、記念撮影だ。君達の成長を記録させてくれ」

「青葉、準備オッケーです!」

 

北の拠点攻略時にも集合写真を撮ったが、今回も撮ることになった。作戦終了のお約束として、私達の成長記録としても残す。前回撮った時より縮んでいるという不思議な現象が起きているが、それもいつか笑い話に出来るだろう。

続々と工廠に集まってくる。こういうことが初めてであるイクサさんや海月さんは、どうしていいかわからないようだ。

 

「はいはい、海月さんはこっちねー」

「さ、サクマ、引っ張るな」

 

ここの力関係は佐久間さんの方が上のご様子。

 

「あ、さりげなく提督の隣に!」

「イクサさん抜け目ないですよね……」

 

イクサさんはわからないなりに流れに身を任せていい位置に立っていた。

 

「そうだ朝潮君、皆がいる場だが丁度いい。今ここでやろうか」

 

と、ここで写真を撮る前に司令官が私へ。皆が集まっている場で注目されるのは少し緊張する。

 

「これを君に改めて渡そうと思ってね」

 

司令官が取り出したのは、ケッコンカッコカリの指輪である。

戦いの中で私は左腕を失った。細胞移植により五体満足に回復はしたものの、その時に左手薬指の指輪は無くなってしまっていたのだ。本来の目的である練度上限の底上げはもう無いのだが、印として身につけていることが重要だ。

それに、私がちゃんと欲しい。指輪のおかげで司令官と繋がれているようにも思えるし、実際戦闘中に司令官を感じることが出来た。モチベーションのためにも必要だ。

 

「君の施術後、指輪が無くなっていることに気付いたよ。それを見たら、私が悲しくてね。私も君達には持っていてもらいたいんだ」

「はい、私も持っていたいです。司令官との大切な繋がりですから」

 

あの戦いで失ったものは無いと言い切れるように、ここで新たに指輪を貰おう。これは失いたくない。

滅多にない2回目の指輪だ。どうせならまだ貰ったという経験の無いアサかヨルに代わろうか。

 

『それを貰うのはお前の特権だ。私達には気を使わなくていいからな』

『ご主人が前に貰ったものなんでしょ? なら、今もご主人が貰わなくちゃ』

 

先に手を打たれていた。よく気がつく子達である。

 

「ではその、はい、よろしくお願いします」

「ああ。じゃあ、左手を」

「はい」

 

おずおずと差し出すと、やんわりと握ってくれる。2度目だとしても緊張する。心臓が高鳴ると同時に、アザの明滅が速くなるのがわかった。以前と違って朝潮型の制服のおかげで、それが司令官にバレないことが救い。

指輪を薬指に通されると、以前よりも深く繋がれたように感じた。私の感情の変化がそうさせているのかもしれない。

 

「私と朝潮君では既に繋がりが出来ているからね、これで終了だよ」

「はい、ありがとうございます。またこんなことが起きないように、自分の身は大切にしたいと思います」

「今回は不意打ちだったから仕方がないよ。だが、その気持ちは大切にね」

 

ここでもう一度キスを要求する勇気は無かった。山城姉様のようなガチ勢なら躊躇なく言っていたのだろうが、私はそこまでではない。ただでさえ、今は皆が集合している工廠である。

それでも、確実に考え方が変わっているのは自分で理解している。私は司令官に対して、()()()()()()を持ち始めているのだと自覚した。まだ私しかされていない2回目の指輪授与に、少しだけ優越感がある。

 

「司令官……あの、私からこんなこと言うのも差し出がましいけれど、司令官をいつも尊敬していますから」

「ありがとう朝潮君。私も君を信頼しているよ」

 

私から伝えられる想いはこれくらいだ。頭を撫でられるのも、なんだか身体が熱くなるような感覚。力が湧いてくるように思えた。

今はそれだけではない。司令官に触れられると、幸せな気分になる。仲間達とは違う感情が溢れてくる。この人のために頑張ろうという気持ちでいっぱいになる。

 

「これで元通りだね。これからも、よろしくお願いするよ」

「はい、朝潮にお任せください。このような身になりましたが、この鎮守府に尽くさせていただきますね」

「はっはは、頼もしい限りだ」

 

これからも鎮守府の、皆の、そして司令官のためになれるように、誠心誠意取り組んでいこう。今の私には何のしがらみもないのだ。

 

「では改めて! 撮りまーす!」

 

この日を境に、私達は再び平和な日常を歩み出す。もうあんな血で血を洗うような戦いは二度とゴメンだ。

 

この長い戦いで、私は大きく成長出来たと思う。そしてこれからも、私は成長し続けるだろう。

 




これからは楽しく生きていくことが出来るでしょう。あんな悲惨な事件は、もう起きないはずです。



次回、最終回です。
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