欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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次の道へ

皐月さんが新しい道を決めたことで、私、朝潮も別の道が見つかった。居ても立っても居られず、霞に肩を貸してもらいつつ司令官にそれを話しに行った。

司令官は快く同意してくれた。だが、身体を休めるのが急務だとも言われた。せめて今の体調不良を終わらせ、霞の手を煩わせることなく歩けるまでは回復しなくては。

 

「姉さんが本調子になるまで、あと1日はかかるでしょ。ゆっくり休みなさいな」

「ええ、そうさせてもらうわ。丸一日の入渠でこんなに体調が崩れるなんて」

「それ以外にもあるでしょ。吹っ切れてもらえてよかったけど」

 

トラウマによる体調不良は想定外だった。今でこそ大分持ち直したが、それでもまだフラフラする。昼食を摂っていないというのも、それに輪をかけているだろう。

だが、霞のおかげでトラウマは克服できた。戦場のことを考えても震えてこないし、余計に体調が悪くなることもない。

 

「霞、本当にありがとう。もう艦娘としての役割が無くなってしまったかと思ったわ」

「……私は姉さんと戦いたいもの」

 

他に誰もいないと素直に話をしてくれる。

 

「夕食は当番にお願いしてお粥でも作ってもらうわ。少なくとも今日は部屋にいること。いいわね」

「わかったわ。ありがとう、霞」

「病み上がりだもの。今日くらいは私を頼りなさいな」

 

お言葉に甘えて、今日は霞にいろいろやってもらおう。

 

 

 

翌日。完全にとは言わないが体調は大分戻った。試しに清霜さんの主砲を見せてもらったが、吐き気も何もない。トラウマはほぼ克服したと言ってもよかった。清霜さんも喜んでくれている。

 

「見られて吐かれたらあたしもちょっとショックだよ」

「その節は本当にごめんなさい。もう大丈夫です」

「よかったよかった。一緒に出撃できるしね」

 

と、ここでふと思い立った事があるので、清霜さんに聞いてみよう。

 

「清霜さん、戦闘中にいると嬉しいサポートって何ですか?」

「そうだねぇ……あたしって主砲がおっきいからさ、自分の真正面しか見えないこともあるんだよね。だから、敵のいる位置がずっとわかると嬉しいかなぁ」

 

なるほど、敵の位置。いち早く場所がわかったり、どこから攻撃してくるかがわかれば、一人でも戦略は立てられる。

 

「誰だって真後ろは見えないだろうけど、あたし特に見えないからね」

「わかりました。ありがとうございます」

 

その後、いろんな人に聞いて回った。徹底的に補助に回るとなると、この鎮守府にいる全員の要望を知った方がいいだろう。

 

一番多かったのが、清霜さんと同じで、敵の位置が全部わかっていると戦闘が楽ということだった。誰しも攻撃するときはその方向しか見ない。後ろに目が欲しいという人ばかりだ。

 

「特に私達はどうやっても1人に集中するもの。何、朝潮が私の背中の目になってくれるの?」

「はい。そのつもりで考えています。そうなれるように訓練をしていきたいと」

 

山城さんですら同じことを言った。どれだけ鍛えても戦闘に集中してしまうと背後からの攻撃は疎かになってしまう。元帥閣下の護衛艦隊の方々と演習した時も、武蔵さんに専念して他を任せるという戦法を取っていた。

 

「皐月とは違う道を選んだわけね」

「そうなりますね。今までは同じ役割だった皐月さんとは、ここで袂を分かちます。あ、筋トレは続けますよ」

「そう、ならこの鎮守府唯一の存在になるわね」

 

配属人数だけならかなり少ないこの鎮守府だが、何だかんだ役割は重複する。私のできる対空担当なら皐月さんもいるし吹雪さんもいる。対潜担当なら潮さんがトップだ。

 

「唯一、ですか」

「海上艦に対する完全な補助艦娘はアンタしかいないわ。皐月が攻撃を覚え始めたことでね」

 

そういえば、と納得する。私は潜水艦相手なら攻撃できるが、駆逐艦以上が相手となると、1体でも逃げるしかない。絶対に単独行動ができない艦娘だ。普通の艦隊なら、足手まとい以外の何者でもないだろう。

だが、私が他の艦娘のスペックを上げることができればどうだ。残り5人でも6人以上のスペックになる補助ができれば、私の役割としては充分すぎるのではないか。

 

「朝潮、戦況把握を今以上にできるようになりなさい。貴女がやられたら終わりだと、私達に思わせるくらいになるべきよ」

「そうですね、全員が私に頼るくらいに」

「大きな口が叩けるくらいまで回復したのなら良かったわ。さぁ、筋トレよ」

「私休息日なんですけど……」

 

今後の私の方針は完全に決まった。対空も対潜も大事だが、今一番必要なのは索敵能力だ。戦場が全て見られるほど視野を拡げ、仲間の向いている方向も確認しながらの戦い。今まで以上に神経を使うようになるだろう。

 

 

 

 

「そこで青葉を頼りに来たんですねぇ。朝潮さん、いいところに目を付けました!」

 

海図を書き終わった青葉さんに丁度出会えた。索敵といえば青葉さん。話を聞くには一番いい。

 

「索敵能力の訓練は海を使わなくていいのでいつでもできます。むしろ常にできます。でも、最初のうちは頭が痛くなるかもしれませんねぇ」

「頭がですか?」

「お風呂と寝るとき以外、常に艤装を装備していたんですよ。電探はフルで動かして」

 

鎮守府内で索敵を行い、全員の位置を把握し続ける。さらに、その反応が誰のものかを意識しながら動けるようになればさらにいい。だが、常に電探を動かし、情報を得続けるということは、頭の中に情報が錯綜するということだ。身体以上に頭が疲れる。

それくらいやらないと、青葉さん並の索敵能力は身につかないということだ。私がなりたいのはそのレベル。索敵しながらの対空訓練も必要。電探とソナーの同時使用も必要だ。青葉さんに唯一できない、海中の索敵まで私はやりたい。

 

「そしたら青葉の助手をやってほしいですねぇ」

「海図の作成のですか?」

「はい♪ 潜水艦の子に毎回頼むのも忍びないと思っていたんですよぉ。駆逐艦の子ならついてきてもらいやすいですしぃ」

 

索敵訓練の集大成は、海図作成のお手伝いだろう。自分を中心とした範囲全ての索敵で、地形の確認をする。さらにはソナーを使うことで海底までの形も把握できる。

 

「わかりました。ある程度の訓練ができたら、お手伝いしましょう」

「助かりますぅ。なら、司令官にも話をして、専用の電探を明石さんに作ってもらいましょう」

 

機関部艤装も装備したままとなると、生活に支障が出かねない。幸い、朝潮型の機関部艤装は比較的小さめなので、生活は何とかなるだろう。

 

青葉さんも一緒に司令官に頼むと、すぐに許可を出してくれた。簡単かつ他の訓練と併用できるということで、司令官の不安もないとのこと。だが、最初は慣れるのに時間がかかるから気をつけろとも付け加えられた。

 

 

 

さらに翌日。私専用の電探が完成したと明石さんから連絡が入る。さすが明石さん、仕事が早い。朝食後、司令官と一緒に工廠で装備することに。

 

「うん、会心の出来ですね! とても()()()ものが出来ました!」

「うむ、よく似合っている」

 

私専用の電探というのは、眼鏡の形状をしていた。さらに、青葉さんのときの反省点を踏まえ、機関部を装備せずとも機能するという優れものだ。機関部を常に装備というのは、私のような小さな艤装だったとしても椅子に座るのも難しくなる。青葉さんはそれで苦労していたようだ。

その代わり、私の頭の上には電探の装備妖精さんが待機する状態に。おかげで、お風呂や寝るときに工廠に行かなくても眼鏡を外すことができる。

 

「娘の目が悪くなったことというのは、私はどう受け止めるのがいいのだろうか」

「伊達眼鏡ですから。ファッションの一環ですよ提督」

「むぅ、そういったものには疎くてね」

 

当然私は目が悪くない。なのでこれもファッション、伊達眼鏡である。だがこれも電探のため装備の一つ。私専用なので私にしか装備できず、他の人には持ち上げることすらできない。

 

「この子は常に頭の上ですか?」

「近い位置にいないといけないから、そこが一番かな。なんか乗りづらそうだけど」

「あ、そうだ。ならこれでどうでしょう」

 

髪を結んでポニーテールに。これなら妖精さんも足場が出来て乗りやすいだろう。妖精さんも椅子のように座れるようになりご満悦なようだ。

 

「朝潮君、気分が悪くなったらすぐに言うんだよ。情報が錯綜してかなり混乱するそうだからね」

「了解しました。貴女もよろしくお願いしますね」

 

頭の上の妖精さんの頭を撫でる。鏡越しに親指を立てているのが見えた。

 

「では、電探、起動します」

 

眼鏡が少し光った気がした。その瞬間、私の頭に今いる工廠と同じ階の部屋の形と人の位置が流れ込んできた。さらには近海の様子まで。

いつも使っている対空電探は、電磁波により艦載機がどこにあるかを知る程度だが、これはかなり性能が高い。電磁探知機なのに壁を突き抜けて位置がわかるあたり、妖精さんの謎の技術が改めて恐ろしく感じる。

身近にある2つの反応は司令官と明石さんであるのは確実だ。

 

「あ、なるほど……これを一日中ですか。頭が痛くなりそうですね」

 

この情報を常に頭に流したまま、目で見た情報も考えないといけない。あ、誰か一人こちらに歩いてくる。

 

「雷撃訓練の前に姉さんの新装備っての見に来たわ」

 

今の反応は霞だったようだ。反応からどれが誰だかわからないのはなかなか怖いものがある。あくまでもわかるのは室内がどうなっているか、そして人がどこにいるかの2つ。青葉さんはこの反応を使って島や波の高さを調査するわけだ。敵がいなければ人の反応はないわけだが。

 

「姉さんが……ポニーテールで……眼鏡……」

「眼鏡が私専用の電探なの。霞が来たのもわかったわ」

「この情報が常に頭に流れ続けるんだ。休めるときには休むこと。朝潮君は今日までは休暇だからね」

 

霞が思考停止しているようだが、私は滝のような情報の流れで割と余裕が無かった。思考があちこちに向いてしまう。全てを同時に考える必要がある。これは相当辛い。

 

「一日中が辛いなら、30分とかから徐々に伸ばしていくとかでもいい。こういうことは青葉君の方が詳しいだろう」

「了解しました。私はこれで、皆のサポート役になりますから」

「君の覚悟もよくわかったよ。だが、絶対に無理しないでほしい」

 

この訓練は負担が大きい。今実感している。少し頭痛がし始めた。だがこれくらいしなくては私のなりたい私にはなれないのだ。

 

「はっ、少し気を失っていたわ。姉さんが異常に可愛いイメチェンをしている夢を……」

「イメチェンと言われればそうかもしれないけど」

 

霞が私の姿を凝視した。顔が緩んだり冷静になろうとしたりと忙しい。悪い気分ではないが、霞のキャラがどんどん壊れている気がして、それが司令官や明石さんに知られているのが気の毒になってきた。

 

「……この電探の形を決めたのは誰?」

「私だよ。ほら、女の子だし似合うのにしたいでしょ?」

「明石さん……ありがとう。本当にありがとう」

 

なんかすごく感謝してる。まだ私の見たことがない霞だった。

 

「朝潮君、霞君は実はこういう子なのかい」

「私の前では結構。人前でここまでのものを見せるのは、多分司令官と明石さんが初めてかと」

「皐月君がお姉ちゃんっ子だとは言っていたが、ここまでなんだねぇ。クールな子だと思っていたが、なかなか歳相応なところもあるじゃないか」

 

後日ショックを受けるだろうけど、その時は私が慰めてあげよう。




朝潮の装備する超高性能電探は、妖精さんの技術の粋を集めた謎の装備。海上なら遮蔽物ないけど、岩礁の裏すらわかる電探。
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