欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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努力の成果

電探眼鏡を使い始めてから幾日か過ぎたが、まだ完全に慣れてはいなかった。頭痛が酷くなるまでの時間は伸びているが、ようやく1時間保つか保たないかというところ。ただ、その間は大体全員の位置を把握できるようになってきている。

1時間も保てば戦場では充分なこともある。だが、長期戦になると途端に不利になる。一旦電探を切った後は、再起動するまである程度時間を置かないとすぐに頭痛が再発する。だからこそ、1度に長時間保てるようにしなくてはいけない。

 

「アサ、サイキンスゴイナ」

 

たまにヒメさんにも訓練をしてもらうことがある。艦載機を周囲に飛ばしてもらい、位置を把握するだけという簡単なもの。たまに艦載機自体にぶつかってきてもらう。

空母の方々と違い、ヒメさんの艦載機は地面すれすれを飛ぶことができる上、途中で停止することができる深海仕様。実戦感覚を養うにはもってこいだった。

 

「ようやく慣れてきたんです。まだまだ時間は短いですけど」

「ワタシノコウゲキ、チャントヨケレタ! スゴイ!」

 

電探さえ起動していれば、自分への攻撃に限れば目を瞑ってでも避けられる。それこそ、背中に目がついたかのような動きをしていると思う。自分のためになら幾らでも使えるが、周りまでとなると話は別だ。

普通は電探を常に起動し続けて確認なんてしない。単独で行動せず、部隊で行動しているのだから、死角を他人に補ってもらうように戦うのが基本だ。電探起動中は()()()()()()()というだけ。

 

「マタヤッテヤルカラナ」

「はい、お願いします」

 

自分だけを守るなら大分使いこなせるようになってきた。次は自分以外を守る方法。

攻撃するのがわかってから避ける指示をしても遅すぎる。ある程度の予測が必要だ。そうなると、敵の行動から次の行動を読む知識が欲しくなる。これはもう実戦で身につけるしかない。

 

 

 

北への哨戒任務。今回は天龍さんを旗艦に、私、霞、皐月さん、潮さん、そして時津風さん。時津風さんが哨戒任務に選ばれるのは珍しいが、万が一強力な深海棲艦と接敵した場合、火力が欲しい。

主砲担当に時津風さん、雷撃担当に霞、雷撃補助と対潜に潮さん。ここらはわかりやすい配置。天龍さんと皐月さんが立ち位置が同じになり、白兵戦と対空補助。私が対空のみで全索敵を担う。

 

「朝潮、無理はしなくていいからな。できる限りでいい」

「了解しました。効果時間は長くはなっているので、ある程度進んだら電探を起動します」

 

むしろ緊張しているのは皐月さんだ。白兵戦メインとした哨戒任務は今回が初めて。交戦したらその刀を使うことになる。訓練は積んでいるが、深海棲艦を斬るのはまだやったことが無い。その訓練すらも、数週間行かない程度。

 

「大丈夫、通用する、ボクの攻撃は通用する……」

 

小声で自己暗示をかけている。正直、危なっかしい。初陣のようなものだし、仕方ないことかもしれないが。

 

「海が赤くなってきたな。警戒しろ!」

 

敵がいないこともあるが、何が来るかわからないのがこの赤い海だ。霞と潮さんは魚雷の発射体勢に。天龍さんと皐月さんは刀を構える。そして私は電探を起動。

最悪な事態というのは、こういうときにこそ起こるものだ。

 

「……敵影確認」

「何体だ」

「12。敵連合部隊でしょう。2体……大物がいます。鬼級か姫級です」

 

戦艦棲姫ではないことはわかる。そもそも動きが違うし、以前の行動から、部隊は引き連れるが単独行動をする。今回は完全に群れている。反応が小さいので、駆逐艦がメインの偵察連合か。

 

「おおよそで……駆逐8、軽巡2、鬼か姫が2」

「厄介だな……こちら天龍、敵連合部隊と接敵。どうする」

 

鎮守府と連絡をとる天龍さん。その間も少しずつ近付いてきている。最大火力で迎撃できる時津風さんを前にし、目視できるようになったら砲撃する姿勢。

 

「……了解。実働隊は頼んだ」

 

通信を切る。実働隊が来ることは確定したらしい。

 

「テメェら! 実働隊が来るまで迎撃だ! だがなるべく鎮守府に寄せて、合流を早めるぞ!」

 

今回の敵に航空戦力が無い。つまり、私は今回の戦闘において完全な()()()となる。だからこそ、全ての力を索敵に使おう。頭痛は集中して忘れる。痛かろうが関係ない。

 

「トキツ! 先制攻撃」

「りょーかい! 撃つよーっ」

 

目視できたというタイミングで時津風さんの一撃。方向としてはドンピシャ。敵連合部隊の駆逐艦を一撃で葬り去る。

それが開戦の合図だった。白兵戦の2人が一気に詰め寄る。

 

敵の大型は、私は初めて見るタイプ。帽子を被った小柄な少女と、那珂ちゃんさんのようにシニョンで髪をまとめた少女。そのどちらにも脚が無く、水上を滑走するような船の形状をした下半身を持っていた。そして、どちらも()だ。

駆逐棲鬼と軽巡棲鬼。データベース上ではその名前の深海棲艦。鬼級も姫級も、艦娘と同様同一個体が何体も発見されているため、ある程度のデータはある。今回は鬼級が2体だ。姫級よりは劣るが、艦種以上のスペックを持っているのは確か。

 

「私も初陣のようなもの……試させてもらいます」

 

もっとも攻撃が手薄になるであろう場所を陣取る。安全な場所で他の人の戦いを見届けるだけというのは気が引けるが、私の本当の戦いはここからだ。

電探をフルで起動させ、索敵範囲も最大に。潮さんに反応がないため、潜水艦はいない。そうなると、海上艦12体、いや、時津風さんが1体倒したので11体が今回の目標。

 

「皐月! 先に雑魚をやれ! オレが鬼級を引きつけておく!」

「りょ、了解!」

「時津風さんの方へ軽巡2体が向かっています。迎撃を!」

「はいはーい」

 

天龍さんが鬼級に付きっ切りになるのは見えていた。そうなると、残り4人の指示は私が出す方が効率的だ。事前に配られたインカムで、遠方からの指示に徹する。目視も加わるので効率はさらにいい。あとは敵の行動予測だけ。

 

「霞、後方に駆逐、5時の方向!」

「正面にもいるわ!」

「どちらも!」

 

霞にしかできない前後への同時魚雷発射がこういうときに役に立つ。敵の砲撃を避けながら、後ろを見ることなく魚雷を発射。タイミングも完璧。挟撃しようとした敵駆逐艦に直撃し、その場で撃沈。さらには正面の駆逐も同時に撃沈。やった霞の方が驚いていた。

 

「潮さん、霞の魚雷がそちらに向かいます。避けて!」

「は、はいっ」

 

全てが当たったわけではなく、何本かは射線上の潮さんの元へと向かってしまった。潮さんからしたら死角からの魚雷。潮さんは私の指示でその魚雷を回避する。

指示したタイミングが良かったため、潮さんの足下を抜け、潮さんの正面にいた敵駆逐艦に直撃。攻撃もしていないのに敵が目の前で沈んだ。潮さんも呆然としている。

 

「これで4体……時津風さんが軽巡に挟まれてます。近いのは皐月さんです。9時の方向。霞は潮さんと合流、残り4体の駆逐を各個撃破」

 

いつもより早く頭痛が始まるが、いい展開になっている。思った通りに仲間を動かせている。この数日で努力した甲斐があった。

 

「霞! 3時と8時!」

「了解……っ!」

「潮さん真後ろ!」

「は、はいっ!」

 

これで7体。残り1体も霞の真正面。すぐに仕留めるだろう。

相手の数が多いと、挟撃になることが多いのはわかる。とはいえ、2方向に撃てる霞が本当に重宝した。今なら攻撃の要にできる。

時津風さんの方には皐月さんが行っているが、かたや高火力の主砲、かたや刀による白兵戦となると、相性が悪い。さらに相手は軽巡洋艦。格上だ。うまく1対1の状況にしているが、どうしても皐月さんには荷が重そうに見えた。敵の砲撃を避けるのに必死になっている。

 

「潮さん、9時に撃ってください!」

「ええっ、はっ、はい!」

 

今潮さんの真正面には敵がいない。だが、真左の射線上に皐月さんがいる。

 

「皐月さん、真後ろからの魚雷を回避!」

「真後ろの魚雷!? じゃあ跳ぶ!」

 

以前に山城さんが見せた、人の艤装を足場にして跳ぶ戦法。皐月さんもそれを学んだらしく、敵軽巡に急接近し、蹴りながら跳んだ。同時に潮さんの魚雷が着弾。そのまま大破に追い込む。

その場から離さないように皐月さんが戦ってくれていたのが功を奏した。そしてこれなら、皐月さんの攻撃も当てられる。

 

「隙ありっ、だぁーっ!」

 

そのまま軽巡を袈裟斬りに。筋力がまだ足りなくても、刀自体の斬れ味は生半可なものではない。取扱注意を再三忠告されているレベルだ。

 

「こっちも片付いたー!」

「残りは鬼級だけです! 天龍さんの援護を!」

 

ここまで来てついに5対2。駆逐艦の大半を霞に仕留めてもらったのが大きい。本人の消耗も激しいが、大戦果だ。

天龍さんだからと2体の鬼級を任せてしまったが、さすがの旗艦。無傷で持ちこたえていた。ただし、敵もほぼ無傷。

頭痛は今まで以上に激しくなっていた。もう少しだから、耐えなくては。

 

「魚雷斉射! 天龍さん、避けてください!」

「そっちは片付いたか! なら遠慮なく行くぜぇ!」

 

霞と潮さんの魚雷の射線上から退避。あちらも一筋縄ではいかず、斉射の筈だが避けられる。だが、分断はできた。

 

「1対1なら負けねぇよ。実働隊無しで片付けてやらぁ!」

 

天龍さんの相手は軽巡棲鬼。残った駆逐棲姫は私達駆逐5人、いや、私は戦力外だから4人で終わらせることができる。ここまで来たら、もう私の指示はいらないだろう。

 

「っ……限界が近い……敵の援軍は……いない……」

 

頭を押さえながら索敵を続ける。頭がガンガンする。想定を超えた情報量で、私の脳が悲鳴をあげている。ヒメさんの艦載機はこれ以上の数だったのに、実戦となると考えることが多すぎた。まだ早かったかもしれない。

私の索敵範囲には敵は見えている2体しかいない。だが実働隊もまだ来る様子がない。鬼級2体はこのまま方をつけたい。

 

「オラオラァ!」

 

天龍さんは終始一方的だった。鬼級でも関係なく、やりたいようにやって敵を問答無用で叩き斬る。ほぼゼロ距離の砲撃も、視界に入っているなら射線から避けることが余裕でできると天龍さんは言っていた。まさにその通りで、射撃は悉く外れている。

逆に皐月さんは大変そうだった。4対1ともなると、近付ける隙がない。時津風さんの砲撃が強すぎて、巻き込まれたら皐月さんも危ない。

 

「ああもう、任せた! 時っちゃんよろしく!」

「はいはい、もう眠いからさぁ、さっさと、終わってくんないかなぁ!」

 

重巡主砲の一撃がまともに入り、駆逐棲鬼の身体が吹き飛ぶ。同時に、天龍さんが軽巡棲鬼にトドメを刺した。

敵はもういない。残念ながらドロップ艦もいない。もう索敵の必要はない。

 

「電探切ります……お疲れ様でした……」

 

頭痛がスッと無くなり、いつも以上に眩んでいた視界もハッキリとする。その分体力の消耗は激しく、頭痛が無くなってもフラフラする。青葉さんは常にこの状態を維持していたのか。

 

「すげぇな朝潮! サポート完璧じゃねーか!」

「天龍さんが鬼級2体共引きつけてくれていたおかげですよ……それに割とギリギリです……」

 

こちらの部隊は白兵戦をやっていた皐月さんが小破に行かないくらいの損傷。霞が擦り傷程度。そして時津風さんがおねむ。完全勝利と言ってもいいだろう。

今回の戦闘で本当にギリギリだった。想定していた対策が、全てうまく行ったようなものだ。ここに艦載機が来ていたら多分追いついていない。

 

「私、ノールックの二枚抜きなんて初めてやったわ……」

「避けたら敵が沈むなんて初めてですよ……」

 

2回の魚雷発射で3体の敵を撃沈した霞は、自分のやったことに実感が湧かないようだ。潮さんも、突然の魚雷を避けただけで眼前の敵が撃沈するという滅多にないことで驚きが隠せていない。

2枚抜きに関しては狙ったわけではない。あれは完全に偶然。射線上に綺麗に並んでいたからたまたま起きたこと。一応()()()()()が、当たるとは思っていなかった。

 

「すみません潮さん……私の道具のように扱ってしまって……」

「ううん、大丈夫。あれが一番いいって思って指示を出したんだよね。なら従うよ」

「ありがとうございます……」

 

自分が攻撃できないから、人を使って自分の攻撃したい場所に攻撃してもらう、というのは、どうも人を道具のように使っているようで気が引けた。

本来なら回避指示と敵の位置を逐一教えるだけに留まるべきなのだ。主砲も雷撃も、私が使ったことないのだから、最善の攻撃方法なんてわからないのだから。

 

「まだまだですね……一度の戦闘でこうもフラフラになるなんて」

「充分すぎる。多少かすり傷くらいはあるけど、全員無事だろ。誇っていいぜ」

「あの敵の数だと大変だからね。しかも鬼級2体なんて、いつもなら誰か中破くらいしちゃうよ」

 

私に至っては無傷どころか敵に狙われもしなかった。皆が迅速に殲滅してくれたおかげだ。

 

「さて、そろそろ実働隊が来るな。こいつは驚くぜ。もう終わってんだからよ」

「てんりゅー……あたしもう眠い眠い……」

「もうちょい我慢しとけ。実働隊の旗艦はどうせ山城姐さんだ。引きずってくれるからよ」

 

そこから少しして、実働隊の皆がやってきた。すでに戦闘が終わってると知って驚く人も多かったが、旗艦の山城さんは驚く前に戦闘できなかったことの方が残念そうだった。

 

今回の戦闘は100点満点とは言えない。だが、成果が出たのも事実だ。今のやり方が私にはあっている。『背中の目』にもなれたように思えた。

 




朝潮の今の敵は深海棲艦より頭痛。脳味噌鍛えて頭痛が来ないようにするのが当面の目的。
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