最終的な改装、改二丁となった私、朝潮。霞も改二となり、戦力としてはこれ以上ないところまで来た。今は来るべき大規模戦闘に向けて研鑽するのみだ。
現在、鎮守府近海、目視で確認できる場所には、ミナトさんとヒメさんの複合陣地が形成されている。陸上型深海棲艦の陣地ということで、2人は基本的にそこで生活をしていた。そこにいるだけで回復していくという好条件のため、わざわざ鎮守府に出向くのは、気まぐれ、もしくは本当に用がある時くらい。ヒメさんは度々遊びに来るのと、訓練を手伝ってくれるというのもある。
陸上型深海棲艦と共闘できているのはありがたいことで、正直なところ海上艦の深海棲艦よりも厄介。並ではない航空戦力、戦艦並の主砲まで備えた艤装に加え、陸上故に雷撃が一切効かないという特徴から、やれる事が限られた艦娘が多い私達の鎮守府では敵に回したくない存在である。
「テイトク、スコシイイカ……」
そのミナトさんが、気まぐれでなく鎮守府に来ていた。運んだのはおそらく雲龍さん。あの2人、最初の段階で意気投合している。
司令官と、たまたま居合わせた私はミナトさんの話を聞くことに。
「なんだいミナト君」
「
今回打倒すべき敵、黒の深海棲艦の領海が拡がっているということだろう。前回の北への哨戒のときには感じなかったが、徐々にあの赤い海が鎮守府に迫ってきているらしい。
「ふむ……敵地が拡がっているというのは見過ごせないね」
「マダジカンハアルガ……ココガセンジョウニナルカノウセイモ……ナイトハイエナイ」
領海が拡がると、最終的には最前線であるこの鎮守府まで赤い海に飲み込まれる可能性はある。そうなれば、近海から深海棲艦が湧いて出てくることになり、昼夜問わず侵攻されるということ。最終的には物量に押し潰される。
「了解した。情報感謝するよ」
「ソレト……モウヒトツ。シュウセキチノコトダ」
ミナトさんと同様に白の深海棲艦である集積地棲姫。物資を集める点に特化しており、それを趣味としている変わり者。他の仲間に資源を分け与える事もあるという。ミナトさんやヒメさんも、集積地棲姫から援助を受けた事があるそうだ。
「アイツノジンチガ……クロニオシツブサレタ」
「なんだって!? 集積地棲姫は無事なのかい!?」
「シゲンヲステテ……ダッシュツシタラシイ」
集積地棲姫の艦載機がここまで飛んできたそうだ。今は無人島で別の陣地の場所を探しているらしい。それがあるから赤い海が拡がっているということがわかったようだ。
「……ソノ……ダナ」
「ここに来てくれて構わないよ。敵の情報は多いに越したことはないし、仲間が増えるのもありがたい」
「ソウカ……スマナイ。サッソクシラセル」
ミナトさんが急ぎ足で外に向かった。以前のヒメさんのように非武装の連絡機を飛ばすのだろう。
「同族も容赦なく押し潰すのか……」
「黒の深海棲艦は過激派ばかりなんですね……」
「だからこそ、穏健派である白の深海棲艦を味方につけたい。彼女らを守るためにもね」
共存可能な深海棲艦がいるのなら、勿論手を取り合っていきたい。それが司令官の考え方であり、鎮守府の根幹だ。誰も否定しない。
ミナトさんの話から数日後の朝。やはり急だった。早朝の哨戒機を飛ばす蒼龍さんが、深海棲艦の島の規模が大きくなっていることに気付いた。そこにはいつもならヒメさんとミナトさんしかいない。だが、その時は
「話は聞いているよ。集積地棲姫君だね」
「スマン……セワニナル」
ガングートさんが担いで工廠に運び入れた。以前に聞いていた通り、眼鏡をかけた深海棲艦。さらにはヘッドホンのようなものも付けているので、ミナトさんに比べると余計に人間らしさが目立つ。髪も三つ編みにし、身嗜みもキチンとしているように見えた。
「構わないよ。我々に攻撃しないことはわかっているからね。すでに2人も置いているんだ、1人増えたところで何も変わらないよ」
ミナトさんが陣地を鎮守府付近に持ってきてからは、ヒメさんも活動拠点を陣地に移している。そこで集積地棲姫も住むのなら、鎮守府には何の影響もない。鎮守府に来たところで大きな影響をない。ヒメさんに至っては毎日のように来ているし、私の部屋に泊まることも頻繁だ。
「集積地棲姫君……特に呼びづらいね。ガングート君」
「セキで行こう」
即答である。前々から決めていたようにも思える。
「ここではそのままの名前を使うのはよろしくないからね」
「セキ……カ。イイナ」
「ちなみに港湾はミナト、棲姫はヒメだ。私が決めた」
「オオ……オシャレダ。ワタシモツカッテイコウ」
やはり集積地棲姫、もとい、セキさんの感性は人間側に近いように思える。非好戦的であり、蒐集癖がある辺り、白の中でも特に穏健派なのかもしれない。
しかし、やはり深海棲艦、艤装はなかなかに厳つい。物資を集めるからだろうか、真っ黒な木箱とドラム缶が目立つ。おおよそ武装とは思えないが、集積地だけにこの形なのだろう。そして、それを持つための巨腕。ガングートさんの艤装と同じくらい大きい。
「スイキ……イヤ、ガングート……ダッタナ。シャレタナマエダ」
「実はだな、私は一旦改名をしていてだな。いや、またガングートに戻ったんだが」
「ヨクワカラン……」
ガングートさんも実はこっそり改二になっていた。実際は改二相当の改なのだが、2回改装したということで改二。元深海棲艦の影響か、元々のガングートさんの仕様か、改装してもほぼ何も変わらなかったため、あっさりと終えている。ガングートさん自体が騒ぐことではないとこそっとやっていたというのもあるが。改に相当する改装では、その艦の魂に則って名前が変化した。が、誰もそちらでは呼ばなかった。私も断念した。
「とにかく、我々は貴様を歓迎する。セキ、これからもよろしく頼むぞ」
「アア、イリヨウナモノガアルノナラ……アツメテオコウ」
こうして新たな白の深海棲艦の仲間が増えた。目下の敵である黒の深海棲艦を倒すまでの共闘という形ではあるが、司令官のことだ、戦いが終わってもなんだかんだ関係は続けていくのだろう。
セキさんはヒメさんが鎮守府を案内することになった。鎮守府内を深海棲艦が歩いていても誰も何も言わなくなった辺り、そういうものとして慣れすぎている。他の鎮守府の人達が見たらどう思うだろうか。
「すごい光景よね……」
霞も少し呆れ顔。当然のように溶け込んでいる。私も違和感はなくなってしまった。
「これ、他のとこの艦娘に見られて大丈夫かしら」
「何とも言えないわ」
穏健派の深海棲艦がいるという事実自体が、今は私達の鎮守府の中にしかない情報だ。外に出せる情報でもない。とはいえ、秘匿し続けるのも難しいだろう。
「っと、朝潮君、いいところにいた。霞君も一緒に来てもらえないかい」
何やら慌てた様子の司令官。後ろから大淀さんも走ってくる。
「もう到着されると言いだしましたよ!」
「あのジジイ、アポ無しで来たぞ!」
司令官のこの言いようは、元帥閣下のこと。
「え、今から来るんですか!?」
「許可も取らずにね! すまないが一緒に来てくれ!」
出迎えとかそういったことはなにも準備できていない。ひとまず電探を起動すると、確かにいつもはない反応があった。元帥閣下が乗る船と、護衛艦娘の方々。タイミングが非常に悪い。
白の深海棲艦が鎮守府で居候を始めてから、来客もなく、隠蔽することも必要がなかった。むしろそれを狙ったかのようなアポ無し突撃である。元帥閣下には諸々バレているような気がする。
走って港に辿り着くと、すでにそこには元帥閣下がいた。残念なことに、それを先に出迎えているのはあろうことかミナトさん。深海棲艦が当たり前のように鎮守府にいるという事態に、護衛艦娘の方々も硬直している。
「爺さん! 来るなら来ると言ってくれ!」
「アー、テイトク、マズイコトニナッタ……」
「うん、それは見ればわかるよ」
元帥閣下もさすがに驚きを隠せないようだが、護衛艦娘の方々よりは冷静だ。ミナトさんをジッと見つめた後、いろいろと納得した様子で司令官に向き直る。
「加藤、さすがにこれは事前に言ってほしい」
「言ったら納得してくれたのかい?」
「お前のやる事だから儂は納得したろうよ」
目の前の深海棲艦が味方だとわかると、護衛艦娘の方々も緊張を解いた。ここまでの事になっても、ミナトさんは艤装を展開しない。無抵抗のままだ。
「お前のことだ、この深海棲艦は人間に牙を剥かない穏健派かなにかなんじゃろ」
「さすがは元帥閣下、理解が早くて助かる」
まったく、と呆れた顔だった元帥閣下。出迎えの私の姿を見て表情が変わる。
「おや、朝潮ちゃんや、眼鏡なんぞかけてどうしたんじゃ。まさか加藤に何かされたか!?」
「これは索敵訓練の一環ですよ。
なるほど、元帥閣下のご機嫌取りに私が必要だったわけだ。まぁ、前回からそうだったし、今の状況ではこれも必要なことだろう。何せ、深海棲艦を匿っている鎮守府だ。何か言われても何も文句が言えない立場である。
「で、アポ無しで来たのは何でか教えてもらえないか。前回よりも急すぎる」
「アポ無しなのはすまなかった。だが、こちらでも例の赤い海が拡がったものが確認されてな。最前線のここの影響が知りたかったんじゃよ」
他の大本営の上層部は、この鎮守府には来たがらない。危険度はさる事ながら、否定した後手のひらを返したという実情もある。余程のことがない限り、この鎮守府に出向くことはないだろう。元帥閣下くらいしか、ここに来ることができる大本営の人間はいないと言ってもいい。
赤い海に関しては、何処の鎮守府も調査していること。大本営も当然原因解明に力を入れている。わかっているのは深海棲艦の領海であることくらいだが。
「ワタシガ……セツメイシヨウカ」
「深海棲艦本人から情報が貰えるなら万々歳じゃ。むしろ加藤は聞いておらんのか」
「聞いてないね。必要がないから」
司令官はそういう人だ。あらぬ疑いをかけぬよう、そういった部分は必要最低限で終わらせる。多少は研究に使わせてはもらっているが、嫌がることは一切していない。
「テートク、ソイツラダレダ」
「ヒトガフエタナ……ナカマカ」
ここに今度はヒメさんとセキさんがやってきてしまった。1人だけならまだ許容範囲内だろうが、3人となると話が変わる。さすがに護衛艦娘の方々も臨戦態勢に。
「話がややこしくなる……」
「元はと言えばお前が隠蔽してたからじゃ」
「面目次第もございません元帥閣下殿」
すぐにこの場を諌めてどうにかことを荒立てずに済んだが、本来はこういう反応が自然だということをまざまざと見せつけられた。
深海棲艦に派閥があるという事実を知る者は、この鎮守府にしかいないだろう。私達が慣れすぎているだけだ。
司令官はミナトさんと元帥閣下、護衛艦娘のリーダーである赤城さん、そして戦艦棲姫改と実戦経験のある私を連れて別室へ。
そこで司令官とミナトさんが事のあらましを説明した。穏健派の白の深海棲艦のこと、過激派の黒の深海棲艦のこと、黒のトップであろう戦艦棲姫改のこと、ここから北に拠点があるだろうということ。
「戦艦棲姫は遭遇したことが幾度とありますが、改となると初ですね」
「赤城君も出会ったことがないと」
「はい。なので、データベースにも情報がありません」
大本営でも知らなかった敵だったようだ。その存在を知っていたのはガングートさんだけ。
そんな相手と戦い、私達は大敗を喫した。私に至っては右腕破損の大破だ。データが揃っていたとしても、あの時勝てていたかはわからない。
「酷なことを聞くかもしれんが……朝潮ちゃんや、うちの大和と武蔵、それと戦艦棲姫改、誰が一番強いと思ったかね」
「……戦艦棲姫改ですね……。私達6人、いやヒメさんがいたので7人で束になっても敵いませんでした。あちらはほぼ無傷でしたし……私はその時大破して意識を失っていましたが」
デフォルトの状態で高速であるにもかかわらず、その火力は大和さん達を超えているように思えた。そもそも耐久力が違いすぎる。弱点らしい弱点も見当たらなかったほどだ。
唯一効いたのは青葉さんのピンポイント射撃。主砲を撃ち抜く事くらいしかできていない。
「ヤツガトップトミテマチガイハナイ……ヤツヲシズメラレレバ……アノカイイキハ
赤い海の正体は、深海棲艦の力が及ぶ領海であることに間違いないようだ。その領海のトップを倒せば、赤みが消えていく。つまり、赤い海は深海棲艦の力に汚染されているという意味合いにもなる。
ミナトさん達は陣地の上が自分の領域なので、海にまで侵食することはないそうだ。縄張りを色として誇示しているようなもの。
「ふぅむ……それは困ったのう。うちの精鋭で押し切れるかと思ったんじゃが」
「本体はどうかわかりませんが、艤装がとにかく硬くて。あれを剥がすことができればまだなんとかなるかもしれませんが……」
そう、問題は全てあの巨大な自律型艤装にある。あの艤装だけでも艦娘最強と謳われる武蔵さんを超えている。大和さんと2対1でどうなるかというところ。
「よし、その情報が手に入っただけでもよかった。対策はこちらでも考えようかの。加藤、お前も頑張ってくれ」
「わかっているさ。だが誰も死なせんよ。それが私の信念だからね」
勿論私だって死ぬ気はない。全員で生き残り、黒の深海棲艦を打倒する。それが司令官の望みでもあるのだから、私達艦娘もそれを目標に進むだけだ。
集積地棲姫は三越にも来るし牛丼もテイクアウトするしカレーも食べるしで一番人間側に近い深海棲艦だと思う。PCか何かあげたら即座に艦娘側につきそう。