欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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黒い春風

鎮守府内演習後、今日の訓練は全て自由になった。ある程度の許可を取れば好きに訓練ができるということ。身体を休める人もいれば、率先して元々やるはずだった訓練を始める人もいる。

私、朝潮は今日の予定は対空訓練だったが、演習に参加したということで非番に。以前と同じように、演習参加者はそのまま非番となっていた。勿論、霞もだ。

 

「姉さんと一緒に非番というのも久しぶりね」

「そうね。今日はゆっくりさせてもらいましょう」

 

と言いながら電探は起動している。これだけは毎日やっておかないと、私の頭が慣れてくれない。今までこれをやり続けたお陰で、今回の演習は頭痛無しで終わることができた。

 

「味方だとすごく心強いけど、敵にするとあんなに厄介なのね」

「今回は曳航しながらだったけど、戦場は全部見えていたわ。演習くらいの狭い空間ならもう大丈夫かも」

 

自分の成長がよくわかる演習だった。部隊の相性が悪くさえなければ、曳航しながらでも全開で戦える。もう少し余裕があれば全員無傷も行けるだろう。

演習だからどうとでもなった感じはあった。実戦ではまた違う。当たってもマシな演習から、当たったら死が見える実戦。注意力は今まで以上に必要だ。

だからこそ、訓練は欠かせない。出来ることなら、もう少し実戦経験を積みたい。

 

「あ、どうせなら春風を見に行かない? この鎮守府に早く慣れてほしいし」

「あら、先輩風?」

「そういうのじゃないわよ!」

 

だが、春風さんが気になるのはわかる。今回の一件でコンプレックスを感じなくはなりそうだったが、実際に受け入れるには時間がかかるだろう。私達のような欠陥(バグ)とはわけが違う。

霞は言葉通り、ここにすぐに馴染めるように手伝いたいのだろう。私もそれは同じだ。仲間なのだから、すぐにでも仲良くなりたい。

 

 

 

春風さんは鎮守府外周で海を眺めながら歩いていた。元々持っていた和傘を差し、しゃなりしゃなりと歩く姿は、とても様になっている。まさに大和撫子な雰囲気。和傘は深海棲艦の汚染の影響がなく、リボンと同じ緋色。着物が深海棲艦の黒のせいで少し浮いているように見えてしまうが、それはそれで綺麗だ。

 

「あら、朝潮さんと霞さん。御機嫌よう」

「こんにちは春風さん。調子はどうですか?」

「はい、問題ございません。ここの鎮守府は良いですね……わたくしのような異質な存在でも、すぐに受け入れてくれました」

 

気にしている節は見えるが、そこまでではないようだ。

 

「まぁ、ここの鎮守府はおかしなのが多いからね。艦娘が殴り合いなんて聞いたことないわよ」

「あれは……そう、ですね」

 

なんとも言えず苦笑するしかない。あれが一番特殊な部分だろう。あれがまかり通っているのだから、大体のことは許容できる。

 

「他の皆様からも話を聞きました。ガングートさんは元深海棲艦だそうで……半分この私とはまた違ったものですね」

「そうですね。ガングートさんは稀に前世が出ることもありますから、春風さんには近い方じゃないかと思います」

 

自分と近しい艦娘がいるというのも、コンプレックスを吹っ切れるきっかけになるだろう。幸い、ここには元深海棲艦のガングートさんがいる。今の春風さんには朗報だ。

春風さんの欠陥(バグ)……というより()()は、鎮守府の中では一際特殊だ。だが、目を背けるようなものでもない。

 

「ここでなら、わたくしは生きていけます。挫けることもございません」

「それなら良かったです」

 

ここに来た当初は、私が見ても暗い顔をしていたように見えた。一番最初の霞の時のような、いつ泣き出してもおかしくないような雰囲気もあった。

でも今は違う。暗さは見えず、前を向いている。心が折れてなくてよかった。完全に開き直っているかは定かではないが。

 

「実はわたくしも山城さんに勧誘されました」

「白兵戦に? される理由無くない?」

「この傘で戦えないかと」

 

無茶を言う。傘はそういう武器ではない。これで敵を叩いたら、すぐにボロボロになってしまうだろう。いくら艤装の一部だとしても。

 

「丁重にお断りさせていただきました。わたくしは深海艤装で手一杯です」

「大丈夫よ。あの勧誘は新興宗教だと思ってればいいから」

 

話していると春風さんの人柄がよくわかる。歩き方からもそうだが、全ての言動からどことなく奥ゆかしさを感じる。今まで鎮守府にはいなかったタイプでは無かろうか。一緒にいるだけで温かくなるような、そんな雰囲気。

 

「そういえばさ、私ちょっと気になってたことあるのよ」

「わたくしのことでしょうか」

「訓練、どうやってやるの? 深海艤装って実弾以外だと水鉄砲飛ばせるらしいんだけど」

 

そういえばそうだ。主砲訓練は実弾での訓練なのでそこまで問題は無さそうではあるが、春風さんは装備に関しては万全な状態。対空、対潜、雷撃まで全てできる。デメリットが全て見た目に影響してしまった、オーバースペックな深雪さんというイメージだ。

 

「水鉄砲ですか。少し試してみましょう」

 

左腕を上げ、艤装展開。これは本当に便利な機能だ。私達は工廠に行かなければ艤装の装備ができないが、春風さんはどこにいても艤装を装備できる。代わりにメンテナンスが本人立会い必須だが。

誰もいないことを確認し、主砲を海に向ける。そして

 

「こう、でしょうか」

 

以前ヒメさんが艦載機から出した、黒いオイルのような弾が発射された。海に落ちた瞬間に霧散する辺りもヒメさんの時と同じ。勢いは見た目重巡主砲と同じくらい。おおよそ駆逐艦の放つ攻撃力ではない。

 

「ああ、やっぱりできるのね。なら安心したわ」

「訓練は万が一にでも傷付かないように細心の注意を払っていますから」

「そうでしたか。それならこれができてよかったです」

 

艤装を収納。展開の動きが逆再生されるように消えていく。艤装を展開しても服に何も影響がないというのは不思議だ。左腕全てを埋め尽くす大きな艤装だったのに、消えれば元々あった振袖部分も綺麗に残っている。

まるで腕そのものを艤装に変換しているような印象だった。生身の左腕を外して、艤装の左腕をつけている。そんな感じ。

 

「元帥様に拾われた時、この艤装展開を見せただけでも、周りの方々はおかしなものを……気持ち悪いものを見る目でわたくしを見ていました」

「春風さん……」

「ですが、皆様は違いました」

 

左腕を見ながら微笑む春風さん。少し暗い雰囲気は出たが、すぐに気を取り直すことができている。自分の力を受け入れられている。

 

「ここの鎮守府はわたくしの拠り所です。皆様のため、そしてわたくしのためにも、この鎮守府は誠心誠意守らせていただきます」

 

ほんの少し、瞳に蒼い炎が灯ったように見えた。

人型の深海棲艦によくある現象で、炎が揺らめくように瞳に光が灯る。どういう原理でそういったことが起こるかはわからないが、同じ現象が起こるセキさん曰く、「気合が入ると燃える」という何とも曖昧な答えだった。

今の春風さんは気合が入っているということだ。気にしているかもしれないが、吹っ切れるのも時間の問題だろう。

 

 

 

その後は新人ということもあり春風さんと一緒に行動をする。駆逐艦の中では後ろから数えた方が早い配属の私達3人。差としては僅かだが、一応先輩だ。今日来たばかりの春風さんには、教えてあげることが多い。多少なり案内はしたが、まだまだ知らないことは多いはずだ。

 

「本日は自由訓練との話でしたが、皆様訓練をしているのですね」

「そうですね。今日は春風さんの他にも集積地棲姫……セキさんも仲間入りしてますから。あれは多分そういう訓練です」

 

少し遠目に見える陸上型の陣地。回避訓練の一環として、深海棲艦直々に艦載機を飛ばし、それを回避する。実戦さながらの訓練のため、艦種問わず多くの人が志願していた。

今回の対空訓練は、ミナトさんと新人のセキさんが2人がかりで艦載機を飛ばしていた。ミナトさんは蛇のような頭から、セキさんは黒い木箱から大量の艦載機が溢れ出し、それを那珂ちゃんさんと長良さんがヒラリヒラリと避けていた。

 

「結構な数出てるわね、加賀さん」

「そうね赤城さん。我々の艦載機より多いのでは」

 

回避訓練の様子は、私達が歩いている先で一航戦の2人も眺めていた。同じく艦載機を使うものとして、何か感じるものがあるのだろう。ここでしか見られない訓練だから、見ておいて損はない。

 

「あら、朝潮さん、ちょうど良かった。あの回避訓練だけど」

「はい、なんでしょうか」

「那珂さんは確かブレーキが効かないのよね。もう1人の長良さんは何を抱えているの?」

 

一航戦の2人でようやく追いつくかというほどの艦載機の数を、ただただ避けるだけの訓練とはいえ、1回も被弾せずに全てを避け続ける2人は、赤城さんとしてはそちらにも興味があったようだ。隣の加賀さんも目を離していない。

 

「長良さんは装甲が脆すぎるんです。艦載機を撃ち墜としたとしても、その破片が当たるだけで大破するかもしれないと言っていました」

「なるほど、だから少し大振りに避けているのね」

 

今回の回避訓練は、陣地に乗れれば勝ちということにしているようだ。那珂ちゃんさんも長良さんも、艦載機からの攻撃を避けながら前に進もうとしている。だが、進めば進むほど攻撃は濃厚に。長良さんは自分の身体の心配があるので深入りできない。

 

「……隙間はあるのですね。巧妙に隠されていますが」

「はい。あれでも手加減してます」

 

電探の力である程度は艦載機の位置は把握できるが、微妙に抜けられる隙間を作って艦載機を飛ばしている。その道を見つけられるかもこの訓練の課題。

 

「姉さんはわかるけど、春風もこの距離からでもそういうのわかるの?」

「はい、何となくですが」

 

先程よりも瞳の炎が大きくなっているように見える。真剣に見つめているからこそだろうが、本当に深海棲艦が混ざっていると実感してしまう。

一航戦の2人も春風さんの状態に気付いたが、顔色一つ変えなかった。本当にこの鎮守府のことをわかってくれている。

 

「あ、那珂ちゃんさんが抜けましたね。長良さん惜しいです」

「先にゴールした方が勝ちってルールみたいね。長良さんはハンデ大きすぎじゃないかしら」

 

遠目なので何を話しているかはわからないが、長良さんが悔しそうにしているのと、那珂ちゃんさんがVサインしているのはわかった。

今度の戦いはあれくらいの艦載機が飛んでくる可能性だってありえる。陸上型は来ないと思われるが、空母型の姫級が来てもおかしくない。私も今度あの回避訓練を受けよう。あれは確実に役に立つ。

 

「深海棲艦の訓練……私達も受けてみましょうか加賀さん」

「それはいいけれど……まぁいいわ。少し入れてもらいましょう」

 

そう言って一航戦の2人は訓練の方へ行ってしまった。見ているだけでは我慢できなくなったのだろう。ここでしかできない魅力的な訓練だ。

 

「……お優しい方々ですね。わたくしを見ても何も言わないでくれました」

「あの人達はここの実情知ってるもの。深海棲艦3人と会った時は流石に臨戦態勢になってたけど」

「大丈夫ですよ春風さん。この鎮守府の関係者はみんな優しいですから」

 

元帥閣下も、その護衛艦娘の方々も、内情を知った人だ。この鎮守府のことに関しては、基本的に目を瞑ってくれるまである。深海棲艦を匿っていることすら受け入れてくれているのだから、信用に値する。

春風さんの悩みは杞憂というものだ。あとは自分の力で。

 

遠くの方で赤城さんの悲鳴が聞こえたが、そっとしておこう。多分ミナトさんとセキさんが本気で艦載機を出したのだと思う。隙間はちゃんと作っているみたいだが。

 




深海春風というイメージで書いています。最初は和傘が仕込み刀でしたが、さすがにやめました。でも傘を使った戦闘はいつかやりたい。
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