欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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欠陥(バグ)故の戦術

自分の進む道を決め、私、朝潮はひときわ訓練に力が入った。気合が入ったからか、水上での移動のコツを掴むことができ、数日も掛からず他の艦娘と同様の動きができるようになった。

 

「見違えたぜ。前に見たときは海から脚だけ出てたよな」

「そ、それはっ、思い出させないでください」

 

今日の付き添いは天龍さん。お墨付きを貰えれば、水上移動の訓練は卒業できることになっている。

 

「いや、ホント上手くなったな。コツを掴んだのか?」

「はい、そうみたいです。もう水着も要りませんよ」

「最初はほとんど潜水艦だったもんな」

 

もう陸地を歩くくらいに移動できている。気を抜いても転ぶこともない。ブレーキがかけれなかったこともあったが、それも大丈夫だ。艦娘としての最初の地点にようやく立てたのだ。

 

「よし、もう心配いらないな。戦闘訓練を許可するぜ」

「ありがとうございます!」

「で、どういう方向性か決めたのか?」

 

先日の資料実でのことが脳裏をよぎる。はちさんと話して、私は改二丁を目標にした。そのためには、天龍さんの力を借りるのが一番の近道だ。

白露さんはスパルタと言っていたが、艦娘の訓練は基本的に全てスパルタだ。即戦力が欲しいに決まっているし、特にこの鎮守府は最前線である。すぐにでも戦えるようにするべきだ。

 

「私は成長すると、対空と対潜が強くなると知りました。なので、対空訓練と対潜訓練を受けたいと思っています」

「へぇ……なら対空はオレだな。対潜はちょっと提督に聞いておいてくれ。オレは対潜できないから知らねぇんだ」

 

そういえば、天龍さんの欠陥はまだ聞いたことがなかった。対潜ができないということは、ソナーや爆雷が装備できないのだろうか。今は訓練のため脚部艤装しか身につけていないから、そういった部分がわからない。拾ってもらった時も抱えられていたので見えていない。

 

「天龍さん、失礼を承知で聞きたいんですが」

「ん、改まってどうしたよ」

「天龍さんの欠陥(バグ)は何なんですか? 対潜できないということは、そういった部分なのでしょうか」

 

天龍さんは少し黙ってしまった。聞いてはいけないことだったのだろうか。欠陥はナイーブな問題だ。この鎮守府にいても、気にしている人は何人もいるだろう。

 

「あー、そうか、お前はちに会ってるんだったな。なら驚かないか」

 

ここではちさんの名前を出すということは、天龍さんの欠陥は相当ということなのだろうか。

潜れない潜水艦という艦娘としては致命的な欠陥を負ってしまったはちさん。あの人と出会って、私の心持ちは大きく変わった。出来ることがあるのだから、それで貢献すればいいのだ。欠陥の大小は関係ない。

 

「オレの欠陥(バグ)は、対空以外の武器全部だ。主砲も、副砲も、電探も、ソナーも、爆雷も、なーんも詰めねぇ」

「え、攻撃できる装備全て……ですか?」

「ついでにいえば、オレは元々旧式艦だ。索敵のための偵察機すらまともに使えねぇ。まともに装備できるのはタービンと缶くらいだな」

 

はちさんとは別の方向で艦娘としての存在を揺るがしかねない欠陥(バグ)だ。だが、天龍さんは古参であり、軽巡洋艦の主力とも言われていた。攻撃できないのに主力とは、大きな矛盾だ。対空砲で敵に攻撃できないわけじゃないだろうが、それでも主力になるのは難しいだろう。

 

「あ、お前なんでオレが主力なんて言われてるんだとか考えてるだろ」

「あ……は、はい」

「天龍型はちょい特殊でな、他の艦娘がほとんど持ってないものを持ってんだ。オレはそいつを伸ばしたんだよ」

 

天龍さんが持っていて、他のほとんどの艦娘が持っていないもの。戦闘できる装備がないのに、戦闘できるようになるもの。まさか……。

 

「もしかして……白兵戦……!?」

「正解。天龍型は元々武器を持って生成されるんだよ。オレの場合、砲雷撃戦にはまったく不要な刀を持ってな。だから、オレは敵に対してのその刀で戦うことにした」

 

私達が砲撃をするのだから、当然敵も砲撃をしてくる。遠距離と遠距離での戦闘だ。近接戦闘、白兵戦はやりたくてもやれない。近づく前に蜂の巣にされるのがオチだ。

それでも天龍さんは近接戦闘に特化した。すでに艦娘としては逸脱しているかもしれない。それでも、鎮守府には貢献しているし、普通の艦娘以上に戦えている。今の天龍さんが、ベストの天龍さんなのだ。

 

「白兵戦やってんのはオレだけじゃないけどな。オレから始まったってだけだ」

 

いつかそういった人と部隊を組むかもしれない。そして私は基本戦闘補助だ。前に出ることはない。どういう戦い方をするかは興味がある。邪魔にならないように補助をする連携も必要になるだろう。

 

「今からオレはそっちの訓練……あー、筋トレなんだが、見にくるか? いろいろ知っといた方がいいだろ」

「はい、ご一緒させていただきます。今からは非番なので、また鎮守府散策のつもりでしたから」

「よし、じゃあ行くか。ついでに運動着に着替えてきな。もしかしたら何かやる事になるかもしれない」

 

もしかして訓練に参加するパターンだろうか。近接戦闘の訓練が私に必要かはわからないが。

 

 

 

天龍さんに連れられてやってきたのは、鎮守府内の施設の1つ、ジムだった。筋トレと言っていたのでおそらくここだろうとは思っていたが、実際来るのは初めてである。

 

「相変わらずやってんな、山城姐さん」

 

ジムには先客がいた。鎮守府でも数少ない戦艦の1人、扶桑型戦艦二番艦の山城さんだ。食事会の時に少し挨拶をしたが、それ以降は会う機会が無かった。

 

「天龍と……ああ、新人。アンタも筋トレに来たの?」

「オレはな。こいつは見に来ただけ」

「あっそ」

 

話しながらもずっと腹筋している。

艦娘の肉体強化は、砲を撃ったときの反動や、移動しながら照準を合わせる時に身体がブレるのを防ぐことが主な目的だ。砲撃の威力は筋トレで強くなることは一切無い。天龍さんは白兵戦を基本戦術としているため、腕力も重要になってくるのだろうけど。

山城さんも天龍さんと同じように、攻撃手段が無いのだろうか。

 

「朝潮、お前もバランス感覚のトレーニングだけは入念にしておけよ。対空は上に向けての射撃だ。軸がブレたら当たるものも当たらねぇ」

「だったら今からやればいいじゃない筋トレ。せっかく運動着なんだし。下半身を鍛えなさい下半身を。海上では下半身がモノを言うわよ」

 

山城さんからも指示され、何故か私も筋トレをすることに。こういうことがありそうだから、天龍さんは運動着を着てくることを指示したのだろうか。

殆ど教えられるがままにエアロバイクを漕いでみた。初心者ということで軽めらしいが、なるほど、下半身への負荷は思いの外感じる。

 

「山城さんは、いつもここにいるんですか?」

「大体は。これくらいしかやることないもの」

 

腹筋を終えた後、私では持ち上げることすら出来ないバーベルを軽々と持ち上げながら、疲れを感じさせない話し方。その横で同じバーベルを持ち上げようとしている天龍さんは苦戦していた。

 

「山城姐さんこんなの持ってんのかよ」

「私と同じ白兵戦担当の割に非力なんじゃないのアンタ。片手で持ち上げられるくらいになりなさい」

「やってやらぁ! んぐぐぐぐ……!」

 

やはり四苦八苦。山城さんがどれほどのものかがよくわかった。この鎮守府でトップクラスの実力なんだろう。それだけはすぐに理解した。

戦艦はその火力にモノを言わせた戦闘で、部隊の中心として活躍する艦種だ。私達駆逐艦では傷1つ付けられない装甲も、戦艦にかかればいとも簡単に破砕するだろう。

だが、山城さんは白兵戦担当と言っている。天龍さんのように武器を持って生成される艦娘なのだろうか。

 

「山城さんも白兵戦なんですか?」

「ええ、いろいろあってね。そういう戦闘スタイルになったわ」

「ここに来たばっかの山城姐さんは見るに堪えなかったからな。不幸だ不幸だといつも言ってたし」

 

欠陥を持ったことが不幸だということなのだろう。確かに確率的には非常に低い欠陥持ちに自分がなってしまったのだ。不幸と言わざるを得ない。それはここの鎮守府全員に言えることだ。

だが、今の山城さんからはそういう空気が微塵にも感じられなかった。吹っ切れたのか、顔に出していないだけか。

 

「それはそうでしょ。戦艦なのに小型主砲しか装備できないなんて言われればね」

「装備できるだけオレよかマシじゃねーか。図体のデカい駆逐艦ってだけで」

「言うわねアンタ……重り追加」

 

天龍さんの呻き声が聞こえたが、見て見ぬフリ。

今のことから、山城さんの欠陥(バグ)は戦艦なのに戦艦の装備ができない、ということがわかった。燃費は戦艦なのに、火力などは駆逐艦並。天龍さんの言う通り装備できないよりはいいかもしれないが、戦艦という存在意義からは逸脱している。

 

「小型主砲だけでも砲撃はできますが……何故白兵戦に?」

「殴った方が相手にダメージ入ったから」

「えぇ……」

 

私が配属されるより大分前、戦闘中に戦い方を見出したらしい。だが、殴った方が早いという状況にどうなればなるのか。今の私には知識が足りない。

 

「元から欠陥戦艦と言われていた私だけど、艦娘になってさらに欠陥(バグ)まであって、不幸のドン底だったわ。でも、戦い方がわかったら世界が変わったの」

 

扶桑型戦艦は火力に重点を置かれすぎてバランスが非常に悪い欠陥戦艦だと言われている。それに加え、二番艦の山城さんは姉の酷評のせいで生まれる前から欠陥扱いだった。動かしてみても次々と見つかる欠陥。戦場よりドックの方が長いとまで言われたとか。

 

「不幸は筋肉が解決してくれたわ」

 

話がおかしな方向に行くのを感じた。

 

「凄いわよ筋肉は。鍛えれば鍛えるほど結果が出るの。戦果も上がるし、被弾も減るし。被弾したとしてもダメージが減ったわ。そう、筋肉は全てを解決するの」

「そ、そうですか……」

「朝潮、強くなりたいのなら、筋肉を付けなさい。白兵戦専門の艦娘だけじゃない、艦娘全てに必要な要素よこれは。対空特化だったわよね。なら今のそれもだけど、背筋も重要よ。もちろんそれに合わせて腹筋も」

 

どんどんヒートアップしていく山城さん。

ここに来て自分の在り方を見い出したのが白兵戦であり、身体を鍛えることで戦術が身につき、戦果が上がった。鍛えることが今の自分の全てに繋がったのだろう。

だけど、ちょっと怖い。目がギラギラしている。

 

「こらこら山城君。朝潮君が怖がっているよ」

 

山城さんの熱意に少し怯え始めたところで、ジムに司令官が入ってきた。いつもの制服姿で来たところを見ると、ジムを使うわけではなく、設備の確認か何かだろう。もしかしたら司令官もこの艦娘のための設備であるジムを使っているのかもしれないが。

 

「あら提督。今日もいい筋肉ね」

「おかげさまでね。おっと、天龍君が危ないことになっているじゃないか。大丈夫かい?」

 

重りを追加されて身動きが取れなかった天龍さん。そのバーベルをヒョイと持ち上げ助けてあげた。

司令官、人間ですよね?

 

「助かったぜ提督……」

「まだまだね天龍。もっと上半身を鍛えなさい」

「くっそー……なんも言い返せねぇ」

 

酷い仕打ちに見えたが、2人とも笑顔で話をしている。同じ白兵戦に特化した艦娘だからなのか、信頼し合っているように見えた。

少し、羨ましかった。

 

「朝潮君は戦闘訓練の許可は下りたのかい?」

「はい。天龍さんのお墨付きもいただきました。水上移動はマスターしたと」

「なら次からは戦闘訓練だね。当然だけど今まで以上に厳しくなる。何か不調があったらすぐに言ってほしい」

「了解しました」

 

過保護なくらい親身に接してくれる。私が今のところ最後の配属だからか、それとも小さいからか。どちらにしろ、悪い気分ではなかった。

本当に、司令官の子供になったような、そんな気持ち。

 

「さて、少し設備の整備をしたいから、君達は休憩してくれ。すぐに終わる」

「あいよ。山城姐さんもさっさと行くぜ」

「いい具合に仕上がってきたのに……不幸だわ」

 

天龍さんに引っ張られて、しぶしぶジムから出て行く山城さん。私もそれについていく。ちゃっかりダンベルを持ち出しているのは見なかった事にしよう。

 

「私は外でも走り込んでくるわ」

「あいよ、オレは提督の整備を待つわ。朝潮、お前はどうする?」

「私は……あ、戦闘訓練をするなら装備のことを知りたいので、工廠に行ってみようと思います」

 

次からは戦闘訓練。ということは、欠陥があるとはいえ艤装を装備しての訓練だ。今のうちに装備くらいはして慣れておきたい。水上移動の訓練も脚部艤装のみの状態だった。勝手が変わる可能性は高い。

私は一旦部屋に戻り、着替えてから工廠に向かう事にした。




山城は私が初めてケッコンカッコカリをした艦娘です。
筋トレ狂いにしてゴメンね。
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