欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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深海の力

偵察任務から帰還した私、朝潮が旗艦を務める部隊。だが、その表情は暗いものだった。その場で戦果は報告しているが、その時点で春風さんは動かなくなってしまっており、武蔵さんが曳航する形で帰ることに。

春風さんはあの後さんざん泣き続け、痛々しい表情だった。虚ろな目で、フラフラと工廠から出て行く。艤装を置く必要がないので、おそらくお風呂にも行かずにそのまま自分の部屋に戻るのだろう。危なっかしくて1人にしたくない。

 

「朝潮君、詳細を報告してほしい。春風君に何があった」

「……場所を変えましょう。護衛艦娘の方々は元帥閣下に報告することがあるでしょうし」

 

赤城さんを筆頭に、護衛艦娘の4人はあえて何も言わないでいてくれた。こちらの事情はこちらで片付けるべきだという判断と、割と強引に春風さんを引き渡した責任もあるとのこと。

 

工廠の別室に2人で入り、鍵をかけた。この話はあまり外に出したくない。

 

「さて、腰を据えて話をしようか。春風君はどうしてしまったのかな」

「攻撃するとき、笑っていました。戦闘を楽しむというより、()()()()()()()()()ような、残忍な笑み……というんでしょうか」

 

春風さんのいつもの調子からは考えられない表情だった。私が以前に見た深海棲艦の鬼級、軽巡棲鬼に近しい表情だったように思う。攻撃するときに、悪くいうと()()()()()笑っていた。

 

「わざわざ砲雷撃戦の真ん中を移動している節もありました。弾が当たるかもしれないスリルを楽しんでいるようでした」

 

それ故に私の索敵が微妙に誤魔化され、場所がよくわからなくなったりした。敵に対しての目くらましになるかもしれないが、あれは流石に危険すぎる。

 

「途中から声も口調も変わっていました。おそらくあれは混ざっている駆逐古姫のものではないかと思います」

 

おっとりとした丁寧な話し方の春風さんとはまるで違っていた。特に声の変化は、インカムで全員分拾っている私にはすぐにわかる。

 

「そして最後……倒した戦艦棲姫の頭を撃とうとしました。完全に追い打ち、必要のない攻撃です」

 

あれは一番おかしな行為だ。深海棲艦には浄化現象による艦娘化の可能性が僅かにだが存在する。実際に浄化現象から生まれたガングートさんから話を聞いているのだから、春風さん自身がそれを知っていてもおかしくはない。それがあるため、私達の鎮守府では倒したのなら追い打ちはかけず、消滅を見届けるようにしている。

だが、関係なしに頭を撃とうとした。無防備な敵を()()()()という気持ちが見えていた。あれは完全に負の感情に支配された深海棲艦のやり方だ。

 

「私が強引に止めていなかったら、おそらく撃ち抜いていました。実際、弾は発射されましたし」

「……そうか。そこで正気に戻って、戦闘を振り返り、あんなことになったと」

 

深海棲艦の要素が艤装や瞳にだけ出たと思っていたのに、いざ戦闘をしたらその狂暴性を抑えられなかったのだ。さらには、それを楽しんでしまった事実もある。

そのような面が自分の中にあるとわかってしまったのだから、自己嫌悪で押し潰されてしまうのも無理はない。そもそも春風さんはコンプレックスの塊な状態でここに来ている。その翌日にこれでは、心が折れてしまう。今の春風さんは見るに堪えない姿だ。

 

「半分深海棲艦というオーバースペックのデメリットが、そんなところにまで影響するなんて、思っていませんでした……」

「そうだね……そこまで考慮できていなかった。それは赤い海の影響では無いだろう」

 

元々は赤い海に行くことで何か悪影響が無いかの調査だったが、赤い海に関係無く、戦闘という行為が悪影響である。海だけ見るのなら、何も影響はない。あの事前に瞳の炎が灯ったのも、近くに敵がいることを無意識に察知したからだろう。

 

「朝潮君、私は春風君も救ってあげたいと思っているよ。その衝動を抑えつけるか、それとも衝動自体を別のものに変えられたらいいのだがね」

「私も救いたいです。せっかく生まれる事が出来たのですから、この世界を楽しんでもらいたいです」

 

だが、どうやればあの負の感情の衝動を抑えつけられるのだろうか。

戦闘をすると間違った方向に行ってしまう。あれだけの戦闘をしてもまだ足りないように見える。気が晴れるまで、というのは無理な話だ。()()()()()()

 

「戦闘以外に興味を持たせる事ができればいいんだが……」

「なかなか難しいですね……。あの状態になるのが戦闘中だけだとしたら、不可能に近いです。今のままだと訓練もままならないでしょう」

 

時間で解決できるとも思えない。その前に春風さんがダメになってしまう。今ですら1人にしておくのが怖いというのに。

 

「私が気にかけておきます。今はそれで一旦終わりにしましょう」

「うむ……すまない。霞君といい、ヒメ君といい、また朝潮君に負担をかけてしまう」

「構いません。負担と思ったことはありませんから」

 

ひとまずはこれで話を終わらせる。2人で悩んでいるだけでは何の解決にもならない。

 

 

 

その後、元帥閣下は情報を手に帰ることに。護衛艦娘の方々には、今回ばかりはとてもお世話になってしまった。特に武蔵さんは、曳航を買って出てくれただけあり、春風さんのことをとても気にかけてくれた。

 

「加藤、この子達から話は聞いた。春風のこと、任せてよいか」

「ああ、任せてくれ。最悪の結果には絶対にしない」

「うむ……頼んだぞ。赤い海の調査はこちらでもやっていくからの」

 

司令官が元帥閣下と話しているとき、赤城さんが私を呼ぶ。他の人達には聞こえないように、小声で励ましてくれた。

 

「朝潮さん、春風さんのこと、よろしくお願いね」

「はい、お任せください」

「あの子もきっと、あんな終わり方はしたくないはず。また共に戦えるよう、私も願っています」

 

勿論だ。春風さんも含めて、この鎮守府は成り立たなくてはいけない。

 

「赤い海攻略の時は、この大和も是非呼んでくださいね」

「あの戦艦棲姫よりも強い改がいるのだろう。ならばこの武蔵の力も必要だ。何を差し置いてでもここに来よう」

「我々の力が必要なら連絡を。朝潮、貴女には期待しています」

 

一度旗艦をやらせてもらい、護衛艦娘の方々とは仲良くさせてもらった。力が借りたい時には、必ず連絡をしよう。迎撃戦だと難しいかもしれないが、赤い海の調査が進めば、こちらから仕掛けることも可能になるかもしれない。

 

「ではな。加藤、お前も無理はせぬように」

「ああ、アンタもな爺さん」

 

元帥閣下は帰っていった。近いうちにまた会うことになるだろう。その時はきっと最終決戦だ。

 

 

 

春風さんの部屋の前に来る。怖いほど静か。

 

「春風さん、いいですか?」

 

反応はない。もしかして外出中かもしれない。だが、扉は鍵がかかっておらず、おそるおそる中に入った。

部屋はカーテンも閉まっており、昼だというのに薄暗い。その中で一際目立つ蒼い炎。春風さんが布団に包まっているようだが、瞳の炎が灯ったままのようだ。泣きすぎて目にクマができ、髪もボサボサ。戦闘後にお風呂にも入っていないので、生傷もそのまま。

 

「何か……御用ですか……」

「そろそろ昼食ですから。具合が悪いようなら何か持ってきますよ」

「……結構です……1人にしていただけませんか……」

 

相当参っている。人との関わり合いを避けるレベル。私が戦闘恐怖症になったときと殆ど同じだ。春風さんの場合は、戦闘ではなく()()()()()

虚ろな目。目は開いていても、何も見ていない。それでも瞳の炎だけは燃え続ける。

 

「そうですか。では食堂にはそのように言っておきます。また夕飯の時に来ますから」

「もう……いいですから……やめてください……」

「そうは言っても、食べなければ考える力も失われます。私も過去にありましたから」

 

出来るだけ関わってあげたい気持ちはある。だが、あまり近寄りすぎるのも良くない。今の春風さんは何に対しても怯えている状態。自分の存在意義を自分で否定してしまっている。距離感がとても難しい。

 

「今は身体を休めてください。落ち着いたらお話しましょう」

「やめて……わたくしに構わないで……」

 

布団に顔を埋めてしまった。もう会話にならないだろう。自分もあの時こうだったかもと思うと、霞の尽力は本当にありがたかった。

 

「また来ますから」

「やめてッテ……言ッテルジャンカヨォォ!」

 

弾け飛ぶように布団がめくれ上がり、主砲が突きつけられる。艤装の制御も難しくなっている。混ざっている駆逐古姫も外に出てきてしまっていた。

だが、私は動揺も恐怖もしない。ここで怖がったら、春風さんは今度こそダメになる。今の状態をさも当然のように受け止め、受け入れているという姿勢を見せてあげなくてはいけない。

 

「ナンデサ……ナンデ諦メナイノヨォッ!」

「諦めるわけないじゃないですか。仲間なんですから」

「出テッテ! モウ、来ナイデ!」

 

このままだと本当に撃ちかねないので、仕方なく退散する。

 

「……はぁ……これは本格的にマズイですね……」

 

嫌な予感がずっと拭えない。この鎮守府に良くないことが起きるような予感がする。

深海棲艦が鎮守府にいるのは別にもうどうでもいい話だ。だが、春風さんがやらかして鎮守府が破滅に向かうのだけは避けたい。それは春風さんのためにもだ。

 

 

 

「姉さん、元気ないわね」

 

昼食の時、相席の霞に心配された。顔に出てしまっていたらしい。あまり人が多いところで話すべきではないことだが、相談に乗ってもらえば何かいい案が貰えるかもしれない。

 

「実はね……春風さんのことなの」

「ああ、春風。酷い顔で部屋に入って行くのを見たわね。触ってほしくなさそうだからそのままにしたけど、さっきの偵察任務で何かあったの?」

 

深海棲艦の力の暴走のことを話した。知っている春風さんとあまりにも違うため、霞も驚くばかりだ。

 

「あの春風がねぇ……信じられないわ」

「私だって驚いてるもの。でも、このままだとダメだと思う」

「そうね……姉さんが戦闘恐怖症だった頃より厄介ね」

 

私の時はただの引きこもりだった。武器が持てないのだから何も出来ない。部屋から外にも出ず、ただただ震えていた。

だが、春風さんの厄介な部分は、明石さん無しに武装が出来ることだ。部屋で暴れられたら、私達には何も出来ない。それが一番怖い。

 

「今は引きこもってるのよね」

「ええ、お昼持っていこうとしたら拒絶されたわ。駆逐古姫の声で」

「重症ね……」

 

八方塞がりな気もする。関わり合いを持ちたくないが故、関わる者には砲を向けるようになってしまった。

 

「……私が春風さんの立場だったらどうするかしら」

「姉さんならここから出てくんじゃない? 迷惑はかけられないって」

「確かに……。春風さんもそうするかもしれない」

 

一番ありえる選択肢だ。悩みに悩んだ春風さんが最後に取る行動は、この鎮守府から出ていくことだろう。武装に明石さんが必要無いのだから、こっそり海に出ることも可能だ。

 

「夜……出ていってしまうかもしれないわね……」

「私達にそれを止める権利があるのかしら」

 

霞が言うこともごもっともだ。ここにいたくないから出て行く。それはもう仕方ない。私達がどうこういう資格は無いのかもしれない。

だが、()()()()()()()()()なら話は別だ。それは止めたい。

 

「止める止めない関係無しに、私は春風さんと話がしたい」

「そうね、姉さんはそういう人よね。それなら私も協力するわ」

「ありがとう霞。できることなら内密に、司令官にだけ話しましょう」

 

春風さんの悩みは私達にはわからないことだ。だが、他の人にも知られたくないことだろう。なるべく表沙汰にしないように動きたい。

 




少し長く続いてきた黒春風の話も佳境。朝潮は春風をどうするのか。
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