欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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明石の工廠

春風が連携訓練を始めて幾日か過ぎ、鎮守府内でも春風がどういう艦娘かが知れ渡った。戦闘中の暴走はまだ直らないが、全員がそれを知っていれば、作戦は組みやすい。

そんな春風、今日は執務室で大淀さんと何やらやっていた。以前の首輪の件があるので気が気でない。

 

「大淀さん、今度は何を?」

「春風さんが朝潮型の制服を欲しがったので採寸を」

「皆様から名誉朝潮型の称号をいただきましたので、形だけでもと」

 

春風はともかく、大淀さんもノリノリである。首輪の時といい、今回といい、ここ最近やたら悪ノリがすぎる。

名誉朝潮型というのは龍驤さんが言い出したこと。先日の連携訓練から霞のことも慕うようになった結果、私や霞について回る姿をよく見られているというのと、私と霞の指示にだけは古姫側も従うというのが、そう見えたのだろう。飼い主よりはマシだが、神風型の方々に申し訳ない気分になる。

 

「首輪よりタチが悪いです」

「そうですか? ちゃんと改二仕様の方にしようと思ってますけど」

「そういう問題じゃないです」

 

少し見てみたい気もあるが、そうすると際限が無くなる。だったら見えづらい首輪の方がマシだ。

 

「大淀さん、やめてください。春風もそれは諦めて」

「お洋服は初めてだったので少し楽しみだったのですが……」

「一応朝潮さんの改二の時の制服は残ってますよ」

 

改二から改二丁になったとき、制服ごと置き換わったと思っていた。だが、そこはコンバート改装である私の利点で、制服はそのまま据え置くそうだ。妖精さんが保管しているので、お願いすれば出してもらえるとのこと。

 

「御姉様、着させていただいてもいいですか。今日だけで良いので……」

「……はぁ、わかった、今日だけよ」

 

言うが早いか、春風は物凄いスピードで工廠に向かった。大淀さんもまだまだ悪ノリが続き、それに続いている。最近振り回されっぱなしだと思いながらも、私はトボトボ工廠に向かった。

 

私と春風は身長については近い。どちらかといえば霞よりも少し小さいかという程度。制服のサイズ的にはおそらく似たようなものだと思う。

 

「如何でしょうか……不思議な感覚ですが」

「思ったより似合いますね。洋服もいいのでは」

 

私が工廠に着いたときにはすでに着た後だった。すでに少し懐かしく感じてしまう改二制服。いつも大正の女学生風な着物を着ている春風が着ていると、すごく珍しいものに見える。

 

「スカートというのは、とてもスースーするのですね」

「いつもは袴ですしね。でもこれが朝潮型ですから。足元が寒いなら、朝潮さんの膝上ソックスがありますよ」

「是非お願いします」

 

全て私のお古ということで、春風もとても喜んでいた。今日だけという約束なのでもう許せるが、毎日と言い出したら却下だ。何故なら

 

「ああ……これが御姉様の……とても良いです。()()()()()()()()()()

 

春風は小さい割には胸が大きめ。残念ながら私や霞では比べ物にならない。故に、胸の辺りだけパツパツ。すぐにでも脱がしたくなった。

 

 

 

春風と工廠から出て少しすると、セキさんと出会った。春風のバタバタが続いたせいで、同じ日に来たセキさんとはあまり会話ができていない。

陸上型の深海棲艦は基本的には陣地からはなかなか出てこないが、セキさんは毎日のように鎮守府に出てくる。集積地という特殊な陣地の効果で集まった優良な資源を、鎮守府側にも提供しに来るからだそうだ。

 

「アサシオ……ソレニ……ハルカゼカ……?」

「今日だけは朝潮型なのです」

「……ソウカ……ニアッテイルジャナイカ」

 

それは否定しない。胸以外は。

 

「カンムスノブンカ、オモシロイナ。キョウミガツキナイ」

「やっぱり深海棲艦とは違いますか」

「アア……コンナニハナヤカデハナイナ」

 

かなりこちら寄りなセキさんだからこそ、鎮守府に来たときはそこら中を見て回っている。私達の訓練すらも興味の対象のようだ。深海棲艦に訓練の必要がないというのもあるだろう。だから、率先して回避訓練を手伝ってくれる。

 

「アカシハトクニオモシロイ」

「明石さんがですか?」

「カンムスノギソウ……イジッテミタガ、ナカナカオクガフカイ」

 

私の眼鏡電探を作ったのも明石さん。毎日のように顔を合わせるし、毎日何かしらの手助けをしてくれている。以前全員が一斉に非番になったときも、明石さんは司令官の出張に同行しているほどだ。いつ休んでいるのかもわからない。

 

「イマカラアカシノトコロニイク。ツイテクルカ?」

「そうですね、私は非番ですし」

「わたくしも今日は午後から連携訓練が何回かある程度です」

 

なら今日は明石さんの仕事を見させてもらおう。セキさんが何をしているのかも知りたい。

 

 

 

セキさんについて工廠へとんぼ返りしたら、今度は明石さんが龍驤さん、蒼龍さんの艦載機のメンテナンス中だった。

 

「あ、セキちゃんいいところに。2人分の艦載機のメンテだからさ、手伝ってもらえる?」

「アア、ワカッタ。コノマエノトオナジダナ」

 

深海棲艦に装備をメンテナンスしてもらう艦娘というのはどうなんだろう。

 

「おー、セキやんか」

「結構いい腕だったよね。なら任せられるよ」

「前から手伝ってもらってたんですか?」

「そうやで。暇んときにここで手伝っとるらしくてなぁ。うちの艦載機のメンテしてもらってん」

 

意外なことに、すでに何度かメンテナンスをしているそうだ。腕も明石さんが保障するレベル。特に艦載機はセキさんも使ってるだけあり、手慣れたもののようだ。

お願いされたセキさんは手際よく艦載機を弄っていく。今触っているのは龍驤さん愛用の爆撃機。それを許しているくらいなのだから、龍驤さんからの信頼は厚い。

 

「器用ですね」

「元々そういうんが得意みたいでな。春風のメンテもできるんちゃうかな」

「シンカイギソウナラ、コレヨリカンタンダ」

 

やはり深海棲艦、謎の多い春風の艤装も、セキさんに言わせてみれば艦載機より簡単と。これからはセキさんに見てもらった方がいいようだ。明石さんが忙しくても、陣地の方に行けばメンテナンスをしてもらえる。

 

「コレデイイカ?」

「おー、あんがと。さすがセキやん、明石並に完璧やで」

「いい後継者が出来ましたね! 蒼龍さんの方もこれでオッケーですよ」

 

深海棲艦を後継者にするのもどうかと思うが、セキさんなら信用に値するので良しとしよう。

 

「あの、わたくしの艤装も見ていただいてよろしいですか?」

「アア、ミセテミロ」

 

早速春風がセキさんに艤装を見てもらう。未だに明石さんでもわからない部分があるらしい。

ガングートさんの艤装は、深海棲艦に似てしまっただけで基本は艦娘の艤装だ。一部深海要素が強まってしまうという事もあったが、それは逆に艦娘の要素が薄まったということ。そこから判断したそうだ。

だが、春風の艤装は一から十まで深海棲艦。わからない部分も多い。共通点のある部分は調整できるが、それ以外は放置しかない。

 

「……フム、コキノギソウカ。ナラコレガアレダ」

「あ、もしかしてそれって」

 

説明されれば艦娘の艤装との共通点が見えてくるようだ。形状も場所も違うとなると、明石さんでも手がつけられない部分ばかりになってしまう。それがわかっただけでも、明石さんのウデがさらに上がった。

 

「なぁ朝潮よ」

「な、なんでしょう」

「言おう言おう思ってたんやけど、春風のこれ、なんなん」

 

出来れば触れてほしくなかったが、春風の制服について龍驤さんに問いただされる。聞かれると思ってはいた。だが、また弄られる要素が増えるのは避けたかった。

 

「今日だけは朝潮型駆逐艦の春潮とでもお呼びください」

「龍驤さんのせいですからね。名誉朝潮型なんていうから」

「なるほどな、ほんまに朝潮型になったんやな。何やっとんねん」

 

ごもっともである。だが、大淀さんの悪ノリと言ったらすぐに納得した。極稀ではあるものの、最古参の龍驤さんから見ればその全てを見ているのであって、すぐに察することができたようだ。

 

「大淀ちゃん、定期的にやらかすよね」

「ヨドもなぁ、ストレス溜まっとんねん」

 

一番司令官に振り回されている大淀さん。割と司令官にも普通ではない対応をしているが、それでも疲れているだろう。これくらいの遊びならまだいい方か。今度は私の胃に穴が空きそうだが。

龍驤さんが言うには、今までの悪ノリで鎮守府に迷惑がかかるようなことはした事がないそうだ。今回はたまたま春風、そして間接的に私だっただけであり、いつもターゲットはバラバラ。

 

「明石、ヨドのはっちゃけ、一番ヤバかったの何やったっけか」

「雲龍さんと榛名さんで騎馬作って大淀乗っけてレ級に対抗しようとした時ですかねー」

「ああ、あったあった。友軍艦隊でこっちが半壊させられた時でしょ」

 

大淀さんがそうなるレベルで疲れてるほどなので、余程の戦場だったのだろう。実際そんな形で戦場に出たら、3人纏めて吹き飛ばされていると思う。

相手だったレ級という深海棲艦は、航空戦をしながら魚雷も発射し、対潜もできる上に主砲が戦艦並という滅茶苦茶な性能の深海棲艦だそうだ。並の鬼級、姫級よりも強いイロハ級で、ついたアダ名が『超弩級重雷装航空巡洋戦艦』である。

 

「魚雷と対潜が大淀ちゃんで、航空戦を雲龍、火力を榛名ちゃんで賄おうとしてさ」

「マジで出撃しようとしてん。で、その場で転覆した」

「大丈夫だったんですか……」

「ヨドが溺れかけただけで何とかなったわ」

 

十分酷い結果なのはわかった。濡れたことで頭が冷えたようで、その後ちゃんとした部隊で勝つことができたそうだ。山城さんと天龍さんで艤装を破壊し、榛名さんと清霜さんで本体を叩くという、結局いつも通りなパワープレイだったそうだが。

 

「大淀があそこまで疲れた顔してたのはあれくらいですよ。ホントに苦汁を飲まされたんで」

「明石も大忙しやったもんな。中破大破で帰ってくるうちらの回復で」

「地獄かなって思ってました」

 

春風の艤装がある程度解析できたようで、セキさんと一緒にメンテナンスをしていた。春風の乱暴な使い方でガタが来ていた部分も多く、明石さんの知識ではメンテナンス出来なかった部分も直されていく。

 

「はい、おしまい。結構消耗激しいから、これからは定期的にセキちゃんに見てもらってね」

「かしこまりました。セキさんもよろしくお願いいたします」

「アア、ワタシノジンチニキテクレレバ、メンテナンスシヨウ」

 

艤装を仕舞う。何やら身体が軽くなったようだ。

 

「で、これはヨドの悪ノリ言うてたけど、他に何もされとらんか?」

「春風に首輪を作ろうとしましたね」

「あのアホ何やっとんねん……」

 

春風からの望みだったから悪ノリというわけではなさそうだが、それを容認してすぐさま行動に移した辺りが悪ノリなんだろう。いつもよりイキイキしていたようにも見えたし。

 

「この制服も、首輪も、わたくしが望んだことですから」

「ああ、そうやった。春風も大概ズレとるんやった」

 

セキさんは次のメンテナンスを始めている。艦娘の艤装の構造は大体理解したらしく、頼んだら完璧に仕上げるそうだ。明石さんでも手が届かない春風の艤装も触れるとなると、工廠に住んでほしいくらいだと明石さんは言った。

 

「セキやんは黙々と仕事すんなぁ」

「コウイウサギョウハスキダ」

「助かっとるで。なんかお礼したいくらいやわ」

 

礼と聞いて作業が止まるセキさん。何やら考え始める。

 

「レップウヲモラエナイカ。ヒメガホシガッテイル」

「開発すりゃあ出てくるんちゃうか?」

「その前に提督の許可でしょ。独断であげちゃダメ」

 

それでもプレゼントをする事になりそうだ。ここで自分ではなくヒメさんへの物をお願いする辺り、セキさんの人の良さがよくわかる。深海棲艦にもこんな人がもっと多ければいいのだが。




洋服を着た春風って想像つかないかと思ったけど、2017年カレンダーで結構大胆な水着だったんだよね。春風さん思ったより……
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