欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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実妹と義妹

頭部損傷により初期化(リセット)された戦艦レ級、レキさんを仲間に加えた鎮守府。刷り込み(インプリンティング)により私を姉として見るようになったことで、黒の深海棲艦であっても裏切ることがない事が確定したため、司令官も元帥閣下に報告。滞りなく配属が決定した。

さすがの元帥閣下も白の深海棲艦3人の時以上に驚いたそうだ。戦艦レ級は各地で目撃された最悪のイロハ級。壊滅に近い被害を受けた鎮守府もあるらしい。それまで手懐けてしまうとは何事かと、腰を抜かしたのだとか。

 

「レキ君、これで君は正式にこの鎮守府に所属する事になった。だが、その姿のままだと、春風君以上に敵と誤認してしまう。そこで、着替えてもらおうと思う」

「キガエ? フクヲカエルノカ?」

「そう。朝潮君に敵と間違えられたくないだろう?」

「ウン、ソレハイヤダ。キガエル」

 

おそらく着替え方もよくわからないだろうから、私がお手伝いすることに。

レキさんの制服は、鎮守府所属とわかりやすいように他の駆逐艦娘に似ているものになっていた。朝潮型に似せると春風が古姫側から戻ってこれなくなると思われたので、今回は特型、吹雪さんや潮さんが着ているシンプルなセーラー服に似せたものとなった。

元々着ていたパーカーを合わせると、皐月さんの色違いのようにも見える。

 

「うん、よく似合っています」

「ソウカ! アサネエチャンガイウナラ、レキモウレシイゾ!」

 

配属決定までの短時間の間に、まず白の深海棲艦の3人、セキさんは調査に加わっていたから、ミナトさんとヒメさんに紹介しておいた。黒の深海棲艦がいるということで攻撃態勢に入りかけたが、私が連れてきたということですぐに仲間だと察してくれた。すでにヒメさんとは友達同士という間柄。近しい世代の外見のため、仲良くなるのは必然だったかもしれない。

 

「朝潮君、何度目かわからないが、また負担が大きくなってしまった……」

「いえいえ、もうこの程度なら大丈夫です。霞は独り立ちしてますし、電探もほぼ常時起動で暮らせるようになりました」

 

霞は毎日添い寝しているくらいで、もう私がいなくても充分にやっていけている。確かに私と一緒にいる時間は多いが、戦力としてはもう一人前だ。電探は自分から言い出したことだし、使いこなせていると言っても過言ではないだろう。

なので、今の私が抱えているのは春風とレキさんのみ。

 

「今も電探起動していますよ。ここまでやれてようやく一人前ですかね」

「青葉君に負けず劣らずだ。たった1人の補助専門というのが不安だったが、充分にやれているようで、私も嬉しいよ」

 

司令官に褒められると私も嬉しい。自然と笑顔になってしまう。

 

「では、よろしく頼むよ。何かあったらすぐに言ってくれ。必ず力になるからね」

「ありがとうございます。レキさん、行きますよ」

「ハーイ。テートク、アリガトナ!」

 

手を振って執務室から出る。こうしていると本当に幼いが、戦闘力は鎮守府の中でも5本の指に入るのだと思うと、深海棲艦は本当に恐ろしいものだと理解できる。

 

「お待たせ。レキさんの新制服、どうかしら」

「特型の制服になったのね。これなら間違えて撃ったりしないわ」

 

春風は朝潮型の制服じゃないことに安堵していた。大淀さんにも念を押しておいたので、そこは大丈夫。やはりまだ春風はレキさんに対して余所余所しい。

 

「スミネエチャン、ドウダ、ニアウカ」

「似合う似合う」

「ソウカ! ハルネエチャン、ドウダ」

 

先程の喧嘩腰な出会いのことなど忘れてしまったかのように春風に接するレキさん。春風は複雑な表情だが、頑張って笑顔を作っている。

 

「に、似合っていますよ」

「ソウカー! ニアッテルカー!」

 

制服を着たことが余程嬉しいのだろう。ヒメに見せてくると言い残し、外に走っていった。

刷り込みはされているが、行動は自由奔放。やりたいようにやるというのが深海棲艦の本質。レキさんもこちら側とはいえ、立派な深海棲艦だ。私がついていないといけないとか、私について回るとか、そういったことは一切ない。最後はここに戻ってくるかもしれないが。

 

「……あの子は何も気にしていないのですね」

「深海棲艦だもの、その時にやりたいことをやってるだけよ。優先順位が少し私に寄ってるだけ」

「私が愚かだったみたいです。あんな小さな子供に意地を張ってしまって」

 

自分で解決に向かっている。春風も不安定ながら強い子だ。元々が大らかでおしとやかな大和撫子なのだから、子供のやる事を笑って許してあげられるくらいの度量は持っている。

 

「御姉様は子供にも好かれる素晴らしいお方だと再認識いたしました。わたくしはこれからもずっとついていきますから」

「なんも変わってないわよ」

 

これが今の春風のいいところでもあるのだから、無理して直してやる必要はないと思っている。そこまで矯正してしまうと、それはもう春風ではなくなってしまうだろう。今のままでいいのだ。振り回されるが。

 

「つきましては、もう一度朝潮型の制服を着させていただきたいのですが」

「それは絶対に許さない」

「姉さん、私も加勢するわ。コイツに朝潮型制服は勿体ない」

 

制服に関してはおそらくもう着せることはない。あの胸は許せそうにない。

 

 

 

レキさんは好きに鎮守府を周り、艦娘と仲良くなっていった。今までにはないパターンで、目を離した隙に何処かに行ってしまっているため、最終的には諦めた。まるで猫のようだ。

電探のおかげでどこにいるかは大概把握できているし、周りがちゃんと止めているようで危険な場所にも行っていない。

 

「春風は連携訓練。レキはヒメと遊んでる。ホント久々に姉さんと2人だわ」

「そうね。最近は春風で手一杯だったしね」

 

談話室、誰も見ていないことをいいことに、私の肩にもたれかかって休んでいる霞。最近なりを潜めていたが、霞も本質は変わらない。甘えん坊でお姉ちゃんっ子。

任務や訓練の入れ違いで話すことが少なくなる日もあるが、食事とお風呂、そして寝るときは基本的に一緒にいる。これは春風にもないこと。それこそが霞の特権であり、他に譲れない部分だろう。

 

「霞も成長したわね。レキさんのこと、すぐに認めて」

()のやる事にいちいち口出しできないわよ」

「でもヒメさんは」

「あの子は別。私と同列だもの」

 

レキさんは霞のことも姉のように慕う。ヒメさん以外は全員お姉さんという認識だ。その筆頭が私であるだけで、分け隔てなく交流する。そのおかげで、鎮守府には恐ろしい速度で馴染んだ。まだ配属が決まって半日も経ってないのだが。

ヒメさんは元の人見知りな性格があってか、最初は私にベッタリだった。そういう意味では霞と同じ立ち位置。それも本来のお姉さんであるミナトさんが来たことで若干緩和されている。

 

「今は姉さんの成分をたっぷり取り入れるわ」

「前から言っていたけど、成分って何よ」

「そういうものなの」

 

膝枕まで御所望のようだ。別にその程度ならいくらでもやってあげられるが、霞は人の目を気にしすぎる。その割には皐月さんにバレバレな辺り、霞はわかりやすいのかもしれない。

 

「落ち着くわ……」

「はいはい」

 

優しく頭を撫でてやったらすぐに寝息が聞こえてきた。こんな霞だからこそ、普段から気を張ることも多いだろう。今は寝かしておいてあげよう。

 

「朝潮の前だとホント無防備だよねぇ」

 

こういう場面には、運がいいのか悪いのか、皐月さんがよくぶつかる。霞の本当の姿をほぼ全て知っていると言っても過言ではない。皐月さんにだけは否定できないレベル。

 

「ここ最近は忙しかったですから、構ってあげられるタイミングが無くて」

「うん、見てたらわかるよ。この前の連携訓練もそうだけど、朝潮は結構背負っちゃってるよね」

 

霞を起こさないように隣に座る。

言われても背負っている実感はわかなかった。確かに自分が引き受けている事は多い。だが、他の方々も助け合ってここまで来たのだろう。私はまだまだだ。

 

「そんなに背負ってるつもりは無いんですけどね」

「そう? それならいいんだけど。無理しないようにね。司令官が悲しい顔するよ」

 

それは避けなくてはいけない。私が大破したときも寝ずに工廠にいてくれたくらいだ。安心した顔で抱きしめてくれたのは忘れることができない。あれだけは二度となってはいけない状態だ。

 

「朝潮はまだ休憩?」

「そうですね。次は霞と哨戒任務なので、もう少しだけ」

「そっか。ボクはもう今日は終わりだから、レキとでも遊ぼうかな」

 

あれだけ走り回っていれば、鎮守府全員と出会っているだろう。皐月さんももう話をしたそうだ。鎮守府で一番小さかった自分よりも小さい子が来たことで、割と喜んだらしい。

 

「聞いてよ朝潮、レキってさぁ、ボクのことサキネエチャンって呼んでくれるんだよ。妹が来てないから嬉しくってさぁ!」

「ああ、確かにそうですね。レキさんにとってはヒメさん以外全員お姉さんの扱いみたいですよ」

 

この鎮守府には末っ子が意外と多い。山城さんも末っ子だし、清霜さんや潮さんも末っ子だ。姉と呼ばれるのは嬉しいものだろう。

 

「吹雪ちゃんの気持ちわかっちゃうよ。これはレキのこと甘やかしちゃいそう!」

「ほどほどにしましょうね」

 

噂をしているとやってくるもので、電探にバタバタと走る2つの反応。一際小さいため、ヒメさんとレキさんなのがわかる。レキさんならヒメさんをこちらに連れてくることも可能だろう。艤装も大きく膂力もある。

 

「アサネエチャン! サキネエチャン!」

「アサ、サキ、ココニイタカ!」

「すみませんがちょっと静かに。霞が寝ているので」

 

しーっと指を口元に当てる。バタバタ騒いでいたのが嘘のように静かに。聞き分けのいい子達だ。

 

「スミ、ネテルノカ」

「ちょっと疲れているみたいです。休憩時間は寝かしてあげてください」

「よーし、ならボクが遊んであげよう。ここから出ていこうねー」

 

霞のために皐月さんが一肌脱いでくれた。子供達を連れて談話室から出て行く。静かにしてるものの、レキさんは満面の笑みでこちらに手を振ってくる。私も霞を起こさないように手を振り返しておいた。

1人、霞の頭を撫でながら休んでいると、私もだんだんと眠くなってくる。なんだかんだ疲れてしまっていたのだろう。休憩時間はまだあるし、少しくらい眠ってもいいだろう。ほんの少しだけ、私も……。

 

 

 

時間にして20分程度のうたた寝から目を覚ますと、目の前にカメラを構えた青葉さんがいた。

 

「何してるんですか」

「いやぁ、なかなか絵になる状況だったので」

 

霞はまだ膝枕で眠ったまま。私と皐月さん以外には殆ど見せない無防備な姿。ああ、なるほど、これは霞が頭を抱える案件だ。

 

「もう撮っちゃいました?」

「はい、何枚か」

「そうですか。なら霞にはバレないようにしてくださいね。こういう無防備な姿を見られるのに慣れていないので」

 

本来なら消させるべきなんだろうが、霞は私のそれなりに恥ずかしい例の音声データを持っているということなので、あえてそのままにしておく。霞の可愛い一面を他の人も知っておいてもらいたいし。

 

「ばら撒きはしませんよ。司令官のアルバムに加わる程度です」

「アルバム?」

「青葉が定期的に写真を撮って、記録を残しているんですよ。娘の成長記録だそうです」

 

私達の知らない間に訓練風景などを記録していたらしい。まだ私は体験していないが、大規模な作戦が終わった時などは記念撮影をしているのだそうだ。なら、今回の北の敵拠点の件が終わったら、そのタイミングになるか。

 

「なら、是非使ってあげてください。霞は写真を撮られること自体嫌いそうですし」

「盗撮みたいですけどね。それではぁ」

 

青葉さんが立ち去った。霞の知らない内に全てが終わっているので、すぐには頭を抱えることはないだろう。不意に写真が流出する事さえなければ。

 

「霞、そろそろ休憩が終わるわ。起きなさい」

「ん、んんぅ……もうそんな時間……?」

 

軽く頭を揺すって起こしてやる。随分とスッキリした顔だ。

 

「ふぁ……結構寝ちゃったわね」

「皐月さん来てたのも気付かなかったでしょ」

「え、来てたの? また無防備なところを見せてしまった……」

 

ようやく身を起こす。軽く伸びをしてからのストレッチ。やはり多少なり疲れは溜まっていたみたいだ。私の膝枕でそれが癒えたのなら充分だろう。添い寝とはまた違う感覚なのだろうか。

 




成長しても霞のシスコンはそのまま。膝枕も顔を内側に向けている可能性大。
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