欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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次の戦いに向けて

「ネエチャンタチ! オカエリ!」

「ただ今戻りました……レキさん、いい子にしていましたか?」

「シテタ! ツユネエチャンガアソンデクレタ!」

 

レキさんのお出迎えで戦闘終了を実感できた。ガングートさんと春風はすぐに入渠ドックへ運び込まれ、私達もお風呂へ直行。無傷とはいえ消耗が著しく、回復はすぐに必要だった。

 

「撤退されたってことはさ、また戦わないといけないんだよね」

「ええ……私の魚雷、最後にギリギリ効いたくらいよ」

「ボクの刀、刃こぼれしてたらしいよ。なんなのあの硬さ……」

 

軽傷な私達のみだが、お風呂の中で反省会。戦闘としては及第点だが、反省すべき点は多い。

特に、今回は春風の奮闘が無ければガングートさんが沈んでいた可能性がある。撤退させるためには2人が中破以上しないといけないというのは、さすがにまずい。撤退でこれなら、撃破はどうなるのか。

 

「魚雷も近接も歯が立たず、接続を切るためには犠牲が必要……厳しいですね」

「あの島を守るためにのみ出ているみたいですし、考える時間はまだありますよぉ」

 

確かに、戦艦棲姫改の目的が黒の陸上型の守護とほぼ断定できそうなところまで来た。つまり、こちらから事を荒立てなければ時間はまだあるということ。最終的には撃破が目標だが、今のままでは厳しい。

 

「まともに効いたのは青葉さんの主砲を狙う攻撃程度でしたっけ」

「ボクが主砲1本斬ったよ。主砲だけは脆いのかも」

 

超火力の主砲が無くなれば多少なり戦いやすくなるのかもしれないが、結局あの巨躯による攻撃も相当問題。速い、硬い、重いの三拍子は、駆逐艦ではどうにもならない可能性がある。

 

「次があったら、部隊編成を変えないとですねぇ。青葉の読みは半分外れてましたし」

「魚雷が効きづらいってのが面倒すぎるわ。次やるなら戦艦と空母の力押しかしらね」

 

そういう意味では、元帥閣下の力添えも欲しくなる。大和型の2人と一航戦の2人なら、ゴリ押しも可能そうだ。そこに清霜さんやレキさんを加えれば、あの自律型艤装もどうにかできるかもしれない。

 

「ま、今は休みましょう。青葉はこの後、海図を書かなくちゃ!」

「今日1日くらい休んでも……」

「ダメですダメです! こういう情報は鮮度が命! もしかしたら今でも変わってるかもしれないんですから!」

 

陸上型が陣地ごと移動できるという事実は、私達ならではの情報。あの黒の陸上型も、もしかしたら移動の準備をしているかもしれない。

これからの戦いに活かせる情報は沢山ある。それに、ある程度は絞れたのだから、援軍を頼むことだってできそうだ。

 

 

 

大破のガングートさんはまだ入渠中だが、春風は中破だったため、午後には戻ってきた。身体自体はすぐに治り、艤装もそれに合わせて修復されたからだそうだ。それでもメンテナンスは必要なので、しばらくはセキさんのところに通い詰めになるらしい。

 

「ああ、再びこの姿になれるなんて……最高です。名誉朝潮型駆逐艦、()()、入渠より戻りました」

 

今回のMVPは間違いなく春風だ。そのご褒美として、朝潮型制服を許可した。私達とお揃いになるように改二制服。前回で気に入ったのか、私の膝上ソックスまで着用。普段の着物を上から羽織るようにしているので差別化も完璧。私のお古ではなく新品らしく、胸のサイズまでしっかり合わせてきた。

 

「さすがに文句言えないわ。私もOK出したし」

「MVPだもの、今回は許すわ」

 

司令官はまだ入渠ドックの前にいるらしい。私の時と同様、ガングートさんの修復が完了するまでは待つとのこと。駆逐艦の私とは違い、戦艦のガングートさんは修復までさらに時間がかかる。私のように気を失ってはいなかったが、消耗が最も大きかったのも確かだ。不安になるのも仕方がない。

 

「ガングートさん、結構危なかったのよね……」

「わたくしも入渠終わりに聞きましたが、全身に骨折があり、内臓もいくつか潰されていたらしく……。艤装が無ければ危なかったと」

 

あの自律型艤装に掴まれ、潰されかけたのだ。それくらいで済んだだけでも良かったのかもしれない。駆逐艦なら上半身と下半身がお別れしている可能性だってあった。

 

「でもあのドックならすぐ治るわ。私が保証する」

「姉さんが言うと説得力ありすぎるから」

「失った右腕が()()()のですよね。それなら大丈夫でしょう」

 

そう、生えたのだ。私だって本当に右腕が無くなっていたと思えないくらい。こういう時ほど艦娘の身体が有難いことはない。ガングートさんも、待っていればまた以前のように戻ってくる。私のようなトラウマも無いだろう。

 

「その時に司令官様に聞いたのですが……外部からの援軍を考えているそうです」

 

やはりそうなってしまうだろう。この鎮守府の艦娘では戦艦棲姫改を撤退に追い込むまでしかできない。いくら精鋭揃いだとしても、倒さないとなると人員を増やすしかない。

特に今回、ヒメさん1人に援軍を対処してもらっていた。せめてそこを別の部隊にやってもらい、私達の部隊が戦艦棲姫改に専念できれば、また違った形だったかもしれない。

最初から実働隊を出して、連合艦隊で行くというのもあるだろう。だが、今度は鎮守府が手薄になってしまう。人数が少ないというのも困りものだ。

 

「外の艦娘ねぇ。また神通さん達と戦えればいいんだけど」

「そうね。あの人達なら、奥から来る大量の敵増援も捌いてくれそう」

 

春風の顔が暗い。援軍にはあまり乗り気ではないようだ。

 

「どうしたの春風」

「外部の方に見られるのが……少し怖いのです」

 

閉鎖されたコミュニティだから忘れかけていた。春風は他人からの視線をものすごく気にする、対人恐怖症だ。上層部の心無い視線のせいで、拭いきれないトラウマを持ってしまっている。

ここの鎮守府は異質なものに一切の嫌悪感を見せないが、外となるともうわからない。

 

「あの目で見られたら……わたくしは……」

「大丈夫、そんなことないように司令官が配慮してくれるから」

 

上層部を思い出してしまったらしい。足がすくみ、ブルブルと震え出した。その場から動けなくなる春風を、私と霞は優しく抱きしめる。

 

「あの司令官よ? アンタの事を考えているわよ」

「それに、そんな人が来たら私が文句を言ってあげる。あの時にもそう言ったでしょう?」

 

一度思い出してしまったものはすぐには離れないだろう。落ち着くまではついてあげることにした。

慰めているうちに泣き出してしまった。私達に出来ることは、落ち着くまで側にいてあげることくらいだ。

 

「ア、ハルネエチャン! ドウシタ!?」

 

私と霞で慰めているところを、鎮守府内を走り回っていたレキさんが気付いた。いつもとは違う雰囲気の春風に、レキさんも慌てている。

 

「ナンカイヤナコトアッタノカ!? イヤナヤツイタカ!?」

「れ、レキさん」

「イヤナヤツイタナラ、レキガブットバシテヤルカラナ!」

 

こういう時の子供の言葉はとても力になった。嘘偽りのない、真正面からの言葉だ。レキさんは本心をそのまま口に出すことしかしないのだから、本気で春風のことを心配しているのがわかる。私達ではここまでの説得力は持てない。

 

「レキさん……ありがとうございます。もう、大丈夫ですよ」

「ホントカ? ハルネエチャン、ナイテタゾ」

「大丈夫、レキさんのおかげで元気が出ました」

 

震えも止まっていた。春風を慰めるのは、私達よりレキさんの方が適役かもしれない。

 

「ソッカ。ナライイ! ハルネエチャンハ、ワラッテタホウガイイ!」

「ふふ、そうですね。レキさんにはこんな姿見せられません。黒の先輩として、姉として、ですね」

 

レキさんを抱き上げる。新しい心の支柱を得た春風は、前よりも格段に安定するだろう。

 

だが、援軍をもし呼んだとして、それが春風のことを、この鎮守府のことを悪く言った場合、容赦できそうにない。相手が誰であろうが関係なく、私は攻撃してしまいそうだ。

 

 

 

夕食後、ガングートさんは依然入渠中。私の時のように一晩はかかりそうだ。千切れた腕を生やすのとは違うだろうが、損傷した内臓全てを修復するのだから、それなりに時間はかかるだろう。

少し様子が気になって、私は入渠ドックにやってきた。そこには当たり前のように司令官がいる。本当に終わるまで待っている。

 

「司令官、食事はどうされたんですか?」

「朝潮君か。夕食は大淀君に持ってきてもらったよ」

 

飲まず食わずで待っているということではないようで、少し安心した。

 

「ガングートさん、容体はどうですか」

「順調に快復に向かっているよ。骨も内臓も修復がたった今完了した。あとは体力と精神だけだね。一晩というところかな」

 

ドックの中を見せてもらう。穏やかに眠ったガングートさんが見えた。高速修復材も抜かれており、この調子なら明日には元気な姿を見せてくれるだろう。

ここからは本題。司令官には聞きたいことがあった。

 

「……春風から聞きました。援軍の要請を考えているって」

「ああ。爺さんにはもう打診した。とはいえ難しいだろうね。ここの全員を受け入れられる援軍となると」

 

悲しそうな顔で話す司令官。

やはり春風やレキさんのことも考えていた。ほんの少しでもズレがある人が来た瞬間、この鎮守府は瓦解しかねない。欠陥(バグ)に関してはまだ理解出来るだろうが、それ以上のものが沢山ある。ガングートさんのように隠しやすいものもあれば、レキさんのように存在そのものが見せられないものまである。

 

「深海棲艦そのものがいる鎮守府だ。欠陥(バグ)とは比べものにならない」

「ですよね……」

「それでも、私は間違っているとは思わないよ。今の状況が最善だと確信している」

 

司令官がそう思っているのなら、私達は喜んでついていける。これが最善。これが勝利への道。私だってそう思っている。不確定要素はまだまだ多いが、いい方向に転んでくれるだろう。

 

『よく言った! 同志!』

 

ドックの中から声がした。ギョッとした顔で私と司令官はガングートさんの入っている入渠ドックを見る。さっきまで穏やかな寝顔だったのに、目を見開いていた。こんな短時間で目を覚ますことは本来ありえない。

 

『貴様は間違ってなどいない! だからこそ、我々がついていっているのだからな!』

 

ドック内からのくぐもった声なのにはっきりわかる。しかも内側からドックを開こうとしている。体力の回復はまだ始まったばかりのはずなのに、元気になりすぎなのでは。

 

『こうしてはいられん! 訓練だ! ヤツを倒すために、今すぐ訓練だ!』

「ガングートさん! ちょっと今はまずいです!」

 

そうこうしている内に、入渠ドックが開いてしまった。そもそも内側から開く仕組みになっているのかもわからないが、とにかく開いてしまった。急いで司令官の目を隠す。こういうときに身長差は厄介。

 

「む、脚に力が入らん」

「今まで身体の修復をされていたんですから当たり前でしょう。一晩は寝ていてください。むしろなんで腕は普通に動いてるんですか」

「動いたのだから仕方ないだろう」

 

その前に、自分が全裸であることを気にしてほしかった。目の前には異性。

 

「あー、朝潮君、ありがとう。ガングート君は自分の現状をわかっていないようだね」

「司令官、ゆっくり後ろを向きましょう」

 

言われるがままに後ろを向く司令官。ちょっと可愛かった。

私の時は裸であること関係なしに抱きついてきたが、それは私の身体がまだ色気のないお子様だから。だが、ガングートさんは大人の女性だ。身長も違えばスタイルも違う。我が子だとしてもそれはよろしくない。

 

「どうした同志。何故顔を背ける」

「ガングートさん、全裸ですから」

 

自分の今の姿を見てやっと理解したらしい。だが羞恥心の欠片もなく、それなら仕方ないと素直にドックの蓋を閉めた。

 

「はい、ガングートさんはドックの蓋を閉めたので、もう大丈夫です」

「すまなかった。まさか中から開けてくるとは思わなかった」

「まず起きるなんて思いませんよ……」

 

元深海棲艦だからか、ガングートさんが特殊すぎるのか。

 

「ガングート君、もう少し休むこと。一晩はここで眠りたまえ」

『そうせざるを得ないようだな。脚がまったく動かん。たった半日寝ていたくらいで情けない』

「それだけ消耗していたんだよ君は。明日になれば全快だ」

 

物分かりのいいガングートさんはさっさと寝てしまった。入渠ドックの中はそういう成分が含まれているのか、やたらよく眠れるらしい。私は途中で目覚めることなど無かったのよくわからないが。

 

「元気で何よりだ。これならもう心配いらないね」

「司令官も寝てくださいね。ガングートさんは目を覚ましたようなものですし」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

目を覚ましていなかったらこのままここで一晩過ごすつもりなはず。そういう意味では飛び起きたガングートさんには感謝だ。

司令官はあくまでも人間。私達艦娘や、ヒメさん達深海棲艦とは違う、ただの人間だ。いの一番に身体を壊すのは間違いなく司令官なのだ。

だからこそ、身体を大事にしてほしい。寝不足で倒れられても、こちらが困ってしまう。

 

「大淀さんに引き継ぎますから、ついてきてください。ガングートさんの件も話しましょう」

「そうだね。本当にしっかりした娘だ」

 

私の望む補助役、全員のサポートをするというのは、何も部隊だけではない。司令官のサポートだってその中に入っている。この鎮守府の誰もが生きやすくなるべく、私は頑張るつもりだ。

 




ガングートは妙に羞恥心が無さそう。全裸見られて叫ぶのは提督側みたいなイメージ。
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