欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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潜水艦の苦悩

萩風さんが配属され、戦力増強が出来た鎮守府。まずは水上訓練からスタートなので、そこは時津風さんにお任せすることになった。姉として、妹を構いたいのだろう。見た目はどう見ても萩風さんの方が姉なのだが。

 

こちらはこちらで、北の大拠点がきっかけとなりポツポツと現れ始めた別の小拠点の対処を考え始めていた。それがある限り援軍も期待出来ず、ただでさえ孤立している人工島の鎮守府がさらに孤立してしまう。処理してもまた現れるかもしれないが、やっておかないよりはマシだ。下手をしたら気付かぬ内に包囲されている可能性だってある。

 

「現在、潜水艦の子達が小規模の拠点を調査している。その結果次第で、破壊する順番を決めていくよ」

 

珍しく浮かない顔の司令官。

 

「どうした提督。そういうのはあんま見せない方がいいぜ」

「いやね……ゴーヤ君から率先して調査に行くと申し出を受けたから許可したものの……小規模とはいえ拠点調査は危険じゃないか。心配で心配で」

 

鎮守府に所属する3人の潜水艦娘、伊58(ゴーヤ)さん、伊19(イク)さん、伊401(しおい)さん。対潜訓練や改二への強化訓練以外だと、青葉さんとの海域調査に便乗して海底の調査を手伝っていた。だが、それ以外だとあまり関わりが持てないでいる。

この鎮守府の出撃できる潜水艦は、魚雷を使えないという欠陥(バグ)を抱えている。装備できるのは主砲、機銃、そして水上戦闘機。潜水艦らしい戦闘はほぼ出来ないとゴーヤさん達は口を揃えて言っていた。

 

「確かにこれまで一度も傷を負って帰ってきたことはないが、それでもね。勿論、信じて送り出したんだ。必ず成功させてくれるだろう」

「大丈夫やって。何のためにあいつらが訓練しとる思っとるんよ。()()()()()()やで」

 

潜水艦娘の基礎訓練として最も重要なものは、調査任務のための隠密行動だ。当たり前だが、敵にもソナーを持つ駆逐艦、軽巡洋艦は存在する。それに見つからないように、本当に必要な情報だけを抜き取り、帰る。私達にはできない、潜水艦だけの重要な任務だ。

 

「事実、本気出したら潮でも倒せん。訓練の時は甘くしとるくらいや」

「潜る深さに制限かけてるんだっけか。そうじゃなきゃ対潜訓練になんねぇもんな」

 

それは初耳だった。対潜の鬼である潮さんが倒せないとなると、ほぼ無敵なのではと思えてしまう。

殆ど攻撃できない代わりに絶対に死なない。これがこの鎮守府の潜水艦娘がたどり着いた場所だ。だからこそ、隠密行動を買って出る。死なないから。

 

「今までにない規模の調査だったから、私も弱気になっていたみたいだ。うむ、潜水艦の子達が無事に帰ってくるのを待とう」

「そうだぞ提督。暗い顔はむしろあいつらに失礼ってもんだぜ」

 

場所しかわからない私達は、事前情報を待つしかなかった。それでも、遅かれ早かれ必ず届くというのは頼もしい。

 

 

 

会議も終わり少し経った頃、工廠で電探のメンテナンスをしていると1周目の調査任務を終えた潜水艦の方々が工廠に戻ってきた。往復3時間程の隠密行動。常に潜った状態での任務だ。

 

「お疲れ様です」

「朝潮ちゃん、お疲れでちー」

 

ゴーヤさんは手早く身体を拭くと執務室の方へ走っていってしまった。後からイクさんとしおいさんも海から上がってくる。

 

「相変わらずなの」

「ゴーヤちゃんは働きすぎだよねぇ」

 

呆れ顔の2人。潜水艦組ではこういったことが日常茶飯事らしい。

 

「ゴーヤさんはいつもああなんですか?」

「そうなの。ゴーヤは仕事中毒(ワーカーホリック)なの」

「働いてないと落ち着かないんだって。毎日海に出てるよ」

 

それは真面目故なのか、別に原因があるのか。自分の身体のことを一切考えずに働き続けている節もあるので、2人としては休んでもらいたいそうだ。週に1度は強引に休ませているらしい。それでも今日で1週間働き詰めである。

 

「あれはその内身体壊すよ。非番返上して働いてるんだもん」

「気持ちはわからなくもないけど、無茶すぎるの。チームワーク大事って自分でも言ってるわりには先走るし」

 

ゴーヤさんは潜水艦の中では最古参。同じく潜水艦の伊8(はち)さんと同期になるらしい。だが、はちさんが潜水できないという致命的な欠陥(バグ)を抱えている。そのため、潜水艦の仕事を全て1人でこなしていた。

当時の潜水艦の仕事は今ほど深くまで潜入などせず、基本は青葉さんの海域調査の手伝い程度だったそうだ。人数が増えたことで今のような隠密行動も仕事に入った。

 

「あ、電探のメンテナンス終わったんですね。じゃあ装備お願いします」

「最近、朝潮ちゃんの眼鏡も見慣れてきたのね」

「イメチェン可愛いよね。あたし達も普段着で伊達眼鏡とかけてみる?」

 

妖精さんが眼鏡を持ってきてくれたのですぐに装備。訓練の賜物か弊害か、鎮守府内の情報があると落ち着く。わかりすぎるのも考えものだ。

 

「あれ、廊下に動かない反応が……」

「動かない? この鎮守府では珍しいのね。立ち止まってるの?」

「え、これ立ってない……寝てる、倒れてますよ!」

 

すぐにその反応の方へ向かう。倒れているとしたらまずい。

 

「ちょっと、ゴーヤ!」

 

廊下に倒れていたのはゴーヤさんだった。まだ執務室にも辿り着けていない。先程から殆ど時間は経っていないから倒れて間もないはずだ。倒れた理由は後から調べるとして、今は医務室に運び込むことが先決だ。

幸い、執務室には近い。男手も借りられる。

 

「司令官! 司令官手を貸してください!」

「どうした! ご、ゴーヤ君、こうしてはいられん!」

 

即座に抱きかかえて、恐ろしい速さで医務室へと走っていった。私達では追いつかず、急いで追いかけた。

 

 

 

「過労と栄養失調ですね。普通じゃありえないですよ」

 

明石さんが診察した結果、ゴーヤさんは過労による体調不良で倒れたらしい。本来ならお風呂の修復材効果で疲労も取れ、かつ夜には眠っているわけだから疲れはそうそう溜まらないはずである。

栄養失調も、ここで生活していたら簡単には起こらない。朝昼晩とちゃんとした食事が出ている。

 

「ゴーヤ君、ちゃんと眠れているかい?」

「……ここ最近、寝れてないでち。ご飯も喉を通らなくて。で、でもお仕事はちゃんとやるから。任せられた仕事はできるでち」

 

何故そこまで、と聞くのは野暮な事だろう。私でも察することができた。

ゴーヤさんはおそらく、()()()()()()()()()()()()のだ。仕事中毒なのもそれが影響している。よく今まで倒れなかったものだ。

 

「休みなさい。身体を壊しては意味がない」

「でも、今は拠点の調査が大事でち。みんなのために調査しなくちゃ」

「万全ではないものの情報が、正しいと思えるかい」

 

口籠ってしまったゴーヤさん。体調が悪ければ、違うものが見えてしまったり、見落としも発生してしまうだろう。

 

「君は身体を休めて、万全な状態で挑んでほしい。身体を壊してしまっては意味がないんだ」

 

それしか言えない。仕事のしすぎで体調を崩したのなら、休んで万全にしてから挑めばいいだけだ。何ヶ月も寝ていろというわけではない。長くても3日程度で回復するだろう。

それでも、今のゴーヤさんには耐え難いものだったらしい。だんだん表情が歪んできた。

 

「ゴーヤ、要らない子なの……? 提督()ゴーヤを捨てちゃうの……? お仕事、お仕事しなくちゃ……お仕事……」

 

虚ろな目でブツブツ呟き始めた。これは重症だ。こうなっては手がつけられないと一旦医務室の外に出た。落ち着くまではそっとしておいた方がいい。

 

ゴーヤさんは私のようにこの鎮守府で発見されたのではなく、深雪さんのように別の鎮守府に発見されたところを司令官に拾われた方である。ただし、発見されてすぐではなく、しばらく滞在した後に。

その鎮守府で受けた扱いが良くなかった。司令官に拾われるまで、出撃もしたことがなく、腫れ物扱いされていたそうだ。司令官が引き取ると言ったときも、そこの司令官にさんざん罵られたらしい。それがゴーヤさんの心に大きな傷を付けてしまっていた。

 

「結果的に、ゴーヤ君は欠陥(バグ)で心を壊してしまったんだ」

「仕事が生き甲斐になってしまったのも、自分の存在意義を自分で認めるためなんですね……」

 

鎮守府に貢献できている自分が見えていないと不安になるのだろう。だから仕事中毒になってしまった。

だからと言って、体調を崩したまま任務を続行させては、今度は死にかねない。潜水艦組は私達よりも死と隣り合わせの過酷な環境だ。そんな中に今のゴーヤさんが行ったら、間違いなく悪い方に倒れる。

 

「ここまで重症と見抜けなかった私にも落ち度はある。すまない」

「そ、そんな、私も気付けませんでしたから……」

「だが心の病はどうしたものか……」

「春風とは別の理由ですからね……」

 

同じように心の病を持つ春風は、精神的支柱を立てることで安定した。私だけでなく、霞やレキさんも柱にしたことで、さらに安定感を増している。

だが、ゴーヤさんの場合はすでに仕事を精神的支柱にしてしまっている。別の拠り所を作ってあげない限り、今の状態からは抜け出せない。

 

「提督、ここははっちゃんが行きます」

「はち君……」

 

医務室の前で悩んでいると、やってきたのははちさん。イクさんとしおいさんに相談されたそうだ。同期で、かつ同じ艦種のはちさんなら、何かできるかもしれない。

 

「ちょっと荒療治になるかもしれないけど、はっちゃんがやる事、何も言わないで見ててほしいです」

「……わかった。頼んだよ」

Danke(ありがとう)

 

医務室に入っていくはちさん。私達もそれについていく。荒療治という言葉に一抹の不安を感じたが。

 

ゴーヤさんはまだ俯きながらブツブツと何かを呟いている。正直見るに堪えなかった。だが、このままにはしておけない。

 

「ゴーヤちゃん」

「はっちゃん……ゴーヤまた捨てられちゃうかも……仕事もできない使えない艦娘だもんね……」

 

自分で自分を追い詰めすぎている。思考がネガティブな方向へどんどん進んでいってしまっている。

ゴーヤさんは自分に自信がなさすぎた。訓練や任務のときにはとても真面目で、時にはお調子者なキャラをしていたが、内心は不安でいっぱいだったのだろう。私も察することはできない。

 

「ゴーヤちゃん。それははっちゃんに対する侮辱と取るよ」

「そんなわけないでち! はっちゃんはゴーヤよりいっぱいお仕事してるし、できないこといっぱいできてる!」

「でもはっちゃん、潜れない。潜水艦なのに潜水艦じゃないよ。艦娘なのかも怪しい」

 

自虐的な言い争いは、欠陥(バグ)を持つ私にもキツイ。司令官も苦い顔をしている。

 

「はっちゃんとしては、ゴーヤちゃんは潜れるだけ艦娘の仕事出来てると思う。はっちゃんは艦娘の仕事ほとんどできないもの」

「でもこんなことでお仕事できなくなったら……ゴーヤここにいる意味ないでち……もっともっと働かないと、誰にも存在を認めてもらえない……」

 

今の光景、既視感があった。春風の自殺を止めたときと同じだ。ゴーヤさんが春風、はちさんが私。このまま同じ展開に行くと、もっと辛いところに行ってしまう。

 

「体調不良で成果を出せない方が余程ダメでしょ。結局倒れちゃったんだし。もしかしてゴーヤちゃん、提督がゴーヤちゃんのこと認めてないと思ってるの?」

「使えない艦娘なら認めてなくて当然でち……」

 

今すぐにでも叫びたいのだろうが、必死に我慢している司令官。握り拳が震えている。私も我慢する。どちらかといえば、止めたいのははちさんの方。これ以上見たくなかった。

 

「使えない使えないって……ゴーヤちゃんの働きにみんな感謝してるのに」

「何もできずにぼーっとしてる艦娘なんて、使えないでしょ! そんなのいてもいなくても同じだよ!」

 

言ってはいけないことを言ってしまったのだろう。はちさんの何かが変わった。後ろから見ていてもそれがわかる。

 

「……いてもいなくても同じなら、ゴーヤちゃんの潜水能力、はっちゃんにちょうだい」

「は、はっちゃん?」

「使えない艦娘には必要ない能力でしょ。それ、はっちゃん喉から手が出るほど欲しいの。要らないならちょうだい。明石さんとセキさんに頼めば移植くらいできるよ」

 

ああ……やっぱりこうなってしまう。荒療治と言った時点でそうなるんじゃないかと思っていた。私も通った道だから。

はちさんはゴーヤさんの腕を掴んでベッドから引き摺り下ろそうとする。

 

「ゴーヤちゃん、工廠行こうか。ああ、ついに潜れるのね。海の底ってどうなっているんだろう。とっても楽しみ」

「ま、待って、ゴーヤは……」

「何? 使えない艦娘なんだから能力もいらないでしょ」

 

冷たい表情でゴーヤさんを見据えていた。あの時の私もこうだったんだろうか。そうだとしたら……私は春風にとんでもないことをした。

このままだと本当に連れて行かれる。そう思ったであろうゴーヤさんは、はちさんの腕を強く振り払った。

 

「嫌だ! ゴーヤもっと潜りたい! これを無くしたらゴーヤ本当に使えない子になっちゃう!」

「じゃあ無理せずちゃんと身体を治しなさい! 自分で自分の首絞めてどうするの!」

 

声を荒げるはちさんなんて初めて見た。

 

「休息も仕事の内! 万全の体調でなくちゃ万全の仕事なんてできない!」

「そんな時間も勿体ないでしょ!」

「他の子も頼りなさいよ! 潜水艦はアンタだけじゃないんだから! それとも何? 認められたいけど他の子は認めてないと? 何様のつもり!?」

 

今度はゴーヤさんの胸倉を掴み、ベッドに押し倒した。おもわず駆け寄ってしまいそうになったが、司令官に制止される。何も言わないで見ててほしいと言われたのだから、私達ははちさんの言動を見届けるしかない。

 

「自分が認められたいなら、まず他の子を認めなさいよ。頼ればいいでしょう! 全部自分で背負うな!」

「でもゴーヤには何にもないから……」

「あるでしょうが! 結局周りが見えてない! この鎮守府にいるのに、そんな事もわかってなかったの!?」

 

この鎮守府は欠陥(バグ)を持つ艦娘しかいない。結果、お互いを助け合うことで成り立っている。

私は攻撃できないから、他の人の攻撃に頼るしかない。索敵できない人から見れば、わたしを頼るしかしかない事だってある。みんなそうだ。

 

司令官は海の上には行けない。だから、艦娘に頼っている。艦娘は司令官がいないと居場所すら与えられない。上から下まで、全部助け合っている。

 

「それなのにアンタは自分しか見えてない……そんな奴はここから出ていけ!」

 

はちさんはそれだけ言い残して医務室から出て行ってしまった。司令官はゴーヤさんの元に残るとジェスチャーしたので、私がはちさんの方へ向かった。

 

はちさんは少し行ったところで膝をついていた。あれだけ怒鳴り散らすのも初めてのことだろう。息もあまり整っていない。

 

「はぁ……慣れないことするものじゃないね……」

「荒療治過ぎますよ……私も経験がありますから気持ちはわかりますけど……」

 

今回のは諸刃の剣だ。はちさんに怒鳴られてゴーヤさんの心が完全に折れてしまったら、春風と同じように自殺を考えるまで行ってしまうだろう。

 

「あの子は強い子だから。これで周りが見えるようになってくれる……はず」

「そうですね……それに、今は司令官がついています。見守るしかありません」

 

ゴーヤさんはきっと立ち直ってくれるだろう。身体を休めて、元気な姿を見せてくれることを祈る。今はそれだけしかできなかった。

 

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