欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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陸の鎮守府

少し久しぶりの、北へではなく南への哨戒任務。ゴーヤさんの件も一旦落ち着きそうということもあり、少し安心して海へと出た。ここからは私が簡単に触れていい事でもないだろう。他の人に任せることにする。

 

今日の護衛は皐月さんと白露さん。私の初めての哨戒任務の時と同じメンバーだ。あの時と違うのは、皐月さんが攻撃できるようになった事と、私が索敵とソナーを全て行えるようになったこと。そして、全員が改二になったこと。

 

「ここまで成長すると、3人の哨戒も楽なもんだね」

「そうですね。手早く済むようになりましたし。あ、索敵完了しています。反応無し」

「この早さよ。優秀過ぎてあたしら必要かわからなくなっちゃう」

「私を守ってください。私は敵駆逐艦1体でも負けますよ」

 

あくまでも私は2人に頼りきりだ。他に誰かいないと出撃すら出来ない。

 

「おー、もう折り返し地点。順調過ぎて怖いよ」

「何も無いならいいじゃないですか。さ、早く帰りましょう」

 

いつもの島、通称『霞の故郷』を確認した後、大きく迂回して鎮守府への復路へと入る。

 

「朝潮、敵が駆逐艦1体くらいならいけるんじゃない? この前の連携訓練のとき、刀吹っ飛ばされたし」

「護身術程度で深海棲艦は倒せませんよ。山城さんじゃないんですから」

「人型なら行けそうな気が……いえ、なんでもありません」

 

白露さんが失言しそうだったので、無言で釘を刺しておく。()()()を知っているのはまだまだ極少数だ。無闇に外に出していい話ではない。主に私に被害が出る。

 

「こっちの方って小拠点あるんだっけ?」

「もう少し南側にあるらしいです。別の鎮守府が対応しているそうですよ」

 

そちらは以前救援任務で助けた神通さん達の鎮守府が現在対応中。

その拠点の深海棲艦がこちら側に流れてくる可能性もあるので、哨戒経路の最南端ではなるべく入念に確認している。

 

「反応ありません。こちらには流れてきていませんね」

「向こうも大変そうだなぁ。敵が全部陸を目指してるかもしれないんだよね」

「確かに。そうなるとこっちから友軍送るのも大変だよ」

 

それでもこちらに友軍の申請が来ていないということは、数は多くとも善戦できていると考えていいだろう。まさか知らぬ間に全滅……なんて事もない。それなら司令官がいち早く知らされている。

 

「まずは潜水艦の方々の調査を待ちましょう。今の私達は哨戒するだけですから」

「そうだね……って、提督からの通信が。はい、もしもーし。哨戒部隊旗艦の白露だよ」

 

このタイミングで司令官からの通信。ということは、援軍申請か。ちょうど南方にいる私達を援軍にするとかかもしれない。こういう時のために私達は燃料もたっぷり。武装も完璧にしてある。

 

「了解。このまま南ね。駆逐艦3人で大丈夫? はい、はい、じゃあすぐに向かいまーす!」

「援軍ですか」

「そう! ちょっとピンチの部隊があるんだって! ここから南に向かえば朝潮がキャッチできるから!」

 

大急ぎで現場に向かった。私達の援軍でどうにかなりそうということは、僅差だが少し危ないというレベルだろう。なら、すぐに助けなくては。

 

 

 

少し行ったところで交戦中の部隊を発見する。友軍は空母2人に駆逐艦2人。対する敵深海棲艦は空母2、戦艦2、軽巡2。よりによって軽巡はツ級。空母の攻撃がことごとく撃ち墜とされている。

 

「まずツ級を叩きましょう。そうすればあちらの空母が戦艦を処理してくれます」

「オッケー。ツ級ならボクでも余裕で斬れるからね」

 

あちらも私達に気付いたようだ。

 

「こちら友軍艦隊! 援軍に来ました! 手助けするよ!」

「助かる! ツ級お願い!」

 

あちらの旗艦であろう空母、翔鶴型正規空母2番艦、瑞鶴さんとコンタクト。その後ろに中破状態の雲龍型正規空母3番艦、葛城さん。駆逐艦は白露さんの妹。2番艦の時雨さんと9番艦の江風さん。共に改二であり、小破。

 

「皐月さんはツ級で。白露さん、戦艦行きましょう」

「あたしが戦艦? まぁ行けると思うけど。よいっ!」

 

深雪さんに対抗して練習していたヘッドショット。今回はうまく行ったようで、戦艦を一撃の下に撃破。まだまだ命中率は深雪さんには敵わないらしく、要練習とのこと。

 

「ツ級は軟らかいから楽勝!」

「油断しないでください」

 

背中から斬りつけて1体撃破。その足でもう1体にも向かう。その間に私は敵空母の艦載機を全て墜とした。

 

「白露さん、5時」

「はいよ!」

 

回り込もうとしていた戦艦に対し、白露さんに指示を出し撃ってもらう。タイミングは完璧、後ろ手に撃った主砲は戦艦の胴体に直撃。だが大破止まり。

 

「ツ級片付いたよ!」

「了解。瑞鶴さん、ツ級は終わりました!」

「さんきゅ! 攻撃隊発艦!」

 

脅威が無くなったことで瑞鶴さんが発艦。正規空母の艦載機量は流石の一言だ。妨害さえ無ければあっという間に戦場を制圧してしまう。対空をするツ級も、敵空母の艦載機も一掃しているため、残った敵を全て蹂躙して戦闘を終了させた。

 

「助かったよ。葛城が戦艦に不意打ち受けてね。オマケにツ級までいてさ。時雨と江風がどうにか耐えてくれてたんだけど戦艦2体相手にジリ貧だったんだ」

「間に合ってよかった。鎮守府までの護衛も引き受けるんで、今は撤退しましょう」

 

周囲に敵がいないことは私が確認している。今は葛城さんを鎮守府に送り届けることが先決だ。中破状態の空母は無防備のため、早急に入渠が必要だった。時雨さんと江風さんも、小破とはいえ怪我をしている。その場で撤退がベストと判断し、瑞鶴さんもそれを了解した。

 

「噂にしか聞いてなかったけど、あそこの鎮守府の子ってホント凄いのね」

「あー、よく言われます」

「白露さん、調子に乗ってると足をすくわれますよ」

 

帰り道、瑞鶴さんと話す白露さん。私達、最前線の鎮守府はそれなりに噂になっているようだ。

 

「外見も戦い方も私達とは違うのがいるって聞いてたけど、ここまでとはね」

「あたしが一番普通かな。低速化と対空できない欠陥(バグ)だから、戦闘自体はまともだし」

「普通の駆逐艦は戦艦を一撃で撃破なんてしないわよ」

 

葛城さんに肩を貸している時雨さんと江風さんもそれには頷いている。それを自分の姉がやったのだから、さぞかし驚いたことだろう。

それだとうちの鎮守府の青葉さんとか見たら卒倒しそうだ。ヘッドショットと主砲へのピンポイント射撃しかしなかったりするわけだし。

 

 

 

辿り着いた先は、初めて見る別の鎮守府。人工島に浮かぶ私達のものより大きく、設備も充実しているように思えた。おそらく規模も大きいのだろう。

 

葛城さんを入渠させ、時雨さんと江風さんは小破を治すためお風呂へ。この辺りは何処も変わらない。残った旗艦の瑞鶴さんに連れられ、ここの司令官への報告に向かった。執務室へ向かうまでに受ける視線は、なかなかに痛い。

 

「援軍ありがとうございました。加藤准将にはお世話になっています」

 

執務室で出会ったのは、私達の司令官よりも若い男性。浦城(うらき)(りょう)司令官。階級は中佐。その隣には秘書艦を務める吹雪型駆逐艦5番艦の叢雲さん。おそらく初期艦で、すでに改二。

 

「准将への連絡も済んでいます。少しここで休憩をしてから戻りなさいとの指示ですよ」

「了解です。ではお言葉に甘えさせてもらいます」

 

私達の鎮守府からこの鎮守府まではそれなりに距離がある。何せ哨戒ルートの最南端からさらに南だ。一旦ここで補給を受けた後に帰投する方がいいと判断された。

 

「それに、朝潮さん。君に会いたがっている子がいますから、話をしてあげてください。執務室の向こうで出てくるのを待っていますよ」

「というか入らせればいいじゃない。敷波、いいわよ」

 

叢雲さんからの合図で執務室の扉が開いた。あの時の敷波さんが駆け込んできた。

 

「朝潮! また会えた!」

「敷波さん! 哨戒中の共同任務以来ですね」

 

再会を大いに喜ぶが、ここは執務室だ。秘書艦が許可したにせよ、浦城司令官はいるし、瑞鶴さんもいる。あまりはしゃがないようにし、話を進めることに。

ここに敷波さんがいるということは、この鎮守府は小拠点対処中の鎮守府。神通さん達が所属する場所だ。今回は援軍という形で力を貸したが、現在絶賛交戦中。あまり長居もしない方がいいように思える。

 

「朝潮さんの心配には及びません。我々はもう少しで拠点鎮圧ができそうです」

「あと数日ってところかしら。やたら陸に向かってくるから迎撃戦で時間取られたけど、ようやく押し返せたもの」

 

溜息をつきながら叢雲さんが話す。こちらはこちらで大変なようだ。

 

「今は休憩をしてください。あと、僕も後から話を聞きたいんですよ。そちらの鎮守府のこと」

「元帥閣下から多少は聞いている……んですよね?」

「ええ。なので、この鎮守府は全てを知っています。半深海棲艦の春風さんの件も、初期化(リセット)された戦艦レ級の件も聞いています」

 

それなら会話に慎重にならなくても良さそうだ。質問されたらある程度は話していい。深いところまで突っ込まれたら考えることにしよう。

 

 

 

休憩ということで、この鎮守府の談話室に通された。さすがは大きな鎮守府、談話室も私達の鎮守府より倍近く広い。私達がいるということで、この鎮守府の艦娘も次々に姿を見に来た。

特に興味を持たれたのはやはり私だった。白露さんは何も変わらず、皐月さんは戦闘の時にのみ通常を逸脱するが、私は駆逐艦娘朝潮としての外見から変えている。敷波さんもまずそこに反応した。

 

「朝潮、なんで眼鏡? もしかしてあの後目を怪我したとか?」

「これ電探なんですよ。私、今索敵専門で戦場に出てますから」

 

そうとしか言いようが無いのだが、敷波さんには少し難しいようだった。

本来戦場に索敵()()という役割は無い。会敵するまでに誰かが索敵をして、あとは目視で戦うのが普通である。空母もそのために偵察機を出すのだし、戦闘中に索敵をする余裕なんて本来は無い。

 

「あ、いたいた! 白露の姉貴!」

「おー、江風。傷はもういいの?」

「それは大丈夫! ンな事より聞きたいことがあるンだけど!」

 

お風呂から上がってきた江風さんが談話室に駆け込んできた。後ろから申し訳なさそうに時雨さんも入ってくる。

 

「さっきのどうやったンだ!? 見ないで後ろの戦艦大破させた奴! 江風もそれやれるようになりたいンだよ!」

 

先程の戦闘での白露さんの背面撃ちにいたく関心を持った様子の江風さん。知らない人が見たら何事かと思うだろう。普通は何も見ずに撃っても的には当たらない。

 

「朝潮の指示通りに撃っただけだよ」

「は? 指示通り? でも朝潮って瑞鶴さンのとこで対空してたから姉貴の方見てなかったじゃン。指示なンてどうやってすンだよ」

「そうか、あたしらの中じゃ、もうそれが当たり前になっちゃってるんだ。朝潮、影響力すごいよ」

 

これは誇っていいことなんだろう。それだけ戦場に貢献できているということだ。

 

「僕としては皐月の戦い方の方が気になるよ。艦娘が刀で戦うなんて聞いたことがないからね」

「だからあたし言ったじゃん! 向こうの山城さんに白兵戦で全滅させられたって!」

 

なるほど、これが普通の反応。私達の周りはそうなる経緯から全て見ているので、おかしいことだと思わない。皐月さんに関しては、私がきっかけになっているので少し複雑ではある。

敷波さんは以前に私達の鎮守府で洗礼を受けている。山城さんに白兵戦で全滅させられるという苦い経験は、この様子だと誰も信じてくれなかったのだろう。神通さんも天龍さんに白兵戦でやられているというのに。

 

「簡単に説明するとだね、あたしはまぁ対空装備が出来ないのと低速化してるだけの欠陥(バグ)だからいいとして、皐月は主砲と魚雷が装備できない欠陥(バグ)だから、刀で攻撃するようになったわけね」

「すでにそこがおかしいんだけど」

 

皐月さんの場合は改二から戦い方を変えた人なのだが、そこは端折った。

 

「で、朝潮も同じ欠陥(バグ)持ってるんだけど、攻撃じゃなくて補助に行ったってだけ。戦場の全部の位置を常に把握してるから、指示が的確」

「何が凄いのか全然わかンねぇ……」

 

まぁそうだろうなと、私も思っている。これは言葉で説明しても納得してもらう方法がない。実戦を見せるのが早いのだが、先程の戦闘でも割とわかりづらかっただろう。

 

「うーん、あ、じゃあさ、朝潮ちょっと目隠しして」

「目隠し? はい、これでいいですか」

 

素直に目を手で覆う。加えて、皐月さんのパーカーで頭を覆ってきたので完全に真っ暗。光も漏れず、目の前も見えない。

 

「ここで問題です。談話室の外の廊下に何人いる?」

「8人。駆逐艦が4人、軽巡洋艦が3人、正規空母が1人。あ、その空母は執務室から来た瑞鶴さんですね」

 

これなら私の索敵能力もわかりやすいか。戦闘中じゃなくお遊びでもどういうことか見せれば理解してもらえそうだ。

皐月さんがパーカーを外した時、敷波さんが廊下を確認した後、ちょうど来た瑞鶴さんと一緒に談話室に戻ってきたところだった。正解だったようで一安心。初見の人は反応で誰が誰かはまだわからないが、一度見ている瑞鶴さんなら反応でわかる。

 

「こういうこと」

「全部この電探のおかげなんですけどね」

 

誰も言葉もない。

これでなくても電探を使えば誰だって似たような芸当は出来ると思う。艤装も装備せず、問題に対して即答できるかというと専用装備を常時起動しておく必要はあると思うが。

 

「刀で攻撃する皐月とか、駆逐艦3人を白兵戦であしらった山城さんとか目じゃないくらい朝潮ヤバいから」

「ちなみに、それはどうやって習得したのかな。できれば僕も出来るようになりたいんだけど」

 

時雨さんは興味を持ったようだ。攻撃もできる人が同じことを出来るようになれば、単独戦闘力は大幅に上がるだろう。それが青葉さんなわけだし。あの人はそこに異常すぎる命中精度の射撃も加えられるが。

 

「丸一日電探を起動させ続けて、周囲の情報を見続けている()()ですよ。最初は10分で頭が割れるように痛くなりましたが、今は常時起動ですね。今も起動中ですから」

 

また言葉を失った。

本来の電探の使い方から逸脱しているのは私にもわかっている。だが、攻撃の手段がない私の辿り着いた先なのだから、これは納得してもらうしかない。

 

「そちらは凄いんだね。なんか納得したよ」

「援軍の子が凄いって話? でも、今の敵拠点終わらせたら誰かがそこに援軍行くのよ」

 

瑞鶴さんの言葉で思い出した。拠点を攻略したら何人かはわからないが援軍を送ってくれると言っていたのはこの鎮守府だ。

 

「なンていうか、恐れ多いっつーか」

「僕らで力になれるかわからないね……」

「ホントそんな事ないから。大助かりだから」

 

白露さんが妹達を慰めるように話す。万能に全てのことができる人材は本当に貴重なので、何人でも来てほしいくらいだ。足止め、護衛、実戦部隊とやることはたくさんある。




鎮守府は他にもそれなりにありますが、最前線は場所が場所だけに交流がなかなかできません。別の鎮守府に行くにもそれなりに時間がかかる上に、メリットがないから。
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