翌日、ついにこの時が来た。レキさん、初陣の時。
完全に
レキさんの準備もあるため、今回は工廠で直接の指示。部隊全員が艤装を装備した状態で集まっている。
旗艦は私。レキさんをコントロールできるのは最終的には私に行き着くためだ。随伴艦は初陣のレキさんを筆頭に、霞、春風、山城さん、蒼龍さん。
「レキ君、ついに戦いだ。大丈夫かい?」
「ダイジョウブダ! ネエチャンタチヲマモルゾ!」
元気いっぱいに応えるレキさん。
そのレキさん、制服が特型のものから朝潮型のものに変わっていた。改二制服では無いものの、昔私や霞が着ていたものと全く同じ。大淀さんがついにやらかした。
以前は春風の心の安定のために止め続けていたが、その春風が着せるようにお願いしたそうだ。本当に妹のように接しており、それだけ心が安定してきたということは喜べることなのだが、せめて私達に許可を取ってもらいたい。
「姉さん……この話聞いてた……?」
「今日初めて見るわよ……似合ってるけど」
レキさんも、私のお下がり(新品)と聞くととても喜んでいた。脱げとはとてもじゃないが言えない。
春風ももう朝潮型改二制服を脱ぐつもりは無いようだ。一時的な許可だったはずなのだが、結局そのまま通すとは。素の方にも古姫の人格が入ってきているように思えてしまう。
「本日の部隊は朝潮型四姉妹です」
「1人駆逐艦ですら無いんだけど」
「その1人が戦力としては3人分ですね」
否定できない。下手をしたらそれ以上だ。主砲は戦艦の威力を持ち、艦載機も飛ばせ、魚雷も放ち、対潜も可能。索敵は私がやるとしても、他全てを1人で賄ってしまっている。最高にして最大の戦力だ。
「最初から北に行くのは危険と判断したため、拠点の中でも最も小さいという情報がある東の1つに向かってもらう」
ゴーヤさんが抜けている間もしっかり情報収集をしてくれていた潜水艦組。その情報から、東側に発生した小拠点はまだ発生したばかりで、叩くなら今であるという判断に。
そこに発生したのは軽巡棲姫。鬼ではなく姫。今まで幾度となく現れた軽巡棲鬼とは違う上位種である。姫だからか、周りのイロハ級は数が多く、こちらも上位種が多いようだ。
「黒の深海棲艦だ。こちらの言葉に耳を傾けてくれるならいいが、可能性は低い。無理だと判断したら撃破、もしくは撤退だ」
「了解しました」
「朝潮君、わかるとは思うが、君には蒼龍君の曳航もお願いしたい」
久々の曳航任務。今回の部隊は対空が私しかいないが、そこはレキさんや春風も多少はできるし、蒼龍さんの戦闘機で数が減らせる。山城さんの白兵戦は、春風をうまく制御すれば大丈夫だろう。
なかなか無い組み合わせなので、私も判断が難しい。山城さんは独断でも周りが見えている人だ。下手をしたらボスとの一騎打ちを望むかもしれないが、そうするなら周りを制御するだけ。状況判断は全て私に担われた。
「霞はいいとしても、何人朝潮型いるのよ」
「名誉朝潮型駆逐艦、春潮です」
「レキシオダゾ!」
いつの間に打ち合わせをしたのか。
「朝潮、曳航よろしくね。龍ちゃんより腹筋鍛えたから、無理に振り回しても大丈夫。な、はず」
「わかりました。振るときには言います」
こういう形でこの2人と出撃するのは、実は初めてだったりする。蒼龍さんは曳航の問題でなかなか出撃しない。山城さんは実働隊に属するため、私のような先遣隊に入ることが稀。今回は最初から撃破するつもりで行くからだ。
「では、準備はいいですね。旗艦朝潮、出ます!」
まとめきれるかはわからないが、どうにかしてみよう。これも訓練のうちと割り切っている。
鎮守府から東へしばらく進む。今回は深海棲艦枠として春風とレキさんがいるおかげで、敵の気配の感知が早い。
「アサネエチャン、ナンカカンジルゾ」
「わたくしも気配を感じます。そのまま東へ」
すでに敵陣に入ったということだ。小規模とはいえ拠点。イロハ級だって多くいる。
「電探に感あり。数は……え、30……いや、もっと多い!?」
「あら、思ったより多いじゃない。もう向こうもなりふり構ってこないわね」
いつもなら部隊、もしくは連合艦隊で来ていたが、その法則すら崩してきた。物量での圧倒を考えている。発生したばかりだからか、守りが妙に固い。
「朝潮、指示を」
「蒼龍さん、レキさん、攻撃隊をお願いします」
まずは航空攻撃による先制。異様な数の敵艦だが、幸い軽巡や駆逐ばかりの寄せ集め部隊だ。本当に数だけ。もしくは軽巡棲姫の発生に反応してこれらも発生したのかもしれない。
「レキさん、今回は嘘っぱちの攻撃でなく、本物でいいです」
「リョーカイ! ヨーシ、カンサイキダナ!」
尻尾の艤装を発生させ、その蛇型の口に手を突っ込む。中を
「レキちゃん、一緒に行くよ! 第一攻撃隊、発艦!」
「レキモイクゾー! ハッカン!」
2人同時の発艦。蒼龍さんよりは艦載機の数は少ないが、戦艦が出せる数ではないのは確かである。艦載機は敵陣の真ん中を突っ切り、二手に分かれて爆撃を開始する。
「この中に姫級はいないです。本当に寄せ集めですね」
「なら霞と春風に任せるわ。私は少し温存する」
山城さんは白兵戦の中でも素手で戦うため、なるべく温存をしておきたい。そのため、周囲のイロハ級は霞と春風に任せることにした。
「霞、右舷。春風、左舷。攻撃開始!」
「これだけうじゃうじゃいるなら、指示なんていらないわね」
「ええ、適当に撃ってモ当タルンジャナイカ!」
今回は私の指示が必要ない戦場だ。各自の判断で充分に戦える。そのため、蒼龍さんの曳航と、春風の制御、そしてレキさんの観察が仕事である。
「朝潮、姫級は?」
「この敵の奥です。余裕ぶって鎮座しています」
「腹が立つわね。私が貰うわ」
とはいえ敵が多い。道が開けない。そんな時こそ戦艦の火力だ。何もかもできる深雪さん以上のオールマイティである。
「レキさん、真ん中に向かって主砲をお願いします」
「コンドハシュホウダナ! マカセロー!」
空を舞っていた艦載機が消滅し、蛇型の口が大きく開く。以前にも見た16inch砲が顔を出し、敵陣の真ん中に発射された。その威力は凄まじかった。訓練の時とは比べ物にならない勢いで敵をなぎ倒し、あっという間に道が出来上がる。
オマケと言わんばかりに魚雷も吐き出され、先頭集団に命中。見えている範囲のイロハ級が次々とレキさんの攻撃で撃破されていった。
「見えたわよ、軽巡棲姫」
「では行きましょう。霞、春風、露払いお願い」
蒼龍さんはなるべく山城さんとの距離を開け、巻き込まれないように。蒼龍さんの艦載機も、湧いてくるイロハ級の一掃に貢献している。
今回の敵は本当に寄せ集めだ。レキさんにも負担がかからないどころか、春風が暴走する事もない。ここまで楽な戦場も久しぶりかもしれない。
「来たわよ、軽巡棲姫。踏ん反り返ってるんだから、それなりの力を見せてくれるんでしょうね」
「コナクテイイノニ……ナンデクルノ……!?」
目視確認できた軽巡棲姫は、話には聞いていたが本当に神通さんそっくりだった。黒く染まり、鬼のような仮面をつけた神通さんといってもいいほどに似ている。以前から何度も戦っている軽巡棲鬼も、何処と無く那珂ちゃんさんに似ている部分があったが、今回はそのものといってもいいレベルだ。
駆逐水鬼の時もそうだが、深海棲艦は艦娘と同じ艦の魂から生成される場合は姿も似てしまう。それが顔見知りに似ているとなると戦いにくいことこの上ない。
「デモ……モウカエリミチハナイ……モウナイノヨォ……!」
「帰り道が無いのはアンタよ。ここで沈めてあげる」
お互い、最初から聞く耳を持っていないように見えた。
山城さんが構える。それを見た軽巡棲姫は首を傾げた。主砲も何も持たない戦艦が何かしたところで、とでも考えたのだろう。春風のように左腕を埋め尽くす魚雷発射管の艤装を向けるでもなく、こちらを伺っているようにも見えた。
それが命取りだった。
「少しは警戒しなさい」
次の瞬間、山城さんの拳が軽巡棲姫の顔面に叩き込まれていた。相変わらず装備を超高速シフトにしているだけある。私達駆逐艦の誰よりも速く移動した。
「ナッ……グッ……」
「硬いわね。でも、
山城さんなら硬かろうが関係ない。同じところを攻撃し続けて最後は破壊するだろう。鍛えに鍛え、素手でも敵を破壊する程にまで極まった山城さんだからこその戦術。既に頭も使わない、まっすぐ行くだけの単純明解な1つの手段。
「クチオシヤ……ニクラシヤ……!」
「今更恨み言を言われてもね。黒には容赦しないわ」
が、ここでさらに東から大きな反応が現れた。春風もレキさんも気付いた様子。この反応はまだ見たことのない深海棲艦。私が知らないもの。
「蒼龍さん、さらに東へ攻撃隊を! レキさんも!」
「了解! 敵援軍ね!」
言う前にレキさんと春風が動いていた。それを見て霞も移動を開始。
「春風、何かわかる?」
「鬼ダ。装甲空母鬼!」
装甲空母。その名の通り正規空母よりも装甲が硬い。さらに深海棲艦の装甲空母は、主砲も魚雷も持ち合わせている。ほとんどレキさんと同格。空母とは名ばかりの航空戦艦である。
援軍の方が厄介という非常事態ではあるが、軽巡棲姫を山城さんに任せ、援軍を残り(私を省いた)4人で叩く。幸い、対空に関しては1体分だ。
「アサネエチャン! レキガイク!」
「御姉様、ワタクシガ援護スルカラ、行カセテアゲテ」
「そのつもりです! 霞は隙を見て雷撃! 蒼龍さんは艦載機の迎撃を! 思ったより数が多いです! 曳航始めますよ!」
「了解。お腹に力入れるから」
対空砲火を始めながら、装甲空母鬼の爆撃を避ける。曳航しながらなので大きく、確実に当たらない場所を選択して移動。蒼龍さんへの負荷は大分かかっていると思うが、息を聞く限りまだ大丈夫。
先陣はレキさん、蛇型の艤装を振り回し、自身の前に構える。再び口が大きく開き、主砲が発射された。同時に春風も主砲と魚雷を発射。
「カタイ! アサネエチャン、コイツカタイ!」
「装甲空母は伊達じゃないということですね。攻撃を休めず、一点集中で!」
同じ場所を狙い続ければ、いずれそこが弱くなる。霞もすぐにそれに気付いたようで、春風が魚雷を撃ち込んだ場所に対して攻撃を繰り返す。
3人の攻撃を円滑に進めるため、私と蒼龍さんで徹底的に艦載機を墜としていった。蒼龍さんはその合間合間に爆撃機と攻撃機も発艦させ、装甲空母鬼を翻弄させていた。
「山城さん、そっちは!」
「片付く。そっちに加勢してあげるわ」
少し装甲空母鬼に集中している間に、軽巡棲姫は集中攻撃により酷い有様になっていた。左腕の艤装は大部分が破損し、服もボロボロ。一番目立っていた鬼のような仮面も半分ほど砕かれ、隠れていた目が露わになっていた。
その軽巡棲姫の角を掴んだ山城さん、あろうことか全力で装甲空母鬼に向けて投げ飛ばした。
私は、人が空を飛ぶ瞬間を初めて目の当たりにした。
「ウグッ!?」
「えっ、軽巡棲姫!?」
投げられた軽巡棲姫は装甲空母鬼に直撃。同時に山城さんも跳んでくる。
一番驚いたのは魚雷を撃とうとした霞だ。狙いを定めている相手が突然増え、さらには味方ごとやってきてしまった。撃つかすら戸惑ってしまっている。
「悪いわね。2体纏めてぶちのめすわよ」
装甲空母鬼の装甲を叩き破った山城さんの拳。今までレキさんと春風が主砲を撃ち込み続けていたとはいえ、いくらなんでも滅茶苦茶すぎる。
「ヤマネエチャンタノシソウダ! レキニモヤラセテ!」
「じゃあコイツで遊びなさい」
「ヤッター!」
息も絶え絶えな軽巡棲姫をレキさんの方へ投げ飛ばした。それをレキさんは艤装を振り回し、そのまま打ち上げる。宙に放られた軽巡棲姫を、トドメに主砲で撃ち墜とした。
「ったく、本当に硬いわね。春風、霞、ここに魚雷!」
「は、はい」
「カシコマリマシタ」
あの古姫側に入った春風ですら素直に話を聞いてしまった。さんざん殴り続けて剥がれた装甲に、2人がかりの魚雷を撃ち込ませることで完全に沈黙させた。
「……蒼龍さん、山城さんっていつもああなんですか」
「そっか、朝潮は山城と一緒の部隊は初めてだったっけ。まぁ見た通りだよ。前より激しくなってるね」
基本的に艦娘も深海棲艦も接近戦には弱い。そもそもそんな概念が無いからだ。その例外が戦艦棲姫であり、自律型艤装が全てを弾く。
山城さんは戦艦棲姫改の装甲の硬さをガングートさんから聞き、それを拳で貫くために訓練に訓練を重ねていた。その結果がこれだ。機関部艤装の力で人間を優に超える膂力を手に入れているとはいえ、ここまで来ると次元が違う。
とりあえず言えることは、山城さんは私達と違う位置にいる人だということ。
「装甲空母鬼、消滅を確認。軽巡棲姫……まだ消滅していませんね」
「キエルノヲマツンダヨナ!」
「そうですよ。もしかしたら浄化が始まるかもしれないので」
とはいえ、軽巡棲姫は黒だ。浄化の可能性は特に低く、浄化できたとしても人間への殺意は簡単に消えない。だからこそ、大本営は処分という手段を取っている。あちらは黒だ白だは知らないことではあるが。
だが、万が一、軽巡棲姫が浄化された場合、司令官は何事もなく引き入れるだろう。疑う余地も無い。
「ニクラシヤ……クチオシヤ……」
「何がよ。何が憎いのか言ってみなさい」
「コノヨノスベテガ……ニクイ……ニクイニクイ……」
黒の深海棲艦の本質を知った気がする。
生まれてすぐに恨み辛みに飲み込まれ、それで壊れてしまっている。軽巡棲姫は憎しみで心が埋まっている。
「そう。なら私からは何も言うことはない。ここで眠りなさい」
「ニクイ……ニク……イ……」
軽巡棲姫の消滅を確認した。
最後は仮面は砕け散り、神通さんにそっくりな顔も露わになっていた。もしかしたら神通さんにもこういった側面があるのかもしれない。だからこそ瓜二つな深海棲艦が……いや、これ以上考えるのはよそう。戦えなくなってしまう。
司令官に報告をし、鎮守府へ帰投。敵が寄せ集めだったこと、山城さんの大活躍、そしてレキさんの奮闘で、今回は全員無傷の完全勝利。入渠の必要もなく、そのままお風呂に直行するのみでよかった。
「レキさん、よく頑張りました。今日のMVPはレキさんです」
「ソッカ! レキ、イッパイガンバッタ!」
「はい、みんなを守ってくれてありがとうございました」
お風呂で抱きかかえながら頭を撫でてあげる。レキさんにはこれが一番のご褒美だろう。
実際、初陣としてもよくできていた。誰よりもイロハ級の掃除はできていたし、艦載機での攻撃も的確だった。装甲空母鬼の硬さに戸惑ったものの、すぐに切り替えることもできている。
「朝潮型四姉妹の末っ子が一番活躍しましたね」
「大活躍よホントに。この調子で次も頼むわ」
「マカセロ! レキガミンナヲマモルゾ!」
この意気込みがあれば、レキさんが崩れることはないだろう。初陣をキッカケに、真に仲間になったように思えた。
山城がどんどん遠いところに向かってますが、この鎮守府の山城はとても幸せそうです。