欠陥だらけの最前線   作:緋寺

59 / 319
過剰性能の代償

レキさんの初陣で近場の小拠点の鎮圧に成功した。今後はレキさんも部隊の一員として運用ができる証明にもなり、戦力増強は滞りなく進んでいる。

現在鎮守府に配属されている戦える艦娘の中で、唯一戦力としてカウントされていない萩風さんも、早々と水上訓練を終えようとしていた。鎮守府の中では5本の指に入るほどの早さだそうだ。ちなみに1位はガングートさん。配属した時点で水上移動できていたため。これは浄化の強み。

 

「どうよ、うちの妹。めっちゃ才能あるでしょ!」

 

時津風さんの方が得意げだった。だが、それくらい萩風さんの成長は早い。わずか3日ほどで水上に立つどころか移動までマスターしたというのは、私には考えられないことだった。私の3日目は確か、水上に脚だけ出ていた時期。

 

「なら今日にでも戦闘任務かもしれませんね」

「かもねー。主砲の使い方は覚えといた方がいいからねー」

 

オーバースペック組の中で最も扱いやすいのは紛れもなく萩風さんだろう。常に食べ続けていなくてはいけない清霜さんや、少しの行動でおねむになる時津風さんと比べると、時間がはっきりと分かれているだけなら作戦時間が長引かないことに気をつけるだけで済む。そのため、すぐにでも戦闘ができるようになった方がいいだろう。

 

「司令官に打診しましょうか。あとは誰かのお墨付きが貰えれば卒業ですし」

「ゴーヤが許可貰っといたでち。萩風ちゃん、午後から戦闘訓練でちよー」

 

食事以外では工廠で人間観察に勤しんでいるゴーヤさんに言われた。

ゴーヤさんも快復の兆しは見えている。未だ虚ろな目はそのままだが、体力はある程度元に戻り、夜も眠れるようにはなってきたらしい。何より、小拠点の情報収集を他の潜水艦の方々に任せても気に病まなくなった。ようやく人に任せることが苦で無くなってきたようだ。

 

「ゴーヤさんのお墨付きがあるなら問題ないですね。ずっと見てたんですか?」

「ゴーヤは最近ここにいることが多いでち。ここが一番みんながわかるからね」

 

とてもいい傾向だと思う。たまに明石さんやセキさんのお手伝いをして、仕事をしないという罪悪感も緩和しつつ、人との関わり合いが積極的に持てる場だ。

 

「萩風ちゃんの訓練もずっと見てたよ。ホントすごいでち」

「あ、ありがとうございます。そんなに褒められるとなんだか恥ずかしいなぁ」

 

顔を赤くして恥ずかしがる萩風さん。

この急成長も、駆逐水鬼から託された力かもしれないと那珂ちゃんさんは言っていた。ヘルメット状の帽子といい、重巡並の火力といい、至る所でいい干渉をしてきている。そう聞くと、これも関係あるように思える。

 

「あ、そういえば私、オーバースペック組の訓練って見たことが無いです」

「燃費が悪いから訓練もあんまりやれないんだよね。あたしもこの後寝るし。今ならアレでしょ、レキとの鬼ごっこ」

 

戦闘訓練でも特に有用性が認められた、レキさんとの鬼ごっこ。要は回避訓練と主砲訓練を同時に行う訓練。遊びの中に訓練を取り入れたことで、誰でも楽しく鍛えられる。こればっかりは本当に提案してよかったと思う。

 

「鬼ごっこって、あの春風さんがやってた」

「それです。なので、絶対水着着てきてくださいね」

「そうだよー。萩風、割と派手なの着けてるし」

「姉さん!?」

 

萩風さんは春風と似たタイプか。見かけによらず、大胆なようで。発見したとき全裸だったが、確かにスタイルは良かった。スタイルがいいとそういうものの選択肢はそうなってしまうんだろうか。私にはよくわからない。

 

「萩風すごいよ。髪と同じ色でさ」

「姉さんそろそろやめて!」

 

どうせお風呂でそういうのはバレるので気にしなくてもいい。春風も朝潮型改二制服を着るようになってからそういうのを着けるようになって皆に驚かれたものだし。

 

 

 

時津風さんの予想通り、萩風さんの戦闘訓練はレキさんとの鬼ごっこだった。レキさんは初めての人と訓練(遊ぶことが)できるということでノリノリだ。逆に萩風さんは初めて主砲を撃つため緊張している。

訓練の保護者は今日は私と春風。春風はレキさんのことを大切に思っているが故に過保護になりがち。任務が無い限り、レキさんの訓練には大体参加している。私への依存が薄れた代わりがこれなので、私としては何とも言えない。

 

「ハギネエチャン、ヤレルノカ?」

「今日が初めてなの。手加減してくれる?」

「ジャア、マズハウッテミタライイトオモウゾ」

 

レキさんに主砲の撃ち方のレクチャーを受けている萩風さん。戦艦と重巡洋艦では勝手が違うと思われたが、主砲は主砲、駆逐艦も重巡洋艦も戦艦も同じなようだ。しかし、

 

「じゃあ撃ってみるね」

「ヨーシ、ハギネエチャン、ウテー!」

 

誰もいない方向に試射。時津風さんと同じで、駆逐艦からは考えられない威力の射撃だ。初めて撃った萩風さんは、その勢いで見事に横転した。ダミーのペイント弾でも相当なものだったのだろう。足が軽く浮いたようにも見えた。

 

「アハハハハ! ハギネエチャン! スゴイトンダ!」

「えっ、えっ、こんなに反動……」

「駆逐艦で重巡主砲撃ってるんですよ?」

 

身体は駆逐艦としての反動には耐えられたのだろう。だが撃ったのは重巡主砲。本来考えられている反動よりも強烈なものを受けてしまったため、今のように海に浮かぶことになってしまった。これはまず反動に負けないようにしないといけないだろう。

 

「ハギネエチャン、モットフンバレ」

「踏ん張って何とかなるものかなこれ……」

 

本来身体が知っている反動軽減の方法がすべて台無しになっている。過剰性能(オーバースペック)化の弊害はそんなところにもあったようだ。欠陥(バグ)の奥の深さを痛感する。私の知らないことが本当に多い。

 

「ハルネエチャン、ナンカワカルカ」

「わたくしは最初からできていましたから……そういうところは深海棲艦に寄せられているようです」

 

春風もオーバースペックだが、それは深海棲艦の力が入っているからだ。深海棲艦は最初からすべてを使いこなせる。練度には関係ない。春風が苦も無く重巡洋艦並の力を使いこなせるのは、戦闘面が深海棲艦だからだろう。

こうなると、頼れる人は限られてくる。元々重巡洋艦の主砲を使っている人はダメだ。身体がその反動を知っているのだから、説明ができない。そうなると、同じオーバースペック組の時津風さんか清霜さんになるだろう。本来ならお姉さんである時津風さんに聞くべきだろうが、さっき寝ると言っていた。ならもう1人しかいない。

 

「で、あたしを呼んだんだね」

 

手が空いている私が清霜さんを呼んできた。今日は掃討任務にも出ておらず、訓練もしていなかったようなので都合がよかった。先程時津風さんも言っていたが、オーバースペック組はその燃費のせいであまり訓練もできていない。今回はそれが良かった。

 

「清霜さんはどうやって主砲の反動を軽減してるのかなって」

「あたしはいろいろ特訓したかなぁ。最終的には山城さんに徹底的に鍛えてもらったよ」

「なるほど」

 

山城さんの名前が出た時点で察した。これは完全に筋肉で反動を抑え込む方向だ。春風は一緒に出撃したときのことを思い出して硬直してしまった。霞も以前に怖がっていたし、山城さんはいろんな人に何かを刻み込んでいる気がする。

 

「ひとまずレキさんのいう通り、踏ん張って撃ってみます」

「ガンバレ、ハギネエチャン!」

 

改めて構え、主砲を発射。今度は横転までは行かなかったが、狙った位置に弾が飛んでいないのは私から見てもよくわかった。

 

「うーん、やっぱり狙えてないね」

「反動が凄くて……」

「大丈夫大丈夫。あたしよりは全然マシだから」

 

清霜さんはよりによって戦艦主砲だ。駆逐艦の身体で撃てている時点で相当訓練を積んでいるのがわかる。

事実、今の状態になるまでかなりの時間がかかったらしい。戦艦の力を手に入れたことを泣くほど喜んだそうだが、いざ撃ってみたら命中するどころかまともに海上に立つこともできず、何度撃っても上手くいかなくてスランプに陥ったこともあるらしい。

 

「清霜さんは戦艦主砲ですもんね」

「戦艦って、私の重巡主砲より反動強いんじゃ」

「そりゃあもう強いよ。最初ここで撃ってさ、あたし陸まで飛んだからね」

 

割と本当に笑えない状況になったようだ。踏ん張っても吹き飛ばされる反動となると、それはもう追突だとかそういうレベルだ。それを今、完全にコントロールしているのだから、清霜さんの努力は実になっている。

 

「ハギネエチャンモ、ガンバレバデキルッテコトダナ」

「そうですね。少し時間がかかるかもしれないけど、頑張ってこの反動に耐えられるようになります。清霜さんはどれくらいかかったの?」

「3ヶ月」

 

萩風さんが膝から崩れ落ちた。少なくとも、山城さんの筋トレには頼った方が良さそうだ。

 

 

 

レキさんとの訓練(あそび)は断念することになった萩風さん。司令官に事情を話し、まずは筋トレをすることになった。毎日主砲を撃つことはするにしても、反動軽減のために鍛えるのは急務のようだ。

清霜さんが詳しいので先頭でジムの方に向かう。春風はレキさんの訓練に付き合うことにしたようだ。山城さんが怖いとかそういうことは断じてないと古姫側になって熱弁していたが、説得力が一切なかった。

 

ここ最近いろいろあって来ていなかったジムに入る。ここは白兵戦組の根城。皐月さんと天龍さんが並んで腹筋中。簡易リングでは山城さんとガングートさんが格闘訓練。皐月さんも大分ここに馴染んできているようだ。

 

「おう朝潮、ここに来るのは久々だな」

 

私に気付いた天龍さんが一旦休憩として身体を起こした。皐月さんは起き上がれないくらい消耗しているように見える。

 

「今日は萩風さんのことについて来ました」

「あたしと同じで、主砲の反動が耐えられなかったの」

「ああ、キヨシが反動で吹っ飛んだ時みたいなことが起きたのか」

 

さすが最古参、そういったことにも詳しい。

 

「山城姐さん、ちょっといいか」

「聞こえてたわ。萩風の反動軽減でしょ」

 

話しながらもガングートさんの攻撃を捌いている。やはり次元が違った。一度ガングートさんが一本取ったと聞いたが、今の様子ではまた難しくなっているようだ。

 

「ガン子、ちょっと休憩。疲労抜いた後にもう一戦」

「萩風のことか。ならいいだろう。考えてやるべきだ」

 

リングから降りてくる2人。サポーターを外しながら萩風さんを観察している。さすがに生成から間もない萩風さんは、筋トレなんてした事がない。身体はただの女の子である。

 

「全体的に足りないのよね、筋肉が」

「萩風の主砲は背中の機関部に全て接続だったか。なら腕より先に上半身だろう」

「それを支えるために下半身もいるわよ。体幹トレーニングを優先させる方がいいかしらね」

 

次々と決まっていくトレーニングプラン。自分のことなのに自分が蚊帳の外になってしまい、オロオロしている萩風さん。私と清霜さんはこれがいつもの事なのでただ待つのみとなる。

今日は訓練の保護者からそのまま来たのでスポーツウェアではないため、残念ながら待ち時間に筋トレはできない。

 

「はい、トレーニングプラン」

「さすが姐さん、行動が早ぇ」

 

あっという間に萩風さんのためのプランが出来上がった。清霜さんの前例も踏まえ、なるべく早く鍛えられ、主砲の反動に耐えられるようになるトレーニングだ。戦艦主砲ではない分、清霜さんよりは早く終わるスケジュールにはなっている。

 

「この通りにやってみなさい。うまく行くわ」

「筋トレですか……ピンと来ませんが、主砲の反動を抑えるためですもんね」

「萩風、いいことを教えてあげるわ。体幹トレーニングはね、基礎代謝が上がり、疲れにくい身体になるの。つまり()()()()()()()()()

 

健康的という言葉に萩風さんが反応する。健康オタクである萩風さんの心をくすぐる言葉で、無理なくトレーニングをさせる作戦だろう。

 

「これをすればより健康的に……私やります! 山城さん、是非やらせてください!」

 

人が沼に引きずり込まれる瞬間を目の当たりにしたような気がした。清霜さんも似たような言葉に釣られて筋トレをすることになったようだ。時津風さんだけは欠陥(バグ)の都合上、筋トレ中にも寝てしまうので回避できたようだが。

 

「山城さん、時間に関してはキッチリお願いしますね。萩風さんの欠陥(バグ)の都合上、突然眠ると朝まで何をしても起きませんから」

「わかってるわ。わかってますとも」

 

あ、これはわかってない顔だ。筋トレ中に気絶するように眠るとさすがに危険なので、白兵戦メンバーには特に釘を刺しておいた。

 




オーバースペック組の根幹も筋トレにあり。山城姐さん大活躍。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。