欠陥だらけの最前線   作:緋寺

60 / 319
宵闇の覚醒

夕方、ひとしきり哨戒任務を終わらせ司令官に報告後、いつもより少し遅めのお風呂に入ると、萩風さんが湯船に浮かんでいた。正直何事かと思った。

 

「筋トレのやりすぎ。健康的になる前に不健康になってどうすんの」

 

時津風さんが呆れ顔で萩風さんの胸をつついていた。

目を覚ました時津風さんが清霜さんから話を聞き、ジムに迎えに行ったらすでにガクガクだったらしい。山城さんは相手の身体の事を考えてプランを組むはずなのだが、萩風さんが張り切りすぎたのかもしれない。

 

「早く戦線に立ちたくて……」

「気持ちはわかるけど、ちゃんと段階踏まないと」

「ごめんなさい……」

 

時津風さんがすごくお姉さんしている。姉であると同時に、同じ欠陥(バグ)を持つ先輩として、萩風さんを導いている。こういうときに先駆者がいるというのはとても心強い。

 

「明日からは無理しちゃダメだよ。あたしも見といてあげるから。寝るかもしれないけど」

 

十中八九寝る。これは断定できる。

 

「時津風さんは反動のことは無かったんですか?」

「あったよー。きよしー程じゃないけど吹っ飛んだなー」

 

オーバースペックの宿命なのか、時津風さんも似たようなことがあったようだ。でも今は安定して主砲が撃てている。筋トレ自体は回避したと聞いたが、時津風さんはどうやって鍛えたのだろう。

 

「あたしはみっちり筋トレできないんだよ。だってすぐ寝ちゃうもん」

「ならどうやってあの安定性を?」

「んー、毎日少しずつやってたってのと、ちょっとしたコツを掴んだくらい。萩風はがっつり筋トレで頑張って」

 

コツを掴むくらいであの反動を軽減できるものなのだろうか。当事者でなければわからないことだろうが、反動でのあの吹き飛び方は異常だ。私のような高角砲しか使えない者には感じることのない衝撃だろう。

 

「頑張ります……」

「あと吹っ飛びたくないなら撃つときに前のめりになればいいから。衝撃は強くなるけど」

 

なんだかんだ時津風さんも努力して今の場所にいることがよくわかった。見かけによらないなとも思ったが、さすがに失礼すぎた。

 

 

 

お風呂から出たとき、窓の外が暗かった。まずいと思ったときには萩風さんは意識を失っていた。

 

「ミスった……夕方だったもんなー、夜にもなるよなー!」

 

萩風さんが倒れないように必死に踏ん張っている時津風さん。私も頑張って支えるが、これをこのまま運ぼうと思うと、以前のようにもう1人くらい人手が欲しかった。

今までお風呂には私達しかいなかった。援軍はここを通りかかる人を待つしかない。

 

「あ、大丈夫かい?」

 

そこを最高のタイミングで通りかかってくれたのが、この鎮守府最後の重巡洋艦、最上型重巡洋艦1番艦、ネームシップの最上さん。今までほとんど会話が出来なかったのには重い理由があるが、それは後にして、今は萩風さんのことをどうにかしたい。

 

「萩風さんを部屋に運びたくて……!」

「あたし限界近いからー! もがみんお願いー!」

「はいはい、任せて」

 

私達2人が倒れないように必死に押さえていたのを、軽くお姫様抱っこ。さすが重巡洋艦。膂力がある。

 

「部屋は何処?」

「あたしの部屋の隣。お願いー」

 

お安い御用と軽い足取りで運んでいく。ここに通りかかったのが最上さんでよかった。前回私と時津風さん、ゴーヤさんの3人で運んだ時は大分時間もかかり、3人が3人体力を大きく削がれたものである。

 

「助かったよー。時間計算ミスってて」

「この時間で良かったね。ボクも今部屋を出たところだったんだ」

 

最上さんは日中は部屋に籠っている。それが私達が最上さんと話すことがほとんどない単純な理由だ。

最上さんの欠陥(バグ)は艤装には一切ない。至って普通の艦娘と同様の動きができる。なら何故ここの鎮守府に所属しているのか。それは()()()()()()()()()()()()()からである。

 

最上さんは霞と同様、生成直後にダメージを受けて欠陥(バグ)が発生したパターン。だが、そのダメージというのが艤装ではなく()。夜に生成された最上さんは、夜戦中の探照灯の強烈な光に何度も照らされてしまった。深海棲艦の持つ探照灯の光も上乗せされ、光に対して異常に過敏な目になってしまったらしい。

鎮守府内の蛍光灯程度ならまだ大丈夫だが、陽の光には目によろしくないため、目が開けていられないそうだ。結果、夜にしか活動できないという致命的な欠陥(バグ)を抱えることになった。

 

「よいしょっと。これでよかった?」

「うん、ありがとうもがみん」

「お互い様だよ。ボクが日中に動く時はみんなに手伝ってもらってるんだからね」

 

最上さんが何らかの理由で日中動く場合は、目隠しをして動くことになる。そうなると必ず1人は側につく必要がある。

 

「じゃあ、ボクは今から任務だから」

「夜の任務ですか……大変そうですね」

「まぁね。でも慣れればお昼と同じなんじゃないかな」

 

言われてみれば確かにそうだ。外が暗いだけでやる事は私達と変わらない。深海棲艦は昼夜関係無しに襲撃してくるわけだから、夜でも哨戒任務は必要だ。私達駆逐艦(こども)は司令官の意思で夜の任務はない。代わりに数少ない重巡と軽巡の方々が駆り出される。

 

「ボクらが何かを見つけたら、叩き起こすことになるから覚悟してね」

「それは勘弁してほしいですね」

 

言うだけ言って工廠に向かっていった。夜の任務は私達以上に危険だ。駆逐水鬼のときに思い知った。今のところ私達が叩き起こされるようなことはないが、これからの戦いは本当に何があるかわからない。覚悟だけは必要だろう。

 

 

 

夕飯も終え、後は眠るだけとなった私達。今頃最上さんは哨戒任務中だ。何処に向かったかは聞いていなかったが、今までのことを考えると、その部隊だけでも何とかできる規模のようだし、それなりに安心はしている。おそらく近海警備か何かなのだろう。

 

「姉さん、何かあったの?」

「え、ああ、今日久しぶりに最上さんに会ったの」

「最上さん……ああ! 夜間部隊専門の!」

 

霞も殆ど話した事がない。最上さんはこの鎮守府でもかなりのレアキャラとなっている。会えて話ができたら明日は幸運とかそういうおかしなキャラ付けをされていそう。

 

「萩風さんが倒れたときに助けてもらってね」

「ああ、夜になっちゃったのね。やっぱり目隠し作戦はアリじゃないの?」

「今度試してみるわ」

 

他愛ない話をしていると、鎮守府内に緊急警報が鳴り響いた。この音を聞くのは久しぶりだ。別働隊を呼ぶために使っているそうなので、基本先遣隊の私は聞くことがなかなか無い。

このタイミングで鳴るということは、最上さんに何かあったとしか思えない。夜に何かが起こるのは少なくとも私は知らない。

 

『私だ。今から呼ぶものは戦闘準備を頼む。深雪君、白露君、響君、朝潮君、春風君。以上5人だ』

「私が呼ばれるってことは、夜戦がありそうね」

 

春風が呼ばれている辺り、火力に頼っていることがわかる。他の3人も全員が主砲寄りだ。

 

「姉さん、急いで準備して。制服は出したわ」

「ありがとう霞。じゃあすぐに行ってくる」

 

霞の手伝いもあり、すぐに工廠に向かえた。私が一番乗りだったようで、後から他の4人がやってくる。

 

「こんな時間にすまない。夜間哨戒部隊が敵部隊を発見した。すぐに援軍に向かってほしい」

「場所はどこです?」

「北から撤退戦をしている。あとは朝潮君、よろしく頼む」

 

なるほど、私の索敵でまず探せというのもあるようだ。夜間故に目視も難しく、今回は最上さんがいるとわかっているので探照灯が使えない。ありがたいことに月は出ているため比較的明るい方だ。目が慣れてくるのも早いだろう。

 

「旗艦は朝潮君。索敵対象は最上君、榛名君、長良君だ」

 

北にさえ行けば索敵に引っかかるだろう。榛名さんはさておき、長良さんが出ているのもなかなか怖い状態だ。艦載機の破片で大破しかねない脆さで夜戦というのはヒヤヒヤする。

 

「了解しました。では、出撃です!」

 

なるべく早く合流できるよう、大急ぎで出撃した。

 

 

 

真っ暗闇の出撃は初めてだった。以前の夜戦は戦場にたどり着いたときには夜だったが、出撃した直後はまだ明るかった。今回は鎮守府にいる時から夜。進む先もうまく定まらない。

 

「目視できないのキッツイなぁ。春風、深海棲艦の気配わかる?」

「まだ薄いですが、北の方向に。このまま進めば御姉様の索敵にかかるかと」

「2人揃えば探せない敵はいないね」

 

春風が大体の位置を示し、私が明確な位置を確定する。二段構えでの索敵で、海上艦に関しては暗闇でも全て把握できる状態。春風は気配を攻撃すればいいが、他の人は私の指示で攻撃対象を決めることになる。

 

「索敵かかりました。夜間哨戒部隊の3人も確認。そのまま直進で行けます」

「朝潮、私と春風が先行する」

「了解。春風、響さんと先に戦場へ。もう()()()いいわ」

 

私の合図で春風が艤装を展開。瞳の炎を燃やし、古姫側にシフト。暗闇の中だとその炎も綺麗に輝く。

高速艦の2人を先行させ救助を優先し、低速艦合流後に敵を叩く。ベストの流れ。

 

「御姉様、行ク、行クヨ、行クカラ!」

「行きなさい! 響さんは春風の方向へ!」

「了解。ヴェールヌイ、先行する」

 

春風の瞳の炎が閃光のように暗闇を走る。これなら響さんも追いやすい。

 

「深雪さんと白露さんも会敵準備を。数は重巡4、軽巡4、駆逐8。多いですね……榛名さんがいたとしても夜だと厳しいです」

「もう部隊の数もクソもねぇ!」

「そりゃあ深海棲艦だしね。狡いことだってしてくるって」

 

春風達を先行させて少しすると、戦場に光が見えた。敵駆逐艦の何体かが探照灯を使っている。これでは最上さんが厳しい。電探の反応では最上さんと長良さんが共に行動し、回避に専念している。それを榛名さんが守りながら迎撃している状態。

これは最上さんが目潰しを受けた状態だ。かなり不利である。

 

「合流! 最上さん、長良さん! こちらに来れますか!」

「助かった! 最上さんの目が見えてないから匿って!」

 

やはり探照灯による目潰しがまともに決まってしまっている。すぐに駆け寄り、白露さんを護衛に。深雪さんは春風と響さんに合流してもらう。

 

「くっそぉ……こうなるとボクは脆いなぁ。探照灯使われたのは初めてだよ」

「長良さん、何か最上さんの目を隠せるものありますか?」

「じゃあハチマキ貸すよ。でもこれ結構薄いから気をつけて」

 

長良さんの巻いているハチマキを最上さんの目隠しに。これである程度は緩和したはず。それでも探照灯を私も使うのはやめた方がいいだろう。まずは早くこの場の光を全て無くす必要がある。

 

「春風、まず探照灯の駆逐艦を全部やりなさい」

「光ッテルヤツダナ! ブッ潰ス!」

「長良さんも行けるなら行ってもらえますか」

「よしきた! 行ってくるよ!」

 

長良さんにインカムを渡し、攻撃に加わってもらう。その間に最上さんの状況を確認。

身体、艤装共に無傷ではあるものの、どうしても目が見えていないのが辛い。だが、それを覆すのが私の仕事だ。背中の目だけではなく、全てを補う最上さんの電探になる。

 

「最上さん、インカムを付けます。戦えそうなら、私が撃つ場所と避ける場所を全て指示します。やれますか?」

「わかった、頼りにしてるよ朝潮」

「榛名さんはどうですか」

「朝潮ちゃんに任せます。榛名にもインカムを」

 

闇の中戦えるのは気配を読める春風だけだ。だから私は他の全員分の目になる。特に最上さんはうっすらとも見えない完全な目隠し状態。私は暗闇に隠れ、指示を出し続ける。

 

「御姉様、アト1ツデ光ガ無クナルゾ」

「大丈夫、倒しなさい」

 

ここから先は暗闇の戦いだ。深海棲艦がどういう眼をしているかは知らない。夜目が効くかもしれない。だが、私にそんなことは関係ない。私だけには全て見えている。それを全員に伝える()()だ。

 

「ここからは暗闇の戦いです! 私が全員の目になる!」

 

春風が最後の探照灯持ちの駆逐艦を撃破し、戦場が暗闇に包まれた。現段階で榛名さん達が奮闘してくれたおかげで重巡3、軽巡3、駆逐3。こちらは私を含まず7人。数的有利はあちらにあるが、戦力はこちらに分がある。

 

「失礼ですけど、余裕がないので呼び捨てにしますよ!」

「好きにしろい! 深雪様を使うんだ、しっかりやれよぉ!」

「長良はいっぱい回避させてね! 結構ヤバいからね!」

 

全員の許可しても得た。ここからは私の独壇場だ。

どうせ闇の中だ。何も見えない。見る必要もない。だからこそ、私は眼を閉じた。

 

「榛名10時攻撃! 深雪8時回避! 白露2時攻撃!」

「あたしらも眼をつぶった方がいいんじゃないのこれ!」

「余計なもん見ない方がいいか!?」

「見れるなら多少は見て位置補正して!」

 

指示通りに動いてくれる。大丈夫、全員信じてくれている。

敵の動きを見て、次の行動を予測。それを9体分。さらに自分も含めて8人の位置を把握し、回避する方向を計算。最後に味方と敵の位置を結んで、攻撃の指示。全てを同時に。

 

「最上6時回避3時攻撃! 長良3時回避! 響12時回避6時攻撃!」

「えっ、今当たった音した?」

「当たってる当たってる! 最上さんの攻撃当たってる!」

 

まだだ。まだ予測が遅い。今春風に攻撃が掠った。深雪さんの回避も紙一重だ。もっと早く、もっと早く。

 

「春風9時攻撃! 深雪7時攻撃! 榛名3時攻撃!」

 

周りの音が聞こえなくなってくる。自分の思考に没入していっている。目の前も見えていないのに、全ての場所が見えている。敵の反応が1つずつ消えていく。

 

「白露8時攻撃! 長良9時攻撃4時回避! 最上6時回避9時攻撃! 春風10時回避! 榛名11時攻撃!」

「御姉様! アト2ツ!」

「響3時回避10時攻撃! 春風5時攻撃! 榛名12時攻撃!」

 

予測終了。今までの攻撃回数、ダメージの反応まで計算に入れた。最後に残ってたのは重巡2体だ。1体は榛名さんの戦艦主砲で、もう1体は響さんの駆逐主砲と春風の重巡並の火力で押し勝てる。

 

「……以上!」

 

敵の反応が全て消えたことを確認して眼を開く。闇に慣れたことで、戦場がある程度見ることができた。敵はいない。一際輝いている春風の瞳の炎が目立ったくらいだ。

 

「戦況確認を……誰かダメージありますか?」

 

1人ずつ見ていく。春風が小破、深雪さんが擦り傷程度。元々ここで戦っていた榛名さんが小破。あとは全員無傷。長良さんには特に気を使ったが、大丈夫だったようだ。

 

「すっげぇ……真っ暗闇で全滅させちまった……」

「朝潮、無理していたよ。こんな戦い方、したことがないだろう」

 

響さんにはお見通しのようだ。疲労感が尋常ではない。

今まである程度は予測しながらの指示もしてきた。しかし、それは皆が敵を視認できている状態で、場所だけ伝えることで最終的にはそちらに考えてもらう戦い方だ。

今回は本当に誰も敵が見えていない状態の戦い。攻撃の方向も、回避の方向も、全て私が計算して私が指示した。こんなことは初めてだ。

 

「御姉様、大丈夫カ!」

「ええ、大丈夫……と言いたいところだけど……っぐぅっ!?」

 

急激な頭痛で顔をしかめてしまう。今までにないレベルの情報処理で、戦闘が終わった途端に脳が悲鳴をあげた。久々のこの頭痛だ。懐かしさすらある。大急ぎで電探を切った。

 

「御姉様!?」

「朝潮、鼻血出てる!」

「やばい! 早く鎮守府に帰るぞ!」

 

一番ダメージを負ったのは私のようだ。身体は無傷だが、脳へのダメージが酷い。電探を切ったのに頭痛が止まない。私にはわからないが鼻血まで出ているらしい。電探を使い始めた当初でもそんなことはなかった。

この戦い方は本当に緊急時にしか使ってはいけない裏技として考えておこう。電探をほぼ常時起動しても耐えられるようになったのに、それ以上があるとは思いもしなかった。




ここの最上は萩風と最も相性の悪い艦娘。生活時間が全くの真逆であり、会話することもままならない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。