翌日、潜水棲姫奪還、そして泊地棲鬼撃破の任務が下された。部隊は2つに分けられ、奪還と撃破は別々に動く。
奪還部隊は潜水艦組。ゴーヤさん旗艦に、イクさんとしおいさん。また、敵潜水艦との交戦を視野にいれ、潮さんと響さんが海上艦としてついた。撃破部隊の道を開くために、群がる潜水艦を全て処理する。
撃破部隊は2体の鬼級を相手取るため、最高戦力を投入。
旗艦は山城さん。随伴艦に天龍さん、ガングートさん、皐月さんと白兵戦組総投入。敵が航空戦艦とはいえ艦載機が飛んでくることはわかっているので、追加対空要員として私。そして、最高火力を誇る清霜さんの投入。装備が空いている私は清霜さんの燃料運搬も仕事に入る。
「白兵戦組が全員なんて、提督もなかなかキレてるわね。いいじゃない、完膚なきまでに破壊すればいいのよね」
「元々同じ深海棲艦だが、やり方が気に入らん。私も殴りたかったからな」
戦艦2人はやる気満々だ。次元の違う山城さんについていけているガングートさんも、やはり違う場所にいる人。敵が可哀想になるレベルだが、今回は慈悲すらも無い。
作戦概要が発表され、シンさん直々に全員にお願いされた。心の病で反応が無かったシンさんからの涙ながらのお願いは、全員に火をつけた。
「先行するのは奪還部隊だ。そこに撃破部隊が追いつく形になる。まずは敵潜水艦の殲滅。道を開き、撃破部隊が奥地で鬼2体を撃破だ」
「了解。好きにやっていいのよね?」
「ああ。今回は徹底的にやりたまえ」
司令官すら容赦のない指示だ。子供を泣かせた罪を償わせようとしている。今回は誰もが同じことを思っている。
「あー、これも久々でちねぇ」
「ゴーヤ、ちょっと太った?」
「運動してなかったから……」
ゴーヤさんも久々の水着姿。復帰戦としてはなかなかに重い任務だが、以前よりも顔色がいいレベルだ。
「ミンナ……オネガイ……」
車椅子のシンさんが奪還部隊に改めてお願いしにきた。後ろから誰かが押しているわけでなく、自分の意思で工廠へ車椅子を漕いできた。それだけ必死なのがわかる。
「ウシオ……ヒビキ……」
「必ず助けるから、待っててね」
「期待に応えよう」
奪還部隊1人1人に頭を下げる。
「シオイ……イク……」
「絶対連れ帰ってくるからね」
「期待してていいの。今回はゴーヤもいるからね」
最後にゴーヤさんに向き直った。一番親身に付き合ってくれたのはゴーヤさんだ。シンさんと関係も深く、ゴーヤさんの復帰のキッカケともなった。
「……デッチ……」
「誰が
「……デッチ……オネガイ……オネエチャンヲ……」
「わかってるでち。シンちゃんはここで大人しく待ってて」
頭を撫でて、海に入った。久しぶりでも身体は覚えているもので、全盛期と同じように動けている。
「絶対助けるから。それじゃあ、奪還部隊、出撃!」
3人の潜水艦が潜り、潮さんと響さんが続いた。拠点の鎮圧も重要だが、一番の目的は潜水棲姫の奪還である。私達はあくまでも奪還の
だからこそ、何も考えることなく、一切の痕跡を残さず破壊する。
私含む撃破部隊は、先行する奪還部隊から少し遅れて出撃。その間も私は清霜さんに補給し続ける。
「すごい量ですね。清霜さんも本気ということですか」
「燃費度外視だからね。全部撃つつもりで来たから」
私達駆逐艦なら影も形も残らないレベルの火力。できる限りの特化した装備の清霜さんは、おそらく私の指示が一番必要な人。何せ今回は自分の真横すら見えないほどの重装備だ。
「清霜の主砲のタイミングは朝潮に任せるわ。私達を巻き込まないタイミングで撃たせなさい」
「了解です。私は戦場を
清霜さんは白兵戦組と確実に相性が悪い。それを橋渡しするのが私だ。誰も巻き込まない、ベストなタイミングを計り、指示する。戦場全てを把握しているから可能な手段。
「来たぞ、鬼の気配。先に装甲空母鬼だったな」
ここまで来るのに潜水艦の妨害が無かった。先行した奪還部隊が引きつけているのと、潮さんと響さんが一網打尽にしているからだろう。
「皐月、ガン子、アンタ達でやんなさい。充分でしょ」
「おおう、装甲空母かぁ。斬れるかなぁ」
言葉とは裏腹に自信ありそうな皐月さん。戦艦棲姫改との戦いに参加している皐月さんは、ガングートさんと同じで敵の硬さを知っている。膂力では、戦艦はおろか昔から鍛えている天龍さんに敵わないため、
「山城、いいとこ持っていくなよ。私も泊地棲鬼をやりたいんだが」
「旗艦命令。私は泊地棲鬼に温存するからよろしく」
「ずるいぞ山城。なら私も考えがある。私が消耗無しで潰せばいいんだろう」
私の索敵にも装甲空母鬼が入った。泊地棲鬼はまだ。周囲には随伴艦の駆逐艦が4体程度。
「邪魔なのいるんだけど」
「蹴散らしなさい。できるでしょ」
「よゆーだって! ガンさんまっすぐ装甲空母鬼行っちゃって!」
飛び出した皐月さん。勢いよく敵駆逐艦に特攻し、一撃で真っ二つに斬り裂く。致命傷を与えた手応えを感じ、次の駆逐艦へ。ここへ来て斬れ味へ冴え渡っていた。
ガングートさんは皐月さんの言う通り装甲空母鬼にまっすぐ突っ込む。あちらからの主砲攻撃は戦艦クラスの火力があるにも関わらず、なんと弾丸を艤装の腕で払いのけた。爆発前にガングートさんの後ろへ行き、被害一切無し。
「ガンさんも大概艦娘やめてるよな。山城姐さんにゃ敵わねぇけど」
「素手であれをやれて一人前よ」
聞き捨てならないことが聞こえたが、今は戦闘に集中しよう。必要なら清霜さんの主砲を使う。
「何が装甲空母だ。脆いじゃないか」
「あたし必要?」
「いらん! 清霜も温存しておけ!」
稀に飛んでくる艦載機も、余裕がないのか私1人で余裕で墜とせるレベルだった。不意打ちでもなく、真正面から突っ込んできた艦娘が、主砲を払いのけ、硬い装甲も突き破ってきたとなるとこうもなろう。
ここで駆逐艦の処理を終えた皐月さんも参戦。下半身の装甲を一刀で斬り裂く。
「あれ、柔くない?」
「そういうことなんだろ。装甲空母なんて抜かして、所詮泊地の子飼いだろうよ。Ура!」
主砲に拳を叩き込み、そのまま破壊してしまった。もう滅茶苦茶だ。
初めて山城さんの戦闘を見たときもそうだが、そもそも拳で深海棲艦を破壊できていることが恐ろしいのだ。敵でなくて本当によかった。
「トドメだ。皐月、やれ」
「エグいことは全部ボクに任せるんだから。それじゃ、悪いけど浄化の猶予も与えないよ。ボクもさぁ、結構腹が立ってんの」
下半身が破壊され、まともに動けなくなったところを皐月さんが首を落とした。皐月さんも大分白兵戦組に染まっている。ああいうところは本当に容赦がない。
人型としての原形が無くなったようなものだからか、待つことなくそのまま消滅した。誰も振り返らず、誰も見向きもしない。次の泊地棲鬼を見据えていた。
「艦載機が来ます。さっきのより数が多いですね」
「オレも対空砲火参加するぜ。泊地棲鬼は索敵範囲に入ったか?」
「はい、もう入ってます。随伴艦は空母2、重巡3。なるほど、随伴の空母の分ですか」
近付いてきた艦載機を墜としながら正確な場所を計算。なかなか都合よく、泊地棲鬼を守るように固まっている。警戒陣というものだったか。だが、それが命取りであることを、命を持って思い知らせよう。
「清霜さん、ここから私のいう方向に撃ってください。三発行きますか」
「はーい」
清霜さんの主砲は威力だけでなく射程も長い。まだ目視で確認できていないが、届く距離ではある。本来ならこんなところから撃っても当たることはほぼ無いだろう。見えていないのだから。
「ええと……はい、そこですね。あちらも動いていないので、これでいいです」
「よーし、みんな離れてー!」
射線を開ける。さすがの山城さんも、味方からの46cm砲は回避できない。清霜さんが撃つ時は、皆素直に退くことが決まり。
「三発だね」
「はい、それである程度終わります」
「それじゃあ、撃てぇーっ!」
爆音が3回。レキさんほどの連射ではないが、一発目の着弾より前に全て撃った。
「……はい、着弾しました。随伴艦は空母1のみ残り、他は全滅です。泊地棲鬼が重巡を盾にしましたね」
「ヒュー、さすが戦艦清霜。やるねぇ」
「あっはは、もっと褒めて! あと朝潮、お菓子お菓子!」
電探で確認している限り、その空母も中破以上にはなっている。泊地棲鬼は無傷なようだが、充分すぎる結果だ。
「うし、山城姐さん、次はオレらの出番だな」
「そうね。ガン子と皐月は随伴の撃ち漏らしを……いや、待ちなさい。朝潮、何か聞こえるわ」
「海中からの増援ですね。海上艦が浮上してきます」
この増援は相変わらずズルイ。上がってくるまではソナーでないと確認できないのに、上がってきたら電探でないと確認できない。
「装甲空母鬼が雑魚だったおかげで元気が有り余ってるでしょ。ほら、憂さ晴らしのお時間よ」
「わー、いっぱい巻藁が出てきたね。全部斬るよ、バッサリと」
「おいおい、サンドバッグを残しておいてくれよ」
あくまでも自分で戦うつもりのない泊地棲鬼に、2人も限界が来たようだ。出てくる援軍に向かってやりたい放題始めた。返り血も気にせずバッサバッサと斬っていく皐月さんと、ひき肉にするかのようにボッコボコにしていくガングートさん。
今は2人に任せて本命を墜としに向かうことに。後ろからあまり聞こえちゃいけない言葉も聞こえたが、今は気にしないことにした。皐月さんは本当に染まってしまった。
2人に道を開いてもらい、4人で進軍。今のところ、先行した奪還部隊とは合流していない。潜水棲姫は別の場所にいるということだろう。
「ったく、奥に引きこもってくれたわね。鬱陶しいったらないわ」
「キタノカ……」
中破状態の空母と泊地棲鬼を発見した。空母の方はもう考える必要もないだろう。問題は泊地棲鬼。
脚から下が四つ足の鴨のような艤装に包まれ、背中には巨大な主砲。そして何より気になるのが、周囲に浮かぶ5つの球体。浮遊要塞と呼ばれる敵で、鬼級、姫級を守る自律ユニットだそうだ。まずはあれを全て破壊する方がいいだろう。
「イマイマシイ……カンムスドモメ」
「こっちのセリフだっつーの。手前らのせいで迷惑してる奴がいるんでな。潜水艦の姉妹とかよぉ」
刀を突きつける天龍さん。山城さんも臨戦態勢だ。すでに中破状態の敵空母を片付けていた。
「ジャマナヤツハ……ハイジョスルダケダ」
「お、いいねぇ。オレも同じ意見だ。じゃあ、ここで消えてもらうぜ」
一撃で浮遊要塞を1つ斬り捨てる。山城さんも1つ潰した。やはり接近されて攻撃されるだなんて思っていないのだろう。驚愕した表情で間合いを取る。
「間合い取ったらあたしのターン! 撃つよーっ!」
あちらも主砲を撃とうとしたのだろうが、タイミングは清霜さんの方が早い。天龍さんと山城さんが即座に射線を空け、同時に最大火力の主砲が撃ち放たれた。しかしそれも浮遊要塞に阻まれる。
「うわ、硬っ。これで貫通できないの!?」
「ワタシハ……ホロビヌゾ……ナッ!?」
「浮いててくれるのはありがたいですね。まさか対空砲の仰角ギリギリで撃ち落とせるなんて」
置物になるかと思われた私も、浮遊要塞の撃破には貢献できるようだ。本体も艤装の大きさから、ギリギリ頭を狙うことはできるかもしれない。初めてだが、私も攻撃に参加していく。
「朝潮、無理すんなよ!」
「大丈夫です。近付きすぎません!」
泊地棲鬼の主砲が私に狙いを付け始めた。最弱の戦力と見られたようだ。間違っていない。ただし、私より集中しないといけない人は幾らでもいる。
まず山城さんが四つ足の艤装の脚を1本ずつ蹴り折っていた。あまりに近すぎて浮遊要塞も使えないようだ。その浮遊要塞も残り1つ故、防御に使うタイミングを計っている。
「あら脆い。ここの鬼は雑魚ばかりね」
「姐さんが強すぎるだけだっつーの。おらぁ!」
天龍さんも艤装を斬りながら言うので本当に脆いように見える。白兵戦相手では主砲もまともに使うこともできず、艤装の脚も折られたために移動もできず、ただ2人の的になり続けるのみ。
「イマイマシイ……ユルサンゾ!」
ついには痺れを切らしたか、下半身の艤装が消滅し脚を露わにすることで次の形態へと変化した。ダメージもほとんど無いようで、反応も変化。鬼級から姫級へと目の前で進化したような感覚。浮遊要塞も復活し、数も7つと多い。
「イマイチド……ミナゾコニカエルガイイワ!」
浮遊要塞からの攻撃まで始まった。命中精度が先程より上がっている。白兵戦の2人どころか、私や清霜さんにも当ててきている。邪魔な浮遊要塞は私も攻撃できる分、撃破が早い。
「撃つよーっ!」
「私も攻撃します! 浮遊要塞だけなら私でも!」
初めて攻撃によって部隊に貢献できているため、私は若干昂揚していた。先程の浮遊要塞の攻撃で肩に傷が出来ていたが、痛みをまったく感じない。
清霜さんと私の攻撃で、着実に浮遊要塞の数が減ってきている。天龍さんも邪魔だと思ったのだろう、先に浮遊要塞を斬っていく。
「ワタシハホロビヌ……! シズメ!」
「煩い」
主砲を清霜さんに突きつけたが、撃つ前に山城さんが顔面を殴りつけた。あまりのことで浮遊要塞も反応できていなかった。
「アンタにはいろいろ言いたいことはあるわ。まず、静かに暮らしたい奴らの居場所を奪う行為が気に入らない」
「ッ!?」
説教しながら殴っていく。一発目は肩。鈍い音がした。
泊地棲鬼を守ろうと浮遊要塞が山城さんに向かうが、その前に私と天龍さんが処理した。もう山城さんを邪魔するものはない。
「それだけならまだしも、あの子は脚が使えなくなったのよ。こんな風に」
「ッガ!?」
蹴りで脚を折った。もう山城さんの方が鬼だった。
「泣きじゃくってたのよ。もう泳げないって。だから、アンタには償ってもらう」
主砲も叩き折り、攻撃の手段すら封じた。
「姉妹を離れ離れにもしたのよね。ならアンタもお別れした方がいいわ。上半身と下半身でいいかしら」
腹に拳をねじ込んだ。抉り取るように泊地棲鬼の横腹が千切れ飛んだ。
山城さんもシンさんのお願いを聞いて煮えたぎっていたらしい。いつも以上に容赦なく、むしろ死なないギリギリをコントロールしながら殴り続けた。
「あの……本当に怖いんですけど」
「山城姐さんを怒らせるとああなるってことだ。すげぇ技術だ。あそこまでしても死んでないんだぜアレ」
さんざん殴り続け、泊地棲鬼の反応が無くなった辺りでようやく頭が冷えたのだろう。髪を掴み、持ち上げる。
「清霜、トドメ」
「あ、はい」
そのまま上空に蹴り飛ばし、清霜さんの主砲の的にしてトドメを刺した。こちらも先程と同じで消滅を見届けることもなく、奪還部隊と連絡を取り始める。
「ゴーヤ、こっちは終わったわ。そっちは? は、真下?」
「助け出したでち……だけどね、山城さん見て、物凄くものすごーく怯えてるの」
ゆっくりとゴーヤさんが浮上してきた。続いてイクさんとしおいさんも。大分離れたところに潮さんと響さんもいた。私は一応電探で気付いていたが、余計なことが言えない空気だったので何も言わなかった。
山城さんのあまりにも残酷な幕の下ろし方に、全員が全員一歩引いていた。助け出したはずの潜水棲姫に至っては浮上すらしてこない。
「仲間にあんなことしないわよ。ほら、ガン子と皐月を迎えに行くわよ」
未だに増援を抑え続けてくれている2人の場所へ。潜水艦以外にも相当な数を隠していたらしく、一歩間違えばここも大拠点になっていた。海が赤くないだけまだマシだったのかもしれない。いや、今は赤かった。敵の血で。
力量を間違えると、どちらが正義かわからなくなるくらいの一方的な虐殺になる場合があるけども、今回はそれが如実に現れたケース。