「話を聞く限りは大丈夫そうだけど、1日だけ照月のことを見ていてくれないかしら。一晩は経っているけど、一応ね」
「了解しました。では帰投は明日の朝ということで」
照月さんの精神的な部分はガングートさんと春風が簡単に何とかしてしまった。だが、身体の部分はまだ何とも言えない。後から出る可能性は大いにある。
「アンタ達の話を聞いているとどうしてもね。戦闘訓練をするうちに艤装がおかしくなったりするんでしょう?」
「ガングートさんは変化しましたね。バルジが重く感じたそうで」
「装備が重く感じるってあり得ないことね。そういうのが出るのか……運用が難しいかもしれないわ」
そもそも何故深海棲艦が浄化した艦娘を運用しようと思ったのだろう。通常なら大本営に引き渡し、浄化現象の研究に使われることになるだろう。私達の鎮守府は大本営、というよりは上層部と仲が悪いので、引き渡すことはしないだろうが。
「何故照月さんを配属しようと?」
「アンタ達のとこに援軍を出すじゃない。そちらの鎮守府がどういうことしてるか知りたかったのよ。それに……察せられるでしょ」
自分達が発見した艦娘は自分達で面倒を見たいというのはとてもわかる。
「そうですね、こちらの鎮守府でも同じようにするでしょう。今のは忘れてください」
「話が早くて助かるわ」
こちらのことを理解してくれようとしているのは本当にありがたい。これから一緒に戦ってくれる仲間として、これ以上ない信頼だ。
「あ、そうだ。もう一つお願いしたいことがあるんだけどいいかしら。照月の件がこんなに早く終わると思わなかったし」
「事と次第に寄りますが何でしょう」
「援軍の選定をしてほしいの。いざ派遣して使えませんでしただとお互い困るでしょ。そちらが見て選んだのがいいと思うのよ」
確かに、私達が先に確認しておけば、来た時にすぐ部隊が組めるだろう。派遣される人達も、最初から顔見知りがいた方が来やすいはずだ。
とはいえ私は初見の人も沢山いる。今日一日はこの鎮守府の活動、訓練を見て回ることになりそう。
「ガングートさんは何処か見たいところはありますか?」
「戦艦を見せてくれ。我々に最も足りないのは火力だからな。そこは私が選定しよう」
我が鎮守府の(主砲による)最高火力は、普通では考えられないが駆逐艦の清霜さんだ。その次が榛名さん。それ以外の戦艦火力はいない。ここで補充したいのはやはり戦艦の火力である。
「ではお願いしていいですか。同時に見られるなら空母の方々も見ていただけると」
「そうだな。龍驤と蒼龍を曳航したとしても少ないからな。ついでに見ておこう」
レキさんはすでにソワソワしていた。この鎮守府がどんなところか見て回りたいという顔。キョロキョロしながら私の手を握ってくる。
「レキさんはどうしますか?」
「タンケン! タンケンシタイ!」
「ですよね。えぇと、じゃあ誰かを保護者にして見て回ってください」
となると、春風をつけるのが一番妥当。しかし、その春風は私から離れようとしなかった。いつもよりも距離が近く、ほんの少しだが震えているようにも見える。
先程照月さんに大見得を切ったが、やはり知らない者からの視線はまだ怖いようだ。今の春風は私が付いていた方が良さそう。
「照月を付けるわ。2人で鎮守府見て回りなさいな」
「ワカッタ!」
「え、て、照月で大丈夫? 照月もこの鎮守府あまり知らないよ?」
「だからよ。この子と見て回って覚えてきなさい」
叢雲さんが春風の様子を察したようで、レキさんの保護者は照月さんとなる。レキさんは初めての人でも関係無しに振り回すので、そちらの意味で照月さんが心配になる。
「春風は私と一緒に見に行きましょう」
「は、はい、御姉様、お供致します!」
目に見えて表情が明るくなった。レキさんと出会ってからは私への依存が薄れていたと思っていたが、今までにないこういう場では仕方ないか。
「来客扱いだから、これを付けてもらえる?」
叢雲さんから渡されたのは腕章。たった一言『来客』と書かれていた。同じ顔が何人もいる艦娘だからこそ、他と違うものを付けるだけで別人として判定できるようになる。
とはいえ私は髪型が、春風は服が違うので、最初から差別化はできていたりする。レキさんに至ってはここにいるはずのない存在。形式上の腕章だろう。
「じゃあ、よろしく。先に言っておくけど、私は援軍には行けないから」
「わかっていますよ。秘書艦ですからね」
ここからは別行動だ。レキさんは照月さんを引っ張って駆け出していった。ガングートさんも叢雲さんと戦艦の訓練する場に向かう。私はべったりの春風を連れて適当に回ることにした。
適当に回るにしても、私達の鎮守府よりも大きい。私の電探で小さめな反応があるところを目的地とした。その中に知っている反応があったからだ。
「やっぱりいましたね。敷波さん」
「あっ、朝潮! また来たの?」
訓練休憩中の敷波さん。どうやら1対1の簡易演習をやっているようだ。見た感じ、レキさんとの鬼ごっこに近い。どちらも避けて、どちらも狙う点が違うだけ。1回当たると交代。
「今回は照月さんの件で。あとは、援軍の選定を任されました」
「あー、照月ね。元深海棲艦ってのをすごく気にしてたよ。あたし達はそういうの関係無しに迎え入れたかったんだけど」
「はい。なので、うちの元深海棲艦と半深海棲艦がお話をして立ち直らせました。もう大丈夫です」
人が多いところでは私の後ろでコソコソしている春風。あえて話題に出して、ここの人達が春風にどういう反応をするか見ることにした。もし何か酷いことを言う人がいるのなら、その時点でこことのお付き合いをやめるくらいに考えている。
「あ、もしかして後ろの春風が噂の半深海棲艦? この前話してくれた」
「はい。春風、敷波さんは大丈夫だから」
「は、はい……」
春風がおずおずと前に出る。敷波さんには先に伝えてあるので、そんなに驚かない。色違いの春風という程度。
「あたしらと変わんないね。深海棲艦って聞いてたから、もっと違うのかと思ってたよ」
「そ、そうでしょうか……」
「ただ黒いだけでしょ。艦娘じゃん」
私が思っているベストに近い対応をしてくれている。この時のために先手を打っておいてよかった。
敷波さん経由で他の方々にも話が行っていたため、少なくともこの演習の場には春風を見て酷いことを言う人はいなかった。艤装の展開まで求められてやったものの、予想以上に盛り上がってしまい、違う理由で私の後ろに隠れることになる。
「朝潮、さっき援軍の選定って言ってたよね。ここにある程度駆逐艦集まってるし、演習見てってよ。対戦形式だから、誰が一番強いかもわかるでしょ?」
「そうですね。いい機会ですし、見させていただきます」
参加している駆逐艦の中には、最初に出会った朧さんと長波さん、その後に出会った時雨さんと江風さんも入っている。現在は資源回復中と聞いているので、戦闘に参加する駆逐艦は全員が訓練のみという生活になっているようだ。
「皆さん練度が高いですね」
「みんな頑張ってるから。ほら、特に長波と時雨」
ちょうどその2人の演習。かなりの至近距離での撃ち合いだが、それをキッチリ避けている。レキさんとの鬼ごっこでも似たようなことが起こるが、お互い撃っているというだけでも難易度が格段に上がっている。今度取り入れよう。
「あっ、クッソ! 爪先ってお前!」
「当てられれば勝ちだからね。実弾なら足が無くなってたよ」
なんやかんやで時雨さんが勝ったらしい。お互いに攻撃を読み合い、先手を取り合う戦闘。時雨さんは駆け引き上手なイメージ。対する長波さんも命中精度はかなり高い。援軍として来てもらえれば、白露さんや深雪さんと並んで部隊が組めそうだ。
「朝潮、アンタも参加しなよ。自分で戦ってこそ援軍の選定ができるんじゃない?」
「無茶言わないでください。攻撃できない私にどう勝てと」
「例えば……殴るとか」
「私は白兵戦はできませんよ。皐月さんじゃあるまいし」
とはいえ実戦の中で判断するというのはアリかと思った。少なくとも全員分の電探の反応はここで頭に入れておきたい。演習を見ているだけでも大分把握はできたが、戦場で並び立つとまた違った視点になるだろう。
「ほら、次敷波さんの番じゃないですか?」
「あ、ちょっと行ってくる」
敷波さんの戦闘を見るのは初めてではないが、電探を通して改めて見ていると思ったより丁寧な戦い方だ。相手は江風さん。改二ゆえに根本的なスペックは敷波さんよりも上。それに追いついているどころか、普通に圧倒している。あれは相当努力している動きだ。私達の鎮守府では深雪さんに近い。
「深雪さんを見ているようです」
「春風もそう思った?」
「はい。努力と創意工夫でスペックを覆していますね」
春風も同じ感想のようだ。
敷波さんはそのまま江風さんに圧勝。しかも顔面への攻撃によってだ。もしかしたら、こちらの鎮守府に来てもらっても、いい線行くのでは無かろうか。
「よーし、勝った勝った」
「ちっきしょー! なンで勝てないかなー!」
演習を終えた敷波さんと江風さんがこちらへ。ここではダミーのペイント弾の質が違うようで、すぐに洗い流せるようだ。つまり、負ければ負けるほどペイントを洗い流すために水浸しになるというシステム。
「流石ですね敷波さん」
「江風とは相性いいからねー。今のところ負け無し?」
「なンでか勝てないンだよな。朝潮、見てて敷波のクセとか気付いた? 教えてくれよぉ」
そこは自分で気付いてこその訓練だと思うのでノーコメントで。それに敷波さんはクセらしいクセが無い。相当な努力をしてきたのがわかる。
「春風、アンタもやってみなよ。どんな戦い方か知りたいよ」
「そ、そんな、わたくしは……」
やれるものなら、ここの鎮守府の方々にも春風の戦い方は知っておいてもらった方がいいだろう。見ず知らずの人と連携を取るのは難しいし、春風はそういった部分が特に出来ない。
「……御姉様」
「嫌な視線を感じたらすぐ私のところに来て。訓練も投げ出していい。ここの人達は大丈夫だと思うから」
「……わかりました。見てもらうのが早いとはわたくしも思っていました。怖いですが……やらせていただきます」
ギリギリまで私が付き添って事情を話す。快く許可を貰え、今度は相手の選定。半深海棲艦と戦える機会なんてそうそう無いため、よほど内向的でない限り全員が戦いを望んだ。
全員とやってもらうことも考えたが、春風が保たないだろう。そのため、演習を見せてもらった限りで援軍候補としてカウントしていた人に相手をしてもらうことにした。
「春風、私の見立てで一番強そうな人でいい?」
「それで結構です。援軍候補なのですよね。でしたら連携をする可能性もありますし、わたくしも戦場で見ておいた方がいいかと思います」
「では……夕立さん。よろしくお願いします」
私が見ている限り、この中で一番
『ソロモンの悪夢』という二つ名まで持つ、生粋の武闘派。さらには狂犬とまで称されていた。
「夕立の姉貴と初っ端にやンのかよ。無謀な気がすンだけど」
「私の見立てですけど、夕立さんは春風と同じタイプですから」
本能的に敵と戦っているタイプと見た。私のように行動を予測するようなことはせず、直感だけで全ての攻撃を避け、当てるタイプだ。言い方は悪いが、獣のような戦闘。狂犬と白露さんに言われた春風と近しい。
「よろしくお願いしますっぽい!」
「よ、よろしくお願いします……。その、引かないでくださいね……?」
「大丈夫っぽい! 初めての人と戦うの、楽しみなの」
無邪気に笑う夕立さん。この人は手を抜くような人ではないし、純粋に戦闘を楽しんでいる人だ。だからこそ容赦がなく、恐ろしい相手である。
「それじゃあ……素敵なパーティーしましょ!」
「オ断リダヨ!」
演習開始と同時に古姫側を出す。お互いに直感的に本気でやらないと勝つことができないと感じたようだ。
そこからは壮絶な戦いだった。演習とは思えない撃ち合い。殺意まで見えてきそうな攻撃。あの春風に追いついてこれる夕立さんは、やはりこの鎮守府の駆逐艦の中ではトップクラスだろう。
「楽しいっぽい! こんなに歯ごたえのある敵、久しぶりっぽーい!」
「ッハ! ワタクシモダ! 楽シイナァ!」
お互い狂ったような笑顔で撃ち合っている。私は春風のそれを知っているから何も思わないが、周りはどう思っているのだろう。
「すっげぇ……夕立の姉貴と互角かよ……」
「あたし勝てるかなぁ……夕立にはあんまり勝ててないんだよね」
杞憂だった。夕立さんという前例があるからこそ、無茶な戦い方をする程度なら何とも思わないようだ。それを
「駆逐艦春風って、あんなに荒っぽい子だったっけ」
「普段はお淑やかなんです。戦闘のときだけああなります」
「なるほどねぇ。深海棲艦が出てきちゃうみたいな」
そもそも春風含む神風型駆逐艦は旧式。燃費がいい代わりに火力が少し足りない、どちらかといえば補助向きな艦娘である。この鎮守府にも神風型がいるらしいが、今は資源回復のために遠征中だそうだ。戦闘より遠征に力を入れる艦娘であることは間違いなかった。
それがこれである。私達の鎮守府ではオーバースペックということで主戦力の一人。制御ができる今では、本当に重宝する逸材だ。
「ッグ!?」
「ぽい!?」
壮絶な撃ち合いは、同士討ちという幕引き。本当に同時だったため、引き分けということになった。
「すごいすごい! 夕立こんなに苦戦したのホントに久しぶりっぽい! またやろ! ね!」
「コノママジャ終ワレナイモンナ! マタヤロウ!」
ガッチリ握手して健闘を讃えあっていた。古姫側の春風に友人が出来るというのは初めてのこと。抑え込んでいる側が認められたということで、春風もより安定することだろう。
何より、あの戦闘を見ても誰も引かなかったのが大きい。むしろ我も我もと春風との演習を望んでくるほどだった。
「春風、もう少し大丈夫?」
「大丈夫ダヨ御姉様。情報、欲シインダロ?」
「ええ。大体わかったけど、もう少し細かくね」
この件で駆逐艦については大体わかった。援軍をどれだけ出してもらえるかはまだわからないが、貸してもらいたい人はたくさんいる。春風と友達になってくれた夕立さんはその筆頭だ。戦いやすさが一番である。
駆逐艦は数が多いけど、