欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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ライバル

春風が演習に参加し、駆逐艦の理解が深められたことは大きかった。ここにいない人も何人かいるが、余程のことがない限り大丈夫だと判断できる。

その中でも、春風に最も興味を示した夕立さんの存在はありがたかった。古姫側の春風と付き合える数少ない人だ。夕立さんと話すときだけは、春風もあちら側になるほど。

 

「いい人と出会えました。鎮守府の外にもそういう人はいるんですね」

「そうよ。少数派かもしれないけど、春風のことは理解してもらえるの」

「ここに来て良かったです。それを知ることができました」

 

ここに来た当初と比べると格段に明るくなった春風。演習に参加していた駆逐艦娘とはあらかた仲良くなれたおかげで、居心地がよく感じられるみたいだ。

私もそうだが、外の世界を、鎮守府以外の広い世界を全く知らないのだ。こういう機会はなるべく経験しておきたかった。いい意味でも悪い意味でも、経験は大事である。

 

「援軍候補、駆逐艦では大体決めたわ。次は軽巡かしら」

「御姉様がお話された神通さんがいらっしゃるのですよね」

「ええ。この鎮守府でとても強い軽巡洋艦の方よ。出来ることなら是非援軍に来てほしいわ」

 

駆逐艦より少し大きめな反応を探し、そちらに向かう。軽巡は軽巡で個別に訓練をしているようだ。駆逐艦よりは人数が少ないが、その分精鋭揃いなのは私達の鎮守府と同様である。

 

「……わたくし、また怖くなってきてしまいました……」

「大丈夫よ。駆逐艦の人達がすぐに慣れてくれたんだから」

「そうですが……」

 

新しい人に会うたびにこうなってしまうのは仕方ないこと。それだけ深い傷なのだから、私が付いていてあげるのが適切。

 

 

 

軽巡の方々は駆逐艦と別の場所で訓練中。駆逐艦と同じように何人かは資源回復の遠征中だが、今は全員揃っている状態だそうだ。まずは顔見知りである神通さんのところへ。

 

「お久しぶりです。神通さん」

「ええ、また会えて嬉しいです。今日は援軍の選定だそうで」

「あれ、伝わっていましたか」

「さっき照月さんと一緒に戦艦レ級の子が来ましたよ。その子が言っていました」

 

この辺りまで走り回ってきたようだ。照月さんが振り回されているようなので、後で謝っておいた方がいいかもしれない。

 

「軽巡枠を見にきたんですよね」

「はい。今訓練中のようなので、見させてもらって大丈夫ですか」

「ええ、構いませんよ」

 

軽巡の訓練も駆逐艦と同様の対人演習がメイン。

私達のようにやれることが限られていると、対人演習は難しい。特に私はそういった演習すらできない。そのため、個人技を伸ばすのなら特化した訓練を繰り返すことになる。

 

「先程駆逐艦の方でも見せてもらったんですが、私達の鎮守府では個人戦をやらないので新鮮です」

「そうですね。そちらは出来ない部分を皆で補う戦い方ですもの。仕方ありませんよ」

 

私達はチームプレイを基本としている。何か出来ない部分があるからこそ、助け合って人数以上の力を出すのだ。

だが、個人技というのはやはり憧れてしまう。開き直ってはいるが、やってみたいという気持ちだけはあるものである。無い物ねだりではあるが。

 

「駆逐艦より激しいですね……」

「火力が高いからでしょうか。荒く見えます」

 

言いながらも春風の片目から炎が出かけている。触発されているのだろうか。

 

「天龍さんの戦い方を見ていると別に普通ですよ」

 

神通さんが呟く。よほど根に持っているらしい。

 

「うちの皐月さんが天龍さんの弟子になりました」

「弟子に? あの戦い方の? 無茶では?」

「先日、装甲空母鬼の頭を斬り落としましたよ」

 

春風も初耳だったようで相当驚いていた。装甲空母が硬いものと知っている。ただし、その装甲空母鬼を素手で倒しかけた存在も知っているので、ひとしきり驚いた後にすぐに納得した。

 

「朝潮さん。私は是非指名してください」

「神通さんは最初から候補です。軽巡トップと聞いていますから」

「ありがとうございます。これでそちらの天龍さんに借りが返せます」

 

神通さんがこちらの天龍さんに負けているという事実は、こちらの鎮守府では嘘なのではと言われていたそうだ。現に叢雲さんも信じていなかったレベル。前回お邪魔させてもらったときに皐月さんを見てようやく信じたほどだ。

軽巡洋艦天龍というのは神風型と同様、旧式ゆえに燃費がいい代わりに火力が足りない、戦闘より遠征に力を入れる艦娘だ。それが軽巡トップの神通さんに勝っていたとなると、どういう仕掛けがあるのか気になるだろう。

 

「近接戦闘にも対応しました。もうあのような失態は見せません」

「うちの白兵戦組は初見殺しなので」

「それにも対応できなくては戦場では命取りです。いい勉強になりましたよ」

 

笑顔だが目が笑っていない。私の鎮守府にも何人かいるが、神通さんも怒らせてはいけない人。

 

「あのさー、ちょっとそこの2人に用があるんだけど。神通に勝った天龍の話、聞きたいんだよね」

 

演習を終えたのか、やってきたのは球磨型軽巡洋艦3番艦の北上さん。その隣には同4番艦の大井さん。軽巡洋艦としたが、今の艦種は重雷装巡洋艦という特殊なもの。魚雷運用に長けており、私達の鎮守府でいう高雄さんのような、スナイプなどの一撃必殺を得意としている。

基本2人で組んでおり、連携戦闘では他の追随を許さないほどだそうだ。

 

「いやもうホント驚いてさー。この神通がフルボッコにあったんでしょ? 興味あってさー」

「北上さん、あまり不躾に聞くのも……」

「あの、御姉様、わたくしも少し気になりました。まだわたくしが配属されていないときですよね」

 

みんなで神通さんの神経を逆撫でしているようで物凄く申し訳ない。実際に説明しようか躊躇ってしまう。

 

「あ、そういえば君達変わってんねー。ポニテ眼鏡の朝潮に真っ黒な春風なんて聞いたことないよ。似合ってんじゃん」

「そ、それはどうも」

「足りない部分を補ってるんだよね。なるほどなー、うん、朝潮はともかく、春風は大変そうだね。深海棲艦の力の制御」

 

春風が半深海棲艦ということはまだここでは話していない。なのに、北上さんは一目見ただけで看破していた。今回の来客に半深海棲艦がいるということは知っていることだろうし、黒い春風という時点で、見たことがある人なら駆逐古姫を想像する人もいるだろう。とはいえ観察眼が鋭い。

 

「ま、そんなことは今は良くて、そっちの天龍の話だよ。どうやったのさ、神通フルボッコって。やれるもんならあたしもやりたいんだよ」

「以前に話したでしょう。向こうの天龍さんは刀で戦う白兵戦型だと。想定外すぎて対応できなかっただけです」

「あたしが改二になったときですら即座に対応してきたじゃん。その神通が対応できなかったんでしょ? そりゃあ細かく聞きたいってもんだよ」

 

なんだか神通さんの話し方が刺々しい。

 

「あの……2人は仲があまりよろしくないのでしょうか」

「北上さんと神通は同期なの。だから事あるごとに衝突してしまってね」

 

大井さんにこっそり聞く。神通さんが唯一敵意剥き出しにする相手だそうで、仲が悪いというよりは、競い合っているライバル関係らしい。

神通さんは典型的な秀才タイプ。努力を欠かさず、全て出来るようになった人。軽巡トップの座は、毎日休まず鍛錬し続けたことで掴み取った。

対する北上さんは天才タイプ。一を聞いて十を知る。トップの座を神通さんに渡している理由が、単に()()()()()()というだけなのだとか。

 

「見た感じ正反対ですね、2人は」

「北上さん、神通をやたら煽るから……」

 

二人ともいがみ合っているように見えるが、楽しんでいるようにも見える。特に北上さん。春風はオロオロし始めているので、一旦私の後ろに。

 

「その、一応お話ししておくと、私達の鎮守府の天龍さんは高角砲しか装備できない欠陥(バグ)を抱えています。あ、タービンとかは積めますよ。攻撃できないんです」

「攻撃できないって、それ艦娘として厳しくない?」

「だから、刀で攻撃するようになったんですよ。それ一本で敵を倒しています」

 

なるほどね、と北上さんはすぐに納得した。大井さんも感心していた。割と理解されない白兵戦組だが、あっさりと理解されるとこちらも驚く。

 

「大変だねぇ。君も攻撃できないんでしょ」

「えっ、よくわかりましたね」

「朝潮型なのに手に主砲や魚雷を持った跡が無いもん。改二丁だから脚にもか。対空と対潜だけ? 改二丁だから爆雷ホルダー持ってるもんね。いやぁ、大変そうだ」

 

まだ会って間もないのにこうまで見抜いてくるのか。とにかく観察眼が鋭い。援軍候補に入れておくのが良さそうだ。口が軽いのが玉に瑕だが、戦力としては申し分ない。

大井さんもあまり口出しはしないが、相当鍛えられている。()()北上さんとコンビを組めるのだから、連携に特化しているのかもしれない。

 

「目だけはいいのに何でこう怠け者なのか……」

「面倒なことは神通が全部やってくれりゃあいいの。あたしは大井っちとのんびり敵をギッタギタにするだけだから」

「仕事をしろと言ってるんです」

「してるじゃん。要所要所で」

 

なんだかピリピリしてきた。周りの人達もこちらを見ているか、またかという雰囲気。むしろこのやり取りが始まって、少しずつ盛り上がってきている。大井さんも止めようとしない。

 

「……今日こそはわからせてあげます。演習で決着をつけましょう」

「お、いいねぇ。でも今あたしが勝ち越してること忘れんじゃないよ」

「勘違いしないでください。今の勝率は五分五分ですよ」

 

勝手に海に出てしまった。これもよくあることらしい。

 

「大井さん、戦績ってどれくらいなんですか?」

「86戦で37勝37敗12分。数字としては五分五分ね」

「そんなにやってるんですか!?」

 

すぐに始まる神通さんと北上さんの演習(ケンカ)。周りも大盛り上がりだ。ここの娯楽の一つにされているようにも見える。陸にあるとはいえ閉鎖されたコミュニティなのはここも同じ。外に出るにもいろいろと審査がいるので、大変だそうだ。

 

「都合がいいですね。神通さんと北上さんのデータもここで貰いましょう」

「あら、貴女は情報戦のタイプ?」

「はい。電探の反応を全員分覚えています。戦場で全員をサポートするためには必要なので、クセなども見てるんですよ」

 

春風にも戦い方を見てもらう。二人の戦闘は参考になるものが多く、今以上に春風を強くするのは、鎮守府にないものを見せるのが手っ取り早い。度々瞳の炎が燃え上がっているのは、あちら側も戦闘に集中しているからだろう。

 

「北上さんにクセは無いわよ」

「そう……ですね。というより、相手によって戦い方変えてますよねあれ」

「初見でよくわかったわね。そう、北上さんは相手に合わせるの。神通はそれにも対応するから厄介って」

 

なるほど、この2人がここのツートップだ。この演習で理解できた。

2人の強さの秘訣は『対応力』だ。敵を見て、対処法を即座に考え、実践する。それが極端に早い。

どちらも同じことができるため、演習がより高度になっていく。が、北上さんは搦め手が上手い。

 

「今回はあたしの勝ちってことでいい?」

「引き分けですよ。残念ながら」

 

お互いの顔に銃口が向けられた状態で演習が終わった。それまでに何重にも駆け引きがあった。私の理解できないところにも、いろいろとあったに違いない。

 

「……御姉様、あれは真似できません」

「仕方ないわ。あれも次元が違うものよ」

「山城さんや潮さんみたいなものですか。努力はしますが時間はかかりますね」

 

じっと観察していた春風でもお手上げのようだ。深海棲艦の目をもってしても、理解が難しい。

 

「まーた引き分けだよ。神通往生際悪すぎ」

「そっくりそのまま返しますよ。後出しジャンケンが通用するとは思わないでください」

 

2人が帰ってきて通常の演習が再開される。なんだかんだ仲が良さそうに見えた。

 

「ちょろっと聞こえたけど、次元が違うって何。山城さんってあのネガティブ戦艦でしょ。そっちの山城さんは何なの」

「泊地棲鬼を素手で倒しました。装甲空母鬼の装甲も拳で叩き破りましたね」

 

北上さんと大井さんは首を傾げた。何言ってんだコイツって顔をされた。事実だから仕方ない。神通さんは一度見ているためそこまででは無かったが、それでも深海棲艦相手にそこまでできるのかと疑問に思っている。

 

「凄かったですよ。蹴りで脚を折って、主砲を叩き折って、拳で腹をちぎり飛ばして」

「山城さんならやりかねませんね。その場にいたかったです」

「待って、理解が追いつかない」

 

神通さんは山城さん相手に勝てるかの算段を立て始めている。主砲を拳で払いのける(可能性がある)山城さんにどこまで行けるかは見てみたい。私は山城さんが負けるところを見たことがないし。

 

「朝潮、あたしも援軍候補に入れといて。あ、大井っちもね。あたしらコンビだと最強だから」

「北上さんだけというのは私も寂しいから、北上さんを選ぶなら私もお願いね。逆も当然よ」

 

この2人は候補確定だろう。神通さんと対等の北上さんに、それを引き立てることのできる大井さん。頼もしいにも程がある。神通さんはあまりいい顔をしていないが。

 




北上は天才肌という設定は割とよく見かけると思います。こちらでもそれを踏襲。神通と並んで強い軽巡というイメージ。
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