欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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理解と信頼

私が見るべき艦種は確認できた。レキさんは一眠りしたおかげかさらに元気になり、照月さんを連れてまた走り回っていった。あとからお詫びの品でも渡した方がいいかもしれない。

 

私の仕事は終わったので、春風と共に一度会議室へ戻ることにした。ガングートさんももしかしたら戻ってきているかもしれない。レキさんは……まだまだ遊び足りないだろう。

 

「お帰り。どうだった?」

 

そこにいたのは叢雲さんだけだった。ガングートさんとは途中で別れ、雑務をこなしていたらしい。

 

「駆逐、軽巡、重巡と見せてもらいました。何人か援軍候補も挙がっています」

「そう。ちなみに何人くらい?」

「各艦種で2〜3人ですね。熱いオファーもありました」

「神通さんでしょ。私にも言ってきたもの」

 

候補を叢雲さんに伝えておいた。軽巡枠では3人から援軍候補リクエストを貰っている。そんなにも人を借りてもいいものかは判断できない。

 

「ふむ……今のところ海が静かだから不可能ではないわ。航巡2人もまぁ大丈夫でしょ。うちには利根型もいるし。雷巡2人……うーん、ここは要相談かしら」

 

貴重な艦種は鎮守府に残したいというのはわかる。

航空巡洋艦はこの鎮守府に4人。出会った鈴谷さんと熊野さんに加え、利根型姉妹が共に改二のために航空巡洋艦に改装されている。半分を援軍にしてもらえるのはありがたい。

重雷装巡洋艦は北上さんと大井さんに加え、その妹である5番艦、木曾さんがいる。全艦娘を見ても重雷装巡洋艦はこの3人しかおらず、特殊な軽巡洋艦でなければ同じことができないため、援軍とするかは迷いどころのようだ。

 

「少しこちらでも考えさせてもらうわね。私の一存では決められないし」

「了解です。こちらも何も考えずに候補を挙げただけなので」

 

こちらの意思は伝えることができたのだから問題ない。最初はもっと少ないものと考えていたのだ。それが意見まで聞いてもらえているのだから、これ以上何も言えないだろう。

 

「さて、他がまだ戻ってこないわね。ということは、朝潮にもまだまだ時間があるわよね」

「そうですね。今日はもう何もすることはないでしょう。休暇と考えて自由に過ごさせてもらいます」

「なら、私からの最後のお願い」

 

叢雲さんが立ち上がった。雑務もある程度終わったようで、いろいろと余裕が出来たようだ。

 

「話をいろいろと聞いていても、どうしてもわからないことがあるのよ。だからそれを見せてもらいたい」

「何をでしょう」

「アンタの実力。完全な補助要員、一切の攻撃ができない艦娘が旗艦たり得る理由」

 

私の実力と言われても、個人では何もできないのが私だ。あくまでも私以外を引き立てることが私の仕事であり、主役になるつもりは毛頭ない。旗艦を任されているのは、私が一番最初に敵の索敵する必要があるため、先頭に立つからである。あとは道案内。

 

「旗艦なのはたまたまですよ。この鎮守府の場所を知っているのが私しかいなかったというのもありますし」

「白露も皐月もいるじゃない。というかあの時は白露だったでしょ」

「春風とレキさんは私が一番制御できるので。本当にそれだけですよ」

 

嘘は何一つ言っていない。春風は依存から、レキさんは刷り込みから、私がいることが一番安定する。今回の旗艦に関しては私が適任。

 

「あー、もう、オブラートに包んで話していたけど、直接聞くわ。嫌なこと言うけど許してちょうだい。先に謝っておくわ」

「補助役が戦闘で役立たずだと思うなら間違いですよ」

 

図星をつかれたという顔をした。私に対してならそれくらいしかない。

補助役は私達の鎮守府特有であり、また、現在私しか存在しない部隊の役割。逆にいえば、他の鎮守府では絶対に存在しない役割である。理解されないのも仕方ないし、私の存在価値が納得できないのも私でさえわかる。説明も難しい。

 

「証明してほしいのよ。何がどう役に立っているのかが理解できないの」

「癇に障る言い方ですね」

「春風、大丈夫だから落ち着いてね」

 

叢雲さんの物言いに古姫が出そうになっていたのでやんわりと押さえ込む。嫌なこと、と前置きされただけあり、直接的に嫌味を言われたようなものだ。私は最初から覚悟の上だが、春風には耐えられないことだった。

 

「御姉様を侮辱するのなら、わたくしは許せません。撃ってもいいンダゾ」

「だから落ち着きなさい。理解させればいいんだから」

 

こういうことを言われたときのことは考えてある。見てわかる簡単な解決方法。

 

「叢雲さん、今から時間ありますか?」

「ええ、大丈夫よ」

「演習しましょうか。この鎮守府で一番新人の駆逐艦を貸してください」

 

叢雲さんは少し悩んだようだが、こちらの具申をすんなり通してくれた。叢雲さん自体が駆逐艦の中でトップクラスの実力であることは私もわかっている。だからこそ、身体で覚えてもらう必要があるだろう。

 

 

 

駆逐艦の演習場。まだそこには他の駆逐艦の方々がいる。そこに叢雲さん含めて私達が再び来たので、何事かとザワザワし始めた。さらに春風の機嫌が明らかに悪くなっているのもそれを助長している。

 

「一番の新人がご所望だったわよね。何の因果か、この子よ」

「朝潮型駆逐艦、朝潮です。よろしくお願いします」

「よろしく。私も朝潮なので、大丈夫ですよ」

 

まさかここで同じ顔を見ることになるとは思わなかった。()()()()()()()私がここでいう一番の新人だそうだ。ここ最近建造により生まれ、練度も無いようなもの。実戦経験も0。

割と私も動揺している。いつかこの時が来るとは思っていたが、このタイミングとは。自分の顔を自分で見る、艦娘特有の状況。初めてなので慣れない。

 

「別の私、訓練は全て終えていますか?」

「はい、近々実戦の予定です」

「わかりました。叢雲さん、作戦会議しますね」

 

自分を連れて叢雲さんから離れる。その間に演習の準備をしておいてもらう。春風が中指を立てそうな勢いだったがどうにか制した。

 

「右手に主砲、左手に魚雷。そう、私は本来こうやって生まれてたのね……」

「あの、もしかして叢雲秘書艦と演習ですか?」

「ええ。私の指示通りに動いて。勝てるから」

 

今回は別の私を使って私の力を叢雲さんに教えるための演習だ。別の私には申し訳ないが、今回だけは完全に私の道具になってもらうことになる。勝ちの感覚を覚えてもらういい機会なのかもしれないが、やはり気がひけるものだ。いくらそれが私だとしても。

 

「春風、目隠し」

「これでいいですか?」

「ええ、ありがと」

 

叢雲さんを納得させるのなら、完膚なきまでに倒した方がいいだろう。そのため、目隠しまでしておく。実際、これは私の行動予測の訓練としても使わせてもらおう。

 

「大丈夫よ別の私。相手は百戦錬磨の秘書艦様かもしれないけど、私が勝ちに導いてあげる」

「は、はぁ、わかりました」

「貴女を道具にしてしまってごめんなさい。今だけは力を貸して」

「何か理由があるんですよね。わかりました別の私。私を使ってください」

 

これは私を理解してもらうための、この鎮守府の方々に補助役という謎の役割が何たるかを知ってもらうため演習だ。

 

「準備できたわよ。……って、アンタ、それでやるわけ?」

「はい、これで結構です。今回は視界が邪魔なので」

 

まだ叢雲さんがどういうクセを持つかはわからない。だからこそそれを予測しなくてはいけない。一撃でやられる事がないようにしなくては。

 

 

 

演習が始まり、常に計算し続けた。

叢雲さんのクセはすぐにわかった。絶対に真正面に撃たない。撃つときに若干左にブレる。それも込みで照準を整えている。それだけわかれば、次の攻撃の方向と移動方向は全て計算できる。

別の私は本当に新人である事がわかる。撃つときの反動を軽減するために少し止まる。魚雷は片腕で撃つことはできない。移動も少し膨らむ。

 

「当たらない……!」

 

指示通りに動いてくれているので、叢雲さんの攻撃は一切当たらない。1対1を掌の上に乗せた場合、回避だけなら完全に予測できる。

後ろを取れば勝てると踏んだのかもしれないが、振り向く事なく避けさせる。その方がインパクトは強いだろう。

 

「8時回避、5時主砲」

「了解」

 

さすが別とはいえ私。私の指示はちゃんと理解してくれる。私は私なのだから、誰よりも連携は一番しやすいのかもしれない。本来こんな事はできないが、今だけは特別。

 

「主砲を少し上へ」

「了解。ほんの少し上げます」

 

魚雷を使って徐々に追い詰め、ほんの少しの隙も見せて釣る。余裕を無くさせて正常な思考をさせなくし、隙を引きずり出す。だが叢雲さんは初期艦であり秘書艦を務めるほどの実力者。そんな簡単に隙なんて見せてくれないだろう。

 

「あの子の指示だけでここまで……!」

 

いわば最上級と最下級の戦い。それでも五分五分以上に持っていくのが私の役目。充分すぎるほど身にしみてくれているはずだ。

 

「2時回避、11時魚雷」

 

目隠しをしたおかげで集中できている。あの夜戦の時にも感じた、思考への没入感。音が聞こえなくなり、2つの反応にしか思考が向かなくなる。

叢雲さんの行動が少しずつ先まで読めるようになってきた。ほんの僅かだけ、私の思考は()()()()()()()。あとは別の私の反射神経などの計算だけだ。動く位置を撃たれる前に計算しないと間に合わない。1秒は先回りしなくては。

 

「3時主砲」

 

しばらく続けたことでタイミングが合った。焦ってくれることは無いだろうと思っていたが、私の思考が少しだけ()()に行ったおかげで、次の位置がわかった。別の私の射撃のタイムラグを、私の行動予測、いや、『未来予知』により完全に補った。

 

「っな!?」

 

別の私の撃った攻撃は、叢雲さんの左胸に直撃。大破どころか一撃轟沈も視野に入る急所だ。撃った別の私の方が驚く始末。

 

「……以上」

 

没入していた意識を戻し、目隠しを取った。周りで見ていた人達は何が起きたのかわかっていないようだった。おそらくこの鎮守府でトップの実力である駆逐艦の叢雲さんが、先日配属したばかりの艦娘に手も足も出ず負けたのだから。

 

「素晴らしいです御姉様。ここの朝潮さんはまったくの無傷です」

 

陸地から指示を出していた私に駆け寄る春風。頭痛はするが、計算が比較的少なかったおかげでそこまで酷くない。以前の鼻血を出すほどの脳の使用量ではなかったようだ。一旦電探を切れば、頭痛もスーッと引いていく。

 

「理解したわ。さっきの発言、心から謝罪する。ごめんなさい」

「わかってもらえればいいです。春風、これでいいわね?」

「……御姉様がそういうのなら」

 

多少は機嫌が直ったようだが、まだ叢雲さんの目を見て話す事はしないようだ。

 

「ありがとう別の私」

「こちらこそ、ありがとうございました。あまりにも指示が的確だったので私も驚いてしまいました」

「これが私の役割だから。」

「はい、今日の経験を忘れず、精進します」

 

ビシッと敬礼する別の私。生まれたばかりの私はこんなだったのかとシミジミ思う。鎮守府での経験が個体差を生み出し、今の私が形成されているわけだが、なんというか、初々しい。

 

「援軍を送ることに躊躇いが無くなったわ。全力で支援させてもらうから」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

理解と信頼を勝ち取るための演習、全ての方向でうまく行った。この後、他の駆逐艦から怒涛の質問責めにあうことになる。

 




全く同じ声同じ顔の他人と出会うというのも艦娘特有の現象。ドッペルゲンガーのようにも思えるけど、それが世界の在り方だから仕方ない。まるゆを何人も確保している人だっているわけだし。
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